Re: 解のでない方程式 |
- 日時: 2015/10/28 01:54
- 名前: タッキー
- どうも、タッキーです。今回の投稿は比較的早かったんじゃないかな?
ま、それはともかく今回は、前回やっと戻ってきたハヤテ視点のお話です。 それでは…… 更新!!
誰もそのこと知らないし、そして気づいてもいないが、その「家」はいつの間にか改修されていた喫茶どんぐりと直結していた。喫茶店の分も含めているとはいえ、その家は「宅」というニュアンスを使うには少し大きく、しかし「邸」という漢字を用いるには少々小さい。取り立てて立派な庭があるわけでも、見るからに高そうな高級車が止まっているわけでなく、近隣住民の目からは〈ある程度収入のある若者が、奮発して買ったまぁまぁ立派な家〉ぐらいに見られている。 だが、当然ながらその家のどうこうは話の中心ではない。いうなれば蛇足とも表現できる余談の類だ。 ならば話の中心、加えて話が始まるのがどこかといえば、それはその家の…「竜堂宅」もしくは「竜堂邸」の二階。階段を上った後の一番奥の部屋での話だ。
そして、今まさにその部屋に一つだけある、ベッドの上………
「ん……」
見慣れない天井、どこか懐かしい香り。この二つが綾崎ハヤテが目を覚まして、一番最初に彼が受け取った情報だった。
(あれ……僕、死んだんじゃ…?)
取り敢えず布団をめくり、自分の姿を確認する。ゆったりとした簡素な服……一見、病衣のような服を着ていた。しかしハヤテには自分がこの服を着たという記憶はないし、ましてやこの見知らぬ部屋に入った覚えもない。彼が覚えているのはグラグラと揺れる船室の中で、下から迫ってくる海水に沈んでいく自分……
「やっと起きたか」
「……!!」
ハヤテの思考は一旦シャットアウトされ、その方向は彼の目線とともに声のした方を向く。その行動でハヤテはこの部屋には何もないことに初めて気づいた。自分と、自分を上にのせているベッド。そしてドアの脇に置いてある椅子とそれに腰かけている人物を除けば…何も……
「岳さん…なんですか……?」
見覚えのある黒髪が腰まで伸びているのを見ると、ハヤテはそう聞かずにはいられなかった。岳はあきれと肯定のふたつの意味を含めて、大きくため息をついた。
「別に誰でもいいだろ。動けるんならさっさと帰れ」
「あ……」
岳に言われるまで気にしていなかったが、彼の言葉でハヤテは自分の身体が思うように動くことを改めて認識した。記憶通りならハヤテは客船と一緒に海に沈み、こうして生きてることから助けられたんだとは分かるが、それでも水圧などで体がボロボロになってしまっていたことは想像がつく。それこそ、一命を取り止めたとしても一生植物状態か、後遺症は確定して残るほどの重体であったことぐらいは…… ハヤテはベットに乗せていた脚部を下ろし、岳と向かい会った。岳の方はハヤテが姿勢を変えたことに気にも留めず、さっきからずっと読んでいる本から目をそらさない。その表紙に書かれている文字にハヤテはどこか見覚えがあったが、なんと書いてあるのかも、何語なのかも分からなかった。 でも、今のハヤテにとってそんなことはどうでもよかった。
「あの……岳さんが、僕を助けてくれたんですか?」
「………。だったら……?」
「ありが……っ!!!」
それはハヤテが礼を言い、頭を下げようとした瞬間だった。「何か」がハヤテの頬をかすめた。顔の側部から下部までをどろりとした液体がつたうのを感じたが、ハヤテにはそれをぬぐうことも、おそらく後ろの壁に突き刺さっているだろう「何か」を振り返って確かめることもできなかった。岳の黒い瞳がそれを許さなかった。
「もう一度だけ言う。さっさと帰れ」
「………」
短く、冷たく言い放つと岳は再び読んでいた本に目線を落とした。ハヤテは何か言おうと頑張って口を動かそうとしていたが、やがて諦め、言われた通りにするためにベッドから立ち上がった。
「階段を降りるとすぐに玄関が見えるだろうから、それとは逆方向に行け。喫茶どんぐりにつながってる。そこにお前の服も置いてある」
ハヤテが横を通りすぎようとしたときにルートこそ教えてくれたが、岳の声は相変わらず冷たく、非難されているわけでもないのに棘があるようにすら思えた。
「それと、感謝の言葉を初めに言う相手も、謝罪するべき相手も……間違ってもオレではないだろ」
「……はい」
力のない返事を残してハヤテはドアを閉めた。
部屋に残された岳が本を閉じ、椅子から立ち上がると瞬く間にその椅子は消え、さっきまであったベッドも消えていた。ハヤテがはじめに感じた通り、その部屋には何もなかった。家具も、窓も、ハヤテの頬をかすめた「何か」も、それが壁につけたはずの傷跡も……
その部屋には、何一つなかった
強いて言うならば、ハヤテが寝ていたベッドがあったと思われる位置……もう少し詳しく言えば先ほど「何か」が刺さったと思われる位置にドアがあったことぐらいだろうか。 本来ドアとは部屋と廊下、または部屋と部屋という建物内の壁に設置されるものだが、そのドアは外と建物の内部とを隔てるための壁についていた。しかし、そこにあるのは確かにドアであり、外からは確認できない……つまり開いても決して意味があるわけではない。だが、それはれっきとしたこの部屋にある……
二つ目の「ドア」だった
第7話 『 アイかわらず 』
岳さんの言った通り、知らない廊下は見知った喫茶店へと続いていた。 正直驚いた。別に彼の言葉を疑っていたわけではないけれど、誰だって自分の知っているモノが変わっていることを伝えられたら戸惑うことぐらいするだろう。 服はカウンターに置いてあった。いつもの執事服ではなく、黒の長袖Tシャツとジーンズ。それらに着替えたあたりで、僕はふと今の時間が気になった。幸い、時計をかけてあった位置は変っておらず、すぐに午後4時半だと確認することができた。
「そういや、今って何年なんだっけ?」
助けられ、こうして生きているとはいえ、岳さんの言葉は僕が長い間目を覚まさなかったかのような口ぶりだった。急いで今日の新聞で今が何年か確認した。
「4年も…眠っていたのか………」
長い。純粋にそう思った。4年間もの間……いや、仕事をしていた期間を入れると8年も、僕はヒナをほったらかしにしてしまった。
-感謝の言葉を初めに言う相手も、謝罪するべき相手も……-
岳さんから言われた言葉が脳内でフラッシュバックする。僕は今日の日付も確認しないまま、乱暴に扉を開けて外へ飛び出した。
三千院家の門を抜けたあたりから、僕の足からはどんどん勢いがなくなっていった。決して疲れたわけじゃないし、やっぱり後遺症があったとかそういうことでもない。ただ、自分のやろうとしていることが正しいことなのか、不安になってきたのだ……
彼女にあんなことをしておいて、彼女をあんなに傷つけておいて……こんな僕にもう一度ヒナと会う資格があるのだろうか?
そうこうしているうちに、ついに自分の家の玄関まで着いてしまった。 正直、怖かった。僕がその感情を抱くのはきっと間違っているのだろうけど、それでも、僕のことを嫌いになっていたり…もうどうでもいいとでも思われていたらと思うと、背筋が凍るように寒くなった。
インターホンを押す。目視でも分かるほど、その指は震えていた。
反応は無かった。
どれだけ胸がざわついただろうか。思考がどんどん悪いほうへと偏っていく。彼女がこの家にいないと考えるのではなく、彼女から無視されているのだと考えてしまう。
家の鍵は一応持っているのだから自分で開けて入ればいいのだろうけど、僕はどうしてもそうすることができなかった。もしかしたら、この期に及んでも僕は、彼女にこのドアを開いてほしいなんてことを思っていたのかもしれない。
もう一度インターホンを押す。今度は指は震えなかった……いや、震えなかったんじゃない。固まってしまうほど、動かすことができなかった。
足音が聞こえたからだ。
すぐにカチャリと鍵が開けられる音が聞こえ、僕はその音に身をこわばらせる。そしてドアが開かれた瞬間、中からでてきた彼女を見て…出てくると分かっていた彼女を見て、思わず気の抜けた声を漏らしてしまった。
「あ………」
ヒナだった。まぎれもなく…ヒナだった。なぜか下を向いたままで顔はよく見えなかったけど、それでもすぐ分かった。 顔を見なくたって分かる。声を聞かなくたって………その綺麗な桃色の髪だけで十分だった。
「え、えっと……ヒナ?」
どうしていいか分からず、取りあえず名前を呼んでみる。ヒナはゆっくりと、本当にゆっくりと顔をあげた……
目が合った
久しぶりに、ヒナと目を合わせることができた
「あ……えっと………ただいま?」
なんとなく言葉をかけてみたけれど、それが聞こえていないかのようにヒナはポカンと口を開けて固まっていた。無理もない。4年も行方不明になっていた人間が連絡もなく急に帰ってきたら、そりゃ驚きで動けなくなるもなるだろう。
………と、そう思った瞬間だった。
ドスッ!!
突然、胸に鈍い衝撃が走った。そのまま僕は突き飛ばされ、芝生の上を4,5メートルくらい転がって最終的には仰向けになっていた。 ほんの少しの間を置いて、上体だけを起こす。
そして………
僕の服をギュッと力強く掴み、僕の胸に顔をうずめているヒナを……泣いて震えているヒナを………そっと、抱きしめた。
「ハヤテ……ハヤテ、ハヤテハヤテ…………ハヤテぇ……!」
「………」
「どこいってたのよ……!わたし、ずっと待ってたんだから…!!ずっと……ずっと………ずっと!」
「……ごめん。本当に、ごめん………」
ただ、ごめんと謝ることしか……ただ、泣いているヒナを抱きしめることしか……ただ、それだけしか僕にはできなかった。でも、抱きしめている腕に力を入れると、ヒナも負けじと力強く抱きしめ返してくる。そのことで僕は彼女からまだ求められているんだと感じ、すごく…安心できた。
「バカ……ばか………あぁぁぁああ!」
「………」
どうしてだろう…。涙がこぼれ、僕の頬頬を伝ってヒナの肩に落ちた。
「あぁ……」
僕の口からでた「あぁ……」という言葉は、きっと安心したという意味と、堪えていたモノが溢れだしてしまったという二つの意味があったのだと思う。
そうだったのだと……僕は思った
「「あぁぁぁ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」」
いつの間にか、僕とヒナの泣き声は重なっていた
どうも 冒頭の「何か」とか「ドア」はぶっちゃけ特に意味ないです。なんか書いてたらやりたくなっただけです。まぁ、意味が全くないわけではないですけれど、この中編には関係はないので読み流していただいて結構です。 あとは………あんまりないですね(テヘぺろ☆ あるとすればまだ終了というわけではないことと、ハヤテが帰ってきたからと言って、次からハッピーエンドに直行するわけではないことくらいです。 それはまぁ、次回からのほうを読んでいただきたいと思います
それでは
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