Re: 解のでない方程式 |
- 日時: 2015/10/15 18:58
- 名前: タッキー
- どうも、タッキーです。
すごくご無沙汰していましたが生きてます。元気です さて、久しぶりだというのに特に書くこともない…というか後書きの方でいろいろと書かせてもらおうと思ってるので、前書きの方はこれくらいにして… それでは久しぶりに… 更新!
「無理して見送らなくてもよかったのに…」
「夜遅くに帰ってきたくせに、早朝にはまた仕事に行っちゃう人にだけは言われたくないわよ」
「ははは…。まったく申し訳ないです…」
いつからだろうか。あなたの気の抜けたような笑顔が、少し申し訳なさそうにしていると見え始めたのは…
あなたがそんな表情をしていなければ、私はちょっとだけ意地悪を言えていたのかもしれない。あなたがそんな顔で私を見ていなかったら、私の喉は我が儘を飲み込まずにすんだのかもしれない。
「それじゃ、行ってきます」
行かないでなんて言ったら、きっと困らせてしまう。そうでなくとも今の私の役目はあなたを見送ること。口にしないといけない言葉なんて最初から決まっていた。
「いってらっしゃい…」
あなたは一度だけ微笑むと、私に背を向ける。もう会えなくなるわけじゃない。言うほど遠くに行ってしまうわけでもない。それでも…
「ねぇ、ハヤテ!」
「ん?」
「………」
振り返ったあなたの顔はやっぱりどこか抜けていて、なのに…少し申し訳なさそうだった。あなたは、いつだってそうだ…
「……。ううん、何でもない。お仕事がんばってね」
「…うん」
昔も…今も、いつだって同じ。あなたがそんな顔をするから……
-できるだけ、早く帰ってきてね…-
そんなこと、この私が言えるはずなかった…
第6話 『 命題(@) 』
「は…?質問?」
言われた言葉を復唱した私に、なぜかもうカップにコーヒーを注いでいるガウくんは肩をすくめみせた。
「そぅ。まぁ、こっちも無条件で願いとか聴くわけにもいけないからな。ほれ、コーヒー」
差し出されたカップからは当然湯気が出ていたけれど、ふちに触れてみるとそこまで熱いということはなかった。淹れたてのはずなのに飲めない温度ではなく、私の口の中にはほんのりした苦味と一緒に甘くさわやかな香り、そして少し強めの酸味が優しく広がった。
「これ……モカ?」
「ああ。お前、それ好きだっただろ?」
彼の淹れたコーヒーはどこかハヤテの淹れてくれたコーヒーの味に似ていて、たしかに私好みの味だったけれど、今はその気遣いが少し重く感じた。
「で、質問ってなに……?」
トーンの下がった私の口調にも彼は全くと言っていいほど表情を崩さず、それどころか勝ち誇ったようにほほ笑んできた。
「なんだ。お前もすっかりやる気じゃないか」
「違うわよ!いいから早く質問しなさい!」
「はいはい。それじゃ…」
後から思うと、私はうまく誘導されていたんだと思う。でなければきっと質問なんか聞かず、文句だけを残して帰ってしまっていたか、もしくは彼の質問の内容を聞いた途端、この店を飛び出していたかもしれない。
「お前の好きな食べ物は?」
「………は?」
「だからお前の好きな食べ物は何かって聞いてるんだ。ほら、さっさと答えて」
「か、カレーと…ハンバーグ……」
なんというか…拍子抜けだった。いろいろと小難しい彼のことだから、もっと答えにくい質問をしてくるんじゃないかと思っていた。それに私の好みぐらい知っていたはずじゃ…
「なんだか納得がいかないって顔してるな」
「そ、そりゃいきなり好きな食べ物とか聞かれたら誰だって納得いかないわよ。てかこれ、意味あるの?」
「ん?ないけど?」
私は思わずため息をついた。というか、つかずにはいられなかった。こういう無駄な話をよく挟む人なのは知ってはいたけれど、こう重要な時というか…もうちょっと雰囲気というものを考えて欲しい。だけど、それは仕方のないことだと思う。だって彼は…
「じゃあ、ヒナ……」
無駄話の後は、決まって大事な話を持ってくる人だったから……
「お前の好きな人は?」
「………」
少しの間、私は口を開かなかった。でも、今度は催促をされることはなかった。
「綾崎…ハヤテ……」
「今も?」
「…当たり前でしょ」
「じゃ、なんで好きなんだ?」
「そ、それは………」
ふと、顔をあげてみた…というより、顔をあげてしまった。。そこでは思っていた通り、真っ黒な瞳が私のことを静かに見つめていた。 言葉に詰まったのは質問が答えにくいものだったからとか、答えるのが恥ずかしかったからじゃない。いや、それが少しもないと言ったら嘘になってしまうのだけど、一番の理由は彼の問いかけがなんだか淡々としていたことだった。なんというか、質問しておきながらその答えに興味を示していないというか……ただ、私に言わせているだけのような感じがして、最初の質問と同じように私はこのやりとりに意味を見いだせなかった。だから…あまり答えたくはなかった。
「………ま、これは別に答えなくていいか」
なかなか答ええなかった私に業を煮やしたのか、それとも最初から答えることを期待していなかったのか、彼は少しため息をついた。 でも、その代わりといってはなんだけど、次の彼の言葉には変化があった。
「それじゃあ、お前さ………」
少しあきれたような表情も、淡々とした問いかけ方も変わっていなかったけど、その質問には、ちゃんと答えを求められている気がした。
「いったい…どうなりたかったんだよ?」
「………」
どうなりたかった…。‘どうなりたい’じゃなくて‘どうなりたかった’ 別にその違いに意味があるかはよく分からないけど、彼の言い回しは妙にに私の心に引っかかった。
(どうなりたかった……か…)
もし本当にその言い方に違いがあったとしたら、多分、私がまだハヤテと付き合う前のことを聞かれているのだと思う。 でも、だったらその時の私はどうなりたかったのだろう?ハヤテに好かれたかった?それは当然だ。大好きな人に自分のことを好きなって欲しいということは正しいとまでは断言できなくとも、きっと当然で…普通で…当たり前だ。だけど、これは少し違う…と思う。 それじゃ、ただハヤテと一緒にいたかったのだろうか?いや、多分これも違う。ずっと一緒にいられたとして、それがもし友達という形だったら…。例えばハヤテが天皇州さんとか、歩とかと付き合っていてそれを傍で祝福するという形だったら……
「………」
ダメだ。私にはそれを言う資格は決してないけれど、そんなの絶対に耐えられない。ハヤテと好き合えないのなら、まだ離れ離れになっているほうが………
(自分から会いにいくのもしなかったくせに、私はそれにも耐えきれなかったんだっけ……)
考えれば考えるほど、思えば思うほど自分に嫌気がさしてくる。好かれたいとか、一緒にいたいというのは結局私の我が儘でしかなく、こんなことをガウくんの前で口にしようものなら間違いなく一括されていただろう。
だけど……
「言っておくが、オレはお前が何言っても怒ったりはしないからな?」
「……!」
その考えも、彼にはお見通しだったようだ。 でも、だからと言って答えを教えてくれたわけでもないし、ましてや見つかったわけでもない。結局は振り出しに戻っただけ…
「もう一回だけ言うぞ。お前、どうなりたかったんだ?」
「わたし……」
繰り返された質問に私は力なく口を開く。どうなりかったなんて、そんなの私が知りたいぐらいなのに……
「わたしは………」
ただ好かれたいわけでもなく、ただ一緒にいたいわけでもない。いや、この二つは最初から回答になっていないんだ…。これは私が‘どうしたかった’であって‘どうなりたかった’とは意味合いが違う。 だったら、私は……
あの頃の、ハヤテを追いかけていた頃の私がなりたかったものは……
「幸せに……」
「ん?」
「私は、幸せになりたかった……と、思う…」
「………」
どうしようもない我が儘だと、突拍子もなく自分勝手な願いだとは自覚してる。
「私はハヤテに好かれたかったし、ずっと一緒にいたいとも思っていた。一人占めだってしたかった……」
でも、本当にそうだったから……
「ハヤテの一番じゃないのが悔しくて、苦しくて……。なのにハヤテはいつまで経っても気づいてくれなくて、いつもほかの女の子のところに行ってしまう…」
みんな同じだったのは分かってる。私と同じ気持ちをしていたのも知っている。私とハヤテが結ばれたとき、彼女たちがどんなに悲しい気持ちになったのかも理解している…つもり……
「だから余計にハヤテのことが好きで、欲しくて、愛されたくて、同じように私も愛したくて……」
きっと私がこんなことを言うのはすごくおこがましいことで、多分…許されないことなんだと思う
「ハヤテに笑ってほしくて、ハヤテと一緒に笑っていたくて……」
それでも…
「ハヤテの一番近くいるのは私がいい…。私の一番近くにいるのはハヤテがいい…。ハヤテじゃなきゃ……いや………」
わたしは……
「私はハヤテじゃなきゃダメ!ハヤテじゃなきゃ……幸せになんかなれない!!」
「………そうか」
長かった。長いように感じた。なのにようやく返ってきた言葉はその一言だけだった。
「質問は以上だ。帰っていいぞ」
「……」
私は何も言わず、何も聞かず、ただ言われるがままに席を立ち、喫茶店の出口へと向かった。帰り道は特に短いとも長いとも感じることもなく、ただ淡々と歩き、三千院家につき、その中にある家まで着いた。ごく、普通の帰路だった。空が朱色に染まりはじめているところを見ると、今は4時くらいだろうか。腕時計で確認すればいいのだけど、結局何もせずに玄関の鍵を開け、中に入った。
「終わった……のかな…」
リビングにいくと、ふと口から言葉が漏れた。そうだ…終わったんだ……。喫茶店からでるとき、ガウくんが「ごめん…」と小さくつぶやくのがたしかに聞こえた。彼らしくない口調だったけれど、たしかに彼はそう言っていた。
おわったんだ……
期待も…可能性も………全部。 そうだ、死んだ人が生き返るわけないじゃない。私はなにを考えていたのだろう。だってそんなのは不平等だ。恋人が死んで、家族がいなくなって悲しみに打ちひしがれる人は私以外にもいる。私だけ幸せになろうなんて都合の良すぎる話なのだろう。私はバカだ。バカで、弱くて、自分勝手だ……
でも……
それでも………
「わたしは……」
頬が、濡れる…。
なんでガウくんは、ハヤテを戻してくれなかったのだろう。神様なのに…それぐらいわけないと言っていたのに、なんでハヤテを生き返らしてくれなかったのだろう……
「いやだ……いやだ………」
わたしの回答が悪かったのだろうか。どう答えていればハヤテは戻ってきてくれたのだろう。わたしは何をすればハヤテを返してもらえたのだろう。なんでここに……
「いやだ…よぅ………」
なんで今ここに、ハヤテはいないのだろう……
私のせいだってことは分かってる。でも…いやだ。もうハヤテに会えないなんて…ハヤテの声が聞けないなんて……もう、耐えられない…
だから…だから……
お願いだから………
「帰ってきてよ……。
また、会いたいよ……」
私がそうつぶやいた瞬間だった。家にインターホンの音が響き渡った。 アカリだろうか。いや、早すぎる。過去にいったアカリが帰ってくるのが今日とはいえ、戻ってくるのは午後8時以降のはずだ。じゃあ、宅配便?それは絶対にない。この家の宅配便はまず三千院家の母屋に届けられ、それを自分で取に行っていたのだから、今日に限って例外などあるはずがない。それじゃあ……
ガウくん
この人しかいないだろう。何しに来たのかは分からないけど、話の残りでもあったのだろう。そんなミスをする人ではないけれど、わざとという可能性だってある。
それに、丁度良かった
多分、無理だと思う。無駄だと思う。でも、まだ……いや、絶対に諦めたくない。もう一度、できれば何度でも彼に頼めば…頼み続けたら、もしかしたら……
(ハヤテに…また………)
いそいで涙をぬぐう。目元がはれてしまっているのはどうしようもないから、それはそのままで玄関へ向かった。向かっている途中でまたインターホンが鳴ったけど、返事はしなかった。
ドアの前までくると、一回深呼吸をする。準備はできた
無様でいい。未練たらしくていい。どんなに惨めでも、どんなに自分勝手でも……
それでも、私は幸せになりたい。ハヤテにまた…会いたい
私はドアを開けた
「あ………」
少し気の抜けた、そして困惑したような声が聞こえた。準備はできていたはずなのに、覚悟はしていたはずなのに…その声だけで私の身体は金縛りにあったように動かなくなってしまった。
「え、えっと……ヒナ?」
名前を呼ばれた。ゆっくりと、本当にゆっくりと顔をあげる……
「あ……えっと………ただいま?」
綾崎ハヤテが、わたしの目の前にいた
どうも。 戻ってきたね…ハヤテくん。ま、それは別に大して問題ではないのですが(おい
で、まぁ今回ここで触れておきたいのはヒナさんの回答についてです。今回のお話でヒナさんの言った「幸せになりたかった」というのは、単に「幸せになる」というより、「自分の望む幸せの全てが欲しい」というニュアンスのほうが強いです。次の話かその次の話か、とにかく後々本編でも(岳さんが)言いますが、これは決して欲張りな答えではありません。 これは自分の見解ですが、欲を満たすことと、幸せになるということは全く別の意味でありながら、人間は欲を満たしたときにも「幸せ」という言葉をつかいます。なので「幸せになりたい」という願いはたいてい欲の延長にあるものです。しかし、今回ヒナさんの言った「幸せ」は本当の意味での「幸せ」であり、彼女は否定するでしょうが、決して欲張りでも自分勝手な願いでもありません。長々とくだらない自己見解などを持ち出しましたが、要するに、今回のお話ではそれをちゃんと理解してほしいのです。 そして、この物語でのヒナさんの幸せとは「ハヤテに好かれたい。そしてずっと一緒にいたい」「ハヤテから様々なものを与えられ、自分も彼に様々なものを与えたい」という、全てが「綾崎ハヤテ」という人物を中心に組みあがっています。そこに贅沢などはもちろん、彼女自身の欲すら入っていません。つまり彼女の「幸せ」=「ハヤテ」であり、今回の彼女の言葉は「ハヤテが欲しい」とも言い換えることができます。ここも、彼女の言葉で理解してほしい点の一つです(別にあといくつもあるわけじゃないです
さて、本文のほうでは自分の文のつなさにより伝えることができないのではと思い、長々とした解説になりましたが、これが今回の第6話で一番知って欲しかったことです。「ハヤテが戻ってきたと」いう事実より、「ヒナさんが何を望んだのか」を理解していただけたらと思っています。たとえ理解までせずとも、この後書きで納得さえしてくれれば、それだけで嬉しい限りです。
筆が遅く、文も決して上手くはない自分ですが、読者のかたにはいつも感謝しております。
それでは、長文失礼いたしました。
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