Re: 朝風が吹く頃に |
- 日時: 2015/06/15 07:01
- 名前: ネームレス
- 「では佐藤紅蓮之王。君は私のことが好きということだね」
青い空。 白い雲。 澄んだ空気。 爽やかな風。 暖かな木漏れ日。
僕は何故か好きな人に好きなことがバレた。
「いやいやいやいや! ちょっと待って! これどういう状況!? 前回の最後で邂逅したと思ったらなんで僕の初恋がバレてるの!?」 「ふむ。佐藤紅蓮之王の初恋は私、と。高校で初恋とは少し遅いな」
なんか余計なことまでバレた。
「ちょっと待ってください! この状況をどうにかさせてください! 今も混乱でどうにかなりそうなんですけど!」 「ふむ、そうだな。三回まわって「好きです!」と言うがいい」
くるくるくる
「好きです!」 「残念だが今は付き合う予定は無いな」 「フラれたー!?」
電光石火の勢いでフラれた! 流れるように告白して落とされるようにフラれた! 流れて落ちるって滝かよ! 意味わかんねえよ!
「さて紅蓮之王。心は落ち着いたか紅蓮之王。フラれた気分はどうだ紅蓮之王。好きな人といる気分はどうだ紅蓮之王。コクってフラれた人と同じ空間にいるというラブコメならシリアスになりかね無い状態に身を置いてる気分はどうだ紅蓮之王」 「紅蓮之王を連呼しないでください! というかわかってるなら察してくださいよ! めっちゃくちゃ気まずいんですよこっちは! シリアスになれないのはそっちのせいでしょう!」 「しかしそんな私が好き」 「そうです! ……なに言わせてんの!?」 「言ったのは君だろう?」 「言わせる流れを作ったのはあなたでしょう!」 「しかしそんな私がどんどん好きになっている」 「その通り! ……死にたい」
膝をおり地に手をつけてただ落ち込む。 なんだか恥ずかしいことがどんどんバレていく。ここまで僅か何分だよ。
「あっはっは。君は面白いな」
とってもいい笑顔でそこにただ佇む魔王、朝風理沙さん。いやもうホントマジかわいい。というか美人。マジ美人。
「くそう……殺すなら殺せ」 「残念だがまだ警察のお世話になる覚えはないな。それより一つ疑問があるのだがいいかな?」 「……なんですか」
ここまで暴露した後だともうなにも怖くない。人それを開き直りと言う。 もうどんな質問が来たって憮然とした態度で対応してやるんだ!
「君とはどこかで会ったことがあったかい?」
死のう。
「この白皇の「七不思議:第100を超えてから数えるのをやめた(ダンディボイス)」に書かれている白皇森林には数多くの自殺者の死体が埋められていると聞く。そこで死ぬといい」 「ありがとうござ__止めてよぉおおおおお! 死ぬ覚悟なんて無いから止めてよぉおおおおお! というかなんだよその七不思議! 100超えてるって何個あるんだよ七不思議! あとダンディボイスって誰の声だよぉおおおぉおおおおおおお!!!」
ツッコミどころ満載過ぎるわ! というか理沙さんもサラッと酷い! 怒涛の勢いでツッコんだせいか、ぜぇ、ぜぇ、と肩で息をしながら目の前の理沙さんを見る。……先ほどからニヤニヤした表情を一切崩さない。
「くくく、なかなかいいぞ君は」 「そりゃどうも」 「大抵の者は途中で呆れたり、不機嫌になったりしてまともに相手してくれなくなるからな」
不意に。先ほどまでのふざけた空気を一変させる寂しげな声で理沙さんは語った。
「昔の私は孤独でな。小さき身でありながら悟ったように常に周りから一歩引いてバカみたいに騒ぐ同年代の子どもたちを「ガキだな〜」と思いながら眺めていたよ」 「……」
その話を、すぐに信じることは出来なかった。 だって、僕の知る朝風理沙さんは、今理沙さん自身が語った人物とはまるで真逆だったから。 ……まだ理沙さんを知れるほど付き合いが深いわけでもないけど。
「近づいてくる奴らも私の家が結構大きな神社ということもあって、言うなれば権力目当て。まあ、こんなのはある程度でかい家を持ってる者たちなら経験することだろう。ナギちゃんとかだな」
ナギ、と言われてすぐに脳内名簿から出なかったが、すぐに三千院ナギという少女に思考が行き着く。 三千院家はそれはもう巨大。なんとか繋がろうとあの手この手、それも子どもを使って近づこうとする輩も多いだろう。 つまり、理沙さんもそういった経験があったのだろう。理沙さんの顔には「煩わしい」と表情にはっきり出ていた。
「おかげで疑うことも覚えてだな。ま、疑うという行為自体がもう無限ループだ。……私は独りだった」
ずきん、と心がいたんだ。 なんて、痛々しい顔をするんだろう。なんて、弱々しい顔を見せるのだろう。 僕は理沙さんの表情に、いやその在り方に心が完全に奪われてしまった。
「だから、君のように一緒になって騒いでくれる人がいてくれて私はとても嬉しいんだ」
泣きそうだった。 嬉しさに、切なさに、僕の胸は張り裂けそうだった。
「理沙さ__」 「まあ作り話なんだが」 「__ん?」
……今、なんと?
「どうだ。なかなか会心のデキだろう」
と、あなたはドヤ顔でそう言った。
「………………」
一方その頃、僕は完全にフリーズしていた。
「む、そろそろ時間だな。なかなか楽しめたよ紅蓮之王。またいつか私の暇つぶしに付き合ってくれ」
そう言って、彼女は悠然と去って行った。
「……あ、あのアマァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
僕の叫びはチャイムに掻き消され、僕の恋心は膨らむ一方。 僕はドMなのだろうか? そんな疑心が僕の中に現れてきたある日の昼下がり。
◯
「理沙」 「美希か。どうした」
私は最近野球について調べ始めた親友、花菱美希に呼び止められた。 呼び止められるのはいつものことだ。だから別段不思議はない。だが、今日はいつもの用事とはまた違うだろう。
「随分とお楽しみだったな」 「ああ。彼はなかなかに面白いぞ」
と言って、先ほどのやり取りを思い出し、口元を釣り上げる。 彼女がなぜ知っているのか、などという野暮なことは聞かない。情報収集は彼女の十八番。おそらく茂みから聞いていたのだろう。 彼女も承知の上で聞いているのか、いつもの笑みを浮かべながら続ける。
「“あんな過去”まで話して、気に入ったのかい?」 「……そう、だな」
その問いには少し間を開けて答えた。
「私の新しいボーイフレンドは楽しそうだろう?」
と、自信満々に渾身のドヤ顔で言ってやった。
「……やっぱりか。この前部活で、「私もボーイフレンド作った方がいいだろうか」なんて言い始めるから、なにかやるかとは思っていたが……」 「だって泉にはハヤ太くんがいて、理沙は「キミとミキ」にて新しいボーイフレンドを作って、私だけ仲間はずれは酷いじゃないか」 「一話目のあとがき」
言うなれば、今回のはちょっとした嫉妬だった。 泉はハヤ太くんに好意を持っている。 美希には最近思いを寄せてくれる少年がいる。 私だけ男色が無いのは仲間はずれみたいで悲しいじゃないか。 もちろん、全部建前で作者が「ちょっと珍しいキャラを主題に書いてみよう」という見切り発車で始まったりなんかはしてないし、とある人が投稿した作品でも私がメインに扱われていて「やっべ被ったしかもあっちの方が面白え」などと内心冷や汗だったりというリアルの事情は一切絡んでいない。
「まあ、そういうの抜きにもなかなか面白いよ彼は」
なんせ、私と最後まで会話してみせたぐらいだ。 名誉なことだ。誇ってもいい。
「……理沙。お前はやっぱり、いい奴、だよな」 「困った顔で言う表情では無いと思うのだが?」 「現状一番困った奴なのは理沙だがな」
と、若干呆れ顔の親友。ここに泉がいれば、訳もわからず相変わらずの頭にクエスチョンマークを浮かべていただろう。
「……さて美希。次の授業はなんだったかな」 「ふっ。少なくとも教室には誰もいなかったことから移動教室であることまでは絞り込めた」 「さすがだな美希」
その後、私と美希は手当たり次第に教室を見て回り、最終的に体育館で薫先生に泉もろともこってり絞られた。 泉が「なんで私も!?」と涙目で叫んだのは言うまでもない。
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もうちょっとだけ続くんじゃ。
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