あなたが差し出すその掌を〔一話完結〕 |
- 日時: 2015/03/12 02:31
- 名前: タッキー
- どうも、タッキーです
今回は一話完結2作目ということで・・・ナギカズです。ハヤヒナではなく、ナギカズです(ここ大事 まぁ、後日談なのでハヤテとヒナさん付き合っている設定ですけど それでは・・・ 更新
冬の寒さが本格的になり、スーっと乾いた空気や低く見える雲は雪でも降るんじゃないかと無意識に考えさせられる。そんな灰色の空を三千院ナギは公園のベンチに腰をかけ、ずっと無表情のままで見上げていた。やがてナギが見上げるのをやめて大きなため息をつくと、彼女の口内からこぼれた水蒸気が寒さでたちまちに凝結し、ふわふわと小さい雲をつくった。
「新しい執事・・・か・・・」
あと二日後に控えたクリスマス、ナギはハヤテに自分の執事を辞めさせる。辞めるといっても屋敷から出ていくわけではなく、単に彼女専属の執事から執事長になってしまうだけなのだがやはり寂しい気持ちは割り切れるものではなかった。今だって心配したマリアが提案した、’新しい執事を雇う’という問題から逃げてきてここにいるのが現状なのだ。マリアの方もそれが今のナギにとって酷なことであるのは重々承知ではあったし、ナギも彼女が自分の心のよりどころを作ろうとしてくれていることは痛いくらいに理解していた。
「でも、どうしていいか分からないよ・・・」
一ヵ月くらい前にヒナギクと付き合いだしたハヤテのためと思って決断したことも今となっては正しいのか分からない。しかしもう取り消すこともできないないそれは確実にナギを締め付けていた。当然、新しい執事を見つけることも、選ぶこともできるわけがなかった。 ナギがマフラーに顔をうずめるように首を傾けるのと同時に、彼女の座っているベンチの横に設置してある自販機からガタンと飲み物が出てくる音がした。ふと自販機の方向を見てみたナギの目に映ったのは自分と同年代の茶髪の少年。かつて自分に好きだと突然告白してきた少年・・・
「一樹・・・?」
「え?あ、ナギさん!こんなところで会うなんて奇遇ですね!!」
その少年は急いでもう一つ飲み物を買うとナギに向かって屈託のない笑顔を作りながらそれを差し出した。
「どうぞ。熱いから気を付けてくださいね」
「あ、ありがとう・・・」
ココアだった。手袋ごしの温度が自分の手を温めていく感触に浸っていたナギは、同時にボーっとした顔で一樹が隣に座るのを見ていた。
「悩み事、ですか?」
「え?」
「いや、なんかナギさん、ちょっと辛そうな顔しているっていうか・・・。だから何かあったのかなぁ、て」
「そ、それは・・・」
これ以上表情を読まれないために顔を伏せたナギは買ってもらったココアにはいっさい口を近づけずにそのまま黙り込んでしまった。打ち明けるという選択肢も彼女の頭をよぎったが話したところで何かが変わるわけでもないし、たとえ気持ちを晴らすことができても一時しのぎにしかならないからと、口先まで持ってきていた言葉も無理やり飲み込んでだんまりを決め込んでいた。
「僕は・・・」
ふいの一言で顔を上げたナギの目に映ったのは、いつか告白を受けた時以上に真剣な一樹の瞳だった。
「僕は今でも・・・・ナギさんのことが好きです」
ココアの温かさではない何かが、冷めてしまった自分の身体を溶かしていくような気がした。
『 あなたが差し出すその掌を 』
こんなに胸が締め付けらられたのはいつ以来だろう?痛いとか、悲しいとかじゃなくて・・・もっとこう、複雑な・・・
「い、いきなり何言ってるのだ!!」
いくら目を背けようと赤くなった顔が戻るわけではない。私はそれを嫌というほど知っているはずなのに・・・なのに、どうしても今は一樹の目を真っ直ぐ見ることができなかった。
「ご、ごめん・・・。でもなんか言わなきゃって感じがして・・・」
一樹が頬をかきながら、そして少しはにかみながら謝る仕草にまた私の心臓は激しく打たれるような感触に襲われる。これ以上ここにいると何かが壊れてしまいそうだった。私が話を始めるのをじっと待ってくれている一樹には悪い気がしたが、せっかく貰ったココアをコートのポケットに押し込みながら私はベンチから腰を上げた。
「ナギさん?」
「私なら大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
ホントは全然大丈夫なんかじゃない。私を支えてくれていたものは既にボロボロで、なのにまだ自分の力で歩ける自信なんてなくて・・・すごく、不安で・・・
「それじゃ・・・」
公園の出口までの道のりがやたら遠く感じる。足は動いているはずなのに前に進んでいる感触が全くしない。一樹はこんな私を見てどう思っているのだろう?かわいそうだとか思っているのだろうか?もしかしたら軽蔑だってされたかもしれない。今さっき私を好きだと言ったあの唇も、きっとその場の雰囲気に動かされただけなのだろう。 もう私の考えは滅茶苦茶だった。頭の中はまるで黒く塗りつぶされてしまったようで、そしてそんな私が自分の目から入ってくる情報を把握しているはずもなかった。
「ナギさん!!!」
「っ!!!」
間一髪だった。後ろに強く引っぱられるのと同時に黒の自動車が私の束ねた髪をかすめた。あと一歩踏み出していたらそのまま引きずられていただろう。 今の私は一樹の胸に顔を埋めている状態で、どこかハムスターと同じようで少し違う香りに何か熱いものが込み上げてきてしまうのを感じた。
「よかった・・・。大丈夫?どこかケガとか・・・て、ナギさん?」
優しかった。温かかった。私の腕より一回りくらい大きい腕が私を抱きしめていて、ハヤテとマリア・・・それから母以外の人間でこれほど安心できたのは初めてだった。
「うぅ・・・。」
「な、ナギさん!?やっぱりどこかケガとかした!?」
「違う・・・。違うんだ・・・。痛いとかじゃ、ないんだ・・・。」
私は自分が泣いている理由がよく分からなった。悲しいとか痛いとかじゃない。かといって特別嬉しいという感情だってないはずなのに・・・なんで・・・。 一樹は私が泣いている間ずっと抱きしめてくれていて、私がようやく泣き止んだときにはゆっくりと体を離してくれた。
「ナギさん、ちょっとケータイ貸してくれる?」
「ん?あ、あぁ・・・」
突然の言葉に戸惑ったがポケットからスマホを取り出し、一応ロックも解除してから一樹に手渡した。別に変なことをしようとしているわけじゃないのは表情から分かったし、とりあえず一樹のことは信頼していた。
「これでよし!」
しばらく私のケータイをいじっていた一樹は満足げに微笑みながら少し温かくなったその電子機器を私に返した。一樹から受け取った機械はまだ白っぽい光を出していて、ガラケイより一回り大きい液晶に映し出されていたのは連絡先の画面だった。
「お前、これ・・・」
「こうすればナギさんはいつでも僕を呼べるでしょ?僕にナギさんの辛いこととか、悲しいこととか、悩んでることとかを解決できるかは分からないし、それだけの力も僕にはないと思う・・・」
一樹は少し照れくさそうに話していて、そんな一樹を私は黙ってみていた。いや、一樹の言葉に私の言葉を挟むことができなかった。
「でも、ナギさんが僕に助けを求めてくれた時は絶対にナギさんの力になるよ。そうなれるように努力する。君が名前を呼んでくれたときは誰よりもはやく駆けつけて・・・」
一樹が手を差し出す。私は今彼が言った言葉と同じような言葉を聞いたことがある。でも以前その言葉を私に行ってくれた人と一樹の影はまったく重ならない。私に今手を差し伸べてくれている人は他の誰でもない、一樹だった。
「僕が、君を守るよ」
夜、屋敷にもどったナギはベッドでいつも通りゴロゴロしていた。いや、どちらかというと待ち合わせでもしているかのようにそわそわしていて落ち着きのない感じだった。ネットを開いたりアプリで遊んだりするわけでもないのにスマホから手を離さず、広いベッドの上を端から端へゴロゴロと転がるのを繰り返す。
ピロリ・・・♪
彼女が身に着けている数少ない筋肉をフルに使い、自分自身もびっくりのスピードで上体を起こした彼女はすぐに届いたメールを開いた。それはとても短い文だったが、それを見た瞬間にナギはスマホを放り、重い扉を開け、無駄に大きい階段を駆け下りた。
「マリア!!新しい執事が決まったぞ!!」
ナギのスマホはその液晶を光らせたままベッドの上に転がっている。もちろん、画面の表示されている少年と少女のやりとりもさらされたままだった。
FROM:三千院ナギ
TO:西沢一樹
Sub:突然の話なんだが・・・
本文:なぁ一樹、私の執事を・・・やらないか?
FROM:西沢一樹
TO:三千院ナギ
Sub:ホント突然ですね
本文:もちろんです!これからよろしくお願いします!!
後日談なのに前作と時系がかぶってるのはスルーでお願いします。 なんだかんだで新しい執事の名前を出していなかったので今回はそのお話でした。ちなみに一樹くんがどうやって両親を説得したのかというと、ぶっちゃけ三千院家の執事やるなら収入安定するし一樹くん自信がそれで幸せならそれでいいんじゃないかっていうことで認めちゃう感じです。 次の話はちょっとシリアスな感じで、オリキャラの二人も出てくる予定です。
それでは
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