Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised |
- 日時: 2016/01/10 20:42
- 名前: ネームレス
- 【第五話:そろそろ1層クリアしてもいいんじゃね? というかさせたい】
「……はぁ」
あの後。僕はクエストのキーアイテムを例の親子へ渡し、報酬である《アニールブレード》を入手する事ができた。 できた、のだが。
「結局、完治はしないか」
クエストは達成した。しかし、病気の少女が完全に回復する、という事はなかった。 まあ、当たり前と言えば当たり前だ。 魔法を限界まで削られた剣だけのファンタジー。リアルな非日常とも称すべきこのゲームでは、ちょっと特殊な素材を使っただけの薬を一回飲ませたぐらいで天から光が降り注ぎ、まるで先ほどまでの病弱さが嘘のように辺りを走り回るぐらいになるまで回復する……なんて事はない。そんな事が起きたら世界観がおかしくなる。 あの少女は薬を飲み、少しだけ元気になった……ような気がする。本当にその程度の回復だった。 まあ、所詮はNPC。クエストで報酬を手に入れる過程で少しだけ関わるだけのキャラだ。いちいち気にする事もない。 けれど。 少しだけ期待したんだ。自分が持ってきたアイテムのおかげで、劇的に回復することを。自分が何かを成す事が出来たという事を分かりやすい結果で見たかった。相手はNPCではあったけど、助けたという実感が欲しかった。 そんなぼくの浅ましいにも程がある考えはあっさりと否定され、彼女はこれからも新しく剣を求める人々が現れる度にまた病気になり生死をさまよう事になるだろうし、何れは見向きもされなくなるんだろうけど。 でも、なんだろう。そんなのは、嫌だな。 ……時間がある時は、会いに来よう。意味がなくてもいい。ただこのままなのは、嫌だ。
「……さて、と」
とりあえずはつぎのもんだにでも取り掛かろう。 ……今日の宿はどうしようかな。
「そういえば待ち合わせとかどうするんだろう」
昨日、キャシーが言っていた情報屋。もうこの際会うのはしょうがない。僕が望んだことだし。しかし、キャシーと結局フレンドが交換できなかった今、合流の方法がわからない。
「もしかして、からかわれたのかな」
最悪の想像が浮かぶ。 口では共感したようなことを言って、内心はとても呆れていたのではなかろうか? それで会話を打ち切る口実として情報屋を紹介すると言って、早々に立ち去った?
「……有り得る」 「何が有り得るのか聞きたいところだが、君がキャシーの言っていた自称《探索者》か?」 「ビョァアアアアア!?」
ごめんなさいごめんなさい僕みたいな奴が人を疑うなんて最低の行いをしてごめんなさい出来心だったんですだって僕に親切にしてくれる女の子ってそれだけでもうレアっていうかキャシーほどの美少女なら各方面から引っ張りだこだろうしなんで僕なんかに親切してくれるのかって疑う気にもなっちゃうじゃないですかだからこれは本当に出来心で……
「……て、あ、あれ? あなたは?」 「こちらではリアルネームは厳禁だから先に自己紹介をさせてもらう。私は《miki☆nyan》……まあ普通にミキでいい」 「……あ、僕は《kou》。コウでいいです」
それはもう本名なんじゃ。 喉元にまで出かかった言葉を飲み込み自己紹介をする。 しかしというかなんというか、これはいったいどういうことだろう。 いやだって、目の前で顔にデカデカと「不本意だ」とでも書いてそうなぐらい苦々しい顔で自己紹介をしてくれたのは、僕も知ってる人だから。 花菱美希。 生徒会に所属し朝風理沙、瀬川泉とよく一緒にいる僕と同じ白皇学院の二年生。政治家の娘で情報収集を趣味としている少女。 それがまさか、
「ミキにゃんという名前でゲームを始めるなんて」 「わ、私だってもう少し普通なのをと思った」
あ、声に出ていたっぽい。
「しかし、ゲームみたいなものでイズ……あー、エロ担当に付けられたんだ」
なんて酷い紹介の仕方だろうか。幾らリアルネームは厳禁だからって。
「えーと、いつもの三人でお互いに名前をつけあったとか、そんな感じ?」 「だいたいその通りだ」
もしこのゲームが普通のゲームであれば、それでも良かったのだろう。ちょっと恥ずかしいかもしれないが、仲間内で少しネタになるぐらいだ。 それがこのデスゲームで容姿までリアルの自分のものを引っ張り出されてしまえば、この名前はとても恥ずかしいだろう。しかもほぼ本名だ。
「あ、あー。それで、キャシーからどれくらい聞いてる?」 「……」
冷たい視線が刺さる。話題を露骨に避けたのはバレバレだ。 正直、僕が白皇学院で交流があるのは綾崎ぐらいで、アイン……虎鉄くんともリアルじゃ登山の時に少し一緒になったぐらいだ。あの時は綾崎絡みで若干不仲になったり大変だった。 ぶっちゃけほぼ交流が無い。桂さんとも少し剣道で関わるぐらいで日常生活における関わりはゼロだ。 まあ、何が言いたいかというと、キャシーの時もそうだったがそこまで親しいわけでもない女子に睨まれ現在僕は吐きそうである。
「……キャシーからは君がキャシーに話した内容については聞いてる」
が、彼女の方もあんまり続けたい話題では無かったようで会話に乗ってもらった。 ……助かった。
「コウは自称《探索者》で、主に情報収集にアイテム収集。他には未踏破エリアの探索などをメインに活動し、手に入れた情報は情報屋である私と取引する。この内容であっているか?」 「う、うん」 「で、ボス攻略に積極的に参加する気はない」 「……うん」 「さらには知り合いにはできれば会いたくない」 「……」
否定できないのが辛い。いや、ある意味知り合いにはもう会っているけれど。目の前に。 聞きたいことは聞き終えたのか、質疑応答、というよりは確認作業が終わると、少しミキは考え込む。というかほぼ交流の無い女の子を本名で呼ぶのって凄い違和感が……いやキャラネームでもあるから不自然では無いんだけれど。
「ひとつ提案がある」 「は、はい」 「情報の取引についてだが、やはり私はできるなら自分の目で確認したい」 「はい」 「だからどうだろう。君は私のボディガードのような立場になるというのは」 「ぼ、ボディガード? それはつまり僕がみ、ミキ……さん、の護衛をするってこと?」 「呼びにくいなら呼びやすいように呼んでくれ。まあそういうことだ。君だって、いきなり知ら無いエリアに投げ出されてなんのノウハウもなく情報集めるのは嫌だろう?」
確かに嫌だ。
「えっと、じゃ、じゃあお願いします?」 「そうか。じゃあ行こうか」 「……え?」 「今日は迷宮区の攻略に行くぞ? まだボス部屋までのマッピングが終わってい無いんだ」
迷宮区。 全ての層に存在し、階層主(ボス)がいる場所。こいつを倒すことで次への階層への道が解放される。そして、その階層における最終ステージのようなものでもあり、その時点で最も強いMobが設置されているって攻略本に……。
「……いや。無理でしょ」
このゲーム《ソードアート・オンライン》は全100層のステージで構成されている。 1層1層がとてつもない大きさで、従来のゲームの常識をぶち破る、恐らくあらゆる意味で伝説に残るゲームだ。 そして、それぞれの層にはきちんとテーマが設定され、そのテーマに沿ったステージ構成、Mobの設定がされている。 現在、僕が今いる第1層のテーマは言うなれば《チュートリアル》だ。全ての階層のなかでも最も広い階層であり、存在するMobも多種多様。戦闘の練習にはもってこいだ。 第1層迷宮区を守護するMobはコボルド、と呼ばれる種類だ。たしか妖精や精霊の類だったはず。妖精、と聞くとあまり強そうに聞こえない。 しかし、まあ、当然というかなんというか。 ゲームが始まって三日間。何もせず引きこもり、やっとか行動起こしてクエスト一つ消化するもののレベル上げの類はしていない。そんな僕が迷宮区に入ればどうなるか。 少し想像すれば想像もつくと思う。
「うわああああああああああ!!! 死ぬ! 死ぬ!」 「三連撃の後に必ず隙が出来るからソードスキル一本撃ってすぐに下がれ。大して速くないからよく見れば初見の対処も容易いぞ。弱点は首。ホリゾンタルなら狙いやすい。複数体が相手の場合は常に囲まれないように立ち回ればいい」 「言ってないで助けてください!」 「私は敏捷に振ってるから攻撃力が無いんだ。少し攻撃して経験値だけ貰うから後は頑張ってくれ」
なんて横暴な! そんなこと思ってる間にも三連撃の最後の一撃をギリギリで避ける。あ、掠った。HPが5%ぐらい減った。
「っ!」
剣を構え、光を帯びたのを確認してから思い切り踏み込み、全身を使って剣を振るう。片手直剣系ソードスキル《ホリゾンタル》。水平に振り抜かれた剣が敵の首を……あ、やばっ! ガキーン! と金属同士がぶつかった音が酷く反響する。僕が放った《ホリゾンタル》が狙っていた首の位置より上の部分に振られ、コボルドが装備していた兜に当たり、弾かれてしまった。致命的な隙が生まれる。
「キシャアア!」 「ごふっ!」
かなり大振りの一撃が僕の腹にヒット。硬直していた僕に抵抗が出来るはずもなくホームラン。二度ほどバウンドし地に伏せる。HP3割減少。
「ぷはぁっ!? 死ぬ! 本気で死にますってこれ!」 「はぁ。これから君はたくさんの未開地に赴くのだぞ? そうなればMobも今みたいに情報ありで戦えるとも限らない。というか、まず無しで戦うことになる。なぜなら君がその情報を得なければならないからだ」 「うぐっ」 「もしぬるい覚悟で来たのなら悪いことは言わない。最前線からは引いたほうがいい」
その言葉には呆れとか期待外れといった感情はなく、僕の心配をしての言葉だというのはすぐに分かった。 彼女の言うことも最もだ。これから僕は一人でこのクソッタレな世界で戦わないといけない。戦うと決めたんだ。なのに、情報まで与えられてこの始末。さらには文句まで……。
「……いや」
ダメだ。これは僕がやると決めたんだ。僕が自分の意思で決めたのに、みっともない姿は見せられない。 もう、“弱虫東宮”は卒業したいんだ。
「やります!」
ポーチからポーションを取り出しぐびっと飲む。これでじわじわとHPは回復していく。が、回復を待つ暇は無い。 もう一度剣を構え、目の前のコボルドに剣を振るった。
「行くぞ!」
*
今私の目の前で戦う見た目に頼りない少年は懸命に剣を振るっていた。 何度も攻撃をくらい、その度に立ち上がる。そして、次の攻防にはほんの少しだけ、先ほどよりも上手く動く。 何度も傷を負い、傷の数だけ成長する。 あの人外どもと比べると明らかに劣っている。しかし、倒れてもすぐに立ち上がるその姿は見ているものに勇気を与える。
「東宮康太郎。思ったより骨がありそうだ」
ようやくコボルドを倒し、大の字で寝転がる少年に目を向けて、言葉をこぼす。 労いの言葉でもかけようと近づき、彼の顔を見下ろす。彼は私を見ると達成感からかふにゃっとした笑顔を浮かべた。私はそれに返すように笑みを浮かべて、
「ヒナはやらんぞ」 「くぁwせdrftgyふじこl」
意味不明な叫びを上げ、のたうち回るコウを放置し、マップの確認をする。 私の情報網はヒナに恋する全ての野郎どもを把握している。ゆめゆめヒナに色目を使おうとは思わ無いことだ。
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