Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised |
- 日時: 2016/01/03 01:29
- 名前: ネームレス
- 【第四話:実は状況はなに一つ進展していないということに書き終わってから気付いた】
「いやぁー! 命あっての物種だとはよく言うけど本当に生きててよかったよかった! あ、改めて自己紹介するね。私の名前はキャシーだよ。よろしくね! こう見えて攻略組なんだよ。この世界じゃ性別の差は存在しないから女でもその気になりゃあそこらの男どもよりいっぱい強くなれるんだよ。む? その顔は攻略組について聞きたそうだね。いいだろう教えてしんぜよう。攻略組というのは現時点でゲームクリアに積極的な人たちの事だよ。レベル上げて装備を強化してボスを倒すぞー! って意気込んでる人たちの事を敬意を込めて攻略組と誰かが言い始めたんだよ。で、私もその一人。なぜ攻略組である私がこんな最初の村にいるかというと__」
……。……よく喋る人だなぁ。 僕の周りでこんな喋る人は見た事がない。こんな一方的に自分の情報だけを伝える、というよりは押し付けるタイプの子は初めてだと断言できる。そのぐらいよく喋る子だった。 おかげで先ほどまでの恐怖心とかも和らいできたけど、彼女がそれを狙ってやっているのかまでは判別できない。
「__てなわけだよ。さて、今度はコウの番だよ」 「……うぇ!? ぼ、僕!?」 「当たり前だよー。レディにだけ話させるなんて紳士じゃないぞー。ほーらほら。ここで会ったのもなにかの縁。自己紹介しなさいな。さらっとでいいよー。深いとこまで教えられても扱いに困るから」
なんというか、物怖じしない人だ。誰にでも堂々と出来るのは桂さんに通じるところがあるかもしれない。
「ぼ、僕の名前はコウ。えっと、今日この村にきて、秘薬クエを受けたんだ」 「ふむふむ。三日遅れで動くとは大胆だねー」 「あ、はは。前の人たちとはかなり離されちゃったよね」
今更ながら自分の決断の遅さに後悔する。三日遅れ。この遅れをこの世界で取り戻すのは至難の技だろう。常にログイン状態を強いられるのだから、家の事情も何も関係ない。先に「動く」と決めた者からその分前へ進めるのだ。 僕なんかが行っても足手まといにしかならないし、覚悟していた事とはいえ、初日のアインからの誘いを断らなきゃ良かったと思ってしまう。 ところが、
「ううん。実はそうでもないよ」
と、彼女は言った。
「何分ネトゲ経験者って結構いないものでねー。さらにはナーヴギア初のVRMMOと来たもんだから今はみんな足踏みしてる状態なんだよね。今迷宮区をみんなで探索してるところだけどいやはや見つからない見つからない。さらにはボスは七人パーティを七つまで、最大四十九人で挑む事ができるという前提がある以上強敵確実でしょ? 今だいたい二十人ぐらい集まってて初の大規模戦闘ということもあってパーティの運用とかここの役割とかパーティ線における最低限の立ち回りの基本とかそういうのも情報共有して練習中だし足踏みしてる状態なんだよね。それに君、秘薬クエのキーアイテム取ったってことはアニールブレード入手するんでしょ? ああ、警戒しないで私はもう持ってるから。わざわざ助けた命を捨てるような真似はしないよ。とにかく君がこれから頑張れば、まあ二層ぐらいからは参戦できると思うよ?」
ふぅー、と一息。 激流のごとく伝えられた情報を必死に拾い、頭の中で整理していく。その中で気になったことがあった。答えてもらえるかはわからないけど、聞いてみよう。
「あ、あの」 「なになに?」 「ベータテスターの人たちは? その人たちの知恵を借りれば、もっと楽になるんじゃ」
ベータテスター。 このソードアート・オンラインという世界を正式サービス前に短い期間だが体験する事ができた千人。この人たちがいれば、この世界は少なくともベータテストでクリアされている階層までは楽なんじゃ……。 そんな楽観的思考を切り捨てるかのように、彼女の言葉は鋭く言い放たれた。
「半分は死んだ。もう半分は姿をくらました」 「……え?」 「この世界の理(ルール)を教えようか。この世界はリソースの奪い合いなんだ。無限に出る物じゃない。物によっては本当に先着一名様のみのアイテムとかあるしね。少し話は変わるけど、この世界で生きるにはどうすればいいと思う? 答えは強くなること。強くなるためには誰よりも早く行動することと、誰よりも多く情報を集めること。ベータテスターの皆さんは全員スタートダッシュをして“他プレイヤーを置き去りにしたんだ”。もちろん、みんながみんなそうじゃない。だけど、大抵のベータテスターが情報抱えて多くの経験値やアイテムを独占しちゃったもんだから一般プレイヤーのベータテスターへの怒りの感情は尋常な物じゃない。この狂った世界でまだいろいろと浮き足立ってる状況だから尚更ね。そこに自分がベータテスターだと名乗って行ける勇気もなく潜伏するような感じで攻略組と行動を共にしてるんだよ。で、これは秘密のルートで手に入れた情報だけど情報に溺れ経験値効率のいいけどその分危険度も倍に膨れ上がるソロの道を走ったベータテスターがその慢心からか半分近くがすでにこの世からサヨナラバイバイしちゃってるんだよね。むしろ、君みたいなプレイヤーの方がいっぱい生き残ってるんだよね」
結論を言えば、ベータテスターの知識は当てにできないということだ。 このままだと攻略にはかなりの時間を消費してしまいそうだ。
「ま、理由はそれだけじゃないけど」 「なにか言った?」 「なーんでも。あ、そうだ。ベータテスターが何にもしてないわけじゃないよ。店で無料配布してる攻略本にはベータテスターたちの知識も使われてるんだから。攻略組に中にはベータテスターを受け入れようと周りに説得している人たちもいるしね」 「そうなんだ」
おそらく、動いている人たちというのはアインたちだろう。誰々が来ているかはわからないけど、綾崎が来てるならまずベータテスターを見放す選択はしないはずだ。 さらに多分だけどアインも綾崎もどちらも主人が一緒の可能性がある。アインがそれっぽいことを言ってたし、綾崎の主人の三千院はゲーマーだから執事がいるなら絶対いる。そうなれば、アインはともかくとしても綾崎なら三千院を守るよう立ち回るはず。なら、有用な知識を持ってるベータテスターを放置はしないはずだ。そしてアインなら無条件で綾崎の手伝いもするだろう。 ……そうか。みんな動いてるんだ。生き残るために。
「どうしたの?」
彼女は不思議そうな顔をして僕を見る。 彼女なら、協力してくれるだろうか。 僕は、ずっと考えていた。もし今、僕が攻略組になったとして、僕が入るポジションはあるだろうか? 今はあるだろう。頑張って強くなれば現状数に余裕があるうちは置いてもらえる。 しかし、もっと先では? 僕は弱い。とても弱い。そんな僕がいつまでもボス攻略に役立つとは限らない。むしろ、足を引っ張る可能性すらある。 なら、僕が居るべきは“外のポジション”だ。でもそれには協力者が必要。でも彼女ならきっと。
「うん。ねえキャシーさん。君は攻略組だって言ってたよね」 「うん。そだよ。あとさん付けはいらない」 「なら、僕とフレンドになってほしい」 「なんで?」 「なんでって……」
ここで断られるのは予想外だった。彼女……キャシーはこれまでの短い時間ではあるけれど、とても親切で優しい対応をしてくれたから。 無条件の善意というのを、キャシーに期待している自分がいた。
「ねえコウ。あなたは私にもしかしたら親切で優しい、って印象を抱いてるかもだけど、私は理由もなくフレンドになってあげるほどお人好しでもないよ」
その言葉は、自分が先ほどまでキャシーに抱いていたものとは、全くの正反対の内容だった。 キャシーの目つきが、言葉の質が変わる。
「フレンドを交換すればいつでもどこでも相手の場所を確認できる。少なくとも普通のフィールド上であればどこでも。つまりフレンドってのは相手を信用するという前提なわけだ。コウは私を信じているのかもしれないけど、私はコウを自分の場所をバラしてもいい相手だと、この短い時間じゃ思えない」
それは、僕を襲った二人のプレイヤーの時と同じものだった。 明確な敵と認識する直前のたいどだった。
「ねえ。君が私を必要とする理由を教えて?」
恐怖した。 あの二人のプレイヤーに向けられていたものが、今自分にも向けられている。 手足が震えていた。 今、彼女の目には僕はどう見えているのだろう。 目を逸らしたかった。迂闊なことを言った僕を殴ってやりたかった。 ……でも
「僕が、君を必要とする、理由は……」
これは、最初の一歩だ。
「僕が君を通じて攻略組に情報を流したかったから」
伝えた。僕の意思を。
「……続けて」 「……僕は、弱い。あの二人のプレイヤーに襲われた時、何もできなかった。ゲームとしての強さじゃなくて、心がもうどうしようもないくらい弱いんだ。きっと、ボスを目の前にしてしまったら僕は何もできなくなってしまう」
自分が情けない。 こんな事を平気で言えてしまう自分が情けない。 弱い事を認めてしまう自分が情けない。 ボスから逃げたい、戦いたくないという魂胆がバレバレの自分が情けない。 情けなくて、逃げ出したくなる。
「でも、何もせずに籠っているのは絶対に嫌だ」
でも、逃げ出したくない。 生きて帰った時、“逃げた自分”ではいたくない。 野々原に誇れるような、そんな自分になりたいんだ。
「だから僕は《探索者》になる。今はベータテスターの知識があるから必要ないかもしれない。けど、いつか絶対に情報が必要な時がくる。その時に必要な情報、求められたモノを手に入れれる存在が必要だ。その存在に僕はなりたい」
それが、僕の出した答えだった。
「……つまり君は、私に君の手に入れた情報を攻略組に流してもらいたいって事だね?」 「うん」 「なるほどなるほど。立派だね」
これなら、納得してもらえただろうか。
「でもダメ」 「なんで!?」
今のはOKの流れだったじゃん! そんな動揺する僕を真っ直ぐ見つめ、
「君。まだ隠してる事あるでしょ」
と、笑顔で言ってきた。 ドキリ、とした。 たしかにある。二つある。 一つは僕はすでに、攻略組とのパイプがあるということ。 僕は初日のうちにアインとフレンドを交換しているのだ。もし僕の想像通り、アインたちが今最前線で動いているなら、事情を話してアインに情報を流して貰えばいい。 しかし、僕はそれをしたくなかった。理由を問われれば簡単。協力してもらえばアインは確実に手伝いにくる。彼が前線から外れるのは僕の望むところではない。 そしてもう一つは、僕個人が人と接したくないからだ。 バカな理由かもしれないけど、正直知らない人と話すのは怖い。目の前にいるキャシーのようにずかずか入り込んで来る場合は例外ではあるものの、それだって本当は避けたい。だから情報を流すにしても間接的な方法をとりたい。別の人に代わりに流してもらうような。 以上二つの理由から彼女に頼んだわけである。
「コウ。あなたの事情には首を突っ込まない。だけどこれだけは言うね。
情報は凶器だよ。
嘘の情報を流せば間違った情報を信じたプレイヤーはそれによって命を落とすかもしれない。あなたが今取り扱おうとしているのは、そんな簡単に人に預けても、流してもいいものでもない」 「う……」
そう言われると、なにも言えない。僕の考え自体、その場の思いつきのようなものだから。 やっぱりダメか、と諦めかけた。
「でも、発想自体は悪くない」
そんな僕を前に彼女は続けた。
「私は無理でも、情報屋ならいいと思う。この場合は取引かな。君は情報屋に情報を売り、情報屋は君から買った情報をプレイヤーに売る。情報の真偽は情報屋に証明してもらえばいい。情報は鮮度と正確さが命。君に協力してもらえるなら情報屋も助かると思う」
情報屋。そうか、そういうのもあるのか。 たしかに情報屋として動くと決めてる人たちなら僕みたいな思いつきで動く奴とは違ってそういったものの取り扱いに慣れているだろうし、適任だろう。 だけど、
「僕には」 「情報屋の知り合いがいないなら私が紹介してあげる」
全部を言う前に言われたし解決策も提示された。どうやらキャシーの中では早くも僕がどういった人種なのか位置付けされてしまったようだ。 ……悲くなんてない。
「いやぁー、今日は実りのある一日だったよ。これもコウのおかげだね! じゃ、頑張ってね《探索者》のコウ。情報屋は明日には来るように言っておくから! こうなったら急がないと! バイバーイ!」
一度こうと決めた瞬間、突風のように走り去っていった彼女は嵐のようだった。 そして、彼女の会話のペースに呑まれスルーしていたけど、
「……結局、知らない人と話すのか」
動けばいずれはアインにも知られるだろうし、協力を求めるなら遅かれ早かれだ。 とは言え、幾ら何でも明日には来るって早すぎではなかろうか。
「……はぁ」
誰が来るかはわからない。けど、心の準備だけはしておかなければ。 なんというか、明日が来なければいいと心から願った。
クエストも終わらせなきゃなぁ……。
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