Re: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised |
- 日時: 2015/12/27 14:35
- 名前: ネームレス
- 【第三話:エンカウント】
「おいおい。ビビっちゃって声も出せねえのか?」 「そう急くなよ。おいガキ。さっさとアイテム出せや」
目の前のプレイヤーの頭上にアイコンが表示される。色はオレンジ。プレイヤーがプレイヤーを圏外で攻撃した際に変化する色。この色になるとしばらくの間圏内に入るリスクがある。 だというのに、目の前のプレイヤーは容赦なく僕にそれを行ってきた。明確な敵対の意思。狙いは……僕が手に入れたクエストのキーアイテム。
「いやあね。強い剣欲しくて来たんだけど一時間張っても花つきさんが出ないのなんの。めんどいから君みたいなのに《頼んで》譲ってもらおうかなーって」
と、軽薄そうな方が薄い笑いを浮かべながらそう言ってきた。隣の大柄な男は何も喋らない僕に痺れを切らしつつあるのか、イライラした態度だった。
「おい。さっさと出せ。そうすりゃ楽に逝かせてやる」 「い、いかせる?」
やっと出た言葉が、それ。 どういうことだ。いかせる? 行かせる? どこに?
「あー、つまり、殺す、ってことだよ。君に言いふらされたりしたら、俺たち商売上がったりだもん」
殺す。 他はなんて言ったか分からないけど、その言葉だけはクリアに脳に響いた。 殺す。僕を、殺す。
死
「い、嫌、だ」 「ああ?」 「嫌、だ。死にたく、ない。死ぬわけには、いか、ない!」
生への執着。剣を構え、震える体を必死に抑えながら、立ち上がる。
「あーあ。めんどくさいなー。ねえ君。もうちょっと考えなよ。二対一。しかも君は消耗してる。そんな震えた体じゃ剣だってまともに」 「うるせえ。やる気ならいいじゃねえか。さっさと殺るぞ」 「はいはい。せっかちだねえ」
目の前の二人も武器を抜く。大柄な方は片手剣。軽薄そうな方は短剣。 そこで初めて僕は二人の顔を、目を見た。 死人のような目だった。 何もかも諦めてるような、全てを放棄してしまったような、濁っていて生気を感じさせない、恐ろしい目。
「う、うわあああああ!」
恐怖に駆られ、滅茶苦茶に剣を振り回す。ソードスキルも型も無いチャンバラ以下の剣。 そんな剣が届くはずもなく、簡単に弾かれガラ空きの胴を蹴られる。
「かっ…!?」
HPが数ドット減少。再び立ち上がる気力も無く、もがくように二人から距離を取る。
「ひっ、いや、助け」 「いやー、それ俺らに言っちゃう? ねえ」 「はっ。違いねえ」
二人の口の端が吊り上がる。 殺される。
「いや、しにたくない、しにたくない、いやだよ、たすけてよ、だれか、だれか」 「誰も来ませーん」
短剣で切りつけられる。HPが減少する。 片手剣で斬られる。HPが減少する。 短剣で突かれる。HPが減少する。 片手剣で斬り払われる。HPが減少する。 HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。HPが減少する。 レッドゾーン。危険域。 残り、一割。
「ぅ……ぁ……」 「あひゃひゃひゃひゃ! トラウマなっちゃった!? ねえ! こっちはすっごく楽しいよ!」 「はっ。ちょうどいい慣らしだったよ。練習台ありがとな」
視界が赤く染まる。思考がまとまらない。頭の中は真っ白だ。 形にならない後悔だけが濁流のように胸の内に流れ込む。 始まりの街に引きこもっていればよかったんだ。最初から、ずっと、誰かがこの世界を終わらせてくれるんだって。 最初から無理だったんだ。僕みたいな弱虫が、この世界を剣一本で生きていくなんて。 野々原。ごめん。もう、会えないかもしれない。 最後までダメな坊ちゃんでごめん。 苦労をかけてごめん。 世話をしてもらってごめん。
本当に、ごめん、なさい。
「じゃあ、ラストー!」
剣に光が宿る。ソードスキル。 紅く染まった刀身が、容赦無く僕に襲いかかり__
__ライトグリーンのライトエフェクトがそれを吹き飛ばした。
「ぐぎゃっ!?」 「なっ!? て、てめ」 「おっそ」 「ぐっ!?」
……なにが、起こったのだろう。 僕と二人の間に割って入るように一人の剣士が立っていた。
「いやー、びっくりしたよ。普通にマップに来たら他にプレイヤーがいるのにずっと動かなかったんだよ。いや、動いてはいたかな? 滅茶苦茶遅かったけど。こりゃなんかあるなーって思ったら突然別のアイコン、しかもオレンジ! これ、隠密のスキルだよね。あ、こりゃ危ないと思っていっそいで駆けつけたんだよ。いやー、さすが私。速い速い。ギリギリ間に合ったよ。おや? どしたのそのリアクション。まだ戸惑ってるねー。ダメダメ。そんなんじゃ遅い遅い。生きたかったら常に速くあれ。あ、これ持論なんだけど。だから今から君のことも速攻で助けて」 「うるっせえええええ!」
大柄な男がラストグリーンの光を剣に纏わせ、疾風のような速さで目の前の剣士に突撃し、“何か大きな物が上へと飛んだ”。
「君、遅いね」
いつの間にか剣を上へと掲げるようにして振り上げていた剣士。その姿はポーズが変わっていること以外は先ほどと全く同じ。何一つ変化はない。
ドサッ。
先ほどの“何か”が地面に着く。 《腕》。それは《腕》だった。見間違えようもない。
「う、あぁあああああああああああああああああ!!?」
絶叫。大柄な男が。 肩から無くなった《右腕》を見て、絶叫した。
「君たちはオレンジ。オレンジを攻撃してもオレンジにはならない。__殺してもね」
先ほどから変わらない明るい声音。それに、僅かに氷の棘が混じったような攻撃的な口調に変わる。
「まさか、攻略組」 「それはどうだろうね〜」
一歩、踏み出す。
「ひっ」
それだけで大柄な男は萎縮する。先ほどまでの姿は見る影もない。 軽薄そうな男もまた、恐怖していた。
「私、結構強いよ? 君達二人ぐらいなら後ろの子守りながらでも余裕で相手できる自信がある。……さて、君達はどうする? 逃げるなら追わない。この子回復させなきゃだしね。でも君達の情報はきちんと広めておくから、もう表に出れるとは思わないことだね。もし二人で掛かってくるならそれでもいい。__その時は死んでも文句言わないでね」 「「ひっ、ヒィぁあああああああああああああ!!!」」
二人は表情を恐怖に歪め、全力で逃げ出していった。 僕はそんな光景を、ただ眺めることしかできなかった。 目の前の剣士がこちらに振り返る。その時僕は、本当に遅まきながら、目の前の剣士が女性であることに気づいた。
「さて。君も早く立って。はいポーション。飲んで回復しといてね。四肢がくっついて状態異常もないならこの世界は気力次第で何処までも走り回れるから気合出してね。さっさとしないとMobがどんどん集まってくるから。いやー、さっきの奴らが大声でMobを呼び寄せるなんてことにでなくて良かったよ。さすがの私も君を守りながら無限に沸くMobとか勘弁だからね。冷静さを欠いて尻尾巻いて逃げてくれて助かったー。やっぱり余裕奪うのが交渉のコツだよねー」
早口でまくしたてるように喋りながらも、彼女はこちらへポーションを投げこちらに飲むように促す。 一瞬毒かと思ったが、この人が僕を殺す気なら今更どうしようもないと決め好意に甘える。ほんの少しの苦みと甘酸っぱい液体を飲むと、ゆっくりとHPが回復していく。
「あり、がとうございます」 「あ、いいよいいよ。プレイヤーはいつ助ける立場助けられる立場が逆転するかわからない。一人でも攻略してくれるプレイヤーが増えるのはいいことだしそれにあの場で見なかったことにして後々になっていやな想像が膨らみ真実がわからないから「ああ、あの時見に行っていれば」みたいな思考に囚われるのとか嫌だからね。メシマズなっちゃうからね。美味しい物は美味しく食べたいもの」
本当に、本当によく喋る人だなー、と失礼なことを考えていた。 ぼんやりとここがフィールドである事も忘れ聞き入っていると、不意に目の前に手が差し出される。
「じゃ、行こっか。私《キャシー》。君は?」 「……《コウ》」
手を繋ぐと、グイッと引っ張り上げられ、彼女の顔が近くから僕の顔を覗き込む。
「よろしくね、《コウ》!」
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