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対象スレッド 件名: 【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised
名前: ネームレス
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【ハヤテのごとく!×SAO】Badly-bruised
日時: 2015/03/11 22:39
名前: ネームレス


2/19追記
この物語の注意点。
・この物語はハヤテのごとく! とソードアート・オンラインのクロス小説となります。
・この物語はSAOの世界にハヤごとのキャラを嵌め込んだものとなります。あくまでも「ハヤごとのキャラでSAOをプレイする」といったストーリーにする予定なので、SAOキャラは積極的に出す気はありません。
・オリジナル設定、オリジナルソードスキル、オリジナルキャラなどを含みます。
・ストーリーは原作沿いの予定です。

以上の事が大丈夫だという方のみお読みください。
__________
【プロローグ:小動物少年の受難】

 東宮康太郎はその手にゴツいヘッドギア状の機械を持っていた。

「……」

 それは親から買い与えられたものだ。
 その機械は、ファンタジー風に言えば「異世界の入り口」とでも言うアイテムだ。実際の原理は全く違う科学的なものであるが。
 その機械の名は《ナーヴギア》。完全なヴァーチャルリアリティを再現した《ゲーム機》である。
 なぜナーヴギアを康太郎が持っていのかと言われれば、

「……両親め」

 と呟いた。そう、両親が東宮に与えたのだ。
 漫画家であり、息子にも漫画の技術を叩き込んだ康太郎の両親。そんな両親は、康太郎に新しい刺激を味わって欲しかったのだ。
 自分の目で、耳で、実際にファンタジーの世界に旅立つ。その経験が漫画に役立つのではないかと両親は思ったのだ。
 さらに康太郎の執事である野々原も留学先から後押しした。「今の坊ちゃんにはコミュニケーション力が足りませんので、ゲームの中でなら知らない人とでも話せて成長に繋がるのではありませんか?」とのこと。
 そんなわけで、康太郎はナーヴギアを手に持ち、異世界への興味と恐怖に挟まれながら悩んでいた。
 いや、それだけではない。両親がナーヴギアと一緒に手に入れた限定一万個で売られたゲーム《ソードアート・オンライン》略称SAO。これこそが最も康太郎を躊躇させている原因だろう。
 これは、ナーヴギア発売以来の初の《VRMMORPG》なのだ。
 戦闘においてプレイヤーが持つ武器は剣一つ。魔法はない。魔法のようなアイテム、魔法を使ってくるモンスターはいれど、プレイヤーの攻撃手段は基本的には剣一つ。
 康太郎も剣道部所属。しかし、周りには虚勢で見栄を張れど、自分が一番わかっている事実。

 自分がめちゃくちゃ弱いということ。

 だからこそ、初のVR世界が戦闘、しかも近づくことが前提の世界に行くのには、心の準備というものが必要だった。
 公式サービス開始は明日。
 康太郎は悩んでいた。

「……野々原〜」

 そしてこんな事を思ってしまう。
 __なぜ限定一万個しかない激レアゲームを手に入れてしまったのか
 と。



 時間とは儚いものだ。
 特に、同じことを延々と考えている時ほど早い時はない。
 公式サービスまで後十分。

「……はっ」

 康太郎は今にも寝てしまいそうだった。

「……うん……時間……え」

 目を擦る。
 時計を見る。

「……」

 繰り返し。

「……えぇ」

 __僕、もしかしてずっと起きたまま悩んでた?
 自分の優柔不断さに若干泣きそうになるものの、サービスまではもう時間が無い。

「ど、どうしよう」

 あと五分。

「……」

 三分。

「………………」

 一分。

「ああもう!」

 少しだけ泣きのはいった叫び声を上げながら、東宮は手早く準備して行く。
 ログインして無理そうならログアウトすればいい。そう決めて電源を入れ、ネットに接続し、ソフトを入れ、ログイン__

「あ、説明書」

 __ログインする前に、ナーヴギアとSAOの説明書読むところから始める康太郎だった。
 零。サービス開始。



「よ、よし」

 公式サービス開始からおよそ三十分が経ち、康太郎はついにナーヴギアを被る。
 深呼吸を繰り返し、心臓を落ち着かせる。
 そして、魔法の言葉を口にした。

「リンクスタート!」


 ◯


【第一話:ソードアート・オンライン】

「ね、眠い……」

 __そういえば寝不足だった。
 そんなことも忘れて飛び込んだ異世界。不安と恐怖が入り混じった気持ちが胸に渦巻いているのがわかる。
 SAOに入るに当たってキャラメイクやキャラネームなどがあったが、キャラはデフォルトのままに、ネームも本名の捩りで《kou》と決めて颯爽とダイブしてきた康太郎は精神的にも体力的にも余裕がない。
 思い頭を振り、やっとか自分の置かれている状況を把握する。

「……うわぁ」

 視線を少し上に上げると、壮観な眺めだった。
 ファンタジーを具現化したような町並みに、腰に背中に武器を吊るし町を闊歩する人々。そこは本当に異世界のようであった。
 胸の中の不安や恐怖は忘れて、何かに誘われるようにふらふらと歩いていく。
 落ち着き無くキョロキョロと町を見て回り、一つ一つ新しい発見をする度に子どものようにテンションを上げた。

「うわあ! 凄い!」
「ああ。本当に凄いな!」
「うん! 本当に凄……い」

 __あれ? 今僕は誰と。
 そんな疑問とともに振り返ると、自分よりも高身長でキャラも少しだけ手を加えたような後を残す《プレイヤー》がいた。
 町を見ていくうちに、自分の視界にはいろいろな情報が入ってくることがわかり、プレイヤーの頭の上には緑色の四角錐が逆さまになって浮いていることに気づいた。目の前の人物にも同じように「カーソル」が浮いており、プレイヤーであることに気付く。

「え、あ……」

 人と話すことが苦手である康太郎は萎縮してしまったが、目の前のプレイヤーはそれに気付くこと無く話を続ける。

「元々はお嬢に頼まれたから始めたんだが、これは感動するよなぁ……」
「え? は、はい」
「だよな!」
「ぼ、僕も元々はあまり乗り気じゃなかったんだけど、でも、この世界にきてからそういう悩みも吹き飛んじゃった」
「ははは。お前もか」

 自然に目の前の名前も知らないプレイヤーと話しながら、康太郎は自然とほおを緩めていた。
 そのことを自覚した時、自然と心の中で驚愕する。
 __僕が、知らない人と喋ってる。
 現実ではまず出来ない大きな変化。その事実に大きく胸が高鳴った。
 この世界でなら、きっと強くなれる、と。

「お、そうだ。これも何かの縁。フレンドリストを交換しようぜ」
「うん」

 説明書にもあったフレンドリスト。交換しておくことで、特定の場所などを除き相手の場所がわかったり、メッセージを送ったり、通話できたりなど多くの特典がついてくる便利機能だ。
 初めての操作に少しもたつきながら、説明書通りに操作していく。

「Iron Tiger……アイ……ロン? タイガーさん?」
「アイアンだな。アイアンタイガー。まあ呼び方は自由でいいぞコウ」
「じゃあアインさんで」
「よろしくな」

 こうして康太郎はゲームの中で初の友人を作ったのだった。

「さて、どうせならこのまま狩りに行くか。せっかく来たなら戦わないとな。時間はあるか?」
「う、うん」
「よし」

 アインは手元で少し操作すると、康太郎の目の前にテキストが現れる。

『Iron TigerがKouをパーティに誘っています。承認しますか? ○/×』

 迷わず承認し、視界の端に新しいHPゲージが追加されたのを互いに確認してから、二人は笑いあった。



 この世界には魔法が存在しない。
 それは発売前から発表されており、様々なメディアやネット民たちから「ファンタジー物で魔法を無くすなんて随分と思い切ったことをするものだ」と言われていた。
 しかし、実際にゲームを始めてみればその判断は正しかったと言うべき他無い。
 従来のゲームでは、ただコマンドを押すだけだったゲーム。しかし、VRの中ではコマンドではなく自分自身を動かすことができる。そうなると《必中の魔法》よるも《必殺の剣技》の方が体を動かす必然性を出し、なにより__凄い爽快感があるのだ。



「はぁっ!」

 僕は気合とともにソードスキル《スラント》を発動させる。
 まだ慣れていないため、発動させるのに若干もたつき、動きも完全システムアシスト任せのためぎこちなさを残していた。
 それでも剣は人間の限界を超えた速度で走り、淡い青色のライトエフェクトが空中に線を引きながら目の前の始まるの街周辺に生息する青色のイノシシ型のMobを斬り裂き、そのHPゲージを削り切った。
 イノシシはやられた状態のまま一瞬硬直し、直後に破砕音とともにデータの破片となって空へ溶けて行った。
 このゲームでは血や内臓は出ないし、倒した後も先ほどのように消滅し、死体は残らない。そういったゲームらしさが、こんな僕でも剣を振るい、今倒したイノシシのようなMobを斬り、倒すことができる要因かもしれない。

「やったな」
「アインのおかげだよ。ソードスキルの出し方まで教わっちゃったし」
「いいんだよ。俺のもどうせネットで集めた情報だ。本当ならこのままブーストさせるとこまでやりたいんだが」
「ブースト?」
「ああ。ソードスキルってのはただ発動させるだけじゃなく、自分自身もソードスキルに合わせて動くことで威力や剣速をブースト、つまりは上げることができる……らしい」
「うへえ。なんかめんどくさそう」

 びくん、と体が跳ねる。
 辺りを警戒し、何も無いことを確認してから一息つく。
 アインは不思議そうに眺めていたけど、長年の習慣だからしょうがない。
 野々原が今の聞いてたら竹刀でボコボコにされてたろうな……。

「ま、たしかに上級者用だしな。でも原理自体は難しいものじゃ無い。簡単なとこで言うなら踏み込みとかだな」
「あー、なるほど」

 剣道でもただ振るだけでなくきちんと踏み込めってよく言われてたっけ。

「でも大分時間も経ったしな。それは明日にでもするか」
「そうだね」

 そう言って僕たちは休憩することにした。
 適当なところに腰を落とし、そして景色を眺める。

「……凄いね」
「ああ」

 そこに見えるのは広大な大地と無限に広がる空だった。
 夕日は空を茜色に染め、幻想的な景色を作り出していた。

「なあ。コウはこのゲームを作った奴を知ってるか?」
「ううん」
「そうか。実はさ、このゲーム、SAOを作った奴はさ、フルダイブ技術を生み出し、さらにはナーヴギアを作り出した奴でもあるんだ。凄くないか」
「え、嘘でしょ?」

 たった一人で、この全てを生み出したという事実に純粋に驚いてしまった。
 それはもう、天才なんて言葉じゃ足りないだろう。

「名前は茅場明菜。SAOをやってるプレイヤーなら常識だ。覚えておけ」
「うん。ありがとう」

 茅場……明菜。
 いったいどんな人物なのだろう。

「俺はこの時代に生まれてホントに良かったと思ってる。環境に恵まれて、友人にも恵まれて、好きな奴もいて、そんでこのゲーム。なんつーか、ホント感動だよ」
「うん……僕もこのゲームが出来て本当に良かったと思ってる」

 それは本心だった。
 流れでこのゲームをやることになってしまったものの、たしかにこれはやるだけの価値がある。
 きっとこれから先発展していくVR技術の先駆けに立ち会えた。それはどんなに幸運なことか。

「……さて。じゃあそろそろ落ちるかな。仕事があるんだ」
「アインさんって社会人なの?」
「ん? あー、まあ、手伝いみたいなものだ。お嬢よりも先に戻らないとな」
「お嬢ってさっきも言ってたよね。どこかの執事とか?」
「こらこら。ネットでリアル詮索はマナー違反だぞ」
「あ、ごめん」

 どうやら自分は思った以上にはしゃいでいるらしい。

「じゃ、俺は落ちるから、なにかあったらメッセージ飛ばしてくれ。ゲームの中なら、すぐに駆けつけられるから」
「フレンドなら互いに位置もわかるしね。うん、何かあったら連絡する。バイバイ」
「おう」

 現実では知ってる人が相手でもなかなか出来ないことが出来ることに言いようのない感動を覚え、もう少し狩りをしようかと考えた__その時。

「ありゃ?」

 アインの声が聞こえた。

「どうしたの?」
「あ、ああ。おかしいな。ログアウトコマンドが無いんだ」
「……どうしたの?」
「そんなイカれた奴を見るような目で見るな。本当に無いんだ」
「そんなまさか」

 そう言って、自分も同じように右手を振りリストからログアウトコマンドを見つけ……

「あれ?」

 __ログアウトコマンドが無かった。
 横で「言ったとおりだろ?」とドヤ顔を決めてくるアインがウザいが、しかし、これは、もしかして物凄くまずいのでは?

「ね、ねえ。コマンド以外でログアウトする方法ってあるの?」
「いや、俺が知る限りでは……まあ大丈夫だろ。今や皆挙ってGMコールしてるだろ。俺もしたしな。けど、今頃運営は涙目だろうな。サービス初日にこんな大ミスやらかすなんて」
「そうだね……」

 そうやってアインと話していると少しは落ち着くことができた。
 しかし、この体に纏わり付くような違和感だけが一行に取れない。

「……ねえ。少しおかしくない?」
「何がだ?」
「だって、ログアウト出来ないなんて、今後の運営に響く大問題だよね? だったら、普通は強制的にログアウトさせたりするもんじゃない? それに……」

 このゲームはオフラインではなくオンラインだ。運営側から強制的にログアウトさせることもできるはず。
 なのに、それを一向にせず、何より

「挙ってGMコールしてるはずなのに、アナウンスの一つもないないなんて」
「……」

 アインもその違和感に気づく。
 時間はGMコールしてから十分は経っているだろうか。他のネットゲームをしたことないからわからないけど、アインの様子を見る限り長い部類に入るだろう。
 互いに顔を見合わせる
 最悪の想定がお互いの頭に浮かぶ。
 どうしようもない不安が溢れそうになった……その時だった。

 ゴォーン、ゴォーン……

 鐘が鳴った。時間的に五時の鐘だろう。
 そして、それが合図だったのか、変化は突如として現れた。

「う、うわあ!」
「な、なんだこの光は!?」

 謎の光が僕たちを包む。
 理解出来ない現象に心が恐怖で満ちる。

 視界が全て光によって染められた。



 しばらく、意識が飛んでいたような気がする。
 頭の中がふわふわして、立っているのかどうかさえわからない。

「コウ!」
「え、あ、アイン」

 耳元で叫ばれ、やっとか意識が肉体に定着する。
 僕はすぐに周りを見回した。

「こ、ここは……中央広場?」

 始まりの街の中心にして、プレイヤーが初めてログインする場所。
 それこそ、詰め込めば一万人ぐらいなら入ることが出来るでかい広場だ。

「そうらしい。多分、さっきの光は転移の光だ。俺たちはまだそんなアイテムは持ってないから、おそらく運営の仕業だろうが……」
「で、でもまだ出て来てないよね?」

 ざっと見て、この広場には一万人__全SAOプレイヤーが集まっていそうだった。
 もしかしたらログアウトが出来ない現状についてなにかアナウンスがあるのかもしれない。……しかし、肝心のGMがいない。
 まだ一万人集まってないのだろうか?
 その時だ。

「あ、あれ!」

 誰かが叫び、プレイヤーたちは導かれるように上を見る。

「……なんだ。あれは」

 隣にいたアインがそう呟いた。
 僕恐怖でまともに動くことすら出来ない。
 空はまるで世紀末のように赤く、紅く、どこまでも朱く染まっている。さらに、この広場上空を<WARNING>と書かれた不吉な表示によって覆われて行く。
 表示の隙間から値が滲み出るようにして赤い何かが空中に集まって行く。それは徐々に人の形を取って行く。
 その光景はまるで世界の終焉のようで、誰も、何も言えずにいた。

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 ついに出来上がったのは、SAOには存在しないはずの職(クラス)、魔導師を彷彿とさせるフード付きの赤いローブ。フードはもちろん頭を覆い隠し、その奥はどんな顔なのか、表情なのかはわからない、もしかしたら、最初からないのかもしれない。
 声は男とも女とも取れない中世的なものだ。どこか無機質のようにも感じられ、一層恐怖を掻き立てる。
 私の世界? たしかに、あれがGMならそうなのかもしれないけど、なぜ今そんなことを。

『私の名前は茅場明奈。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ』

 一瞬にしてプレイヤー間で動揺が伝播する。
 茅場明奈。さっきアインから聞いた名前だった。
 VR技術を作ったのは茅場明奈、ナーヴギアの基礎設計を作ったのも茅場明奈、このSAOを作ったのもまた茅場明奈。この世界の創造主という言葉に偽りはない。

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 ざわつきが先ほどよりも大きくなる。
 ログアウトが出来ない現状が仕様? なにを言っているんだ?
 プレイヤーの中には大声で不満を漏らす者も出始めていた。しかし、目の前にいるこの世界の神、茅場明奈は動じること無く続ける。

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

 わけがわからない。
 思考が麻痺していく。

『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合__』

 わずかな間。
 緊張は限界まで張り詰められて行く。

『__ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 痛いほどの静寂が場を支配する。
 誰もなにも言えなかった。
 理解だってできない。だって、だって、今のはつまり__

 __殺す、ということだから。
 自分でもその結論が信じられなくて、信じたくなくて、理解できない。したくない。
 もはや叫ぶ者すらいない。まだ信じているのだ。これがただの演出。ただのオープニングだという可能性に。
 隣にいたアインがポツリと呟いた。

「……ナーヴギアには最先端の技術が詰め込まれているが、原理自体は電子レンジと同じ。さらにナーヴギアには大容量のバッテリーも積まれている。だから、やろうと思えば」

 __不可能ではない。
 アインはその先を言わなかったけど、僕は理解できてしまった。
 __ああ、この人は本気だ。
 と。

『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間の外部ネットワーク切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み__以上のいずれかによって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果』

 無機質な声は、そこで一呼吸入れ。

『__残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 どこかで悲鳴が上がった。
 だけど、周囲のプレイヤーは呆然としている。
 笑みを浮かべて誤魔化す者、思考を放棄する者、今だオープニングだと思っている者__。
 誰もがこの現実から、目を背けていた。

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に解除される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』
「な……」

 アインがいよいよ耐えきれないといった風に鋭い叫び声が迸った。

「何を言ってる! ゲーム攻略だと!? ログアウト不能なこの状況で呑気に遊べって言うのか! こんなの、もうゲームでも何でもないだろうが!!」

 しかし、茅場明奈は相変わらず感情のない声で告げる。

『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』

 僕は次に紡がれる言葉を、なぜか直感できた。

『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 視界の端に映るHPゲージ。
 残酷なまでに明確に表示された僕の命の残量。
 一と零の間などという曖昧な境界線など無く、零になれば__死ぬ。
 だけど、そんな危険なゲームにまともに参加しようなんてプレイヤーがいるのか?
 そんな僕の考えを見透かすように、次の言葉が響いた。

『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッドの最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』

 しん、と一万のプレイヤーが沈黙した。
 第百層。
 第一層《始まりの街》含め、九十九体ものボスを打ち倒し、第百層に待ち受けるラスボスを打倒し、クリアする。
 出来るのか。そんな果てしない道のりを生き残って歩き続けることが、ここにいるプレイヤーに。

「クリア……第百層だとぉ!?」

 アインが突然大声を出す。鋭い眼光で茅場を睨み、右拳を青らに向かって振り上げる。

「出来るわけないだろう!! ベータじゃろくに上れなかったってあったぞ!」

 ネットとかに書いてあったのだろうか。それが真実なら、このルールはあまりにも酷だ。
 中には始めてネットゲームというものに触れる者もいるのだ。僕みたいに。
 右も左も分からない初心者がそんな過酷な現実を前に生き残れだと? 戦えだと?
 無理だよ、そんなの。
 僕は死ぬ。この世界で?
 二度とログアウトも出来ず、頂きに辿り着くことも出来ず、道半ばで__死ぬ。

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』

 それを聞くと同時に僕は右手の人差し指と中指を揃えてまそ他に向けて振った。同じように他のプレイヤーも同様のアクションを起こし電子的な鈴のサウンドエフェクトが響く。
 出現したメインメニューから、アイテム欄のタブを開くと、表示された所持品リスト一覧の一番上にそれはあった。
 アイテム名は__《手鏡》。
 なぜこんな物を、と思いながら、僕はその名前をタップし、浮き上がった小ウィンドウからオブジェクト化のボタンを選択。たちまち、きらきらという効果音とともに、小さな四角い鏡が出撃した。
 おそるおそる手に取るが、なにも起こらない。そこにあるのは初期設定のままで繰り出した平凡な僕のアバターの顔が映るだけだ。
 隣にいるアインも呆然とした様子で眺めていた。なにも無い、のか?
 __と。
 突然、アインや周りのアバターを白い光が包んだ。なにが起こったのか理解する間も無く、僕も同様の光に包まれ、視界がホワイトアウトした。
 ほんの二、三秒で光は消え、元のままの風景が現れ……。
 いや。
 目の前にあったのは、見慣れたアインの顔ではなかった。いや、有る意味ではもっと見慣れた顔だった。
 装備はそのまま。先ほど、一緒に狩りに出た時と全く同じもの。しかし、顔だけが変わっていた。
 その顔は、白皇学園に通う生徒__瀬川虎鉄の顔だった。

「……虎鉄、くん?」
「東宮、か?」

 その瞬間、僕はある種の予感に打たれ、同時に茅場のプレゼントである《手鏡》の意味を悟った。
 もう一度、食い入るように覗き込んだ手鏡に映ったのは、男にしては線が細く、弱気な瞳の情けない顔。
 数秒前までの作られた顔では無く、僕そのものの顔がそこにあった。

「な……俺、か?」

 隣の人物も気づいたようで、僕たちはもう一度顔を見合わせ、同時に叫んだ。

「君がアイン!?」「お前がコウか!?」

 声が元の世界のそれになっていたが、気にしていられなかった。
 改めて周りを見回すと、存在していたのは数秒前までファンタジーに出てきそうな美男美女の群れではなかった。まるでそこら辺を歩いていた一般人を集めたような集団がそこにはあった。恐ろしいことに、男女比も大きく変化している。
 どうしてこんなことになってしまったのか。その顔の造形はあまりにも細かく、なにかでスキャンしたかのようだ。

「……そうか」

 アインは押し頃た声を絞り出した。

「ナーヴギアは。高密度の信号素子で顔全体をすっぽり覆っている。つまり、脳だけじゃなくて、顔の表面の形も精細に把握出来るんだ。身長や体格も変化しているが……キャリブレーションで体のあちこちを触った時に身体データを取ったんだろう」
「な、なるほど」

 そういえば、アインはゲームや仕組みに関して結構詳しかった。もしかしたら、瀬川という立場にあったからかもしれない。
 そして、なぜ体格や顔まで現実のそれにしたのか。しかしその意図は、最早明らかすぎるほどに明らかだった。

「……現実」

 これは現実なのだと。死ねば死ぬ。本物の命なのだと。
 それを現実と一緒の顔と体にすることで再現した。

「……ああ、そうだな。そういうことだろう。だが」

 アインは鋭い眼光をさらに細め、叫んだ。

「なぜだ! そもそも、なぜこんなことを…………!?」
「……すぐにそれも答えてくれるよ」

 その予想は当たった。数秒後、地の色に染まった空から厳かとも言える声が降り注いだ。

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は__SAO及びナーヴギアの開発者の茅場明奈はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』

 僕は頭でそれを否定する。
 そんなわけがない。そんなことをするために、こんな舞台を整えるわけがない。
 ならば、茅場の目的とは。

「私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとって最終的な目標だからだ。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

 短い間に続いて、締めくくるように声が響く。

『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の__健闘を祈る』

 そして茅場は空に溶けるように消え、空も元の青さに戻った。遠くから荘厳なBGMがなり、元のソードアート・オンラインに戻った。
 そして__この時点でようやく。
 一万人のプレイヤー集団が、然るべき反応を見せた。
 つまり、圧倒的なボリュームで放たれた声が、広大な広場をビリビリと振動させたのだ。
 叫び、泣き、罵り、祈り、それぞれがそれぞれの行動を出した。
 先ほどまで一万人のプレイヤーだった僕たちは、この時を境に、一万人の囚人へと変わった。
 この時、僕は__


 ゲームが始まって三日が経とうとしていた。
 その時、プレイヤーは三つのグループに分かれていた。
 一つは先行者。一番数が少なく、ベータテスター中心に構成されたプレイヤーだった。
 この世界で生き抜くためにスタートダッシュをして、自分の強化に邁進した。その代わり死亡率も高く、たくさんのプレイヤーが死んだ。
 二つ目は進行者。みんなで力を合わせて進むと決めた者たちだ。一部テスターも情報を出し合い、レベルアップに務め、ゲームクリアに意欲を出していた。
 アインもこの中にいた。お嬢__つまりは瀬川泉に合流したと連絡が来た。どうやら結構多くの知り合いがこのゲームに来ているらしい。まあ、白皇は金持ちの学校だから、コネなどを使えば一般家庭よりもゲームを手に入れやすく、当然とも言えた。
 そして最後三つ目は、停滞者だ。思考を放棄し、ゲームクリアは人任せ。いや、むしろ諦めていると言ってもいい。街にこもり、フィールドに出ず、自らを守る自己中心的な者たち。
 そしてこの三つ目のグループには……僕も入っていた。



『こっちはなんとか全員生き残ってやってる。コウはどうだ。元気か。この世界には病気は無いが、精神的な疲れなどはあるからな。気をつけろよ』

 僕は毎日送られてくる瀬川虎鉄ことアインからのメッセージを読み、格安の宿屋で借りた部屋の隅で膝を抱えていた。
 外に出る勇気もなく、ひたすら孤独に耐えて、逃げていた。この現実から。
 日々まどろみの中で幸福だった頃の夢を見ていた。みんなに囲まれて、泣いたり、笑ったりしていた頃の。
 その夢を見ていることが僕の唯一の楽しみになっていた。
 もう一度立ち上がる気力などありはせず、あの日のことを思い出す。

『東宮、いやコウ。俺と来ないか』
『お嬢たちもログインしている。今は知り合いと固まった方がいい』
『綾崎も来てるはずだ。一人でいるよりいいはずだ』

 あんな混乱していた状況の中、冷静になって僕を誘ってくれたアイン。だけど、僕は、

『……ごめん』

 その誘いを断った。
 みんなといると否が応でも現実だと思い知らされるから。

「……野々原」

 僕は、この世で最も信頼する人の名前を呟き、まどろみに沈む。



「…………ん」

 声が聞こえる。

「…………ちゃん」

 どこかで聞いたことのある声だ。
 どこか懐かしい。いや、けっこう最近にでも聞いたことがあるような……。

「坊ちゃん!!!」

 の、野々原!?

「いつまで寝てるんですか! さっさと起きろやごるぁ!」

 ひぃっ! なんでそんな怒ってるの!

「坊ちゃん! いつまで逃げてるつもりだ! そんな風に育てたつもりは無えぞ!」

 ひぃっ! だ、だけど無理だよ! 僕じゃ戦えないよ、死んじゃうよ! それでも野々原は僕に戦えって言うの!?

「だったら、東宮坊ちゃんはずっとそこで何もかも終わるまで待っているつもりですか」

 ………………それは。

「なにも外に出ることだけが戦いではありません。街の中で戦闘色の方々をサポートするのも立派な《戦い》です」

 …………。

「立ってください。そして、進んでください。坊ちゃんは、東宮康太郎は、こんなことで折れるようなお方では無いはずです」

 …………それでも、無理だよ。
 野々原は僕を買い被り過ぎだよ。僕は……脆い。

「……なら、しょうがないですね。本当は自ら立ち上がって欲しかったのですが……」

 野々原?

「いいですか東宮坊ちゃん」

 う、うん。

「グダグダ言ってねえでさっさと戦ってこいやぁあああああああああああああああ!!!」



「うわああああああああ!!! ゆ、夢!?」

 跳ね起きるように立ち上がり、荒い息を繰り返す。
 あまりにもリアルな夢で、一瞬現実にいるのかと思った。
 というか野々原、夢の中にまで現れるのか……。

「…………」

 僕は自分の掌を見つめる。
 あまりにも情けない、弱々しい手だ。簡単に折れてしまいそうだ。
 でも、剣なら握ったことがある。
 それは竹でできた簡素なもので、それを使ったスポーツではとても弱かったけど、でも、この手は剣を握ったことがある。

「……あまり情けないこと言ってると、また野々原が来ちゃうな」

 一番信頼する人に、何度も何度も怒られてはいられない。

「……よし!」

 自分を奮い立たせるように声を上げ、ストレージに閉まっていた剣を実体化させる。
 この世界における、唯一の武器。

「……ここから始めるんだ。三日も遅れたけど、僕のソードアート・オンラインが」

 アインには伝えない。伝えれば、なんだかんだで頼りになるあの変態は、きっと僕を助けてくれる。そして僕は、それに頼る。頼り切ってしまう。
 それじゃダメなんだ。最初の一歩は、僕が踏み出さなきゃダメなんだ。
 僕は、強くなるよ。野々原。




 ーーーーーーーーー

 というわけで、ソードアート・オンラインクロス、Badly-bruised第一話。終了いたしました。
 主人公は東宮康太郎です。ハヤテだと思った方、素直に手を上げなさい。
 今後の展開は序盤はアニメや原作の展開に沿ってやり、後半はオリジナルが多くなる予定です。東宮康太郎ことkouの冒険をお楽しみにしてくださると嬉しいです。
 さて、ちょっと発表があります。
 この作品、Badly-bruised。続くかわかりません。←