Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき |
- 日時: 2015/01/17 21:16
- 名前: どうふん
- バトル編(仮称)は思ったより長引きましたが、強力な助っ人の登場で漸く事態が動きます。
考えてみればヒナギクさんはオバケが苦手なはずですが、かつてもオバケの軍団相手に獅子奮迅の活躍をしています。 愛か怒りか責任感か、とにかく勇気を奮い起こして克服することができるんですよね。
第6話:光と闇の決着
ヒナギクは、素顔に怒気を滾らせてキング・ミダスを睨みつけていた。 その全身からはオーラが溢れ出て、背後からは地鳴りのような音が響いてくる。 最後のは幻聴と思うが。
「貴様、何者だ。邪魔をするか」 「まあ、仕方ないわね。お忘れのようだけど、これで二回目よ」 もっともその時は、顔を隠していたため、別人に見えるのは無理もない。 「二回目?」少し首を捻ったキング・ミダスだが、「まあいい、我に楯突く罪は重いぞ。その報いもな」 「そうはいかないわ。伊澄、援護して」
片手片足になって動きが鈍いキング・ミダスの攻撃を躱しながら、ヒナギクはその巨体に正宗を叩き付ける。後ろの伊澄は、間隙を縫ってお札を投げつけて援護する。 だが、致命傷を与えられない。白桜が要る。
「白桜!」ヒナギクが叫ぶとハヤテの手元に転がっていた白桜が持ち主の元に戻った。 正宗と白桜の二刀流。 左手に正宗、右手に白桜。右腕を下段に下ろし、左腕を右肩の上に回した。
ヒナギクは駆けよるや、袈裟懸けで正宗を斜めから振り下ろした。 左腕を失っているキング・ミダスは右腕を左に回して受け止めた。
(狙い通りよ) ヒナギクは右手の白桜を横に払った。 一閃。 キング・ミダスの無防備な腹が切り裂かれ、さしもの魔物が断末魔に似た悲鳴を上げた。
ヒナギクは手を緩めない。 構え直した左手を真上に振り上げ、脳天目がけて唐竹割りを浴びせた。 手応えがあった。 角と角の間の頭蓋骨が砕け、顎の近くまで叩き割っていた。
(やった!ハヤテ君は?ハヤテ君は大丈夫?) 「まだです、会長さん。油断しないで」
だが、その声が届くより早く、キング・ミダスの腕はヒナギクを捕まえていた。 白桜が床に転がった。ヒナギクの左腕は体ごとキング・ミダスに掴まれて正宗を振るうこともできない。 さながらキングコングの映画のような有様はいつかと同じで、次のシーンが容易に想像できた。 ヒナギクは衣服が金色に変わっていくのを見て悲鳴を上げた。かつての恐怖が蘇る。 「やめなさい、キング・ミダス」 伊澄は念を込めて腕目がけてお札を飛ばした。
黄金のヒナギク像ができるのは止めることができた。 しかしヒナギクは掴まったままだ。
会長さんを助けないと、と伊澄が思うより早く、アテネがキング・ミダスの脇腹−ヒナギクが切り裂いた傷口に体ごとぶつかって黒椿を突き立てた。 更に満身の力を込めて、黒椿をキング・ミダスの体内の奥深くに押し込んだ。 絶叫と共にキング・ミダスの手が開き、ヒナギクが床に転がった。
魔物はようやく倒れた。だが、まだ生きていた。 半分砕けた頭蓋骨が乗った上半身を起こし、突き刺さった剣もそのままに、目の前のヒナギクに這い寄ってくる。
まだショックから覚めていないヒナギクは動けない。 「ヒナ、逃げて、逃げなさい!」 「会長さん!」 その声もヒナギクの耳には届かない。否、届いても体が動かない。 ただ、声だけは出せるような気がした。 「ハヤテくーん!」
恋人の絶叫が、ハヤテの脳髄に直接響いた。 「ヒナギクさん・・・?ヒナギクさん!」ハヤテの意識が闇の中から蘇ろうとしていた。 ハヤテの幾分霞んだ目に、キング・ミダスの背中がその先に倒れているヒナギクに迫って行くのが見えた。 「ヒナギクさん!」
ハヤテは渾身の力を奮い起こし立ち上がった。 動ける。走れる。 ハヤテは駆けよって、キング・ミダスの背に蹴りを叩きこんだ。
だが、これがまずかった。 キング・ミダスは、ヒナギクに向かって倒れこんだ。 ヒナギクは全身が下敷きになるのは免れたが、左足の上にキング・ミダスが圧し掛かってきた。 足が潰される痛みにヒナギクが悲鳴を上げる。 「ヒナギクさん!」 「ハヤテ、早く白桜を拾いなさい。奴にとどめを」 「ハヤテ様、あちらです」 (あれか)ハヤテは白桜を拾いあげた。 キング・ミダスは、倒れた拍子に脇腹の黒椿が柄まで差し込まれ、剣先が背中から突き出していた。
ハヤテは白桜を振りかざし、駆け寄ろうとした。 「ま、待て。その方、わかっておるのか」 「わかっているとも。承知の上だ」 「ち、違う。我が死んだらロイヤルガーデンは滅びるぞ」 「何だと」 「ロイヤルガーデンは、主を失い何年も経つ。その間に白桜は抜かれ、絆の石もほとんどが失われた。花が枯れ、光を失っていることは気付いておろう。 ロイヤルガーデンが神の力を失いつつあるのだ。
今、我が死ねばロイヤルガーデンが力を取り戻すこともない。我が、神の力を補っておるのだからな。我に体を預けた者も」
ハヤテはためらった。 「ハヤテ、誑かされてはだめよ。早くとどめを」 アテネは黒椿を手に取り戻そうとしていたが、キング・ミダスの体に深く入り込んだ剣はすぐには抜き取れない。 (そうだった。僕がやらないと)
ハヤテは白桜を振りかぶった。しかし・・・振り下ろせない。 「ハヤテ!」 「ハヤテ様!」 それでも動けない。複雑に入り組んだ得体の知れない感情がハヤテをためらわせる。 「ハ・・・ハヤテくうん・・・」 ヒナギクの苦悶の声。 その声がハヤテの迷いを断ち切った。吹っ切れた。 ハヤテは渾身の力でキング・ミダスの首に剣を振り下ろした。 巨大などくろが胴から離れ、転がった。
「やった・・・・」 しかし、床を転がる首は、ハヤテを見据えていた。潰れかかったどくろがハヤテに向かって口を開いた。 「お前はやったことがわかっているのか。これでロイヤルガーデンは滅びる。永遠にな・・・。それにお前は一生消えない十字架を背負うことになった」 「黙れ黙れ黙れえええええ」ハヤテの叫び声と同時に、首の目が光を失った。
しかしキング・ミダスの実体は死んでも、精霊は滅びていない。 首と胴体からキング・ミダスの幽霊のような姿が抜け出し、屋根に向かって消えようとしていた。 「ハヤテ、白桜を。あれを逃がさないわよ」アテネがようやく黒椿を手にした。 アテネとハヤテは精霊の影に向かって白桜と黒椿を翳した。 二本の聖剣からまばゆいばかりの光が煌めき、影を消し去った。
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城に立ち込めていた禍々しい気配が消えていくのが感じられた。 次第に夜明けの光が届いてくるように、闇が薄れていくのがはっきりとわかった。 (これで消えたのか・・・?こんどこそ消滅したのか、キング・ミダスは)
ハヤテは一瞬呆けたようになったが、すぐ横でヒナギクが激痛に呻いている。 「ヒナギクさん!」 ハヤテはキング・ミダスの胴体を必死に持ち上げ、下に潜り込みヒナギクを外に押し出した。 ヒナギクの膝や足は二倍に腫れ上がっていた。骨にひびが入っているかも知れない。 「ヒナギクさん、どうして、どうしてまた、こんな無茶を・・・」
ヒナギクの強烈な平手打ちが飛んだ。 これほど強烈な一撃は味わったことがない。 物理的な破壊力なら、前回の方があっただろう。 しかし、それ以上にヒナギクの感情が・・・怒りや悲しみが伝わってきた。
「どうして、ですって?こっちが聞きたいわよ。なんで、一人でこんな無茶をするのよ。 どうして私に付いて来てくれって言わないのよ。私が来なければ死んでたのよ。」
「済みません・・・。でも・・・僕は、こんな危険なところに来てくれなんて…言えないですよ。ヒナギクさんとは何の関係もないのに。 ヒナギクさんにもしものことがあったら・・・。またこんな怪我をさせてしまって・・・」 「私とは関係ないの?私はハヤテ君の恋人じゃなかったの?ハヤテ君が死ぬかもしれないときに私は何もできないの? 私は、その後どうすればいいのよ。ハヤテ君はいないのよ。 私のためにハヤテ君に犠牲になってもらったって悲しいだけよ。」
ヒナギクは泣いていた。
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