Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき |
- 日時: 2015/01/14 22:25
- 名前: どうふん
- ロイヤルガーデンを戦場としてハヤテとアテネの苦闘は続きます。
<第5話:聖域は荒れ 心は乱れ>
ハヤテとアテネは左右からキング・ミダスを挟んだ。 キング・ミダスの左右の腕が凄まじい勢いで二人に掴みかかってくる。 二人にとって、片腕だけの攻撃なら躱すことはそれほど難事ではない。 しかし、長すぎるリーチを掻い潜って懐に入らなければ頭や胴体への攻撃をすることはできない。しかも魔物の胴体には無数の剣が生えている。
「それは難しいから」 ハヤテはロイヤルガーデンに突入する前にアテネから言われたことを反芻していた。 「まずは手近なところから地道に攻める。止めを刺すのはその後よ」
キング・ミダスの振り下ろされた腕の爪先が床にめり込んだ。 (今だ) ハヤテは動きが止まった左手に白桜を叩き付けた。 キング・ミダスの手首の先がちぎれて飛んだ。 「うまいわ、ハヤテ」アテネが歓声を上げた。 「小僧ども。小癪なマネを。それで我に勝ったつもりか」
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激闘は続いていた。 キング・ミダスの左腕は肘までなくなり、更に角は折れ、地に片膝をついていたが、屈服する様子は見えなかった。
「虚勢を張るのはおよしなさい」アテネの声が響く。
しかし、ハヤテとアテネも全身が汗と血に塗れて疲労の限界に達していた。 それをキング・ミダスは見逃してはいない。 「ふん、虚勢はどちらかな。その方どもには、その剣を振り回すどころか、もはや振り上げることもできまいて」
キング・ミダスは片足を引き摺りながらよろめくようにアテネに近づいてくる。 ハヤテは必死の力を振り絞って横から斬りかかったが、キング・ミダスの右腕で吹き飛ばされた。 「ハヤテ!」 壁に叩きつけられたハヤテは立ち上がれない。 アテネは黒椿を振り上げて構えようとしたが、その腕は疲労で痺れている。剣先がややもすれば床につく。
それを見て、キング・ミダスは向きを変えた。 「どこへ行く」アテネは叫んだ。 「恋人より先に死ぬのは嫌であろうと思ってな。最後の情けだ。 それにどうせならこいつの肉体も頂いておこう。我の体も傷ついたでな。お前はその後で恋人の手に掛かって死ぬがいい」 「ま、待ちなさい!」
ハヤテの意識はまだ飛んではいない。 (こんなところで死んでたまるか・・・。あんなやつに・・・。ヒナギクさん・・・) だが、体には全く力が入らない。動けない。 黒い大きな雲のようなものが前に立ち塞がり、自分に向かってじりじりと迫ってくる。 だめだ、ここで死ぬんだ・・・、と思った。 (ヒナギクさん、済みません。約束守れなかった・・・。もう一度・・・会いたかった・・・)
ハヤテの脳裏にヒナギクの笑顔と泣き顔が浮かび、そして消えた。
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遠くからハヤテを呼ぶ声がした。その懐かしい響きを持つ声は次第に近づいて来る。 「ハヤテ、ハヤテ。起きて」 「あ・・・あーたん?」 「気が付いたのね、ハヤテ。良かったわ」 「い・・・一体僕は?」 目の前が霞み、頭がまだぼーっとしている。しかし、その頭はアテネの膝の上にあった。
「安心して、ハヤテ。キング・ミダスは滅びたわ。私がとどめを刺したから」 「ぼ・・・僕がのびている間に・・・?さすがだね、あーたん。僕は大して役にも立たなかったのかな?」 アテネは微笑み、ハヤテを抱き締めた。 「何言ってるの。全てあなたのお蔭よ。ハヤテ、本当に頼もしくなったのね」 (何て気持ちいいんだ・・・) アテネの腕と胸の中で、ハヤテは陶然とした。
「さ、ハヤテ。お疲れ様。恋人の胸の中でお休みなさい。」 「え・・・それは・・・。恋人って」 「あら、ハヤテ。私以外に恋人がいるの?10年も前からずっと想い合った仲なのに」 (た・・・確かにそうだ。だけどどこか間違っているような・・・) 「安心なさい・・・。全て私に委ねるのよ」
(この感触・・・。何か違うような・・・。あーたんってこんなにムネが大きかったっけ・・・いや大きかったよね。だけど僕の恋人は・・・) ともすれば意識を失いそうな心地よさの中で、ハヤテは大きな違和感が膨れ上がっていくのを感じていた。
(何か変だ・・・。夢の中みたいな・・・。そもそも僕は生きているんだろうか?) 手を自分の左胸に当てた。心臓の鼓動を感じた。
(やっぱり生きているみたいだ・・・) だが何かが足りない。大事なものが抜け落ちている。胸にあるはずの何かがない。 (そうだ。ポケットに入れていた翼が。ヒナギクさんの元に帰る翼が)
違和感の正体に気付いた。 「誰だ、お前は。あーたんじゃないな」 「な、何を言ってるの」 「僕の恋人はヒナギクさんだ。あーたんじゃない」 「ハヤテ・・・」 「正体を現せ!」振り払って逃れたハヤテはアテネに向かって身構えた。 アテネの姿が消えた。 (ど・・・どこに行った?) 周りを見回そうとしたが、体は動かず、また目の前が暗くなった。
ハヤテは先ほどから倒れたまま動いていない。 キング・ミダスは舌打ちした。精神操作に失敗した。 「取り込み損ねたか。ならば死ぬが良い」
キング・ミダスはハヤテにとどめを刺す体勢に入った。 「は、ハヤテ、はやてえー!目を覚まして」 アテネは先ほどからよろよろと近づこうとしていたが、間に合わない。 しかしキング・ミダスは、背中に強烈な一撃を受けてよろめいた。
何が起こった・・・?振り向いたアテネに見えたものは・・・。 「ヒ、ヒナ。伊澄も・・・。どうして・・・」
キング・ミダスの後ろに立っていたのは正宗を構えたヒナギクとお札を握り締めた伊澄だった。
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