Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき |
- 日時: 2015/01/10 17:08
- 名前: どうふん
- アテネが何を考えているのか。
これまた一筋縄ではいきません。
アテネもまた本来の目的とは別に内心の葛藤を抱えています。 もちろん、それが理解できるハヤテではないわけで・・・ まあ、私の基本方針として、本来の人格を変えてはおりません(設定はどうあれ)。
そう言えばアテネにはもう一人執事がいましたね。
とにかく、今回から舞台はロイヤルガーデンへと移ります。 「バトル編」とでもいうべきでしょうか。未経験のジャンルですのでどうなることやら。
<第4話 : 女神と執事>
「ハヤテ・・・。ごめんなさい。こんな危険なことに巻き込んで。ヒナまで傷つけてしまって・・・だけど・・・他にどうすればいいかわからないの。」 申し訳なさそうなアテネの隣でハヤテは白桜を磨き上げていた。
「大丈夫だよ、あーたん。ヒナギクさんを巻き込まないようにしてくれたのには感謝してるよ。ヒナギクさんはきっとわかってくれるから大丈夫だよ。」 アテネの胸がかすかに痛んだ。それはハヤテやヒナギクを巻き込んだことに対する自責の念とは全く別のものだった。 (今、ハヤテはヒナを信じているんだ・・・。ヒナから愛されている、と心から・・・)
「それにロイヤルガーデンはあーたんにとって奪われていいものじゃないんだ。僕にとっても大切な時間を過ごした場所なんだ。あんな奴に好き放題に荒らされてたまるもんか。昔の恋人で恩人のためにお付き合いするよ」
ハヤテがそう思い切るまで、半日を要した。 ロイヤルガーデンを取り戻すため協力して欲しい、と頼み込むアテネにハヤテは答えがなかなか出せなかった。
かつてのハヤテならアテネやヒナギクはおろか、伊澄から頼まれても応じている。一度など試験の真っ最中に、妖怪退治に協力し、全身の血を大量に失った。
しかし今回は決心がつかない。 ヒナギクの悲しむ顔が、頭をよぎる、という生易しいものではなく、のしかかってくる。 しかし、結局ハヤテは決断した。ロイヤルガーデンに居座る魔物の正体を聞いた時。 (まだ生きていたのか・・・。今度こそ僕の手で決着をつけないと・・・)
「でも、王玉はどうやって手に入れたの?それがないとロイヤルガーデンには入れないんだろ」 「伊澄さんに手伝ってもらったのよ。あの人の霊能力がなければ、無理だったわね。あと二つ見つけてくれたんだけど、取りあえず一つだけもらったわ。さあ、これをお持ちなさい。もし失ったり壊したりしたら戻ってこれなくなるわよ」
「わかったよ、あーたん。任せてくれ。あーたんのために何かをするなんてきっとこれが最後だから」 ハヤテはペンダントを外した。首に巻いていたら戦いの邪魔になる。紛失の可能性もある。 しばらく翼を掌において見つめていたが、一度両手で握り締め、王玉と共に執事服の左胸の内ポケットにしまってチャックを締めた。 (きっと、帰ります、ヒナギクさん。この翼で)
(「昔の恋人」「恩人」そして「最後」か・・・) そんなハヤテを見つめるアテネの胸にふと、黒い雲が湧いた。 自分自身に対する疑念だった。
(ハヤテは私の言うことを信じている。だけど私は本当にヒナを巻き込みたくなくてヒナを拒んだのか?アリスが認めたことを私は本当に受け入れているのか。これを機に・・・なんて邪まな心は本当に持っていないのか?) アテネは頭を振って、それを打ち消した。 だが、胸の中に燻る苦い思いは消えなかった。 「どうしたのさ、あーたん?」
ハヤテが不思議そうにアテネの顔を覗き込んでいる。 「い、いえ・・・。ね、ねえ、ハヤテ。ハヤテにとってヒナはどんな存在なの?」 「え?そうだね・・・天女ってところかな・・・。ちょっと祟りは怖いけど。あはは」 能天気な回答を寄越すハヤテにアテネはいら立ちを覚えていた。 「だったら私は?」 「決まっているじゃないか。女神様だよ」 ぬけぬけしたセリフにアテネは苦笑した。 「あなたの元カノは女神で、今は天女?全くあなたは果報者ね」 「あはははは。ホントそう思うよ」
(嫌味が通じないわね、全く) とは思いつつ、もう一言、言ってやろうとしたアテネが口を噤んだ。 バタバタと足音が近づいてきて、勢いよくドアが開いた。
駆けこんできたのは、アテネの執事のマキナだった。 「アテネ、僕も連れて行ってくれ」
「マキナ、それは無理よ。王玉は私のものとあと一つしかない。王玉がないとあの中には行けないの。あなたは私が帰るまでお屋敷をしっかりと守っていてちょうだい」 「アテネ、何でそんなこと言うんだよ。僕だってそいつに負けない働きをしてみせるよ。何なら今すぐ証明してやる」 マキナはいきなりハヤテに飛びかかろうとした。 「やめなさい、マキナ!」アテネの鋭い叫びと気迫が、マキナの動きを止めた。 「今、同士討ちしてどうなるの。マキナ、あなたは私が命じたことをやりなさい」 「アテネ・・・、嫌だよ。そいつの代わりに僕を連れて行ってよ」泣きそうな顔でアテネを見るマキナに、アテネは無造作に分厚い財布を渡した。 「だったらその前にハンバーガーを好きなだけ食べてらっしゃい。お腹が空いては、戦はできませんわよ」 マキナは財布をわしづかみにして外へ飛び出した。
アテネにやれやれ・・・という表情が浮かんでいる。 「あの・・・あーたん?」 「まあ、凄くいい子なんだけど・・・。昔のあなたと同じくらい・・・」 「同じくらい、なんだい?」 「同じくらいおバカさんなの」 (それだけでなく、同じくらい私のことが好きなの) それは口に出さなかった。それだけのことでしかない。
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「黒椿!」 「白桜!」 雌雄一対の剣の相乗効果が生み出す威力は凄まじく、ロイヤルガーデンの前で待ち構えていた魔物の群れは一瞬にして消滅した。 城内へと走り出そうとするハヤテをアテネは止めた。
「ハヤテ、私から離れないで。奥には罠が仕掛けられている。闇雲に飛び込んではやられるわ」 ハヤテは足を止めて様子を窺った。 何物の気配もない。 ハヤテは門を大きく開け放った。 城内には漆黒の闇が広がっていた。灯りがないだけではなく、黒い霧が立ち込めている。 「ハヤテ、闇を切り開くわよ」 「了解」 白と黒、雌雄一対の剣が同時に振られるや、一条の光が差して、霧が吹き飛んだ。 次第に目が慣れてくると、暗い廊下の様子がわかってきた。
廊下を並んで二人は奥へと進む。 側壁や物陰から飛び出してくる魔物はいるが、霧さえなければどうということはない。立ちはだかる魔物は全て黒椿と白桜に切り伏せられた。
着実に二人は前へと進む。 廊下が終わった。 突き当りの広間にそいつはいた。 キング・ミダス・・・。 角を生やした恐竜の化石のような顔とその図体は、かつてギリシャの地で戦ったキング・ミダスに間違いなかった。 人間の魂を乗っ取り、実体化したといってもその醜い姿は変わらない。
「お前、まだ生きていたのか。よくも・・・よくも・・・」 キング・ミダスは嘲笑をもって応えた。 「人間風情が大きな口を。もともとロイヤルガーデンは神の棲む家ぞ。わしが住んで何の不都合がある。人間にとって神とは畏れ敬うものぞ。わしに実体を提供した者共は果報を感謝するのだな」 「あなたももともとは人間ではありませんか。それも欲に目がくらんだ愚かな王様。果てに人間の体を乗っ取ってロイヤルガーデンに居座ろうとするとは何たる醜態」 「ふん、愚か者ども。あくまで神に戦いを挑むか」
戦いは始まった。
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