Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき |
- 日時: 2015/01/05 23:29
- 名前: どうふん
アリスはともかく、記憶を取り戻したアテネは、果たしてハヤテを諦めるのでしょうか。原作のストーリー整理が私自身できてはいないのですが、このあたり、かなり大きな問題となるでしょう。少なくとも、原作においては諦めていないはずです。 さらにハヤテの気持ちは本SSの中ではヒナギクさんに完全に移っていますが、それをヒナギクさんがどれだけわかっているかは別問題です。 今までの経緯と、ヒナギクさんの性格を考えると、やはり疑心暗鬼に陥ってしまうのではないか、と思います。
<第3話:別れの夜>
夜になった。 ヒナギクは携帯をずっと手元に置いてハヤテからの連絡を待っていたが、着信はない。 自分から連絡しなきゃいけないような、するのが怖いような、そんな葛藤に捉われて動けないでいた。
もう9時を過ぎた・・・。思い余って携帯に手を伸ばしたとき、携帯が鳴った。ハヤテだった。 「もしもし、ハヤテ君?」 「ヒナギクさん、今お家の外にいるんです。夜遅く済みません。外に出てきてもらえませんか」 ヒナギクが窓から外を除くと、確かにハヤテが門のところに立っていた。
「ハヤテ君」 息せき切って外に飛び出したヒナギクの前には、悲しさとも切なさとも形容しがたい表情をしたハヤテがいた。わけのわからない不安が胸を締め付けた。 「ヒナギクさん、お願いがあります。白桜を僕に貸して下さい」 「・・・どういうことよ」 「僕を信じて下さい。必ず僕はヒナギクさんの元へ生きて帰ってきますから。今は何も言わずに・・・」
ヒナギクは満身の力を込めてハヤテに平手打ちを浴びせた。 吹っ飛んだハヤテをヒナギクは目に涙をためて睨みつけていた。
「何なのよ、それ。要は天王州さんと一緒に行くってことでしょ。その後、私の元へってどういうことよ。はっきり言えばいいじゃない。やっぱり僕の好きな人は天王州さんです、って」 「違うんです、ヒナギクさん。僕の愛する人はヒナギクさんです。ヒナギクさんだけです。だけど、今は、今回だけは・・・」 「そう、今回だけなの。だったら好きにすればいいわ。あなたの欲しいものはここにあるわよ」 ヒナギクは、白桜を召還するや振り上げ、ハヤテの脳天めがけて振り下ろした。 ハヤテは動かない。得意の真剣白刃取りどころか、よけようともせず目を瞑って歯を食いしばった。
ハヤテの髪が何本か斬れて風に舞った。 白桜はハヤテの頭上わずかな差で止まっていた。 そして地面に転がった。 恐る恐る目を開けたハヤテに、ヒナギクが家の中へと姿を消そうとするのが見えた。 その背中に声を掛けることもできない。 「ヒナギクさん、すみません。今、本当のことを言ったら、きっとヒナギクさんまで巻き込むことになります。
きっと帰ってきますから・・・。 その時には、僕を思う存分ぶん殴っていいですから・・・許して下さい」 ハヤテは、首にかけた翼のペンダントをきゅっと握り締め、白桜を拾い上げ俯いたまま悄然と去った。
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部屋に戻ったヒナギクはベッドに倒れこみ、枕を抱いて泣いた。 かつても、ハヤテを想って泣き明かしたことが三度ある。そのうち、二度が天王州アテネがらみだった。 一度目は、ギリシャでハヤテから、アテネへの想いを打ち明けられた時。 二度目は、キング・ミダスとの戦いが終わり、ハヤテとアテネが抱き合っているのを目の当たりにした時。
(私は敵わないのかもしれない・・・天王州さんには)
第一印象が「ビックリするくらいキレーな子」で、友達になって、能力的にも正直「今は敵わない」と思った。あくまで当時の「今は」であり、今ならどうかわからない、という思いはあるが。 それに、何と言ってもハヤテに十年間想われ続けた女性。付き合ってまだ半年も経っていない自分とは違う。
(時間が全てじゃない)
そうは思っても、ギリシャで見たものは、ヒナギクの脳裏に今でも残酷なまでの鮮やかさで蘇る。 たった一人で絶望的な戦いに挑み、ぼろぼろになってアテネを助けようとするハヤテの姿は鬼気迫るものがあった。 救い出されたアテネとハヤテは映画のラストシーンのように抱き合っていた。 一緒に戦った自分や伊澄のことなど眼中になく、抱き合って感涙にむせんでいた。
それを目の当たりに見せつけられて「終わった・・・」と思った。 立っていられるのが不思議なくらい全身の力が根こそぎ抜け、とぼとぼとその場を去った。
自分が去った後、ハヤテはアテネに「振られた」と言っていたが、どこがどうなればそんな展開になるのかさっぱりわからなかった。
4か月前の夏休み、「ヒナギクさん、愛してます」と叫んだハヤテが嘘をついていたとは思わない。 だがハヤテが気付いていなかっただけではないのか。まだアテネを愛しているということに。
そして今。自分という恋人との語らいの最中に現れたアテネをハヤテは追った。 事情も話さず言葉だけを残して。 「必ず僕はヒナギクさんの元へ生きて帰ってきますから」
「生きて」・・・? 途轍もなく不吉な予感がした。
ヒナギクは起き上がり携帯を取り出した。やはり・・・ハヤテにはつながらない。 その時、ヒナギクはびくりとして携帯を取り落とした。着信があった。 ハヤテ君?いや違う。
「ナギ?」 「ヒナギク。ハヤテがそっちに行っているだろう」 通話口の向こうからまくし立てる声が響いた。 「な、何よ、いきなり。ハヤテ君ならいないわよ」 「いない・・・?ウソじゃないな、ヒナギク」 「何がウソよ。確かに一回来たけどすぐ帰って行ったわよ」 「そ、そうなのか。だ、だがな、気付かなかったが、ちょっと前、ハヤテからメールが届いてたんだ。私との約束をすっぽかして」 「メール?何て書いてあったの」 「『お嬢様、申し訳ありません。どうしても今すぐ解決しなければいけない問題が発生しましたので、今日は戻れません』とあったのだ。ケータイは通じないし、私はてっきりお前とケシカラン事をおっぱじめるのかと・・・。 済まん、早とちりだったのか。
い、いや別にやったらいかんとかいう気はないぞ。いきなりだったので、ついつい取り乱してしまった。済まん」電話が切れた。
不吉な予感は当たっているようだ。 まあ、ナギの予想したことがアテネ相手に行われるわけではないだろうが。 とにかく只事ではない何かが起こっている。
改めて電話を掛け直した。違う相手に。 こんな時に何かを知っているかも、いや頼りになるかもしれないのは伊澄しかいない。
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