Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき |
- 日時: 2014/12/30 21:20
- 名前: どうふん
究極のお嬢様であるアリスがムラサキノヤカタに住む理由は原作においてもそれなりに描かれています。 しかし、私はそれ以上に、(ナギもそうですが)、庶民に塗れて世間の中で生きる時間こそがアリスひいてはアテナにとって貴重な存在だと思っています。 そうした意味では、この二次創作において、アリスを無理に成人化する必要もないわけです。むしろ、ロッキー・ラックーンさんのようにアリスをそのままにして活躍させた方が面白いお話になるのかな、という気もしますが、本作ではヒナギクさんとアテネの決着を着けさせたいと思います。
<第2話:翼がもたらすもの>
アリスは、夏休みをハヤテやヒナギクそして仲間たちと一緒にムラサキノヤカタで過ごした後、愛歌に連れられ去って行った。 この小生意気なお姫様が去る時、周囲は皆胸が締め付けられるような寂しさを感じていた。 別れ際、ムラサキノヤカタの住民の他、一足先にお屋敷に戻っていたナギやマリアも集まって送別会を開いた。 その場で、アリスは皆に向かって言った 「私にはやらなければいけないことがありますので、一度お別れします。 皆、短い間でしたが本当にありがとう。特にヒナ、ごめんなさいね。強引にお母さんをお願いして。 でもあなたたちを親として暮らしていて本当に良かったと思いますわ。 考えてみれば私が孤独を感じることなく自由な生活を送ることができたのは初めてです。皆さんのおかげで、間違いなく私の人生で一番楽しくて充実した時間を過ごすことができました。 改めて、かけがえのない仲間である皆さんにお礼を申し上げます」 (お前の人生って、一体何年間のことなんだよ)(大体これは何歳児の挨拶だ?)(それは今に始まったことではないだろう)とみんなが内心で様々な突っ込みを入れる中、アリスは去って行った。 その後連絡が取れなくなった。愛歌も知らなかった。
ただ、別れて2ヶ月が過ぎて、今から二週間ほど前に、ハヤテとヒナギクに宛てて手紙が来たことがある。
「ハヤテ、ヒナ、仲良くやっているかしら。 私は元気よ。 あなたたちを両親として仲間と一緒に暮らした思い出は、今でも私の宝物です。 なすべきことはまだ果たしておりませんが、ようやく取り掛かることができそうです。 それさえ片づければ、また、会えると信じています。 その時は必ず私の方から連絡します。 だから探そうとは思わないでね。 アリス」
どこから届いたのかはわからなかった。 ただ、なすべきことに今から取り掛かる、ということが何を意味するのか・・・・。 「早く元気で戻ってきてね」 二人は祈っていた。
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「い、一体どうしたのさ、あーたん。それにその姿は」 およそ三ヶ月振りの再会となるアリス、いやアテネは、まずそもそも成人体になっているところから唐突であったが、それだけではない。 衣服のあちこちが破れ、血が流れている姿で、剣を杖にして立っていた。明らかに壮絶な闘いの後だ。それも見る限り勝ち戦とは思えない。 「ハヤテ、説明は後よ。今すぐ力を貸してほしいの」 「待ってよ、あーたん。とにかく怪我の手当をしなきゃ」 「そんな時間はないの。私について来て」 ハヤテはアテネを医務室まで連れて行こうとしたが、アテネは逆にハヤテの手を握りそのまま連れ去ろうとした。
「い、一体何なのよ、天王州さん」 蚊帳の外になっていたヒナギクがたまりかねて声を荒げた。 アテネはヒナギクに初めて視線を向けた。その目が切羽詰っているのはわかった。よほどの緊急かつ重大事態に陥っていることは間違いない。 だが、アテネはその説明をしようとはしない。冷ややか、としか思えない口調で一言だけ告げた。 「あなたには関係ないわ、ヒナ」 呼び方だけがアリスのまま残っていたが、今そこに立っているのはアリスでも昔の友人でもない・・・ヒナギクはそう思った。
「ちょ、ちょっと待ってよ、あーたん。そんな言い方、ヒナギクさんに失礼じゃないか」 ハヤテはヒナギクを庇っている。しかし、ヒナギクの意識は違う方に飛んでいた。 つい先ほど、あれだけ望んだものを当たり前のように受けている人物がいる、ということに衝撃を受けていた。 (なんなのよ、その口の利き方は。天王州さんに対しては、何でこんなに私と違うのよ)
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結局、ハヤテとヒナギクは引きずるようにしてアテネを医務室へと連れて行った。 手当を受けているアテネに、ハヤテは何度も事情を尋ねているが、アテネがヒナギクの同席を拒むため、事態が動かない。
ハヤテは弱り切ってぼやいた。 「・・・どうしちゃったのさ、あーたん。あーたんはヒナギクさんとも友達だったじゃないか。お母さんにさえなってもらって。何度も助けてもらってもいるのに、何でそんなに頑なになっちゃんたんだよ」 「ハヤテ、私を信じて。とにかくあなただけに聞いてほしいの」
ヒナギクは先ほどからずっと黙っている。 「私は出ているから二人で話をして」というセリフが喉まできていたのだが、どうしても口を開けない。
ハヤテは困惑していた。 (何か事情があるのはわかるよ・・・そうしたいのは山々だけど・・・) 今、それをやると、ヒナギクとの仲に決定的な亀裂をもたらしかねないことは、いかな鈍感執事にも見当がついた。
ハヤテは心を鬼にした。 「ヒナギクさんも一緒でないと、君の話は聞けないよ、あーたん。」
「なら仕方ないわね」 アテネは席を立ち、歩き去ろうとした。 ハヤテは目を固く瞑った。 (引き止めたい。追いかけたいよ、あーたん。 だけど、僕の今一番大切なものはヒナギクさんなんだ。わかってよ・・・。 いや、わかってくれなくても・・・それでも、僕は・・・)
「ハヤテ、追わなくていいの?」 「ヒナギクさん?」 「天王州さんには何か事情がある。わかってるんでしょ、ハヤテ」 「でも、でも今の僕には・・・」 「わかっているわよ、ハヤテ。私だって昔の私じゃない。今の私ならあなたを信じて待っていられるから。そのくらいは強くなったから・・・。 行ってらっしゃい、ハヤテ」 「ヒナギクさん、ありがとうございます」 ハヤテはアテネを追って医務室を飛び出した。
(やっぱり気付かなかったわね、ハヤテ君) 独り残されたヒナギクはため息をついた。 ヒナギクの頭には、先ほどのアテネに対するハヤテの態度が重く圧し掛かっていた。 いや、ハヤテに対するアテネの態度というべきか。 それを何の違和感もなく受け入れているハヤテ。
対抗意識が頭をもたげ、アテネと同じようにハヤテを呼び捨てにしたが、ハヤテが気付いた気配はない。 それだけハヤテはアテネの様子に気を取られていたということだろう。 改めて、ハヤテとアテネの絆の強さを思い知らされた。
ヒナギクの背筋にぞっとするような悪寒が走った。 「たとえ遠く離れても私の元に飛んできて・・・」そんな想いを込めてハヤテに贈った翼のペンダントは、自分から飛び去る翼となるんじゃないか? そして、翼を持たない私に、それを追いかける術はない・・・
その日、ハヤテは教室に戻ってこなかった。
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