Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき |
- 日時: 2015/02/15 17:06
- 名前: どうふん
- 私が「想いよ届け」と題して最初の投稿をしたのは8月2日です。もう半年が過ぎました。
何事にも三日坊主の私にしては良く続いたものだと思います。
元はと言えば、ヒナギクさんが幸せになれるエピソードを作ってみたいと思ったのがきっかけでしたが、調子に乗ってロイヤルガーデンまでぶっ壊してしまいました。
その甲斐あって(?)、二人がお互いに信じ合って、ケンカにも一応の免疫は持ち、何より大勢の仲間たちから応援される。そんな世界を描くことができました。 これからも、二人は進路や結婚などいろいろな苦労やトラブルを経験するでしょうが、(この世界の)二人の未来を私は信じることができそうです。自己満足に過ぎなくても。
こうして書いていくと、娘を嫁に出した父親のような気分がしてきました(ちょっと図々しいですね)。 ヒナギクさん、ハヤテ君、お幸せに・・・
それでは、以下、「想いよ届け」三部作、最終話となります。 管理人さん、最後までお付き合い頂いた方々、誠にありがとうございました。
第12話 : 笑顔と共に 未来へ
12月24日−都内某所 ハヤテとヒナギクは、予約を入れたレストランへと向かう道々でイリミネーション巡りをしていた。 ヒナギクの足は癒えていた。 行く先々に人が多いところもあるが、その多くは自分たちの世界に浸っているので、気持ちさえ高まっていれば意外にロマンチックな雰囲気になれるものである。 二人は手をつないで光の中を歩いていた。
「ねえ、ハヤテ君。サンタさんっていつまで信じていた?」 ハヤテの頭にあの信用できないサンタが思い浮かぶ。 少なくともサンタからプレゼントなんてもらったことはない。 ただ、「何で僕にはサンタさんはプレゼントをくれないんだろう」と思っていたのだから信じていたことは間違いない。 「自分でもよくわからないですね・・・」 幾分困惑した響きがあった。
何気ない話題だったが、結果的につまらないことを訊いてしまった、ということにヒナギクは気付いた。 ヒナギクは、空気を取り繕うように、改めて話し掛けた。
「あ、あのね、ハヤテ君、ちょっと手を離してもらっていいかしら」 「え、はい」 ハヤテは戸惑いながらもヒナギクから手を離した。 ヒナギクはハヤテの腕に自分の腕を絡ませた。「腕を組む」格好になった。
二人は結構な距離を歩いていたが、この超人カップルにそんなことは関係ない。 ただし、当然ながら寒さは二人とも人並みに感じている。 腕を組んで体を密着させると、お互いに相手の温もりを感じることができた。 「こういうのもいいですね、ヒナギクさん」 自分から仕掛けて来たくせにヒナギクは真っ赤になって俯いている。
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二人は目的地のレストランに入った。ほとんどぼったくり価格のクリスマスメニューを出す店ではなく、普通の小さな洋食店である。しかし、華やかではないが、上品な雰囲気と美味な料理はヒナギクを満足させるに十分だった。 「ハヤテ君、こんなお店どうして知っているの?」 「あはは、種を明かすと僕が知っている訳じゃないんですよ。愛歌さんや千桜さんにいろいろ聞きまして。最後は千桜さんが、『ヒナを喜ばすならこんな店だ』と幾つか教えてくれたんで、見て回った結果ここにしました」 ちょっと残念な気分もあるが、ここはハヤテの努力を認めるべきだろう。 そして、二人を支えてくれている友人はここにもいるんだ、と改めてヒナギクは思った。
「それで、ヒナギクさん」 改めて、ハヤテが切り出した。 「ヒナギクさん。まだ、お付き合いを始めて5ヶ月も経っていませんが・・・、そしてその間にいろんなことがありましたけど、こんな僕を好きになってくれて、そして見捨てないでくれて本当にありがとうございます」 「ハヤテ君。私だってね、ハヤテ君に告白された時は天にも昇る心地だったのよ。そして、いろんなことを乗り越えてハヤテ君とイブを一緒に過ごすことができて本当に幸せなの」
ヒナギクの笑顔と言葉が胸に沁みこんできた。 僕が他人を幸せにしている・・・かつて貧乏神や疫病神のように言われていた僕が。 最愛の人がそう言ってくれた。 そして、いろんなことがあったけど、それを乗り越えてこれたんだ。
(いよいよだ・・・。今しかない) ハヤテは決意した。今までこっそりと準備していたことを。
「嬉しいです、ヒナギクさん・・・。僕は馬鹿ですからうまく言えないですけど・・・」 ハヤテは口ごもった。言いたくても言えないような、うまく口に出せないような、そんな感じで口の中をもごもごさせていた。 ヒナギクはそんなハヤテを優しく見つめている。慌てなくてもいいのよ・・・その瞳が語っている。
「え、ええと・・・一息で言いますね・・・」ハヤテは横を向いて胸に手を当て大きく息をした。二回、三回。 改めてハヤテはヒナギクに向き合って口を開いた。 「心から愛しているよ、ヒナ。これからもずっと一緒だよ」
「ハヤテ君・・・覚えていてくれたんだ」 月初めにヒナギクがお願いしたこと。いろんなことがあって今までうやむやになっていた。 正直なところ今回は諦めかけていた。しかし、心の奥ではちょっぴり期待している自分がいた。 そしてハヤテは応えてくれた。
ヒナギクは涙が溢れそうになるのを堪えた。しかしそれ以上に堪えるのが難しいことがあった。 ぷはっ・・・ ヒナギクは噴き出していた。 「な、何がおかしいんです」 顔を赤くしたハヤテが口を尖がらせた。
「ご・・・ごめんね。でも、何回も練習したんでしょ。ハヤテ君が一生懸命練習している姿を想像しちゃって」 「・・・そりゃあ、僕はヒナギクさんに喜んで欲しいですから・・・」 「・・・いきなり間違っているわよ、それ」 「え、それは」 「ヒナって呼びなさい、これからは」 「は、はい・・・。ヒナ・・・」 「んー、良い響きね」ヒナギクの笑顔が眩しい位に輝いた。 ハヤテの心をわしづかみにして離さない笑顔。これを向けられると本当に幸せな気持ちになれる。 (この笑顔をずっと見つめていたい。ずっと向けてもらえる自分でいたい) 心からそう思った。
いや、これはずっと前からそうだった。付き合い始める前にもヒナギクに直接言ったことがある。 しかしその時は、状況が状況であったため、結局信じてもらえずぶん殴られて終わっている。 まあ、自分でも口走っていることの意味など本当には分かっていなかったのだが。
満面の笑顔をそのままに、ヒナギクが口を開いた。 「まだ、お返事していなかったわね、ハヤテ君。素敵なメッセージをありがとう。 私からもお願いするわ。これからもずっと私の傍にいてね。きっとよ」 「あ、ありがとうござ・・・、ありがとう、ヒナ・・・」 ハヤテは涙ぐんでいた。
ただ、ハヤテとしては、もう一つ、これだけははっきりと確かめておかなければいけない。
「あ、あの・・・ヒナ・・・。二人っきりの時はともかく、人前では『ヒナギクさん』でいいですよね・・・」 おずおずと尋ねるハヤテに、もう一度ヒナギクは噴き出していた。
ちょっと恨めしそうに見ていたハヤテも続いて噴き出した。
ハヤテとヒナギクの弾けるような笑いが、この小さな空間にあふれた。 二人には、それが、どこまでもいつまでも広がっていくような気がしていた。
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プレゼント交換も無事に終わり、二人は腕を組んで帰り道を歩いていた。 しかし、ヒナギクの家の近くまで来た辺りから、ハヤテの口数が少なくなった。
「ハヤテ君、どうしたの。さっきから何か考え込んでるみたいだけど」 「え、ええっと・・・。ねえ、ヒナ・・・。一つお願いしていいですか」 「ん、何かしら、ハヤテ君」 「僕だけが、ヒナ・・・のこと呼び捨てにするのはバランスが悪いと思うんですよ」 「まあ・・・、そうね」 「だからですね。ヒナ・・・にも僕のこと呼び捨てにしてほしいな・・・、と思いまして」
ヒナギクは微笑みながらハヤテの顔を見ている。しかし、その瞳には妖しい光が混じっていた。 (それ、一回試したことがあるんだけどな。やっぱり全然気づいてなかったのね) ちょっと天邪鬼な気分になった。
「残念だけど、それはお預けね」 「え、え」 「まだ敬語が直ってないじゃない。もっと普通の言葉で話せるようになったら、その時は私もハヤテって呼ぶわよ」 「そ、そんなあ・・・。これでも僕は頑張ったんですよ」
ヒナギクはハヤテの腕から体を離した。 そのまま前へ回り込んだヒナギクは、ハヤテの2、3歩前に立って向き合った。 かすかに微笑んでいるその表情は変わらない。
ヒナギクは手を後ろに組み、腰を曲げてハヤテの顔を上目づかいに覗き込んだ。
ひと呼吸置いて−
ハヤテの前に破顔一笑したヒナギクがいた。 「わかっているわよ、ハ・ヤ・テ」 ヒナギクはくすくすと笑いながら片目をつぶった。
ハヤテは心臓を消し飛ばされたような気がした。 感極まって両手を広げて踏み出した。 「ヒナギクさん!」
(あーあ、やっぱりとっさになるとこの呼び方ね) そんなことが頭をよぎったが、ここは気付かない振りをすることにした。 (まあいいわ、今のところは大きな一歩ということで)
抱きすくめられたヒナギクは瞳を閉じ、ハヤテの温もりと愛情に包み込まれるのに任せた。
<想いよ届け 第三部〜王族の庭城が滅びるとき> 【完】
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