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対象スレッド 件名: Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき
名前: どうふん
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Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき
日時: 2015/02/01 08:54
名前: どうふん

第9話:想いは届かずに


12月10日−
ヒナギクの足の骨には幸い異常はなかったが、まだしばらくは、松葉杖を余儀なくされている。
それでも大分良くなったのは、動きでわかる。
昼休み、ヒナギクは松葉杖をつきながらハヤテと校庭を散歩していた。

「無理はしないで下さいね、ヒナギクさん」
「こんなもの大したことはないわよ。いつか病院で入院していた時の方がよっぽど苦しかったわ」
「確かにあの時はヒナギクさんが一日一日やつれていくようでした」
「やれやれ。私がやつれた原因がどこにあるのかは覚えているんでしょうね」
「は、はい、それは僕と一緒にあの島に行ってもらって・・・」
「そんなことを言っているんじゃないの。あの時は傍に居てくれたハヤテ君が恋人ではなかった、ということよ」
「お、恐れ入ります・・・」

あの時は、何事も遠慮がちであったヒナギクだが、今回はやたらと頼みごとが多い。
もちろんハヤテに拒否権はない。
(まあ、当分は頭が上がらないな・・・)
つい、先ほども喉が渇いた、と言われて自動販売機に走ったばかりである。
「このあたりに腰を掛ける場所はないかしら」
「え、えーと。ベンチがありますけどちょっと汚れてますね。あちらの芝生でどうでしょう」
「ん、いいわね」

二人は芝生に腰を下ろした。
松葉杖をついているヒナギクは、座るのも大変そうなのでハヤテが支えた。
二人並んで見上げた空に大きな雲が浮いていた。
(ロイヤルガーデンに似てる・・・)二人は同時に思った。

「天王州さん、無事なのかしら」ヒナギクは独り言のように呟いた。
「きっと・・・。でもロイヤルガーデンに何か起こったみたいですね」
ロイヤルガーデンから戻ったあと、二人は全く音信のないアテネを心配してロイヤルガーデンに行こうとしたが、入るどころか見つけることもできなかった。

二人はまだロイヤルガーデンの消滅を知らない。
アテネの生還も。

次第に二人の空気が重苦しくなっていった。

「あーたん・・・」
ハヤテが呟いた一言が、ヒナギクの神経を刺激した。
「ねえ、ハヤテ君」
「何でしょう」
「どうして私を置いてロイヤルガーデンに行ったの」
その声にはまだ割り切れない思いが残っていた。
「ヒナギクさんには言ってもわかってもらえないと思います・・・」
「何ですって・・・」
ヒナギクの眉が吊り上がった
「す、すみません。言い方が悪かったです。ヒナギクさんを否定するつもりはないんです。
ただ・・・僕にとっては幼稚園のころ、本当に絶望して死にたいと思ったとき、迷い込んであーたんに助けられたところなんです。あの時僕にはあーたんとロイヤルガーデンだけが、唯一の・・・あ、あの頃は、ですよ。唯一の存在だったんです。
それに何よりあれは僕自身の・・・」
ハヤテの口から出てくるセリフの全てがヒナギクの心情を逆撫でしていた。

「そんなことを訊いているんじゃないわ。何で私を置いて、と言っているのよ」
「そ、それは、この前も言った通り、ヒナギクさんに直接の関係のないことで、ヒナギクさんを危険にさらすなんてことはできないと思って・・・」
「私の気持ちは言ったはずよね、ハヤテ君。約束してくれる?二度とそんなことをしないって」
「そ、それは・・・」
「できないの?」
強い口調で問い詰めるヒナギクに、ハヤテは顔を歪めた。

「恋人を危険に巻き込みたくない、ってことがそんなに許せないことですか?
ヒナギクさんの気持ちは嬉しいですけど、ヒナギクさんを一方的に僕の個人的な問題に巻き込むなんてしたくないんですよ」
「何よ、個人的な問題って。天王州さんの問題でしょ」

ハヤテの頭に血が上った。口調が激しくなった。
「もちろん、それもありますよ。だけど僕にだって抱える問題はあるんです。当たり前じゃないですか!」
「何なのよ、それは。私はハヤテ君の恋人なのよ。ハヤテ君が苦しい思いをしているのに私が知らん顔をしていられるわけないでしょ」
「だから!ヒナギクさんを苦労ならともかく危険に晒すなんて。
ヒナギクさんは僕が守ります。危険からは遠ざけます。愛する人のためですから」
「このわからずや!何度言ったらわかるのよ。ハヤテ君のいない天国なんか行きたくないわよ。
危険でも何でも、私に一緒に背負わせてよ。私だってハヤテ君を守れるんだから」
「何でそんなに頑ななんですか。
そりゃヒナギクさんから見たら僕はヒーローでも超人でもありませんよ。
僕なんかがヒナギクさんを守るなんておこがましいでしょうけど、僕の気持ちだって少しは考えてくれてもいいじゃないですか!」


ハヤテ君が怒っている−。
ハヤテの怒りをまともにぶつけられたのは初めてだった。
ヒナギクが俯き、唇を噛んだ。怒りか恐れか、その体が震えた。
自分の中に得体の知れない感情が溢れるようで噴き出すようで動けなくなった。
ハヤテも自分自身のセリフに、また初めて見るヒナギクの姿に驚き、どうしていいかわからなくなった。


「あ、あの・・・、ヒナギクさん・・・」
恐る恐るハヤテが口を開いたのと、ヒナギクが立ち上がったのはほとんど同時だった。
ハヤテは手伝おうとしたが、ヒナギクはその手を振り払い、松葉杖をついて歩き出した。

追いかけなきゃ、と思いつつハヤテの足は動かない。
ヒナギクの姿が木陰に隠れて見えなくなった。

(何をやってるんだ、僕は。またヒナギクさんを傷つけてしまった)
胸が締め付けられた
後悔と自責に襲われた。

駆けだそうとするハヤテを呼び止める声がした。
「ハヤテ様・・・」


*****************************************************************


またこんな別れ方をしてしまった。そんなつもりじゃなかったのに。
ヒナギクはそっと後ろを窺ったが、自分を追いかけてくる影は見えなかった。

ハヤテの言っていることはわかる。怒ってはいても愛情に満ちた言葉であることも。
しかし、受け入れられそうにない。
そしてハヤテも、受け入れてはくれなかった。

涙がこぼれた。
(何で・・・。何でこうなるのよ。私は天王州さんより大事な存在でいたいだけなのに・・・)
こんな顔を他の生徒に見せられない。
生徒会長のプライドだけでなく、現実的な問題もある。
(ハヤテが会長を泣かせた)という噂が学校中を駆け巡ってハヤテがリンチに遭いかねない。

ただでさえ、ハヤテが会長に大怪我をさせた、という話は尾ひれを付けて周知の事実となっている。
もちろんヒナギクは躍起になって火消しに努めているのだが、当のハヤテが肯定してしまっている。


涙をぬぐったその目の前に人影が見えた。
「全く世話が焼けますわね」
「天王州さん?」