Re: 想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき |
- 日時: 2015/01/29 22:00
- 名前: どうふん
- アリスがかつて気になることを言っていました。
「我が庭城を渡すわけにいきませんから」聞いていたのは幽霊神父だけでしたが。 なぜ、アリス、ひいてはアテネがロイヤルガーデンにこだわるのか。多分作者しか知らないことでしょうが、果たしてアテネにとってそれが良いことなのかどうか。 なら、いっそ消滅したとしたら・・・? 今回壮大すぎるタイトルをつけたのはそんなことを考えたからです。
私の意向がどうあれ、ロイヤルガーデン消滅のカウントダウンは続いています。
第8話 : 喪われし過去 蘇る現在
「ハヤテ、来ちゃだめ!戻りなさい!」 アテネは叫んだ。 だが、遠くの人影は揺れる地面も裂け目も物とせず、あるいは駆け、飛び移り、人間離れした勢いで近づいてくる。 「戻りなさい!お願いだから!!あなたにまで死なれたら。ヒナはどうなるの」
その間にも揺れは次第に強まり、地割れはアテネのすぐ近くまで迫ってきていた。アテネは立つこともできなくなり、膝をついている。
ハヤテと、そしてヒナギクの顔が頭をよぎった。 (ハヤテ、ごめんなさい。あなたを巻き添えにはできない。これ以上ヒナを悲しませることも) アテネは這うように、地の裂け目に近づき身を躍らせた。
自分を呼ぶ絶叫が遠くから聞こえた。
*******************************************************
アテネは目を覚ました。
「アテネ、起きたんだね」 覗き込んでいた青い髪の持ち主はハヤテ、ではなかった。 「マキナ・・・?あなた、一体?ハヤテは?」 しかし、答えるより先に、マキナは部屋の外へと飛び出していた。 辺りを見回した。ベッドの上に寝ている。ここは、病院?そうは見えない。
マキナが咲夜と伊澄を連れて部屋に入ってきた。 「やっと、目を覚ましたんかい、理事長さん」 「ここはどこなのかしら」 「ああ、ウチの屋敷や。こいつが気を失ってケガしているあんたを運んできたんや」 丸三日意識が戻らんかったから、心配したで」 「アテネ、驚いたよ。もう少しで届きそうなのに、いきなり穴の底に落ちてしまうんだから。浅いところで引っかかっていたから何とか引っ張りあげられたけどさ」
次第に状況が呑み込めてきた。 アテネは谷底まで落ちることなく、比較的浅い岩に引っかかって気を失っていたのか。 そしてアテネを救けに飛び込んで来たのは、ハヤテではなくマキナだった。
「でも、何で。その髪の色は?」 「ん、僕はアテネの財布を貰って飛び出したけど、ハンバーガーを食べに行く途中で床屋を見つけたんだ。それでハンバーガーは50個くらいに抑えて、帰り道に床屋で髪を染めてもらったんだ。僕とあいつの違いはこの髪の色くらいなものだろ。こっちの方がアテネは好きみたいだから。 で、戻ってきたらアテネがいないから匂いを嗅いで後を追っかけたんだ」
犬の仲間であるキツネにはそんなことも可能なのだろう。
しかし・・・アテネにしてみれば笑い事ではなかった。 (わ・・・私ともあろうものが・・・。地上でもっとも偉大な女神の名前を持つこのアテネが・・・ こんなおバカさんの馬鹿馬鹿しい思いつきに騙されて悲愴なる死を図るとは・・・ うう・・・い、一生の不覚、いや生涯の汚点・・・)
誰にも気付かれていないとはいえ、腹が立つやら恥ずかしいやらでアテネはしばし言葉を失っていた。
アテネは腹立たしげに、いや実際腹が立っているのだが、 「あ、あのねえ、マキナ。どこまで馬鹿なの、あなたは。私が好きなのは髪の色じゃありません」 「え、そうなの?」 間抜けな答えを発し、大真面目に驚いているマキナに、アテネは怒る意欲を失った。 しかし、しょんぼりしているマキナを見ていると、何とも言えない可笑しさが湧き上がってきた。 自分の醜態(?)さえ可笑しくなって、ころころと笑いがこみあげて来た。
「まあいいわ、マキナ。私を救けに来てくれたのね。ありがとう」 「ど、どういたしまして。アテネのためなら僕は何でもするよ」 「なら、まず髪の毛の色を元に戻しなさい。それが終わってからよ」 「え、戻すの」 「いいこと、マキナ。他人のマネをして学ぶのは良いけど、髪の色なんてマネしなくてもいいの。あなたはあなたなんだから」 「は・・・・い・・・・」 「そんな小さな声では聞こえませんわ。執事として一生私を守る気があるなら、もっと元気になりなさい」 「はいっ!」 マキナは、答えるや外に飛び出そうとした。しかし、ドアから一歩足を出した後、振り返った。 「アテネ、もういなくなったりしないよね」 アテネがゆっくりとうなずいてやると、安心したように飛び出して行った。止める間もなかった。 アテネはため息をついた。 (髪の色を元に戻すつもりなんだろうけど、財布を忘れて行ってはね・・・) しかし、マキナの見えなくなった先を見守るその目はどこまでも優しかった。
****************************************************************
アテネは顔を伊織に向けた。 「伊澄、ロイヤルガーデンはどうなったの」 「消滅しました。もう跡形もありません・・・。済みません、理事長」 「そう・・・」 アテネは窓の外に目を遣った。 何としても我が庭城を取り戻そうとしたことは徒労だったのか・・・。
だが、意外なほどにショックも喪失感もない。 むしろ開放感があった。自分を縛り付けていた鎖がちぎれて飛んだような。 その感情を理解するまでしばらく間があった。
(ロイヤルガーデン ・・・ 私の王宮だけど牢獄でもある。 取り戻すことは結局できなかったけど、その方が良かったのかもしれない。
もはや聖域に歪んだ欲望を持ち込む人間もいなくなる。 私が戻る必要も縛られる理由もなくなった。
この世界には仲間がいる。 これからハヤテやヒナのいる世界で、人間として生きるのも悪くないかもしれない。 確かに、アリスとして仲間と過ごしていたころは一番楽しかったもの。 私にとっては初めてのことばかりで、お金より贅沢より素晴らしいものを知ることができた。 そう言えば、ロイヤルガーデンが滅びるとき、頭に浮かんだのはハヤテと仲間たちのことばかりだった。
そして私の隣にハヤテはいなくても、マキナがいる。まあ、マキナは隣というより後ろだけど。
私の未来も、そして今も案外捨てたものではない・・・かもしれないわね)
|
|