想いよ届けB〜王族の庭城が滅びるとき |
- 日時: 2014/12/27 07:41
- 名前: どうふん
- 予定より遅れてしまいましたが「想いよ 届け」第三部を投稿します。
時期は、第二部+1で描いたハヤテの誕生日よりさらに1ヶ月。師走の始め。 舞台は主としてロイヤルガーデンになります。 原作におきましても謎の多い部分ではありますが、その辺りは私の空想で埋めるということでご容赦。
想いよ届け 第三部 〜王族の庭城が滅びるとき
(第一話:闘い いまだ終らず)
この世界でいえば12月1日、カルワリオの丘に立つ神様が棲むという城 王族の庭城(ロイヤルガーデン)。 −それは滅びる事のない花が咲き、消える事のない炎が灯る場所− しかし、今、城内を照らす灯りはすべて消え、花さえ萎れ、あるいは枯れ果てていた。
ロイヤルガーデンに向かう丘を、天王州アテネは一人歩んでいた。 空気が動かないはずの聖域に風が吹き、アテネの頬を打つ。 (ロイヤルガーデンを囲む結界が緩んでいる・・・・。急がないと・・・)
「遅かったではないか・・・」 闇に包まれた城の中から響いてくる聞き覚えのある声に、アテネは答えた。 「私にもいろいろと事情がありましてね。別に怖気づいて逃げていたわけではありません」 「そんな心配はしていない。必ず戻ってくると私は信じていたよ。一人で、とは思わなかったがな」 「それは結構。なら私の目的もわかっているはずですわね」 「ああ、結果もな。残念だがお前の望みは叶えられない」
「それはどうかしら。 でもその前に一つ聞いておきましょう。死んだはずのあなたがどうやって蘇ったのです?」 「我は神ぞ。肉体が滅んでも霊魂は朽ちぬ。我に肉体を提供しようとする人間など幾らでもおるわ」 「それで実体を手に入れたと・・・。その人間は魂を乗っ取られて消滅するのに」 「そんなことは関係ない。我が触れるものを金に変えることができるといえば、欲深い愚か者はすぐに騙される」 「・・・言ってて恥ずかしくありませんの。そんな力を望んだ愚か者はあなたではありませんか」
アテネの六感が鋭く刺激された。 アテネは剣・黒椿を抜き放った。右に向かって切りつけると何もないはずの空間に明らかな手ごたえがあった。 切り裂かれた魔物が姿を見せて、地面に転がって動かなくなった。人に似ているが、異形のもの。角と尻尾をもつ西洋悪魔のような姿であった。 闇の声が哄笑した。 「少しは腕を上げたか。だが、所詮は身の程知らずだな」
(来る) 四方から目に見えない魔物が襲ってくる気配がした。 アテネは目を閉じて気を凝らした。
おおまかな位置はわかる。 動きも鈍い。
黒椿が煌めくや、アテネの周りには魔物の残骸が幾つも転がっていた。 アテネは、目もくれずにロイヤルガーデンへ向かって駆けた。
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12月3日−白皇学園 昼休み、校庭というにはあまりに広い敷地の中をハヤテとヒナギクが談笑しながら歩いていた。 腕を組むどころか手をつないでいるわけでもないが、交際が順調に続いていることは二人を包む雰囲気が物語っている。
「ねえ、ハヤテ君。もうすぐクリスマスだけど、スケジュールはどうなってるの」 ハヤテは空とぼけて答えた。 「15日のパーティの招待状は行っていますよね。ムラサキノヤカタに住んでいた人たちも皆集りますよ。楽しみにしていて下さい。」 「んー、そうじゃなくって。もっと楽しみなこともあるんだけどなー」 ハヤテのわざとらしい意図などヒナギクにはお見通しだが、ここはハヤテの期待どおりむくれて見せた。 決して不愉快ではない。ハヤテがこうして勿体をつける時には必ずいい答えが返ってくるのだ。
果たしてハヤテはニッと笑った。 「ご安心下さい。イブはちゃんと空けてますよ」 「え、ホントに良いの」 「ええ、マリアさんの誕生日パーティは15日のクリスマスパーティで一緒にやるそうです。マリアさんとお嬢様が気を遣ってくれたみたいで。 お任せ下さい。ヒナギクさんのために素敵なクリスマスイブをご用意しますよ」 「あの、それは嬉しいんだけど、あまり無理しないでね。問題はコストじゃなくてシチュエーションよ。それに、私にもちゃんと負担させてね」 本当のところヒナギクは「全額私がもつ」と言いたかったが、それはハヤテに失礼だろう、と思っての申し出だった。
とは言いながら・・・ 生まれて初めての愛する人とのクリスマスイブ・・・。ヒナギクは既に妄想の世界に片足を突っ込んでいる。
そんなヒナギクを見ているハヤテも自然と笑みがこぼれる。 思えば、一年前のクリスマスとは何という違いだろう。 僕は今本当に幸せなんだ・・・
しばらくして・・・ 「ねえ、ハヤテ君。クリスマスと言えばプレゼントだけど」 およそヒナギクらしくないセリフに戸惑いつつも、ハヤテはあくまで恭しく答えた。 「それもお任せ下さい。ヒナギクさんに劣らないメッセージをプレゼントに添えてお渡しします」 ハヤテは風呂と寝るとき以外は肌身離さず身に着けているものにそっと触れた。 翼を象ったペンダント。 前月、ヒナギクが誕生日のプレゼントにくれたものだ。
劣らない「プレゼント」でなく「メッセージ」であるところが今のハヤテの限界だが、早く借金を返済し、借金持ちでなくなってヒナギクと向き合いたい、というハヤテの思いを知っているヒナギクはむしろ嬉しかった。 だが、それはそれとして・・・
「だったらね、とびっきりのメッセージが欲しいんだけど」 「え、どういうことです」 「私への気持ち。言葉でなく態度で示してほしいなあ」 「?」
ヒナギクはハヤテの顔を覗き込んでちょっと恥ずかしそうに笑っていたが、やがて口を開いた。 「敬語を使うのやめてくれない?」 「え、え」 「私たち、付き合って4か月経つのよ。もうちょっと砕けた言葉で話してくれてもいいんじゃないかしら」 「はあ・・・。でも僕はこれが普通ですし・・・」 「それはそうだけど。でも私は恋人なんだから特別扱いしてくれてもいいじゃない。 すぐに言葉遣いを直すのが難しかったら、まず呼び方でもいいわよ。呼び捨てにするとか、縮めるとか」 「う、うーん。ヒナギクさんは僕の恋人であると同時に、学園のアイドルでヒーロー、じゃなくてヒロインですから。呼び捨てというのは周囲の精神状態に悪い影響を与えそうで・・・」 「何わけのわからないこと言ってるのよ。すぐに、とは言わないわよ。イブまでに少しでも直してくれたら嬉しいな」 「はいっ、わかりました。他ならぬヒナギクさんの頼みとあれば努力します」 ヒナギクが満面の笑顔と共に右手を伸ばし、ハヤテの左手をぎゅっと握った。
「ハヤテ」 聞き覚えのある声が、後ろから聞こえた。二人はびくっとして手を離した。 「あーたん?」 「天王州さん?」 そこに立っていたのは紛れもなくアテネ。アリスではなく、元の姿に戻った天王州アテネに相違なかった。
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