〜 escape 〜(一話完結) |
- 日時: 2014/12/14 22:23
- 名前: 明日の明後日
- あ、こんばんわ、明日の明後日です。
ちょっと思い付いたので一話完結を投下します。短めです。 「静かな狂気に満ちたお話」ってイメージで書きましたがどうも上手くいきませんね。 ちょっとしたネタを仕込んであるので気付いた人はクスリと来るかもしれません。
よろしければどうぞ。
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「貴女はとっても可愛いですね」
“頭がおかしいんじゃないですか”
間髪入れずにそう返していた。洗濯物を干しているときのことだった。 少年は驚いたような顔をして、それからしょぼくれたような顔になる。私は小首を傾げながらその様子を眺めている。 しばらくしてから少年は何も言わずに引っ込んだ。一体どうしたというのだろう。
「貴女はとっても可愛いですね」
“いけない、ねじ回しをとってこなくちゃ”
次の日、また、似たようなことがあった。お庭のお掃除をしているときのことだった。 少年は少し考えるような顔をして、それからまたしょぼくれた顔をする。私は顔をきょとんとさせている。 少年は何も言わずに駆けていった。まったくどうしたというのだろう。
「貴女はとっても可愛いですね」
“施設を紹介した方がいいのかしら”
更に次の日、またまた、同じようなことがあった。お花のお世話をしているときのことだった。 少年は心なしか悲しい顔をして、それから顔を伏せた。私はお花に水をやっていた。 少年は何も言わずに屋敷の中に戻っていった。はてさて、何かあったのかしら。
「貴女はとっても可愛いですね」
“手遅れなのかしら、もう”
「貴女はとっても可愛いですね」
“いいお医者さんを知っているんですよ”
「貴女はとっても可愛いですね」
“まさかここまで症状が進んでいたなんて”
少年は毎日毎日、私のところへ来て、そんなことを言う。 そして私の返事を聞くと何も言わずにどこかへ行ってしまうのだ。 今日も例に漏れず、少年は私のところへやってくる。
「貴女はとっても可愛いですね」
“すみません、よく聞こえませんでした”
少年は少し意外そうな顔をして、それから今度は恥ずかしそうな顔をした。私はじっと少年を見つめていた。 やっぱり、少年は逃げ出した。一体全体、彼は何がしたいのだろう。
次の日。私は少々、考えを改めてみることにした。
少年が逃げ出してしまうのは、もしかしたら私の受け答えに問題があるのではないか。 天文学的な数字ではあるけれども、可能性がまったくないというわけでもないだろう。 しかし、それでこちらに責任を押し付けるのは筋違いではなかろうか。 突拍子も無く、素っ頓狂なことを言われれば、誰だって言葉に窮するというものである。 それを分からせるべく、今日は私から仕掛けることにした。
「ハヤテくん」
少年を見つけた私は、名前を呼びながら小走りで近付いてゆく。 少年は夕食の支度をしているところだった。 私は少年の目をじっと見つめて、こう言った。
「ずっと傍に、いてくださいね」
少年は一瞬だけ目を見開いて、それから笑ってこう言った。
「僕なんかでよければ、喜んで」
顔が熱くなって、私はその場から逃げ出した。
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