Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで |
- 日時: 2014/11/28 22:49
- 名前: どうふん
- 「想いよ届け」第二部、今回が最終話となります。
前作同様、今回も書き上げるまでおよそ一か月くらいでした。 私の集中力が続くのはそのくらい、ということでしょうか。 また一休みして、第三部に取り掛かりたいと思っています。
管理人さんや目を通して頂いた方々に心より御礼申し上げます。
どうふん
第9話(三人の日常)
新学期になって3日が過ぎた。 まだ、登校実績のないナギは今朝も布団から出てこない。 「お嬢様、もういい加減学校に行きましょうよ」
「んー、ハヤテ。お前たちのために起きないのだぞ、私は。学校でくらい、ヒナギクとイチャイチャして来い」 (全く、好き勝手な理屈を思いつきますね・・・。もっともヒナギクさんは学校でイチャイチャしてくれるほど甘くないですけど)
ただしこれはあくまでハヤテの感想である。 「あの野郎、今日も桂さんといちゃつきやがって」 人前でのスキンシップはなくとも、昼休みに一緒に弁当を食べ、放課後も生徒会室や帰路へ向かう二人を見て、ハヤテに羨望や嫉妬あるいは殺意を込めた目線を送っている男子は多い。
呆れ顔でマリアがナギを揺さぶった。 「いい加減になさい、ナギ。ヒナギクさんにハヤテ君を独り占めされていいんですか」 「まあ、いいさ。学校の中だけの話だ」 マリアはナギの耳元に顔を近づけた。 「そんなことだから、あの恋愛音痴のヒナギクさんに負けるんですよ」 「わ、わかったよ」 しぶしぶと起き出すナギを見送って、 「マリアさん、今、お嬢様に何て言ったんですか」 「さあ、何でしょうね」
なんやかんやで、ナギは今学期初めて学校に行った。
***************************************************************************************************
そして昼休み、ヒナギク、ナギ、ハヤテの三人は校庭の芝生に腰かけて弁当を食べている。 ナギ主従の食事に親友が同席しているようでもあり、恋人同士が妹と一緒に、とも見える。 しかし、ナギもヒナギクも、そしてハヤテも疎外感を抱くことなく、三人で仲良く談笑しているところはさすがである。
「で、ヒナギクの身辺にはストーカーの影はないのか」 「ないわよ、そんなもの。ただ、ハヤテ君の悪口を言って、自分をアピールするダメ男は何人かいたけどね」 普段のヒナギクなら、告白してきた男が嫌いでも、相手の気持ちを慮り、他人に話したりすることはない。 まして「ダメ男」などと。 余程腹に据えかねているのだろう。 (まったく・・・。「ここだけの話、あいつは親に捨てられたんだよ」「借金を抱えているんだよ」なんて、教えてもらわなくても知ってるわよ。そんなことを口にしている自分がどんなに卑しい顔をしているかぐらいは気付いてほしいわね)
「まあ確かに、上っ面だけでしかハヤテを見ない奴らにとって、ハヤテへの誹謗中傷など幾らでもできるからな」 「い、幾らでも、ですか」 「気にするな、お前の価値はわかる人間にはわかるのだ。
ところでな、ヒナギク。ハヤテはこの一週間しょっちゅう物が飛んできたり、落とし穴に狙われたりしているみたいだぞ・・・。 まあ、せいぜい嫌がらせのレベルだから心配するほどのことでもないが。 ハヤテをこんな目に会わせるあたり、さすがにヒナギクは白皇きってのアイドルでヒ−ローだ」 「ヒロインですよ、お嬢様」 「いや、ヒナギクはヒ−ロ−と言った方が適切だ」 「何の話よ」 「かっこ良すぎだというのだ、ヒナギクは。男子生徒はともかく、女子生徒までああだからな。 そうだな・・・。男子生徒のアイドルで女子生徒のヒーロー、と形容すればぴったりではないか」 ヒナギクの頭に、バレンタインに山積みされたチョコレートを齧る毎年の恒例行事が蘇る。 「あ、あまり嬉しくないわね」
(僕の恋人は男子生徒のアイドルで女子生徒のヒーローか・・・。 まあ、男子生徒のアイドルは間違いないけど、ヒーローの方はどうだろう。男女問わずに、だろうな。何せ、怒る気配だけでクラス全体を一瞬で黙らせるんだから。あの時の迫力は半端じゃなかった・・・。 僕にとっては・・・やっぱり天女かな。ちょっと祟りは怖いけど) 「何、ニヤニヤしてるのよ、ハヤテ君」二人がハヤテの顔を凝視していた。 「あ、いえ」 「まあ、お前にとって不名誉なことを考えていたわけではなさそうだぞ、ヒナギク」 「いや、絶対少しは考えていたわよ」 「あ、あはは・・・」
昼休みも終わりに近づき、三人は腰を上げた。 「ヒナギク、今日も放課後は生徒会の仕事があるんだろう」 「ええ、あるわよ。何?ナギが手伝ってくれるの」 「んー、私はゲームの続きをしなければならんからすぐ帰る。ハヤテ、私の代わりに手伝ってやってくれ」 「はい、お嬢様」ハヤテの声が明らかに弾んでいる。 「・・・何をそんなに嬉しそうにしているのだ」 「い、いえ、その・・・」 「まあ、いい。好きにしろ」 ナギは先にすたすたと歩きだした。
「お嬢様、待って下さい」
しかし追いかけるハヤテの立ち位置は微妙なところにある。ナギとヒナギクの真ん中あたりをうろうろしている。 それを見たヒナギクは嬉しいようなナギに悪いような複雑な気分がした。 (ナギがあれだけ気を遣ってくれているんだから、こんな時くらいナギを追いかけてあげてもいいのに・・・) かつてのハヤテなら迷わずそうしていた。 しかし今は、ナギと同等に自分に気を遣ってくれている。 それは悪い気がしないが、ナギの心情は労わらなければいけない。それにハヤテを困らせるのは本意ではない。
ヒナギクは駆け足でナギに追い着いた。 しかしナギとは少し間を開けた。 ハヤテも自然、二人の間の空間に体を差し入れ、二人と並ぶことになる。 三人はナギ・ハヤテ・ヒナギクの順番で肩を並べ、談笑しながら教室へと戻って行った。
「想いよ届け 第二部 恋人はアイドルでヒーローで」完
|
|