Re: 想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで |
- 日時: 2014/11/21 22:50
- 名前: どうふん
- かつてハヤテがロイヤルガーデンに迷い込み、その後、アテネと別れた時から、ハヤテが誰かに助けを求めるようなことはなかったような気がします。
本気で落ち込んでいる時も一人で内面に閉じこもっていたシーンが何度もありました。
そんなハヤテが例外的に奇妙な行動をしたのが印象に残っています。 ハヤテが西沢歩に向かい、疲れた顔で愚痴るように「これ以上ヒナギクさんに嫌われるのは・・・・」
いろいろな解釈が可能ですが、ハヤテにとってそれだけヒナギクが特別な存在になっていたということも・・・
第8話:(ちぐはぐな恋人)
「ハヤテ君・・・。ごめんね。」 「え、何でヒナギクさんが謝るんです?」 「ハヤテ君が私から嫌われているって思っていたのは私のせいだと思うの。 あの頃、なんでハヤテ君に怒ってばかりいたのかしら・・・
ハヤテ君のことが気になっていながら自分で自分の気持ちが理解できなくてイライラしていただけよ。 ハヤテ君を怒っていた理由なんて、ホントは『何で私の気持ちに気付いてくれないの』。それだけ。
そんな思いをハヤテ君にさせていたんだ・・・。 気付いていないのは私も同じだったのね」
「ヒナギクさん・・・」 「ホントは私たち、もっとずっと前から両想いだった・・・。そう思ってもいいのかしら」 「はい、ヒナギクさん。きっとそうですよ。僕たちは」 「あ−あ、随分と遠回りしちゃったわね・・・。
でも、良かったわよ。私が一方的に片思いしていたわけじゃないのね。 それなら、私がハヤテ君に負けたことにはならないし」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ハヤテはずっこけた。
ベンチから滑り落ちて尻餅をついただけでなく、座席に後頭部をしたたかにぶつけた。 (勝ち負けの問題じゃないでしょ・・・。どこまで負けず嫌いなんですか)
一方のヒナギクはご機嫌な笑顔を浮かべている・・・ように見えた。 ハヤテの頭に、いつかの旧校舎の風景がフラッシュバックした。 実はヒナギクにしてみれば照れ隠しでもあったのだが、ハヤテにそんなことを読み取る能力はない。
ハヤテはズボンについた埃を払い、今度はヒナギクと少し距離を置いて座った。
「ハヤテ君・・・怒ったの?」顔色を窺うようにヒナギクがハヤテの顔を覗き込む。 「はあ?そんなわけないじゃないですか」 (怒る気にもなれませんよ。呆れてるんです)
「ね、機嫌直して」ヒナギクは甘えるような声を出して、ハヤテに身を擦り寄せた。
「そ、そんなことないですよ、別に機嫌なんか・・・」 瞬時にハヤテは全面降伏した。
ヒナギクはホッとしたような笑顔を浮かべ、心持ち上を向いて、瞳を閉じた。 冒頭のシーン ・・・ 一昨日とは少し状況が違う。 しかし、ハヤテに抗う術がないことには変わりない・・・
甘いひと時の後、ハヤテはちょっと皮肉っぽく言った。 「いいんですか、生徒会長。人がいつ通るかわからないのに」 「いいのよ。ここは学校の中じゃないんだから」 ファーストキスに比べればちょっと慣れたかもしれないが、朱に染まってむくれているようなヒナギクの姿はそれほど変わらない。 「じゃ、こんなことをしてもいいですね」ハヤテはヒナギクを優しく抱きしめた。 「もう・・・仕方ないわね」しかし満更でもなさそうにヒナギクはハヤテの胸に顔を埋めた。 ヒナギクの髪の香りが、ハヤテの鼻腔をくすぐった。
二人はどちらからともなく手をつなぎ、家路へついた。 ハヤテの眼に、隣を歩くヒナギクの笑顔と髪が夕陽に映え、それは眩しい位に煌めいていた。
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別れ際、ヒナギクがポツリと言った。 「ところで・・・、ハヤテ君はキスするときあまり緊張していないわね」 「え、え、やだなー、そんなことないですよ。心臓がバクバクしてますよ」 「なんか、すごく慣れてるような気がするんだけど」 「い、いえ、決してそんな・・・」
心臓バクバクは嘘ではないが、こちらははっきりと否定できない。 ヒナギクは動かない満面の笑みを浮かべながらハヤテの顔をじっと見ている。 ハヤテの顔や背中に流れる冷たい汗が止まらない。 (忘れてた・・・。本当に怖いのはこんな笑顔のヒナギクさんだった)
「・・・ま、これ以上訊くのは野暮みたいね、ハヤテ君。じゃ、また明日」 ヒナギクは笑みを崩さず去って行った。
(うう・・・、やはりヒナギクさんは僕より一枚上手だ)
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