想いよ届けA〜恋人はアイドルでヒーローで |
- 日時: 2014/10/25 21:03
- 名前: どうふん
久し振りに新作を投稿します。
設定としては、前作「想いよ届け〜病篤き君に」の続編となります。 完結させたはずだったのですが、今思えば、前作のヒナギクさんやハヤテに私自身が愛着を持ってしまったようです。 まあ、当面は続編に絞って書くこととしたいと思います。
初投稿となる前作につきましては、表現から投稿の進め方まで色々と反省するところが多くあります。といって、有効な対策もありませんが、推敲には力を入れていきたいと思います。 手厳しいチェック、批判、お待ちしています。
それでは第一話(プロローグ)に入ります。舞台は前作の最終話に遡ります。
<第一話:あの日、あの場所>
某年8月30日夜−、ムラサキノヤカタ
ハヤテの顔がゆっくりと近づいてくる。
ヒナギクは瞳を閉じてハヤテの唇を待った。それはヒナギクにとって、文字通り、夢にまで見たその瞬間。 ハヤテの息遣いを直に感じて、ヒナギクの心臓は破裂しそうなまでに激しく鼓動していた。
ヒナギクの唇に柔らかいものが触れた時、ヒナギクは金縛りにあったかのように体が動かなくなり、頭の中は真っ白に染め上げられていった。
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ハヤテの唇が離れる気配がして、ヒナギクは瞳を開けた。
すぐ間近にハヤテの顔があった。 いつもの優しい笑顔はちょっと照れていて、幸せそうにヒナギクを見つめていた。
ヒナギクの真っ白になっていた頭の中に赤い奔流が流れ込んできた。 ハヤテと目を合わせられない。
ハヤテがクスリと笑う気配がした。 ほとんど反射的に、ヒナギクの負けず嫌いモードが発動した。ハヤテに向かい、とっさに思いついたことを口走った。
「ハヤテ君、私の『初めて』を奪ったんだから責任はとりなさいよ」 ※注、「初めて」→ファーストキスのこと
「はい、喜んで」 ハヤテの腕が伸びてヒナギクを優しく抱き寄せた。
同じ屋根の下での生活も間もなく終わり、明日、ハヤテは三千院家の屋敷に、ヒナギクは自宅へと戻る。 ムラサキノヤカタで過ごす最後の夜、ヒナギクは、先ほどまでの緊張しきった全身から心地よく力が抜けていくのを感じていた。
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ハヤテの腕の中の感触が微妙に変わった。 ヒナギクが重たくなった。
目を閉じたヒナギクの口元から微かな息が聞こえる。 (眠ったんだ、ヒナギクさん・・・。僕の腕の中で安心しきってるんだ。ちょっと緊張しすぎてたのかな) その寝顔は愛らしくて無防備で神々しくさえ見えた。
ハヤテはヒナギクが目を覚まさないように布団を敷いて、そっと寝かせた。
「お休みなさい、ヒナギクさん」 ハヤテはヒナギクにもう一度顔を近づけたが、思いとどまった。 (だめだだめだ。変な気を起こしちゃだめだ。ヒナギクさんが眠っているのに。 それに・・・今キスしたら僕だけの思い出になる。こんな大事なことは二人の思い出にしなきゃ)
ただ、このまま部屋を出ていくのは逆に失礼な気がするところが、ハヤテの性格の厄介なところ。 しばらく考え込んでいたハヤテだが、良心と礼儀の「妥協点」として、ヒナギクの額にそっとキスした。 「今度こそ、お休みなさい、ヒナギクさん。愛してます」
屋根裏部屋に戻ったハヤテは、しばらくヒナギクの余韻に浸ってぼーっとしていた。 つい先ほどのヒナギクの姿がハヤテの脳裏に蘇る。 遠まわしにキスをねだる瞳も、キスを心待ちする顔も、ハヤテの腕の中で眠った姿もヒナギクは可愛すぎた。
しばらくして・・・一つ気になった。 (手馴れてる・・・って思われなかったかな) ヒナギクと比べるまでもなく、ハヤテが過去に交わしたキスの回数は半端ではない。 そうした意味では慣れているが・・・、そのほとんどは受け身のものである。 (まあ、そんなことはないだろう。僕だって回数は多くても、リードしてキスしたなんて初めてなんだし)
そんな不合理で不遜なことをハヤテは考えていたが、ふと立ち上がって窓辺に立った。 開け放した窓から降るような星空が広がっていた。 (この星空を、お嬢様とマリアさんも見ているんだろうか。明日会えるんだな・・・)
それは、ヒナギクとのちょっとしたお別れを意味していたが、同時に、懐かしい家族との再会でもあった。
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