Re: 三千院紫子の世界事情 |
- 日時: 2014/10/16 22:23
- 名前: ネームレス
- 三千院紫子の世界事情〈表〉
「ゆ、ゆっきゅん?」
そして悲しむ暇もなく本人(二人目)の登場。
「…………や、やっほーシンちゃん」
「お、おう?」
悲しむ暇もなく事情説明。
「ということなの」
「抽象的過ぎてだな」
「だったのさ!」
「な、なんだってー! てなるか!」
「く、私はもうダメ……さあシンちゃん!」
「俺にどうしろと? というか今、なんの話だよ」
「うゔぉあーーーーーー!」
「説明しろーーーーーー!」
「なんです」
「こ、ここまで辿り着くのにとても疲れたぜ……」
なんとか説明し切った。 同時に、シンちゃんが消えた時のことも思い出して、とても悲しくなった。
「ゆっきゅん」
「どうしたの?」
「おらっ!」
「あうっ!」
デコピンをおでこにくらう。
「っ〜〜〜〜!」
「死んだ罰だ」
「ご、ごめん」
私が自殺したことに怒っているのだろう。 でも、その時はその時の事情があるわけで。
「はぁ」
「うっ」
「ったく。お前は」
叩かれるかと思って、思わず目をつぶって身を竦ませる。
「頑張り過ぎ」
ぽん、と頭に手を置かれる。
「シン……ちゃん」
「……さ、ゆっきゅん。俺とお前の娘を救おうぜ」
「……うん!」
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「本当に良かったのか?」
「なにが?」
「いや。娘の執事が、だよ。あんな不幸な奴に任せていいのか?」
「大丈夫だよ」
私は確信を持って言った。 でも、シンちゃんはよくわかってないみたいだ。
「だって、あの子シンちゃんにそっくりだもの」
「はぁ? あいつと俺が?」
「うん。ビビビッてきたんだよね!」
「……まあ、ゆっきゅんが選んだなら大丈夫か」
そして、私の選んだ子、綾崎ハヤテくんは見事にナギを救い出した。 すぐに未来に帰っちゃったけど、でも数年後の未来では運命、英語で言うとデスティニーに導かれて出会うだろう。
「……そういえば」
「うん?」
「結局、ドリーって誰だったのかしら」
「ドリー?」
「うん」
シンちゃんの死後、最後に残した言葉は「ありがとう。ドリー……愛してる」だった。 でもシンちゃんはここにいる。 つまり……あの言葉は
「俺と入れ替わっちまった奴か」
「大変だったのよー。ナギったら父は浮気したー、て聞かなかったんだから。帝お父様も大激怒」
「うげっ」
久しぶりの夫婦水入らずの会話はとても楽しく、長年の謎も解けていってスッキリした気分だった。
「ねえシンちゃん」
「なんだゆっきゅん」
「やり残したことはある?」
「……そうだな」
シンちゃんは少し考え込み、口を開く。
「指輪」
「え?」
「指輪。まだ取り返せてないんだ。だから、もしまた俺が表に出れたら、指輪を探すために奔走するだろうな」
「ほん……そう?」
ほうれん草のこと?
「……」
なぜか頭を撫でられた。 ま、気持ちいいからいいか。 今しばらく、この黒椿の中で娘の成長を見守っていきたい。
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下田での出来事だった。 ナギが宇宙に連れ去られてしまった。
「どうしようどうしようどうしよう!」
「落ち着けって」
「ああ、昔感極まってナギが書いてくれた宇宙船を創っちゃったから」
「何気に凄いことしてるよなお前」
ナギが助かってから二年後。 私は事故で呆気なく死んだ。 黒椿の中から見ても「え? 私病死じゃないの?」と思ってしまうくらいに。 シンちゃんは「一周目の俺が愛した女なんだから、二週目でも三週目でも俺はお前を愛してるぜ」なんて言ってくれたけど、このシンちゃんと本当の意味で愛し合ったのは事故で死んでしまった二週目の私だった。 いろいろと頭の中の整理がつかない状態でもシンちゃんに支えられながらその後の様子を見続けて、ナギが私のために宇宙船を描いてくれたものだから、喜んでたらいつの間にか創りあげてしまったのだ。 そして、現在その宇宙船はナギを乗せて宇宙にいた。
「え、えっと」
「大丈夫だゆっきゅん」
「だ、大丈夫って」
「お前と、俺たちの娘が選んだ執事だろ? 大丈夫だ。__呼べばきっと来る。宇宙だろうが銀河だろうが過去だろうが未来だろうが関係ない。だろ?」
「……そう、だね」
なら、呼ぼう。 過去に来てくれた彼なら、きっとどこにだって行ってくれる。 宇宙にだって__
「あれ? ここはどこだ?」
__呼べば本当にどんな所にでも、来てくれるのね。
「へ?」
__あの子はわがままで自分勝手で、そのくせ寂しがり屋で泣き虫だけど……
__私はもう、あの子を見守る事しかできないから……
「ナギの事、よろしくお願いね」
「伝えたいことは伝えれたか」
「ええ。もう大丈夫」
「そうか」
黒椿の中で私たちが出来ることは少ない。
「だからあとは、願いましょ」
せめて、あの子が幸せになれるように。
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案の定、シンちゃんとハヤテくんが入れ替わってシンちゃんは指輪を取り返すために暴走する始末。 とにかく、ハヤテくんに正体がバレるとあれなので可愛いタヌキになることに!
「パンダ?」
ゆっきゅんの怒りパラメータが有頂天に達した。
「そんなのはどうでもいいよ」 「それより娘がピンチなんだ。ここ出たらまた助けてあげてくれよな」 「じゃあ後はよろしく」
「女を待たせてるんだ」
ハヤテくんは元の体へと戻って行ってしまう。 私も“可愛いタヌキ”から元に戻り、
「で、シンちゃんは伝えたいことは伝えれた?」
と、問う。
「……そうだな」
シンちゃんは少し悩んで、すぐに答える。
「その答えは、最後の一仕事終えてからだな」
あの時と同じコーディネートで、あの時と同じ舞台にシンちゃんは立つ。 黒椿の針は、8の上で重なった。
「最高のステージだったぜ!」
私がそう言うと、シンちゃんは少し照れ臭そうに……いや、凄く恥ずかしそうにしながらも堂々と、言う。
「待たせたな」
それが、私の問いへの答えだった。 私でもわかるような答えに嬉しくなり、私達は抱き合う。 私達の役目はこれで終わり。 ナギは幸せになる。今なら、そう確信できる。
「いくか」
「そうね」
満面の笑みで、答えた。
「最後に一騒動起こしてからね!」
「なにぃ!?」
娘の恋路を応援してこその親。 少しだけ大きな課題を与え、その結果に満足しつつ私達は消えるのだった。
__ナギ。たとえあの世からでも、私達はあなたのことを見守っているからね。
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