素直におめでとうと言いたいby作者 |
- 日時: 2014/09/24 19:40
- 名前: ネームレス
- 「伊澄。少しいいか」
「どうしましたナギ」 「今日、なにも無いならうちに来い」 「なぜ?」 「いや、なぜってそれは」 「お嬢様。みなさんで秘密にしようって言ったじゃないですか。伊澄さん。こんにちは」 「こんにちはハヤテ様」 「む……それはそうだが」 「? とにかく、そちらに行けばよろしいのですか」 「はい」 「わかりました。お伺いします」
そしてその日、鷺ノ宮伊澄にとって忘れられない一日となる。
「お仕事ですか?」 「はい。お願いできますか」 伊澄は少し考える。 その日、伊澄はナギに呼ばれていた。しかし、都合の悪いことに緊急の依頼が入ってきたのだ。 普段はマイペースでスローペース。天然が入っていて最近忘れがちになる人もいるだろうが基本ハイスペック。ただの超絶可愛い和服美少女だ。 だが、その裏の顔は街の平和を守るゴーストスナイパー。光の巫女として裏の仕事を受け持つ者__鷺ノ宮伊澄なのだ。 伊澄は頭の中で少し考える。 ナギにお呼ばれはしたが、時間は指定されていない。それに今回来たのは緊急の依頼。優先度は高い。 少し逡巡し、 「わかりました。お受けいたします」 (ごめんなさいナギ。ハヤテ様。少し遅れます) 依頼を優先するのだった。 「では。依頼料と地図もしくは案内人をお願いします」
「ここですね」 そこは古い別荘だった。 辺りは荒れ、見える窓は割れている。建物自体も風化しているのか、今にも壊れてしまいそうだ。 「お嬢様。本当にお一人で?」 「はい。建物の中だとある程度広くないと多人数はかえって危険です。話を聞く限り、なかなか強い力を持っているらしいので」 と言って、伊澄は敷地内を歩く。 家の者は心配そうにそれを見送っていた。 (あそこ(ムラサキノヤカタ)ほどではありませんが、ここも霊的力が強い。そのせいで活性化したのでしょうか) ひしひしと感じる嫌な予感。 こんな時、不幸が友達とも言えるあの執事か、木刀政宗に白桜を使いこなす生徒会長でもいれば、とつい考えてしまうのはしょうがないことだろう。 いや、せめて道案内の達人である親友がいればよかったのだが……。 そうこうしてるうちに入り口へとつく。 「っ!」 扉に手を付けると、力を加えずとも崩れ去ってしまう。 いきなりのことに少し驚いてしまう。 しかし、すぐに真面目モードの顔(一部の人間にしか見分けがつかない)となり、先へと進む。
「少し、時間がかかりそうですね」 別荘内は広く、部屋の数も地味に多い。 伊澄ほどの者にもなれば見逃すことは無い。しかし、見落としがある可能性は否めない。 全ての部屋を確認するも、肝心の幽霊は見当たらない。時間だけが虚しく過ぎていく。 (少し急がないと) 直後。 「え」
足場が崩れた。
「……ここは」 目の前に広がるのは広大な空間。 (こんな場所があったなんて……) そこにはいろいろな本やケースが置かれてあった。 上はもはや廃墟と言っても過言ではないのに、この空間だけが妙に綺麗なままである。 「反応が強い。これは当たりですね」 そして辺りを見回すと、楽しげなリズムが聞こえる。
こころぴょんぴょん待ち? 考えるふりしてもうちょっと
(これは……音楽?) 音楽と一緒に男の声も響いて来た。
「心ぴょんぴょんするぜええええええええええ!!!^^」
「……」 さすがの伊澄も一瞬、関わりたくないと思ってしまったが、仕事ゆえ声を掛けることにした。 「あの」 「心ぴょんぴょん心ぴょんぴょんチノちゃんはぁ、はぁ……ん? あんた誰だ」 「あ、えと、通りすがりのゴーストスナイパーです」 「ふむ。年は」 「え、えっと、13」 「なるほどなるほど。済まないがパンツを見せてくれないか」 清々しいほどに真面目にゲスな要求をする男。 よく見れば、周りの本やケースも幼女がメインで登場する漫画やノベル、DVDであった。 特にお気に入りなのか、物語シリーズは一際目だつところに奉られている。 「一つ尋ねても?」 「む、見せてはくれないか。まあいいだろう。紳士たる者YESロリータNOタッチの精神で全てのロリに永遠の愛を捧げなければならない。答えてやろう」 「ここ最近悪さをしている悪霊とはあなたですか?」 「悪さを?」 「はい。誰もいないはずの廃墟から萌え系アニメのOPとEDがずっと聞こえると」 「ふむ……それが悪いことであるのなら、それは俺だ」 「そうですか……」 悪い霊には見えない。 しかし、伊澄は仕事と割り切り、さらに問う。 「成仏する気はありますか」 「無い」 「なぜ」 「俺を待っている幼女がまだまだいるからだ。その子たちに会うまで、俺は消えれない」 そんな幼女は一人もいないのだが、男はキメ顔でそう言った。 「そうですか。ここは霊的力が強く残る地です。通常の霊がここに長居すると自我を失い暴走する可能性があります」 「ほう……和服幼女よ。俺を倒すか」 伊澄は袖から無言でお札を取り出す。 「ふっ。和服幼女に霊能力属性の追加か。大好物だ!」 男は腕に力を溜め、伊澄は警戒する。 「今からお前に乱暴をしてやろう。エロ同人みたいに!!!」 開かれら手からは不可視の糸が放たれた__!
「ハヤテー。伊澄遅くないか?」 「そうですね。迎えに行きましょうか?」 「うーむ。伊澄の迷子にハヤテの不幸を掛け合わせて最凶に見えるな。ここは……」 「ナギー。こっち終わったわよ」 「ヒナギク。ちょっと伊澄を探して来てくれ」 「鷺ノ宮さんを? どうして私なの」 「お前は凄く運がいいだろ? そのラッキーガールっぷりをフルに使えば迷子の伊澄にもすぐに辿り着くだろうし」 「ナギ。私これでも普通の一般人よ? 鷺ノ宮さんの迷子を見つけるなんてできるわけがないでしょ」 「ハヤテ。次あそこだ」 「はい。了解しました」 「聞いてるのかしら二人とも」 「ヒナ」 「え、あ、アリス。どうしたの」 「白桜を使えば人を簡単に探せますわよ」 「……え」 「頭の中でイメージすれば白桜が勝手に飛んでくれますわ。慣れると細かい場所指定まで。今のヒナでは普通は無理でしょうが、鷺ノ宮の家系であるなら力を辿って辿り着けるでしょう」 「……それってどうかしなくても空を飛ぶわよね」 「ハヤテについて行ってもらえばいいでしょう」 「いやいやいや! 怖いし恥ずか」 「そうやって言い訳並べて好きな人にアタックするチャンスを自ら逃すからいつまで経ってもハヤテに怖がられんですよ」 「っ!」 「怖いならそこでダンゴムシのように丸まってなさい。生徒会長(笑)が使い物にならないならきっと優しい執事さんが解決してくれるでしょうから」 「……もう一回、言ってみなさいよ」 「あらあらもう一回言われたいんですか? それともそんなお粗末な頭では理解出来ないのでしょうか。まあダンゴムシになにを言っても無駄だと思いますがもう一度言ってあげましょう。そこで惨めに丸まっていればいいと言ったんです」 「ぬあああーー! いいじゃない! やってやるわよ! 私は白皇学院生徒会長桂ヒナギク! そこまで言われて黙っていられるほど、私は大人しくない! ハヤテくーん!」 「……全く。世話の焼ける保護者ですわね」
「ほう。やるようだな。この俺の捕まればたちまち体に巻きつき服の上からでもボディラインを強調する扇情糸を防ぐとは」 効果も名称もあれだが、伊澄は警戒なく構える。 伊澄が張る結界は霊的なダメージならたいていの攻撃は防ぐことができる。 「ふっ、ならばこれをくらえ! ちょっとだけ気分が高揚しエロい気分になる白濁液!」 「っ」 液は伊澄の結界に当たると辺りに飛び散る。 「それは触れただけで軽くエロい気持ちになる。動けるものなら動いてみろ!」 「いえ。動かなくとも終わります」 「む」 伊澄は札を宙に浮かし、並べた。 すると、そこから雷光が溢れる。 「いや、ちょっと洒落にならんぜ幼女……!」 「約束があります。早めに終わらせます。術式八葉、建御雷神(タケミカヅチ)!!!」 轟音とともに光が空間を埋め尽くした。
「怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない」 「あのー、ヒナギクさん。僕はいつまで捕まってれば?」 「鷺ノ宮さんの場所に着くまでよ! 今集中してるから気をそらさないで!」 「は、はぃぃ……」 「うぅ……いつになったら着くのよ……」
……ォォン
「ん? 爆発音」 「怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない」 「ヒナギクさん。爆発音が」 「なに! って、爆発音? こんなところで?」 キィイイイイイン 「え、なんで白桜が反応してええええええええええ!!?」 「うわあああああ!!!」
「……倒しましたか?」 着弾した場所では、今にも消えそうな状態の男がいる。 しかし、通常の霊なら一撃で倒すことのできる一撃を受けてなお、そこに存在している。恐るべき耐久力だ。 「最後に除霊しておしまいですね」 一枚の札を手に、近づく。 不意に、男の声が聞こえた。 「……だった」 「……?」 「誕生日、だった。俺は死んだ。なにも覚えていない。ただアニメが好きなことだけ覚えていた。そうだ。消えれない。まだやり残した事がある。消えてたまるか消えてたまるか消えてたまるか消えてたまるか消えてたまるか消えてたまるかキエテタマルカキエテタマルカキエテタマルカ」 「っ!? 撃破滅きゃ」 「ァアアアアア!!!」 男の体中から扇情糸が噴出し、伊澄の和服をはだけさせ胸を強調かつ動けないように拘束していく。 「幼女の裸、拝ませてもらうぜええええええ!」 その手が伊澄へと到達する__直前。 その前を、高速で何かが通り過ぎた。 「にゃああああああああああああああああああ!!!!」 「わあああああああああああああああああああ!!!!」 「なにぃ!?」 「っ!」 何かが通り過ぎた影響で、伊澄を拘束していた糸は切れ、男の腕も切断されていた。 伊澄は即座に札を並べる。 「建御雷神(タケミカヅチ)!」 「ぐあああああああああぁぁぁぁ…………」 その一撃を受け、男は透けるように消えて行った。 男が消えた後には、何かが残っていた。 「いてて……大丈夫ですかヒナギクさん」 「う、うん……ここは」 煙の中より飛来した何かが立ち上がる。伊澄はその姿には当然見覚えがあった。 「ハヤテ様。生徒会長さん」 「あ、伊澄さん!」 「さ、鷺ノ宮さん? 本当にいた……」 「あの、えっと、どうしてここに」 「えーっと……」 ハヤテは少しだけ困ったようにして、すぐに言った。 「お嬢様が待っています。行きましょう、伊澄さん」
「では、僕が合図するまで待っていてください」 「はい」 「絶対動かないでくださいね? 一歩もですよ?」 「はい」 「では」 ムラサキノヤカタ。 伊澄はハヤテに言われ、扉の前で待機している状態だ。 (なんなのでしょう。ナギにハヤテ様、他にも皆さんが関わること……) 考えるが答えは出ない。 やることもなく、少し動こうかとも思ったがハヤテに言われたことを守りじっと待つ。 そして、 「伊澄さん。どうぞ」 「はい。失礼します」 合図を受け、部屋に入った。 パン、パンパン 小さな破裂音とともに、糸のようなものや紙のようなが飛び散る。 「? ? ?」 『誕生日、おめでとう!』 「……あ」 部屋の奥。カレンダーには今日の日付である九月二十四日が赤ペンで丸され、その下には「伊澄の誕生日」と書かれていた。
テーブルの上には所狭しと執事とメイドが腕によりをかけた料理が並ぶ。伊澄は上座に案内され、前のほうでは一発ギャグを行う勇者もいる。 伊澄は料理をちびちび食べながらそれを眺めていた。 「嬉しくないか?」 「神父さん」 その横にここに住み着いている霊、神父が浮かび出る。 「さっきから無表情のようだからな」 「そういうわけでは」 「まあ無表情なのは生まれつきだろうがな」 「……」 「あ、こら、成仏させるな!」 少しして、 「それで、どうなんだ」(ボロッ) 「そうですね」 伊澄はもう一度目の前の光景を見る。 ハヤテが女装させられ、ナギが無茶ぶりし、ヒナギクが苦笑しながら止め、マリアはそれを大人の貫禄で見守り、歩はハヤテに着せられている私服を見て赤くなり、カユラと千桜は外野で巻き込まれない位置であれこれ言い、アリスは我関せずで食事を続け、部屋にはルカのCDが流れ、クラウスは亡霊のように佇んでいる。 「……不思議な感じです」 「不思議?」 「あったかい、でしょうか」 体の芯をじんわりと温めるような、どこか優しい熱。 「私も時々パーティーを開いたり、お呼ばれする時があるのですが、ここのパーティーは今までで一番……温かいです」 「……なんだ。笑えるじゃないか」 「……あ」 口元に触れると、少しだけ口角が上がっていることに気づく。 「……そうですね」 「行ってくるといい。同じことは幾らでも出来るが、今何かをやることは、今にしかできない」 「伊澄ー! お前もこっちに来い! 酒の一気飲み勝負だ!」 「ダメですよお嬢様!」 「勝った奴はハヤテに介抱される」 「わ、私もやる!」 「私も!」 「ヒナギクさん!? 西沢さん!?」 「お言葉に甘えて行ってきます。これを預かっててください」 「? これは……」 伊澄はそれを神父に渡すと、みんなの元へと行った。 神父は渡されたそれには、「ハッピーバースデー ウィズ ーーーー」と書かれていた。名前のところはかすれて読めない。 あの少年には少年の物語がある。伊澄には、他の人間にはそれに関わることはできない。 終わらないままに終わることもある。今回のように、少年が巻き込まれた事件もわからず。 それでもきっと、人々というのは成長していく中でそれを受け入れていけるようになる。 まあ何が言いたいかってあれだ。 伊澄、誕生日おめでとう。
「伊澄さん!? 顔真っ赤ですが大丈夫ですか!?」 「(ぐびぐびぐびぐび)」 「意識あるか? おい、伊澄。伊澄ー!」 「……なにをやってるんだ君らは」 __________ 素直におめでとうと言えるような小説書きたいぜ! ネームレスです! なんで回りくどい言い回ししかできないのか。普通に「おめでとう」と言えばいいじゃないか。 まあでも、こんな書き方が俺クオリティってことで一つ。 さて、小説の方で回りくどくなるから素直さは外でやるか。 伊澄! 誕生日おめでとう!
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