Re: 想いよ届け 〜病篤き君に |
- 日時: 2014/08/21 23:58
- 名前: どうふん
- ところでアリスが天王洲理事長であることに気づいているのは何人くらいいるんでしょうね。
私の知る限りではハヤテと伊澄さんくらいですが。 しかしアリスの母親のはずでありながらヒナと呼ばれているヒナギクさんも知っているんじゃないかと思います。 前回のヒナギクさんのセリフはその設定によるものです。
<第10話>
ヒナギクにとって、ハヤテが少し頼もしく見えた翌日、ヒナギクは退院した。 ヒナギクのお義母さんは一足先に帰ったが、これは気を利かせてのことだろう。
駅に向かって軽やかに歩くヒナギクのすぐ後を、ほとんど全ての荷物を抱えたハヤテが続く。
電車は空いていた。 「ヒナギクさん、こちらへどうぞ」恋人というより姫と騎士の様な二人だが、 座席の方は恋人らしく、二人掛けのシートに並んで座った。
2週間ほど前、海に来るときは大勢で騒ぎながら電車に乗っていた。 今は二人で、景色を眺めたり、会話をして過ごしている。 二人ともそれほどお喋りのほうではないため、ややもすると会話は止み、景色を眺めることになる。そして何か変わったものが見つかると思い出したように会話が始まる。
しかし、それが二人にとって心地よい空間であった。 かつて・・・二人が恋人同士になる前は、沈黙が怖かった。 何か話さないと、とプレッシャーに追われていた。 今は違う。会話が途切れても、傍に恋人がいてくれる、というだけで安心できた。
電車がカーブで揺れて、その拍子にヒナギクがハヤテに寄りかかった。 電車の揺れはすぐ戻ったが、ヒナギクはハヤテから離れようとはしない。 頬を朱く染め、ちょっと俯きながらハヤテに体を預けている。
そんなヒナギクが堪らなく可愛い。 ハヤテはヒナギクの髪に手を伸ばした。ヒナギクの髪は昨日と変わることなくさらさらとハヤテの手から零れ落ちていく。 二人はやや遠慮がちにお互いを感じ、至福の時間を過ごしていた。
しかし・・・、ふとハヤテは気がかりなことが一つ残っていることを思い出した。 何度も電話やメールをナギに送ったものの連絡がつかなかった。 仕方なくマリアに電話したのだが、特に変わったことはないようで、帰りの電車の到着時刻を聞かれただけだった。
「どうしたんだろう・・・」マリアによると、ナギとマリアは荷物をアパートに残したまま、身の回りのものだけ持ってお屋敷に戻っているらしい。 しかし、ナギが電話にも出てこないのはなぜだろう。 「あまり長いこと屋敷に戻らなかったからお嬢様が機嫌を悪くしているのかな?」ハヤテに考えられるのはそのくらいだった。 マリアに聞いてもはぐらかされるばかりだし、お嬢様に会って話をするしかない。ずっとほったらかしになってしまったことについては謝ろう。そう思った。 それに・・・お嬢様には心からお礼を言いたいことがあった。
二人が電車から降りると、三千院家のSPたちが駅に出迎えに来ていた。 「お待ちしておりました。リムジンをご用意しておりますのでお二人を三千院家までお送りします。」 「あ、いや、別に待たせるつもりなんて・・・。それに僕もヒナギクさんもまず荷物をアパートに置かないと」 「いえ、お嬢様がお待ちかねですので、すぐお越し下さい。 せめてこのくらいはさせて下さい」 「はあ・・・。(確かにこの人たち役に立ったことがないしな・・・。それに早くお嬢様には会わないと。)宜しいですか、ヒナギクさん」 「仕方ないわね。まあ良いわ。ナギにも会って話をしなきゃいけないし」 「あ、ヒナギクさんも何か御用が?」 「・・・何がって。ハヤテ君、私たちのことナギにも連絡したんでしょ」 「はあ、実は、全然連絡が取れなくて・・・。それにお嬢様には報告だけすればいいと思いまして・・・」 ということは・・・。
アリスや歩そしてルカにまで連絡しておきながら、ナギを忘れているとは。 いや、忘れていたわけではなさそうだ。連絡はしたようだし。
しかしお見受けしたところハヤテ君は御主人様の想いさえ気づいていなかったのか・・・。鈍感もここまで来ると驚異的だわ。
それにしても、ナギが愛するハヤテの電話に出ないのは只事じゃない。何かが起こっているに違いない。 「ヒナギクさん、どうかしたんですか?」 「い、いや、何でもないわ・・・」
このままSPに拉致され機関銃の一斉掃射でも受けるんじゃないだろうか・・・。 猛烈な悪い予感に襲われるヒナギクだった
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