Re: 想いよ届け 〜病篤き君に |
- 日時: 2014/08/16 20:45
- 名前: どうふん
- 無意識と無自覚による点が多いとはいえ、ハヤテからさんざんな仕打ちを受けてきたヒナギクさんが、とうとうハヤテとの別れを決心しました。
それは一晩泣き明かす程の悲しみと引き換えですが。 それでいいのか、ハヤテ。 早く気づきなさい。今置かれている状況の深刻さに。
<第8話>
ヒナギクの病室から出たハヤテは一人悩んでいた。 「僕はどうしてこんなダメな奴なんだろう・・・。」 (僕はヒナギクさんが好きなんだろうか。) − 好きなのは間違いない。 (愛しているんだろうか) − わからない。昨日からあれだけ悩んで、まだわからない (気持の整理はおいといて、とりあえずヒナギクさんの看病をしようとしたのはまちがっているだろうか) − 間違っちゃいない・・・と思う。だけどヒナギクさんにとっては迷惑なんだろうか。 (ヒナギクさんに「愛しているから看病したい」と言えば問題は解決するだろうか) − ヒナギクさんにそんな嘘はつけない。いや嘘じゃないかもしれないが、わからない
(そうだ、あの伊澄さんが持っていた鏡で僕の心を見れば) 閃いた、というにはお粗末な話であったが、藁をもつかもうとするハヤテには天啓のような気がした。 ハヤテは伊澄を探そうとしたが、やめた。日本のどこにいるかわかったもんじゃない。千桜さんなら・・・。急いで千桜の携帯に電話を入れた。 「ああ、綾崎君、どうした。」 「実は・・・(カクカクシカジカ)。で、伊澄さんがどこにいるか知っていないかと」 「それでいいのか?ハヤテ君。」 「へ?」 「まだわからないのか。そんなものに頼らなきゃ自分の気持ちすらわからないのか?大事なのは綾崎君がどうしたいか、だろう。逃げてばかりいないで、自分で問題に向き合ってみろ。」電話が切れた。
千桜は宿泊しているホテルの部屋で、目の前にちょこなんと座っている伊澄に向かってぼやいていた。 「どこまで世話がやけるんだ、あの鈍感執事は」
ハヤテは一睡もできないまま、朝を迎えた。 「帰る、しかない」ハヤテの出した結論はそれだった。 「いつまでもお嬢様を放っておけない。何度電話してもつながらないし。一旦帰って、その後でもう一度、ヒナギクさんの見舞いに来よう。その時までに僕の気持ちを整理しよう」 ハヤテはホテルを出て、駅に向かって歩き出した。その足取りは途轍もなく重かった。 その悄然とした後ろ姿を千桜は呼び止めようとしたのだが、隣に立っていたイクサは千桜の肩を押さえ、静かに首を振った。
駅のプラットフォームに立つハヤテの前に、東京へと帰る電車が滑り込んできた。 扉が開く。乗り込もうとして、後ろ髪を引かれるように振り向いた。 見えはしないが、その方向にヒナギクの入院している病院がある。
一歩前に出れば列車に乗れる。しかし、ハヤテの足は動かない。 その頭の中をヒナギクとの思い出が走馬灯のように駆け巡っていた。
−初めて見たとき高い木がら降りられず震えていたヒナギクさん −生徒会長で天才で、誰よりも優しくて正義の味方だったヒナギクさん −そうかと思えば乙女チックでちょっとした勘違いで落ち込んだりするヒナギクさん −遊園地で「ハヤテ君と一緒だから楽しい」と言ってくれたヒナギクさん −そして、そして、こんな僕のことを好きになってくれたヒナギクさん −いつも僕を助けてくれたヒナギクさん
そして昨日ヒナギクが言ったこと。 「ハヤテ君は私を愛しているから、お世話してくれるの?・・・違うでしょ」 「ただの友達に十分すぎるくらいの0お世話をしてくれたわ」 「気を付けて帰るのよ」
−僕にとってヒナギクさんは「ただの友達」・・・? −僕はなぜヒナギクさんのお世話をしているんだろう? −ヒナギクさんはなぜ僕に帰りなさいって言ったんだろう? −何で・・・何で僕はこんなに苦しいんだろう?
(ヒナギクさんは僕に別れを告げたんだ。そういう意味だったんだ。 今帰ったら、今度こそヒナギクさんの心は戻らない。嫌だ。それだけは絶対に嫌だ)
電車は走り去っていった。 そしてハヤテは改札を駆け抜けて、病院へ向かって走っていた。
(何でこんなことに気付かなかったんだ。 僕はヒナギクさんを愛しているんだ。やっとわかったよ。愛しているとも。 今さら遅いかもしれないけど、それだけは伝えるんだ)
全力で荷物を抱えたまま走り続けるハヤテの目に病院が見えてきた。 ハヤテはそのまま病院の敷地へと駆け込んだ。
さすがに息が切れた。
荷物は放り出した。
病棟のエントランスを走り抜けた。窓口の警備員が何か叫んでいる。
ヒナギクさんの部屋は7階だ。一気に階段を7階分駆け上がった。いやここは8階だ。 向きを変えようとした足がもつれて踊り場まで転がり落ちた。 体のあちこちを強く打った。膝が痺れて感覚がない。額からは血が流れていた。 こんな痛みが何だ。ヒナギクさんに比べれば。
よろめきながら、残り半分の階段を下りて廊下に出た。 3つ先のあの部屋にヒナギクさんはいる・・・はずだ。 「ヒナギクさん!」叫んだつもりだが喉はかすれて声にならない。 壁を伝わりながらヒナギクさんの部屋へ近づいていく。
この部屋だ。 いた、ヒナギクさん。呆気にとられた顔をしてこちらを見ている。 僕はもう一度、ヒナギクさんの名前を呼んだ。少し息が戻ってきた。今度ははっきりと声が出せた。
今なら聞こえるはずだ。言うんだ、ハヤテ。 「ヒナギクさん。愛してます!」 ヒナギクさんは動かない。 届いただろうか、僕の想いは。ヒナギクさんの心に。
ヒナギクさんの目に涙が溢れだすのが見えた。
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