Re: 想いよ届け 〜病篤き君に |
- 日時: 2014/08/14 22:00
- 名前: どうふん
- 書いてみるとなかなか難しいものですね。
頭で考えているのとは全然違い、話が進まないで、第7話に入ることになりました。 こんなだらだらした駄文にお付き合い頂いている方には感謝・感謝です。
ハヤテもヒナギクさんも、このままではいけない、と思っています。しかし、お互いの理解は進まず、すれ違ったまま全く別の方向に行きそうな・・・
<第7話>
翌日。 病室でハヤテはヒナギクの看護をしていた。といって看護士でもないハヤテにできることなど知れており、横に座っているだけの時間が長い。 昨日、銅鏡のやりとりのあとでもあり、気まずさは拭えない。 「あ、あのヒナギクさん。喉が渇きませんか」 「ええ、大丈夫よ」ヒナギクはずっと後ろをむいたまま、ハヤテの顔を見ない。 昨日と何も変わらない。いや変わらないわけではない。ヒナギクは昨日よりまた一段とやつれているような気がした。
何とか雰囲気を変えなきゃ・・・ 「・・・ヒナギクさん、外の空気を吸いませんか。」 「え、でも私は起き上がれないし」 「車いすを借りられます」 これにはヒナギクの心も少し動いたように見えた。ハヤテは消極的、いや遠慮がちなヒナギクを強引にお姫様抱っこで車いすに乗せて海辺へと連れ出した。
「忘れていたわ。外ってホント気持ちいいのね。」こんな弾んだ声を聞くのは久しぶりだな、とハヤテは思う。 「暑くないですか。ヒナギクさん。日傘、開きましょうか」 「そのままでいいわ。日光浴なんて久しぶりだもの」 「そうですか」 その後の会話が続かない。せっかくヒナギクさんが楽しそうにしてるのに何を言えばいいんだろう。
先に口を開いたのはヒナギクだった。 「ハヤテ君。どうしてこんなに私に優しくしてくれるの。」 「ヒナギクさんの具合が悪くなったのは僕のせいですから。早くヒナギクさんに元気になってほしいんです」 「そう」ヒナギクは押し黙った。 その表情を見て、ハヤテはまた落ち込んでいた。 (僕はまたつまらないことを言ってしまったんだろうか) ヒナギクの不機嫌の理由がわからない鈍感執事は、黙って車いすを押している。
しばらくしてヒナギクが再び口を開いた。 「ハヤテ君、あのね。あなたが優しいことは良く分かっているし、熱心に看病してくれたことには感謝してるわ。だからもう良いわ。あなたは帰るべきところへ帰りなさい。」 「嫌です。ヒナギクさんが元気になるまでは僕は帰りません。」 「私はあなたのお荷物にはなりたくないの」 「お荷物・・・なんて・・・。僕はいつだってヒナギクさんに迷惑掛けて、助けてもらって、傷つけて・・・。せめてものお返しなのに。そんな、あんまりじゃないですか」 「それは私が勝手にやってきたことよ。ハヤテ君がお返しとか優しさでやっていることとは全然違うんだから」 「それは、それは」 言葉が出ないハヤテを、ヒナギクは寂しそうに見つめた。 正視できずハヤテは俯いた。
「ハヤテ君は私を愛しているから、お世話してくれるの?・・・違うでしょ。ハヤテ君はただの友達に十分すぎるくらいのお世話をしてくれたわ。これ以上お友達に甘えるわけにいかない。あとは私が自分の力で元気にならなくちゃ。今までありがとうハヤテ君」 違うんだ。違うんです。ハヤテは叫びたかったが、しかしどう違うのだろう。 わからない。
「ね、帰りましょ」 結局、ハヤテはそれ以上何も言えず、病院へと戻った。 「じゃあね、ハヤテ君。色々とありがとう。本当に感謝しているんだから、気にしないでね。私も一足遅れて帰るから、みんなによろしく。気を付けて帰るのよ」 ヒナギクの弱弱しい笑顔をうつろな目で眺めて、ハヤテは病室を出た。
ハヤテを見送ったヒナギクは、ベッドの上で繰り返し自分に言い聞かせていた。 「これで良かったのよね、これで・・・。
私は自分で気持ちを伝えることもできなかった。 ハヤテ君は私の気持ちを知っても応えてくれなかった。
さよなら、ハヤテ君。 さよなら、私の初恋。
私は完璧超人とも呼ばれる白皇学園生徒会長 桂ヒナギク。 何が相手でも絶対に負けたりはしないんだから。病気にも、悪霊にだって。
あ、ハヤテ君には負けたのかな・・・。
でも失恋なんかに負けるもんですか。 そうよ、こんなことで凹んでなんていられないわ。 負けるなヒナギク、頑張れヒナギク・・」
抱き締めたその枕はぐっしょりと濡れていた。
|
|