Re: 想いよ届け 〜病篤き君に |
- 日時: 2014/08/11 21:25
- 名前: どうふん
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ハヤテは自分の気持ちに未だ整理がつかず、考えがまとまらず、ただ悩んだまま一向に前へ進めないでいます。 一方で、ハヤテの周囲にとっても時間は同じだけ過ぎているわけで、本作とは異なり、ナギは宝玉を手に入れ、遺産の正当な継承者となりました。 ハヤテをヒナギクさんの元に置いて帰ることとなったナギの動向を第6話とさせていただきます。
<第6話>
ナギとマリアが海から一度アパートに帰った後、かつて住んでいた屋敷に戻ったのは伊澄が病室に戻ってきたのとほぼ同じ頃であった。 アパートにつけられたリムジンに乗って屋敷までやってきた二人は、あのとてつもなく大きな門の前で降りた。
クラウスが大仰に両手を広げて二人を迎えた。 「おお、お待ちしておりました。お嬢様、マリア様。お二人が早くこのお屋敷に戻ってこられるよう、このクラウス日夜、帝様に申し上げておりました。願い叶ってこれほど嬉しいことは・・・」 延々と続く口上をナギは手を振って止めた。 「私たちの部屋はどうなっている?」 「はっ。いつお嬢様とマリア様が戻ってこられても大丈夫なように、毎日の掃除、点検を欠かしたことはございませぬ。」 「ハヤテの部屋は?」 「はい、あの少年の部屋にも一切触れずそのままにしておりますので、一度掃除さえ済ませれば全く支障のないものと・・・」 「もういい」 「は、あの・・・。何かお気に召さないようでしたら、今すぐに綾崎の部屋の掃除を始めさせていただきますが・・・・」帰って来たご主人の機嫌を損ねたかとクラウスの額に冷たい汗がじとりと滲む。
「その必要はない。ハヤテは私と同じ部屋に住まわせる」 これにはクラウスだけでなくマリアも一瞬言葉を失った。 「あ、あの、ナギ?」 「今まで狭い部屋に住んでいたので、いきなり広い部屋になっては勝手が違ってやりにくい。いいではないか。恋人同士なのだから。」 マリアはパニックに陥った。 「い、いえ、それは・・・」 「違うのか、マリア」
ナギの目はきっとマリアを見据えていた。マリアはその目を正視できない。 ナギはマリアの手を取り、強引に自分の部屋に連れ込んだ。 「マリア、知っているんだろ。私は去年のクリスマスにハヤテに告白されて恋人になった。そして半年以上経ったが、今のハヤテはどうなんだ。まだ私を恋人と見てくれているのか」 その目が、嘘やごまかしは絶対に許さない、と何より雄弁に物語っていた。
マリアは大きなため息を吐いた。 「・・・やはり・・・そうなのか・・・」マリアの返事を予想し、ナギは唇を噛みしめた。 「ハヤテは私を愛してくれているとばかり思っていた。だから命がけで守ってくれるのだと。ハムスターがハヤテを好きでも気にしてなかった。ルカの時だって、ハヤテがルカを好きとは思わなかったから余裕で塩を送ってやった。ハヤテの気持ちに関係なく同人誌対決にハヤテを賭けたときは焦ったが・・・ だけど、今、ハヤテがヒナギクの看病をしているのを見ると、ドキッとした。ハヤテの表情が全然違う。ハヤテはヒナギクのことを愛しているんじゃないかって・・・。もう私のことなどどうでもよくなったのか」ナギは涙ぐんでいた。
「仕方ありませんね。いつかは言わなければと思っていました。でも、いいですか、ハヤテ君は何も悪くないのですよ。いや悪いことは間違いないですが、それはあなたの想像とは全く違う意味です。それをわかってくれるなら教えましょう」 「何だ。言ってくれ、全部」 「ハヤテ君は、決してあなたのことを嫌いになったわけでも浮気したわけでもないの。大きな誤解があるのはその前です。ハヤテ君はクリスマスの日にあなたに告白したわけじゃないの。」 「ど、どういうことだ、それは」そこまでは予想していなかった。
およそ30分の後、ナギはその日の全ての真相を知った。 「とんだ・・・とんだ勘違いだな。私は誘拐犯を執事に雇っていたのか。悲劇のヒロインと思いきやとんだピエロだ」ナギは自嘲した。 「・・・ナギ、あのね」 「どうでもいい。私は、私は・・・マリア、なぜ教えてくれなかったんだ」 「ご、ごめんなさい、ナギ・・・」 「お嬢様と呼べ」さすがのマリアも気圧されていた。
「お嬢様、クリスマスの真相は今話したとおりです。でもその後はわかりませんよ。ハヤテ君がヒナギクさんを好きかどうか・・・」 「うるさいうるさい。お前もハヤテもクビだ。ハヤテには退職金もやらん。身一つで出て行ってもらう。借金もチャラだ。金を返しに来ても受け取ってやらん」 「あの、ナギ・・・」 「お嬢様だ。とにかくこの部屋から出てけ」
マリアが部屋からでて、戸を閉めた後、中からは破壊音が数回響いた。 その後で聞こえてきたのはナギの嗚咽だった。
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