Re: 想いよ届け 〜病篤き君に |
- 日時: 2014/08/06 22:00
- 名前: どうふん
- 前回のヒナギクさんのお義父さんのキャラは私が勝手に作ったものです。
しかし、父親の立場から言えば、ヒナギクさんのような娘に、今のハヤテみたいな彼氏ではがっかりするでしょうね。 ハヤテにはもうちょっとしっかりしてもらわないと。 ハヤテをどうやって成長させるか考えている最中です。
<第5話>
ヒナギクの両親が病室を出て行ってからしばらくして、ヒナギクが動いたような気がした。 「あ、ヒナギクさん、起きたんですか」 「ごめんね、ハヤテ君。親が迷惑を掛けちゃった。」 「め、迷惑だなんて。ご両親のおっしゃる通りです・・・。え、ヒナギクさん、まさか全部聞いていたんですか」 「全部かどうかは知らないけど・・・」ヒナギクは顔を反対側に向けたまま言った。ハヤテの方を見ない。 「実はね、お母さんが、ハヤテ君のこと、勝手に私の彼氏だってお義父さんに説明していたみたいなの。ごめんなさい。ハヤテ君には迷惑よね」 「そ、そうなんですか。でも別に迷惑なんて、迷惑かけているのは僕のほうですし」
ヒナギクがまた口を開こうとした時、重い物を引き摺るような音が近づいてきて、二人は会話を止めた。 現れたのは伊澄を連れた千桜と咲夜だった。二人とも汗と埃に塗れ、髪はばさばさとなっていた。 「に、日本を半周してきたぞ・・・」 その元凶と思われる伊澄は、なぜか全くやつれた様子もなく、悪びれもせず、淡々と、懐ろから古代の鏡、いわゆる銅鏡をおもむろに取り出した。
「それを使えば、ヒナギクさんの病気が治るんですか?」勢い込んでハヤテが尋ねる。 「いえ、治りません。これは病気の原因を探る道具です」 「でも原因はもうわかっているんじゃあ」 「病気に掛かった原因ならわかります。しかし、会長さんに憑りついている悪霊はタチが悪くはありますが決して強力なものではありません。会長さんの身体力に精神力ならとっくに治って当然です。それが治る気配がないというのは、悪霊とは別に精神的な病にかかっているからとしか考えられません。」 「・・・。で、どう使うんですか、その古い鏡」 「これを会長さんに翳すと、会長さんの偽りのない心の中が映し出されます。少々覗き見しているみたいで行儀が悪いですが・・・・」
「やめて、やめて」おそらくは聞き耳をたてていたであろうヒナギクが悲鳴を上げた。 声こそ弱弱しいが、ぶんぶんと首を振り、必死に拒否を示している。 無理に使うと、ヒナギクの病が余計に悪化しそうなので、使用は諦めた。
ため息をつきながら病室を出たハヤテは、海岸を千桜と歩いていた。 というより千桜がハヤテについてきたのだ。 今のハヤテには、すぐ後ろにいる千桜の視線が痛かった。
ハヤテは耐えきれず、千桜に話しかけた。 「千桜さん。ヒナギクさんはどうして鏡を使わせてくれなかったのでしょうか」 「綾崎くん。君はまさか本当に気づかないのか。女の子が重い心の病にかかって、それを絶対に知られたくない理由なんて一つしかないだろう」 「・・・」 「本当はわかっているんだろう」 「・・・」 「気付かない振りをしているんだとすれば、それは卑怯な行為じゃないか、綾崎君。マンガの主人公やヒーローははそんなことはしないぞ。」 千桜はそれだけ言うと踵を返して去って行った。
ハヤテは一人になった。 ずっと一人で佇むハヤテの顔には何とも形容しがたい苦悩があった。
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