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対象スレッド 件名: Re: 想いよ届け 〜病篤き君に
名前: どうふん
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Re: 想いよ届け 〜病篤き君に
日時: 2014/09/04 23:06
名前: どうふん

 ナギは、自らをハヤテの恋人と信じており、ハヤテの主人でもあります。
 ハヤテに対し、最も純粋な愛情を持っているのはおそらくナギではないかなと思います。

 しかし、このSSにおいていきなりの悲喜劇に襲われたナギは、愛するハヤテに対する
ambivalenceな感情を抱え、苦悶しました。
 ナギの言動には一貫性も整合性もありませんが、それだけナギの心は大いに乱れています。

 ただ、泣いてハヤテをあきらめるのではなく、ヤケになってハヤテを追い出すのでもなく、笑ってハヤテを見送ることで、ナギにも明日が見えてくるのでは、と思っています。

 苦しい笑いではあっても、もともとが逞しい子ですから。


 とうとう最終話となりました。
 話のヤマは前回で終わっておりますので、文字通りの後日譚となります。
 以下、第15話をエピローグとして締めくくりたいと思います。



                  第15話(エピローグ)

 夏休みも終わろうとしている。
 ヒナギクの退院パーティの翌日、ナギとマリアはアパートに残っていた荷物を全て屋敷に運び込み、名実共に屋敷に戻った。

 残りの住人も千桜とカユラを除き、夏休みの間に皆それぞれの家に帰っていく。

 ハヤテは、ナギの指示でずっと夏休みの間はアパートに残って皆の面倒を見ていた。
 これは、ハヤテだけでなくヒナギクも意外だったのだが、マリアはそっとヒナギクに耳打ちした。
 「わかってあげて下さい。ナギにも気持ちを整理する時間が必要なんですよ」

 そのハヤテも夏休みの終了と同時にナギの執事として屋敷に戻る。
 今後、このアパートは、ハヤテに代わりクラウスが執事として住み込むことになった。
 「有り難き幸せ」と言ったクラウスは涙を流して喜んでいた、ようには見えなかったが。


****************************************


 8月30日、夏休み最終日の前日の夜。
 家に戻る住人の中では最後の一人となったヒナギクの部屋も、引越しの準備はほとんど終わった。

 ヒナギクは押入れを開けた。
 アリスがもうそこにいないことはわかっているのだが。

 戸を叩く音がした。
 「やっとノックを覚えたみたいね、ハヤテ君」
 「このドアの向こうに愛しい人がいると思うと、そうなりますよ」

 昔からきわどいセリフを無意識に話すハヤテだが、今は似たようなセリフに想いを込めて喋っている。
 その一言で真っ赤になるヒナギクの方が進歩が遅いのかもしれない。
 
 いつもの様に二人は壁にもたれて床に腰かけながら寄り添った。
 ベッドかソファくらいあればいいのに、という気もするが二人にはこれで十分なのだ。

 「ねえ、ハヤテ君・・・」
 ヒナギクが上目づかいにハヤテを見て、甘えるような声で話し掛けた。
 「は、はい、何でしょう」どぎまぎしながらハヤテが応える。

 「明日でもうハヤテ君とはお別れね」
 意表を突かれてハヤテはむせこんだ。
 
 「お、お別れって、ヒナギクさん。お別れするのはこのアパートで僕ではないでしょ。また学校で会えるじゃないですか。」
 「学校だけ?」
 「い、いえ。少しでも時間を作ってヒナギクさんの元へ通います」
 「夜這いをかける気?」
 「え、いや決してそんなことは」
 「何だ、してくれないんだ」
 ハヤテの狼狽ぶりは可笑しいほどだった。

 「夜這いどころか、僕たち、まだ、キスだってしてませんし」
 「そうよねえ。ハヤテ君の告白以来、まだキスもしてないのよね・・・。
  せいぜいこうやって並んだり、手をつないだりするくらいで。
  恋人同士で一緒に住んで、デートも何回もしているのに・・・」
 ヒナギクが幾分そわそわ、もじもじしていることにようやくハヤテは気付いた。

 さすがのハヤテも苦笑せざるを得ない。
 しかしそれ以上に、素直ではないが純粋で真っ正直なヒナギクが愛おしい。

 「ヒナギクさんは本っ当に素敵ですね。可愛すぎます」
 「な、何を言っているのかしら?」
 「夏の思い出、一つ作りませんか」
 「あら、何かしら」

 「ヒナギクさん・・・」ハヤテはヒナギクの顎にそっと右手を添えて持ち上げ、ヒナギクの瞳をじっと見つめた。
 間近で見つめられたヒナギクがうっとりと瞳を閉じる。
 来るべき瞬間を待っている。

 そんなヒナギクを前にハヤテは頭がくらくらした。
 ハヤテは、吸い込まれるようにゆっくりと顔を近づけそっと唇を合わせた。


 どれくらい時間が経っただろうか・・・。


 「ハヤテ君・・・。私のファーストキスを奪ったんだから責任はとりなさいよ」
 声はきつめだが、上気した顔を逸らしながらでは効果はない、というか、ハヤテをますます痺れさせる。

 (だめだ、ヒナギクさんには敵わない)
 「はい、喜んで」

 ハヤテは両腕を回してヒナギクを抱き締めた。
 ヒナギクは、まだ夢見心地でハヤテの胸に顔を埋めた。

 ハヤテの全身に、ヒナギクの柔らかい感触が伝わってくる。
 ヒナギクの頬に、ハヤテの心臓の鼓動が響いてくる。
 そしてお互いの温もりが。

 「ハヤテ君、大好き・・・。これからもずっと」
 「覚悟して下さいよ、ヒナギクさん。僕はこれからもっともっとヒナギクさんのこと好きになりますから」

 もはや言葉も要らない。
 二人は、アパートで過ごす最後の夜を、時が経つのを忘れて抱き合っていた。


                 「想いよ届け 〜病篤き君に」完