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対象スレッド 件名: Re: 想いよ届け 〜病篤き君に
名前: どうふん
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Re: 想いよ届け 〜病篤き君に
日時: 2014/08/31 22:42
名前: どうふん

 ヒナギクさんにとっても、ナギにとってもお互いが最後の決着をつけなければいけない相手です。
 それがわかっているからこそ、ヒナギクさんはナギの元を訪れ、ナギはヒナギクさんを部屋に入れました。

 いつかも書いた通り、本来ならハヤテの告白+後日談少々で終わっていたはずのSSですが、後日談が延々と続いたのは、私にとっても計算外でした。

 しかし、それだけ重要な部分だと思っています。
 これが最後の山場となりますが、目を通してくれた方々が納得できる結末にできたでしょうか。



第14話

 「何の用だ、ヒナギク」
 膨れっ面で横を向いているナギに、ヒナギクはぎこちない笑顔を浮かべた。
 「何言ってるのよ。退院パーティを開いてくれた人にお礼を言いに来たのよ」
 「私が言い出したことではない。ハムスターや泉から誘われたから場所を提供してやっただけだ」
 「だったらそのことにお礼を言うわ」
 「・・・どういたしまして」
 ヒナギクはしばらくナギの顔を見つめていた。ナギもヒナギクを追い出そうとはしない。

 ややあって、
 「ナギ・・・、ごめんね」
 「・・・ヒナギクが謝ることではないだろう。私がピエロだったというだけの話だ」
 「ピエロなんて思わないわよ、ナギ。私だってそうだったんだから」
 この一言にナギは顔色を変えた。

 「ヒナギクがピエロ?ヒナギクだってそう?
  私はハヤテの言葉を自分勝手に解釈して、その気がないのに恋人と思い込んで、当の相手には気づいてさえもらえなかったんだぞ。
  そんなことがお前にあったのか。

  さっきハヤテが何と言ったと思う?『お嬢様、ありがとうございます』、だ。
  『お嬢様は知っていたんですね。だから、チャンスをくれたんでしょう』、だ。
  ハヤテは本気で私をキューピッドかなんかと思い込んでいるんだ。

  ハヤテは、私が電話に出なかったことさえ、サプライズパーティのためだと思っているんだろう。
  あんまり腹が立ったから思い切りぶん殴ってやった。
  あいつはもうクビにするからお前が執事でも同棲でも勝手にすればいい」
 押さえていた感情が堰を切ったようにナギはまくしたてた。目には涙を一杯に浮かべながら。

 「やっぱりピエロよ、私も。もしかしたらナギ以上に」
 意外な発言にナギは固まった。
 「そんな・・・。ヒナギクが?」

 「私はね、ナギ。
  初めて会った時、一方的にハヤテ君を好きになったことはあなたと同じだけど、自分で気付かなかった。
  気付いたのは、ハヤテ君を好きだという子に『応援する』とまで言った後。
  それを結局は我慢できなくなって裏切ったの。その子は許してくれたけど。

  その後も自分の気持ちを伝えることもできなかった。
それどころかハヤテ君は私に嫌われている、と思っていた。
思い当たる節なんて幾つもあったわ。なぜだと思う?
  ハヤテ君の方から告白されようなんて虫のいいことを考えて空回りを続けたてたのよ。

  全く通用しないから思い直して必死の思いで告白したのがついこの前。
  だけど、気付いてもらえなかった。告白してさえね。

  ハヤテ君が私の気持ちを知ったのは、私のお義母さんが暴走してぶちまけてしまったからで、私は何もできなかったの。
  それがなかったら今でも何も変わっていないかもしれないわ」

 「それでも、それでも・・・最後はお前の元にハヤテは行ってしまった。
  結局私は何をやってもお前には敵わないんだ!」
 「ナギはハヤテ君の命の恩人よ。そして今はご主人様。
  ハヤテ君はあなたを一生懸命に守ろうとしている。これからもきっとそうでしょ・・・。

  あなたのために、と言って私と戦ったことだってあるじゃないの。
  これだけは私が敵わない。私はいつもヤキモチをやいていたのよ」

 ナギしばらく何も言わなかった。
 あのヒナギクが・・・。

 独り言のように呟いた。
 「お前も・・・、それほど完璧ではないんだな・・・。」


 しばらくして、ナギは何を思いついたかニヤリと笑い、
 「ところで一つ気になるんだが、お前は何て告白したのだ」
 「え、それは・・・」
 「ここまで言ったんだ。全部教えてくれてもいいだろう」
 「え、ええと・・・。『月がきれいですね』って」

 これにはナギも噴き出した。
 「お前はいつの時代の人間だ」
 「な、何よ。私は真剣だったんだから」

 狼狽するヒナギクを尻目に、ナギは腹を抱え涙を流して笑い転げた。
 「いいかげんにしてよ」怒声を発しようとしてヒナギクは思いとどまった。
 その涙が笑いによるものだけではないことに気づいたから。

 「もういい。ハヤテといいヒナギクといい、全く以て愉快な奴らだ。
  まあやっていることは不愉快だが。
  ここまで馬鹿とは思わなかった。ムキになった私の方が馬鹿みたいだ」

 ナギは、まだ真っ赤になって涙目で睨みつけているヒナギクの手を取って、
 「ああ、これだけ笑ったらすっきりした。よし、会場に戻るぞ」
 「え、ええ」
 「あ、一つ失敗したな」
 「え」
 「パーティの名前だ。どうせならお前たちの婚約披露パーティにすれば良かった。今から横断幕を取り換えるか」
 「ちょ、ちょっと」
 ナギは本気でうろたえるヒナギクを眺めながら、多少溜飲が下がったような気がしていた。
 地上においてナギがヒナギクより優位に立ったのは生まれて初めてだったのかもしれない。
 (まあ、このくらいは勘弁してくれ、幸せ者め)
 
 主役と主催者の再登場で、宴は再び盛り上がった。
 マリアが柱の傍らに立って、ナギを限りなく優しい目で見守っていた。

 ほぼ同時に「お酒もうないのー!お次、お次―」という叫び声が響き、懸命に一升瓶を探して駆けまわっていた人影が一つ。

 もっとも当日、消費された大量のアルコールドリンクが全てお一人様によるものであったのかは定かでない。
 さながら酔っぱらっているような未成年者がいたという噂もあるが、恐らくはパーティが盛り上がりすぎて、一部の浮かれた振舞いが酔っ払いに見えただけであろう。