Re: YYY |
- 日時: 2014/06/30 23:19
- 名前: 双剣士
- 「京橋さん、どうもご無沙汰してます」
「あ、ハヤテさん! わーっ、本当にお久しぶり。お元気でしたか?」
それは何ということのない、古い馴染み客との再会の一幕。だが京橋ヨミの一挙手一投足を向かいのビルの2階から観察していた YYYのメンバーたちは、双眼鏡の向こうで一斉に色めきだった。 「な……なんだ、あの男は!? ヨミちゃんにあんな嬉しそうな顔をさせるとは、どこのどいつだコンチクショー」 「まぁ待て待て。ヨミちゃんのあの表情は精々A+ランクだ、まだ慌てる段階じゃない」 「A+だと? 俺は1年半通ってB−ランクまでしか引き出せなかったというのに!」 いかなる物事も、多くのデータが集まれば解析され順位付けされる。YYYは過去のメンバーが引き出した京橋ヨミの表情を データベース化し、ランクSからD−までに至る16段階もの評価テーブルを設け、新鮮な情報を日々更新するために 交代制の撮影要員と専門の鑑定員まで用意するほどの完璧な体制を整えていた。そんなことしてどうするという意見も初期にはあったが、 自分には向けてもらえないエプロンの天使の表情を共有して好きなだけ眺められるという誘惑には誰もが抗しがたかったのである。 はっきり言ってキモイ連中であるが、そのことを自省できる段階は全員とっくに通り過ぎているのだった。
「すみません、実は訳あってあのお屋敷を出る事になりまして……今はお嬢さまやマリアさん共々、賃貸アパートのオーナーをやってるんですよ」 「えぇっ!! そんなことがあったなんて……」 「それでですね、引っ越してからようやく落ち着いてきたんで、庭に花壇を作りたいってマリアさんが言い出しまして。 それで今日は、お花の種と肥料を買いに来たんですよ」 「本当ですか? わーっ、ぜひお手伝いさせてください! 私ガーデニング大好きなんです!」
「おい、今の唇の動きを読んだか!? 大好きって言ったぞ!!!」 「何者だあの野郎! 俺たちのヨミちゃんにあんなこと言わせやがって!!」 「まさか……あの笑顔が、伝説のSランク……?」 16段階あるとは言え、Sランクと呼ばれる上位3階層は未だ該当データが無い。それはYYYメンバーにとって 「自分こそがその笑顔を手に入れる」ために空けておいた目標であり憧れである。どうすれば到達できるかは まだ未解明とはいえ……言うだけならタダではないか! 素人がワールドカップ優勝を夢見てなにが悪い!? そう強がりながらわざと空けておいた皇帝位、神聖なる玉座そのものであった。 だがそれが今、どこの馬の骨とも知れぬ貧相な軟弱野郎に踏みにじられようとしている! 「抜け駆け許すまじ!!」 「貧乏神に正義の鉄槌を下すべし!!」 口々に怒りの声を上げるYYYメンバー。すぐにでも下に降りてあいつを殴りに行こうと言い出す者まで現れた。 だが扉のそばに陣取っていたYYY創設メンバーの1人が重々しく慎重論を唱える。 「落ち着け、皆の衆。俺たちはヨミちゃんを見守る会だ。何があろうともじっと見守り続ける、最初にそう誓ったではないか」 「しかし……」 「ヨミちゃんを行かず後家にするのが我々の目的ではあるまい。ヨミちゃんを惚れさせた奴には手を出さない、 ヨミちゃんの幸せを陰ながら祈り続ける。それが夢破れつつも彼女のそばを離れられない我々の、せめてもの矜持ではないか、ん?」 「そんな腰抜けでどうする! 俺たちのうちの誰かならまだしも、あんな訳の分からない奴にヨミちゃんを取られてもいいというのか!?」 「それがヨミちゃんの選択なら仕方あるまい。それとも何か、これからあの場に割り込んでいったとして、あいつより自分の方に ヨミちゃんが味方してくれる自信のあるやつが、この場にいるのか?」 ヘタレ男子たちの暴走は、ヘタレ親玉の最後の一言によって瞬時に沈静化したのだった。
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