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対象スレッド 件名: #6
名前: 春樹咲良
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#6
日時: 2014/07/03 17:43
名前: 春樹咲良

◆◆◆


9月20日0時47分


色々と予定外のことが続いてしまったが、やはりこのタイミングを逃すのは得策ではないと、明智は判断した。
このままでは完全に機を逸してしまう。
美希にもらったプレゼントを自分の鞄にしまいながら、明智が切り出す。
「そういえば、僕も花菱さんにお渡しするものがあるんですよ」
「ほう、何かね」
上機嫌で答える美希に、鞄の中で動かしていた手を止めて、わざとらしく微笑んでみせる。
「おお、今のはなかなか大臣っぽい物言いですね」
「いちいち茶化すな。本当に首を絞めるぞ」
「すみません、どうも癖になってましてね」
首筋を再びさすりながら、目当ての物を鞄の中で探り当てる。
「難儀な奴だな、君は、本当に」
「花菱さんには負けますよ」
鞄の中に目を落としながら、あくまで何気ない様子で続ける。
きっと、次に出てくるものを美希は予想出来ていないだろう。
「この前の外遊のときの埋め合わせを、ずっとしなきゃと思っていたのですが」
鞄から、こちらもラッピングの施された小箱を取り出す。
今度は美希が予想外といった顔をする番だ。
「なかなかお渡しする機会がなくて、このタイミングになってしまいました。
 ――本当は、二次会のときに渡せたらと思っていたんです」
言葉を失っている美希の目の前に、そっと小箱を置いた。

「お誕生日おめでとうございます、花菱さん」
「ああ、うん……」

しばらく呆気に取られていた美希が次に口に出したのは、負け惜しみの悪態だった。
「……ちぇっ、結局おあいこか。今回こそは勝ったと思ったんだけどな」
「何と勝負してるんですか。要らないなら回収しますよ?」
手を伸ばして本当に取り返そうとする明智から逃れるように、美希は両手で小箱を胸の前に抱えてそっぽを向く。
「いや、要る。もらう」
そして、消え入りそうな声で俯き呟く。
「……がと」
「えっ、何ですか?」
「……ありがと」
「よく聞こえなかったのでもう一回」
わざとらしく聞き返す明智を、頬を膨らませてキッと睨みつけ、顔を真っ赤にした美希が怒鳴る。
「ありがとうって、言ったんだ!」
明智はそれに、大袈裟なリアクションで応える。
「おお、一回でいいところを三回も言ってもらえるとは。秘書冥利に尽きますね。時間を作って選んだ甲斐がありました」
「最初から聞こえてるんじゃないか!」
「はっはっは。まだまだ引き続き、37歳児の相手を務めることになりそうですね」
興奮して椅子から立ち上がり、握りこぶしを振り上げている美希と、それを笑いながらなだめる明智という構図は、やはりどこからどう見ても兄妹のようである。
「なんだよ、君ももう三十路のくせに」
再び椅子に腰掛け、拗ねたように美希が言うと、明智は
「そうですねぇ。じゃあここはひとつ、三十代同士仲良くしましょうよ」
と冗談めかして提案する。
「いやだよ、お断りだ」
にべもない返事をする美希の方をまったく見ずに、帰り支度をしながら明智は答える。
「おや、それは残念です」
「ちっとも残念そうに聞こえないぞ」
そこで明智は、美希の方を見て、抑揚をつけずにこう言った。
「誠に遺憾ですー」
「馬鹿にしてんのか」
「バレましたか」
舌を出しながら頭を守る体勢に入った明智に、美希はお望み通り、立ち上がってポカリと握りこぶしを見舞った。


◇◇◇


0時55分


まもなく1時を指そうとしている時計を見やってから、明智が宣言する。
「明日からまた忙しいですよ。早いとこ帰って寝ましょう」
「誕生日なんだから、お祝いにケーキくらいは欲しかったかな」
ここぞとばかりにわがままを言い出す美希を、明智が窘める。
「この時間にケーキなんて食べたら太りますよ?」
「そんなこと言わず、こないだみたく帰りに寄ってさぁ」
就任会見をした日の帰りに、クレープを買って帰ったことを持ち出す美希に、
「この時間に開いているケーキ屋なんて、いくら僕でも心当たりがないですよ」
と明智が答える。そして、ダメ押しのようにこう付け加えた。
「お忘れかもしれませんが、今日誕生日なのは僕の方です」


◆◆◆


ハヤヒナ短編で今までに書いた分量を既に超えている気がします。

ちなみに、明智君からのプレゼントの中身はネックレスです。