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- 日時: 2014/06/30 23:19
- 名前: 春樹咲良
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9月20日0時31分
「そうだ、なぁ明智君。今日は何の日だ」 大臣室で今後の予定を簡単に確認し終えた後で、美希が口を開いた。 「何ですか、藪から棒に。サラダ記念日か何かでしたか」 「……そうだっけ?」 あまりに予想外の答えが返って来たのか、素で聞き返してしまった美希に明智が答える。 「いえ、自分で言っておいて何ですが、たぶん違います」 「何だよ、それは」 呆れた表情を見せた美希は「ふっ」と笑って、気を取り直してから得意気にこう言った。 「まったく、適当な奴だな君は」 「あなたが言いますか、それを」 いつもの調子でさらりと返す明智。しかし、それに続く美希のセリフは、彼にとって完全に予想外のものだったはずだ。 「そんな適当だから、自分の誕生日を忘れるんだ」 「いやいや、そんな……って、えっ? 何ですって?」 いつだってこちらの行動を先読みしている明智が、こんな風に驚いた様子を見せるのはかなり珍しい。 「誕生日だよ、君の誕生日。やっぱり忘れてたんだな」 そんな明智の様子に満足しながら、美希が続ける。 「実は、二次会のときに泉たちとお祝いしてやろうって準備してたんだよ――君を驚かせたくてな」 「……そうだったんですか」 本当に意外そうな顔をしたあとで、明智は口に手を当てて小さくこう呟いた。 「それじゃ、瀬川さんは――」 「ん? 泉がどうかしたか?」 少し考え込むような明智の仕草が、美希はまたしても引っかかった。ここ数日、こんなことばかりのような気がする。 迂闊な泉の素振りから何か思い当たる点があったのかとも思ったが、二人は今日が初対面で、会話らしい会話をしていた様子もなかったはずだ。 訝しむ美希に対して、明智は何事もなかったかのように取り繕って答えた。 「いえ、瀬川さんがあんなに残念がっていたのも、もしかしてこのことだったのかと思いまして」 その答えになおも釈然としない様子の美希がさらに考え込む前に、「それにしても」と明智が続けた。 「流石の僕でも、これには驚きですよ」 「自分で言うのか、それを」 思わず呆れる美希に、明智はしれっとこう言った。 「意表を突くのは僕の専売特許のつもりですから」 「最近は意表を突かれ過ぎて、普通に来られた方が意外性を感じる気がするよ、私としては」 「ほう、それはそれは。これからはちょっと攻め方を変えた方がいいかな」 「攻め方って、君な……」 どこまでも美希をからかうことに力を注ごうとする姿勢に、色々と通り越して答えも浮かばなくなってしまった。 いつの間にか、また明智のペースで会話を支配されている。
「いやぁ、こうなると、パーティーが流れてしまったのがとても残念です。 誕生日を大勢に祝ってもらえる機会なんて、なかなか無いですから」 「まぁ、君の言った通り、そういう星のもとに生まれてきてしまったんだよ。私としても残念だった」 毒舌な秘書をみんなに紹介する機会だったのにな、と美希は付け加えた。 それは、彼女なりの照れ隠しだったのかもしれない。 「花菱さん……」 「……少し予定は狂ったけど、結果的にちゃんと誕生日に渡せてよかったよ。ほら、これを渡そうと思ってな」 美希がバッグから、リボンで丁寧にラッピングされた細長い包みを取り出して、明智に差し出す。 「ん? 何ですかこれは」 「誕生日なんだからプレゼントに決まってるだろ。プレゼントのない誕生日なんてな、アレだ、えーと……」 「思いついてないなら無理にかっこいいこと言おうとしなくて大丈夫ですよ」 「……君なぁ、色々台無しだぞ」 美希の抗議を軽く聞き流しながら、明智はそれを両手で丁寧に受け取った。 「いやぁ、すみません。せっかくなので、今開けてもいいですか」 「あぁ、構わんよ。大したものじゃないんだけどな」 慎重に包装を解くと、中から出てきたのは濃い青のネクタイだった。控えめに入ったストライプと、全体的に細めのつくりが、明智によく似合いそうだ。 「日頃の感謝を込めて、徐々に首を絞める呪いとかかけてやろうかと思ったんだけど」 「うわぁ、そんな重たい感謝はちょっと御免被りたいですね」 思わず首のあたりに手をやる明智に、美希が追い打ちを掛ける。 「週刊誌の記事になりそうだな。”大臣の秘書、怪死の真相”」 それに乗って明智が、さらにキャッチーな見出しを提案する。 「”首に絡まる呪いのネクタイ”――いやいや、勝手に殺さないでくださいよ。仮にも誕生日ですよ?」 そこで美希は思い出したように 「ふっ……そうだ、まだ言ってなかったかな」 と言って、一呼吸おいた。
「誕生日おめでとう、明智君」 「はい、ありがとうございます」
らしくない「まとも」なやり取りが逆に可笑しくなって、わざとらしく美希が訊ねる。 「……それで、いくつになったんだ?」 「二言目にそれですか。最初から知ってるくせに」 うんざりした様子の明智というのも、なかなか新鮮なものだった。
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この掲示板に小説を投稿し始めてから1年経ちました。 何だかあっという間ですね。
ちなみに、ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、サラダ記念日は7月6日です。
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