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- 日時: 2014/06/28 23:43
- 名前: 春樹咲良
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9月20日0時12分
「いやぁ、それにしても長引きましたね。もう日付変わってるじゃないですか」 閣議を終えた美希は明智と共に官邸を出て、内閣府の庁舎へと戻るところだ。 明智の言うことに頷きながら、流石に疲労の色を隠せない美希が愚痴をこぼした。 「あのハゲジジイがグダグダと非生産的なことを言わなきゃ、会議の時間はこの半分で済んでたと思うんだけどな」 2時間を大きく超える長い閣議を終え、張り詰めていた緊張も解けてしまった様子の美希に、明智がいつもの軽口を叩く。 「不毛な議論ってところですか。ハゲだけに」 「まったくだ。ハゲだけに」 あまりにも古典的な冗談だが、それにしても誰かに聞かれていたら大問題になりそうな会話だ。 「まぁ、大臣というのは得てして、自分のところの利害関係がまずは気になる生きものですから」 よくよく聞くと何のフォローにもなっていない明智の発言に、美希が軽い抗議の声を上げる。 「それ、大臣を前にして秘書が言うセリフとは思えないな」 明智と会話していると、時々議員とその秘書という立場関係を忘れてしまいそうになる。 もちろん、分かっていてわざとやっている部分が多いのであるが。 「大臣らしい言動をしてから言ってください」 美希の抗議をあっさりと受け流す明智に対して、美希は何の抑揚もつけずに答えた。 「誠に遺憾であるー」 「マスコミ向けのコメントをしろとは言ってないですよ」 どこまでも辛辣な男である。
◇◇◇
9月15日22時13分
明智との電話を終えた泉の携帯電話が、間髪を入れずに再び着信を知らせる。 思わず携帯電話を取り落としそうになりながら、画面に表示された着信元を見て、泉はさらに仰天した。 なんと、美希からだ。 「あ、あの、も、もしもし?」 『もしもし、泉か。今ちょっと大丈夫か?』 くれぐれもバレないように、という会話をしたまさにそのターゲットから、こんなタイミングで電話がかかってくるとは、予想外にも程がある。 明智の方で早くもバレてしまった、などということでもあったのだろうか。 「えーと、うん、大丈夫。ミキちゃんから電話がかかってくるなんて珍しいね。お仕事、忙しいんじゃない?」 『あぁ、いや、別に。今日は外遊から帰国したばかりで、官邸で報告だけして早めに家に戻ってたんだ。 お前こそ、さっきかけたら通話中だったけど、何か忙しかったのか?』 どうやら明智との通話中にかけていたらしい。 二人して同じタイミングで自分に電話をかけてくるなんて、一体何が起こっているのだろうかと思いながら、この場は適当に誤魔化す。 「あ、ううん、大丈夫。もう終わったから」 『そうか。いや、今度の同窓会なんだけどさ』 「えっ、ど、同窓会? うん、来るって言ってたよね」 明智の方でバレたわけではなさそうだが、なぜか先ほどと話の展開が全く同じである。 美希の意図は不明だが、ここで明智の計画に勘付かれてしまうと、いきなり全てが水の泡だ。何とか頭をついていかせなければならない。 『ああ、行くよ。それでな、もし時間があればなんだけど、その後で二次会みたいなパーティーって出来ないかなと思って』 「えっ、パーティー? う、うん、いいんじゃないかな、二次会。二次会ね……あ、ほら、あれでしょ、総会の方は、挨拶とかで忙しくなるかも知れないしね」 頭を整理しながら、やはり先ほどと同じ展開になる会話に困惑する。 『あぁ、それもあるか……やっぱり面倒だな、大臣って。 まぁ、それもそうなんだけど、ちょっと折り入って泉に相談っていうかさ』 思わず会話を先取りしてしまったが、美希はそこまで考えていなかったようだった。 「相談……パーティーのことで? うん……何かな」 話の展開がここまで同じだと、次に美希が言いそうなことが何となく想像できてしまうのだが、それにしても美希が自分の誕生日を祝うパーティーを相談するとは思えない。 やや腑に落ちない思いを抱きながら聞いていると、美希がこう続けた。 『こないだ電話したとき、うちの秘書の話をちょっとしたじゃないか。有能だけど毒舌の』 「うん、明智君がどうかした?」 『あれ、名前まで紹介してたっけ』 しまった、と思った。ついさっきまで電話していたせいで何気なく名前を口に出してしまったが、美希からはまだ「有能だが毒舌の秘書がいる」としか紹介を受けていないのだった。 「えっ、うん、まぁ、いいじゃない。あの、それでその明智君がどうしたの?」 冷や汗をかきながら無理やり話を本題に戻す泉の態度を訝しみつつも、美希は話を続ける。 『……まぁいいか。その明智君なんだけど、実は今度の20日が誕生日なんだよ』 「へー、誕生日……えっ、誰の?」 『だから明智君だ。今言っただろ』 これは泉にとっては予想外の展開だった。先ほどの電話では、明智はそんなことを一言も話さなかった。いちいち言わなかっただけかもしれないが。 ことここに至って、明智と美希が別々に泉に電話してきた理由がようやく見えてきた。
「――そっかー、誕生日……。20日ってことは同窓会が19日だから、次の日か。 じゃあもしかして、そのお祝いをしようって話?」 『あぁ、そう、そうなんだ。本人は自分のことには無頓着なタイプだから、多分自分の誕生日のことなんて忘れてるだろうし、そこで祝ってあげたら面白いかなぁと思ってさ。だから』 「つまり、サプライズパーティーで驚かせたいんだね?」 泉が続きを引き取る。大体の状況が把握できて、泉も落ち着きを取り戻す。 それと同時に、この状況がいかに面白いことになっているかに気づいて、可笑しくなった。 『どうしたんだ泉。今日はいつになく察しがいいな。まぁ、話が早くて助かる。 普段は明智君に全部の手配を任せるところだけど、今回はいつものお返しに、驚かせてやろうと』 「ふふーん。なるほど、『いつものお返し』ねぇ。ミキちゃんも粋なこと考えるねぇ」 ニヤニヤしているのが向こうにも伝わるような言い方に、美希はややムキになって答える。 『言っとくけど、「いつものお返し」っていうのは感謝じゃなくて復讐のニュアンスだからな? いつもいつも秘書とは思えないくらい容赦なく毒舌を吐きやがってな』 「ははーん。分かった分かったー。えへへへへー。うん、いいことを思いついたよ。 この計画はぜーんぶ、私に任せてくれるかな」 『なんだよ、しどろもどろになったり、急に笑い出したり。変な奴だな』 親友に対して随分ひどい言い様である。 毒舌の秘書にこんなところで影響されているのではないかと思えてきて、泉は余計に可笑しく思った。 『まぁ、お前がそう言うなら任せるよ』 「任されたー。サプライズのこと明智君にバレないように気をつけないといけないね」 『別にお前が明智君と連絡するわけじゃないだろ』 「そ、そっか。そうだね」 実際には店の予約等を打ち合わせなければならないので、明日の夜にも明智と連絡を取らなければならない。 そして、並行して美希とも打ち合わせをする必要が出てきた。 これで泉は、同時に二つのサプライズを管理しなければならなくなってしまったわけである。 『当日会ったときに不審な素振りを見せなきゃ大丈夫さ。気をつけないといけないのは私の方だ。 まぁ、そこのところは心配ない。上手くやるよ』 自分には少し荷が重いかもしれないと思ったが、他ならぬ美希のためだ。 必ずうまくやり遂げると、泉は心に誓った。
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最初だけだと短すぎるので、今回は少し長めです。
明智君の誕生日は、前作でもプロフィールに書いてあります。
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