#2 |
- 日時: 2014/06/24 00:11
- 名前: 春樹咲良
- ◆◆◆
9月15日21時40分
「はい、もしもしー?」 見覚えのない番号からかかってきた電話を取ると、これまた聞き覚えのない男のかしこまった声が電話の向こうから聞こえてきた。 『もしもし、夜分遅くに恐れ入ります。瀬川泉さんでいらっしゃいますか?』 「そうですけど、どちらさま?」 泉が怪訝そうな声で尋ねると、かしこまった声の男が次のように名乗った。 『突然お電話してすみません。明智と申します。花菱美希議員の秘書を務めております』 「秘書さん……? あぁ、ミキちゃんの秘書さんかー! はじめましてー!」 電話の相手が親友の秘書だということがわかると、急に親近感が湧いた。 そう言えば、この前に美希と電話した時にも話題に上がった。 美希の語る様子からすると、意外と愉快な人物のような印象を受けたものだが。
『はじめまして、明智です。いつも花菱さんがお世話になってます』 「いーえー、こちらこそ。それで、ミキちゃんの秘書さんが、私に何かご用事?」 『ええ、はい。今度の白皇の同窓会の件なのですが――』 白皇の同窓会は週末の金曜日に予定されている。 先日美希に電話したのもその同窓会の件だったが、何かあったのだろうか。 もしかして、急な予定で都合がつかなくなってしまった、などという連絡だろうかと思って尋ねると、 『あ、いえ、出席は今のところ問題なくできそうです』 と明智は答えた。 「なんだ、そっかー。安心したよ」 『ただ、会自体の規模を考えると、あまりご友人とゆっくりお話をする時間なんかはなさそうでして』 「あー、総会はねぇ。色々なところの偉い人がたくさん来るし、ミキちゃんも現職の国会議員だしねぇ。 それも大臣になったばかりだから、総会に出ても挨拶とかで引っ張りだこかな」 泉も流石にこの歳になると、社交界の何たるかをおおむね理解してきていた。 こういった大人の付き合いというのは、どんなに面倒に思っても、いい顔をしていなければ後々の面倒が増えるようにできている。 『そういうことです。それで、総会自体は割と早い時間で解散になるみたいなので、その後の二次会をうまいことセッティングして、そこでご友人との時間をとれないかと』 だから、明智の提案はある程度、泉の方でも考えていたことだった。 「うんうん、いいんじゃないかな。みんな喜ぶと思うよー。 よかったらお店とか、私の方で探しておこうか?」 『そうして頂けると、とても助かります。自分も出来る限りお手伝いします。それで、もう一つご相談がありまして』 「ん、なあに?」 というより、これが本題なのですが、と前置きしてから明智はこんなことを言った。 『こないだの9日が、花菱さんの誕生日だったじゃないですか。 実はあれが、ちょうど外遊と被っちゃいまして。しかも飛行機トラブルのゴタゴタで、お祝いとかそういうの、何もできなかったんですよ』 出発が9日の午前中で、到着も現地時間で夜のかなり遅くになったのだという。 予定されていた夕食会は、飛行機の遅れでキャンセルになってしまったのだと明智が説明した。 「そうだったの。じゃあ、今度の二次会で、ミキちゃんの誕生日をお祝いしようってことだね?」 『ええ、話が早くて助かります』 さらに明智はつけ加えてこう言った。 『それで、出来ればこれ、花菱さんには内緒で準備したいんですが』 「あ、サプライズパーティーだねー? なるほどー。いいねぇ、ミキちゃんきっと喜ぶよ」 『だといいですけど。花菱さん、ちょっとひねくれ者ですからね』
ここから、明智は細かい打ち合わせをテキパキとこなす。 『二次会の話を僕から花菱さんに出すわけにはいかないので、明日の午前中にでも瀬川さんの方から、花菱さんに電話で提案してもらえますか。 パーティーの準備は私に任せておいて、みたいなことまでは伝えていただいて大丈夫です。 花菱さんのスケジュールは元々僕が管理しているので、電話口で花菱さんが僕に都合を確認して、出席の返事をすることができますから』 「えーと、うん、分かった。とりあえず明日、ミキちゃんに電話すれば大丈夫だね」 立て続けの説明にややついていけなくなりそうになりながら、泉は最低限自分がしなければならないことを確認する。 『お手数をおかけします。それでよろしくお願いします。くれぐれも――』 「サプライズがバレないように、ね。大丈夫だよ、任せといて」 これからの打ち合わせは明日以降、同じ時間に電話するということにして、通話を終えた。
◆◆◆
投稿してから誤字に気づくパターンが多すぎて。
茶会でも泉の将来は話題になりましたが、37歳になった泉が何をやっているのか私もあんまり決めていません。
|
|