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- 日時: 2014/08/26 18:06
- 名前: 春樹咲良
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男女共同参画担当相が福岡入りへ 2025.9.25 17:21 与野党の新人3氏で争われる福岡県知事選(10月5日投開票)では、事前の調査から与党の苦戦が見込まれている。粂田幹事長はてこ入れのため、花菱美希内閣府特命担当大臣(男女共同参画担当)を現地入りさせる方針で、人気の高い同担当相を中心に、選挙戦後半での巻き返しを図る構えだ。花菱担当相は28日に福岡入りし、福岡市中心部で応援演説を行う予定。
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9月28日11時27分
「なんでわざわざ縁もゆかりも無い土地の県知事選に私が駆り出されるんだ」 大阪発博多行きの新幹線の車内で駅弁を箸でつつきながら、美希が文句を言う。 「美味しそうな唐揚げですね」 それを完全に無視して、明智が向かいに座った美希の弁当から唐揚げを掻っ攫った。 「聞けよ」 「代わりにこのハンバーグあげますから」 「そもそも同じ弁当だろ。唐揚げ返せ」 「どうせ揚げ物苦手だとか言って残すでしょう?」 前職が不祥事で辞職したのに伴って急遽行われることになった県知事選に、応援演説のために動員されて移動中の美希は、相変わらず秘書と兄妹じみたやり取りをしている。 到着後のスケジュールなどを確認していたら、ちょうど昼食の時間が近づいていたので、こうして向かい合って、今朝大阪駅を出る時に買った駅弁を食べ始めたのだった。 仕方なくハンバーグと、ついでに目を盗んで卵焼きも明智の弁当から奪う。 「党としても力を入れているんですよ。大事な選挙になりますからね」 唐揚げを頬張りながら、明智が先ほどの美希の話に今更のように答える。聞いてはいたらしい。 明智の様子からは深刻さが全く伝わってこないが、内閣改造後最初の選挙戦が、前職の不祥事というハンデを背負って行われることになった痛手は大きい。 政権にとって一つの試金石となるであろうこの戦いには、美希の他にもこれから現職閣僚が次々と応援に送り込まれることになっている。 「そんな中で真っ先に駆り出されたのは、ひとえに人気があるからだと思いますよ。 お飾り大臣の面目躍如じゃないですか。しっかり働いてください、花菱先生」 「はぁ……」 まったく、自分の雇い主を本人の眼前でお飾り大臣扱いする秘書なんて聞いたことがないぞ、と思いながら美希は黙って弁当の残りを口に運ぶ。 いずれにせよ、ここで美希が深刻な顔をしたところで何か状況が改善するわけではないので、明智の態度はある意味で正解なのかも知れない。 「あれっ、僕の卵焼き食べました?」 「知らんよ。足でも生えて逃げ出したんじゃないか」
実際のところ、美希が人気の高い政治家であることは事実だ。しかしそれは、決して若い女性の大臣だからというだけが理由ではない。 元首相の孫という血筋に加えて、毅然としてものを言う姿勢、凛とした立ち居振る舞いに、一種のカリスマ性を感じている有権者は多い。 さらには、その政治的手腕への評価も、若くして非常に高い(この点については、明智のお膳立てによるものも多いが)。 わが国初の女性首相が誕生するとしたら、それは恐らく彼女だろうと巷間言われているほどである。 だから、明智の「お飾り」という発言は、全くもって本心では言っていないのだが、美希は美希で周囲からの評価については基本的に無頓着なので、明智が「お飾り」と言うならそうなのだろうと勝手に考えていた。 元々が世襲議員なので、自分の能力に大きな期待がかけられているとはあまり思っていないのだ。 まぁ、人気が役に立つのならそれもよかろう、程度には美希も考えているので、「なんでわざわざ」という文句もただのポーズのようなものである。
……それにしても。 「では、ちょっとあっちの車両に、僕の卵焼きが歩いて行ってないか探してきますね」などと言って明智が席を立っている間(たぶん用を足しに行ったのだろう)、美希は一人で考え込んでいた。 何かがおかしい。ここ一ヶ月ほど、常にその感覚がまとわりついている。 元々、美希を煙に巻くような言動の多い秘書ではあるが、それにしてもここ最近の明智の様子は、どこかいつもと違う感じがするのだ。 例えば、今回の福岡行きの件についても――そんなことを考えているところに、ちょうど明智が戻ってきたので、美希は思い切って、かねてからの疑問をぶつけた。 「なぁ、なんで移動が新幹線なんだ? 飛行機ならもっと早いだろうに」 移動手段の選択に合理性が感じられない、という趣旨で投げた質問に対して、腰を下ろした明智は、お茶を一口飲んでからその質問に答えた。 「基本的に、鉄道の利便性は侮れないんですよ?」 その上でいくつか理由を挙げますと、と言って、明智は指を三本立てる。 「まず、空港と大阪都市圏の間のアクセスは良いとは言えません。 次に、移動中の打ち合わせが沢山できます。 最後に、美味しい駅弁が食べられます」 一つ一つ指を折りながら理由を並べてきたが、いつもと比べて説得力に欠ける説明だった。明智のことだから、わざとやっているのかも知れないが。 「まぁそうなんだけど、そもそも大阪に寄る必要があったのか?」
福岡で応援演説をする予定が入ったのは、4日前の話だ。 「こんな形で里帰りすることになるとは思いませんでしたね」 と明智が話すのを聞いて、そういえばこの男は福岡の出身だったかということを美希も思い出したのだが、その日のうちに明智が出してきた旅程表は、何故か前日に大阪を経由して福岡へ向かうというものだった。 昨日のうちに大阪入りして、やったことといえば党の大阪本部への顔出しと、あとは地元議員の講演会に来賓として出席しただけである。 通信技術の進歩した現代において、地方本部との連絡会合など、必要ならいつでもどこでも出来る話だ。 講演会の方も特に重要な会というわけではなかったし、本当にただ座っているだけで、実に退屈だった。 その上で今朝新幹線で大阪から博多へ移動するくらいなら、羽田から飛行機に乗るのと時間的な差は無い。 交通費の節約になるわけでもないどころか、一泊した分だけ余計に費用がかかっているくらいだ。 さらに言えば、福岡空港からであれば中心街へのアクセスは全く問題にならない。
それらを踏まえて美希は訊ねたのだが、明智は一言でこう切り返す。 「ちゃんと足を運んで顔を見せないと、政治家は務まりませんよ?」 「いや、まぁそうなんだけどさ……」 「スケジュールに余裕もありましたし、たまにはいいかなと思ったんですよ」 何やらうまく誤魔化されてしまったような気がするが、結局それ以上は何も言えなかった。 やはり、何か様子がおかしい。 ここ最近、ずっとそんな感じがしているが、本人に直接聞くこともできないまま、もやもやとした感じを抱え続けていた。
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ハヤヒナ合同本企画、無事に公開までこぎつけました。ご協力に感謝いたします。
随分と間が空いてしまいましたが、ここから後編を始めていきます。よろしければお付き合いください。
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