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対象スレッド 件名: Re: 兄と娘と恋人と(完結)
名前: タッキー
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Re: 兄と娘と恋人と(完結)
日時: 2015/01/03 21:03
名前: タッキー

ハヤッス!!タッキーです。
ついに最終話です。ここまで全部読んでくれた方、本当にありがとうございました。
それでは『兄と娘と恋人と』最終話・・・
更新!!





時期はもう新学期が始まって2月の半ば、正確に言うと16日。バレンタインデーということで女子郡が一生懸命頑張って、男子勢が今年こそはと期待に胸を躍らせたが半分ほど撃沈したりした日より少しだけ経った日の昼休み、ヒナギクはハヤテがナギの付き添いで休みだったのでレナと一緒に昼食をとっていたのだが、その途中でせっかく自分で作った弁当を落としてしまった。

「えーー!!レナ、妊娠したの!!??」

「しーーっ!!ヒナちゃん、声大きいよ!大きい!」

レナが唇に人差し指を当てたの対しヒナギクは目を見開いた状態で顔を固め、コクコクと首だけで頷くことしかできなかった。それでも目一杯頭を回転させて状況を理解したが、理解したらしたで驚くことしかできずにヒナギクは再び大きな声を出してしまった。

「そ、それじゃ学校とかどうするのよ!?今はともかく、お腹が大きくなってきたらみんなにもバレちゃうわよ!!」

「だから声が大きいって、ヒナちゃん!!」

その後なんとかヒナギクを落ち着かせたレナは彼女に全ての事情を説明した。岳のおかげや、それを差し引いても根本的な部分で自分たちが世間帯を気にしなくてもいいこと。自分が身ごもっている子供は岳と同意の上で、つまり二人の意思で作ったということ。そして自分は今、とても幸せだということ。
それらを伝え終えたレナは微笑みながら自分のお腹をさすり、その表情はヒナギクにとって家に帰った時にいつも感じていた母親の表情とまったく同じものに見えた。彼女はアパートで暮らすようになってからいっそう強く感じるようになったそれを、レナが今浮かべていることを正直に羨ましく感じたのだ。

「ねぇ、その子の名前はもう決めてるの?」

「今考え中。ガウスによると男の子らしいんだけど・・・やっぱり名前って特別じゃない。かれこれ一週間は考えてるんだけど思いつかなくって。」

ヒナギクは以前アカリの名前を考えていたときのことを思い出して、レナに対して大いに賛成した。ヒナギクが愛虹(アカリ)という名前にどれほど意味を込めたか・・・。愛の虹、アイリスの花言葉から絶対に幸せにするという決意。自分たちを照らす灯りになって欲しいという願い。たった3文字にこんなに意味を詰めるのは重すぎるんじゃないかと思った時もあった。それでも一度与えた意味を外すことなんてできなかったのだ。

「レナ・・・頑張ってね。」

「もちろん。まぁ、ガウスがいるからあまり不安はないんだけどね。」

はにかむレナの笑顔からは恋人に対する信頼が表れているようにヒナギクは感じた。
校舎のほうから予鈴が鳴り出す。レナは弁当を片付けて立ち上がると、先に戻ってるねと最後にヒナギクに笑いかけてから教室へ駆けていった。ヒナギクが落してしまっていた弁当は幸い中身はあまりこぼれておらず、彼女も弁当を片付け終えると一度だけ自分のお腹に手を当ててみた。

「アカリ・・・早く会いたいな・・・。」

少しだけ・・・いつもより温かく感じた。





 最終話 『本日、満開ワタシ色!』





放課後、生徒会室に私のケータイからメールの着信音が響く。生徒会の仕事で疲れて机に突っ伏していたのにそれを聞いたとたんに飛び上がり、小うるさいケータイを開くと案の定そこには恋人の名前が表示されていた。付き合いはじめてからもう3ヶ月くらいになるし、メールのやりとりとなるともうすぐで一年にもなるというのに、未だケータイを開くときの私は心臓のドキドキが増す。






FROM:綾崎ハヤテ

TO:桂ヒナギク

生徒会のお仕事お疲れ様です。もう終わりましたか?
今日は一緒に学校に行けなくてすみません。その代わり、もしよかったら今から喫茶どんぐりでコーヒーでも飲みませんか?約束とかはしていなかったから急ですけど、なんだかヒナギクさんの顔が見たくなってしまって。僕って結構寂しがり屋なんですよね。情けないことに。
こっちの仕事のほうは大丈夫です。執事長になってからいろいろ大変ですけど、新しい執事くんが結構優秀なので今日みたいにお暇をよくもらえますから。
疲れているかもしれないのにすいません。返信待ってます。あと・・・大好きです。




「もう・・・。私が断るわけないじゃない。」

顔が赤くなっているのが自分でも分かる。本当は電話で・・・ちゃんと言葉で言ってほしいとは思ってるけどハヤテくんだってそれは照れ臭いからメールだったんだろうし、私自身そんなこともできるわけないから大目に見てやらないといけないのだろう。
ガラパゴスケータイというのはこういう時に不便で、早く気持ちを文章にしようとする私をあせらせる。正直スマホに買い替えてもいいんじゃないかと思っているけど、これもお母さんたちに買ってもらったものだからできるだけ長く使いたいという気持ちのほうが強い。ふとそんなことを考えていたら、なぜか私の指は止まってしまっていた。

「アカリ・・・どうしてるかな?」

気づけばあの子のことばかり考えている。もしかしたらハヤテくんのことを考えている時間と同じくらいになるかもしれない。正直、ちゃんと未来に戻れたかとか間違えてまた過去に飛んじゃったりしていないかとはあまり考えていない。だってアカリを送ったのはガウくんなんだから心配するほうがおかしいんじゃない?でもこれはハヤテくんも含めた世界中の誰よりもガウくんのことを信じることができるとかじゃなくて、私たちの意思とは関係なく無理やり信用させられているっていうか・・・彼ってそういう人なのよね。いや、神様か。
それはそうとして私が心配しているのは元気にしてるかとか風邪とかひいてないかとか、それこそ母親じみた心配で、それは向こうの私の役目なのだろうけど・・・やっぱり気になるというか、寂しいというか・・・。まったく、私がこんなにウジウジしてたらダメね。とりあえずハヤテくんに返信しないと。




FROM:桂ヒナギク

TO:綾崎ハヤテ

誘ってくれてありがとう。もちろん行くわ。生徒会の仕事もちょうど終ったし、今から20分後くらいにはそっちに着くから待ってて。
それからメールの内容が恥ずかしすぎ!こういうことはちゃんと口で言いなさい。でも、大好きなんてありがと。私もハヤテくんのこと大好きよ。
それじゃすぐ行くから。








P.S.そっちについたらいきなり抱きしめてやるんだから!!・・・なんて取りあえず入力してみたけど結局これは消してから送信ボタンを押した。私が素直じゃないことくらいとっくに自覚してるわよ。少し乱暴に机の整理をして鞄をひったくり、きちんと戸締りをしてから扉を開けた。外に出てみると風が少し強くて、その中に飛び込んだ私の目にふと一つの木が映った。それは別にハヤテくんと出会ったあの木だったからだとかそんなことはなくて、普通に通路の脇に植えられていた普通の桜の木だったんだけど、その一本の枝の先のほうには小さな蕾がちょこんと一人ぼっちでついていたのだ。桜が咲くにはとうてい早いこの季節。この蕾にはゆっくりと仲間が増えていって、そしてそれらが全部芽吹き、満開になるとこの木はとても素敵な色にそまるのだろう。・・・まるで私みたい。そう思った。
喫茶どんぐりに向かう途中、私はこの1年間くらいを思い返していた。ハヤテくんと初めて会ったのは木の上で・・・あとから聞いた話によると小さい頃に会っていたらしいけど、私にとってはこれがハヤテくんとの出会い。それからハヤテくんのことが気になり始めていたんだけど、この時は私が彼に恋してるだなんて考えてもみなかった。マラソン大会からちょっと冷たくしすぎちゃったことは後悔してる。歩と出会ったのもこの時期だったわね。私がハヤテくんのことを好きだって打ち明けた時も、ハヤテくんと付き合い始めたときも、ずっと親友でいてくれた。歩には感謝してもしきれない。今度会ったらありがとうっていわなきゃね。

「ふぅ・・・。ちょっと早すぎたかしら?」

20分って言っていたのに10分もしないうちに着いてしまった。ま、早く来ることにこした事はないし、ハヤテくんがまだ来てなかったらコーヒーでも淹れておいてあげよう。そういや私の誕生日に遅れたハヤテくんはどんな気持ちで生徒会室まできたのかしら?あの時間だったら帰ってると思って来ないのが普通なのに、それでもちゃんと来てくれた。そのあとはいろいろと怒っちゃったりしたけど、やっぱりハヤテくんへの想いに気づくことができたあの日だけは忘れられない。
ミコノスやアテネで偶然会ったり、その時にハヤテくんの天王州さんへの想いを伝えられて傷ついたり、アパートで一緒に住むことになったり、ルカの同人誌を手伝ったり、心霊スポットでは告白が通じなかったり。
11月に入ったころからハヤテくんの態度が変わったの嬉しいことだったと思う。だって今にして思えば私がハヤテくんを口説いたってことになるのだから、それはそれとしていい気分だし、そうでなくても彼が私のことを意識してくれるのはとてもうれしい。それからはハヤテくんのほうでいろいろあって、私たちは決別して・・・でも本当にさよならじゃなかったのはやっぱりアカリが未来から来てくれたから。そのために来てくれてくれたんじゃないかってのはちょっと都合よく解釈しすぎかしら。

「あ、ヒナギクさん。早かったです・・・ね?・・・えっと、ヒナギクさん?」

「ん〜?」

いきなり抱き着かれたことでハヤテくんは困惑している。正直、彼の反応は初々しくて可愛い。こうしているとハヤテくんの吐息とか、脈打っている鼓動の音とか、体温とか・・・彼の全てを感じることができる。それに陶酔してしまうあたり、私はすっかりハヤテくんに染まっちゃってるんだと思う。ハヤテくんの色に・・・。

「ヒナギクさん・・・。」

「ん?」

「ずっと・・・大好きですよ。」

ハヤテくんも私の色に染まってくれているのかな?春に咲く桜のように、私でいっぱいになってくれているのかな?でもそれは聞くまでもないか。これからもっと・・・いや、今日からでもハヤテくんの心を満開にしてやるんだから。

「私もずっと・・・大好きだよ。」












       『兄と娘と恋人と』  完




















































     〜ending story〜
     『All alone with you』





走る。黄金の庭を抜け、立派な城の中に入り、そしてまた金色の庭に出る。そこには黒髪の男の子が息を切らしていた。やっと見つけた。
ここに来る途中でこの子が成長したような人に会って、私に道を教えてくれた。でもそれに従わなかったのはその人ことを信用しなかったからじゃない。助けてって聞こえた。一人にしないでって伝わってきた。だから私はこの男の子の前にいて、この男の子は私の前にいる。

「な、なんで・・・。」

男の子がこっちに気づいて私を見た。そう、あの目だ。初めて見たとき、私はあの何も映らない瞳に自分を映してほしいって思ったんだ。

「君、名前は?」

「名前なんて・・・無いけど・・・。」

「ふ〜ん、そっか。」

誰かを愛することなんてできないのに、誰かに愛してもらいたかった。ずっと変わらない昨日が続いても、ここから抜け出すこともできなかった。そんなことを自嘲的に言っていたあの人がこの子の未来なら、私がこの子を愛してあげたい。こんな時が止まったような世界から連れ出してあげたい。そんな理由が無くったって・・・ずっと一緒にいたい。だからこの男の子と一緒にいるために、まずは名前をあげなくちゃ。

「ガウス・・・。」

「へ?」

「うん!ガウスがいいよ!!」

男の子はキョトンとしているけど、この名前でいいと思う。私はこの子にガウスという名前・・・心をあげるの。
立ち上がったガウスは面倒くさそうにため息をついていた。
それでもちゃんと、少しだけ嬉しそうな顔で・・・































       
 













  うなずいてくれた。