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対象スレッド 件名: Re: 兄と娘と恋人と
名前: タッキー
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Re: 兄と娘と恋人と
日時: 2014/12/22 01:31
名前: タッキー

ハヤッス!!今期ももうそろそろ終りだなぁ〜、とか思っているタッキーです。
怖がっている女の子ってもっとイジメたくなるよね!?よね!?ま、冒頭はそんな感じの話です。
それでは・・・更新!!





青く、薄いライトだけが暗夜行路を照らす。完全な暗闇ではない安心感とともに少しだけ残った感覚が限界まで研ぎ澄まされ、恐怖という目には見えないモノとなって彼女を容赦なく押しつぶしにかかる。いつ自分という存在からかけ離れた得体の知れない怪物が飛び出してくるか分からない不安。それが偽物だと分かっているはずなのに実は本物で自分に襲いかかってくるんじゃないかという想像は頭から放り出すことを許してくれない。


  ザザ・・・


それは果たして大きな音だっただろうか。それに注意を向けた彼女が目視したのは壁のように設置してある鏡だけで、光の色のせいか幽霊みたいに青白くなっている自分の姿を映し出していた。

「気味悪いよぉ・・・。」

ここで彼女がパニックに陥ることがなかったのは彼女自身がホラーなものに耐性があったからではない。むしろ逆なのだ。だから彼女が今握っている手の温もりがなければその場で泣き崩れてしまう未来は確定的だっただろう。しかしそうなる一歩手前なのも事実で、そんな彼女は元々の進行方向に視線を戻した時に見てはいけないものを見てしまった。いや、見せられてしまった。

「「ーーっ!!キャァァァアアアアアーーー!!!!!!」」

「・・・。」

天井から吊るし下げられていた骸骨の模型は部分部分が赤く染められていてすごくリアルに造られていたが、ハヤテは左右の二人とは反対に一切怖がることなく、そのまま両腕がふさがった状態でも器用に押しのけてみせた。

「えっと・・・もう通り過ぎましたよ?」

その言葉に対する反応はない。しばらく無言でプルプルと震えていた二人だったが、もう耐え切れないとでも言うように片方が叫び声を上げた。

「もうヤダ!!!なんでこんなに怖いの!!??てかなんで人間はこんなアトラクションを考えたの!!??」

「いや、それが醍醐味なんだし・・・。怖いのならアカリは待っていればよかったのに。」

「だってママが!!!ママが!!!!」

自分のことをキッと睨んできた娘にヒナギクは彼女と同じようにハヤテの腕に震える体を押し付けたまま、彼女と同じように涙目になりながらもきちんと睨み返した。

「私を散々絶叫系のアトラクションに乗せたお返しよ!!お化け屋敷は確かに失敗だったけど・・・。」

最後のほうはピッタリとくっついていたハヤテにしか聞こえないほど小さく、アカリは何を言ったのか聞き返そうとしたが再び聞こえてきた壊れたラジオのようなノイズにそれどころではなくなってしまった。二人ともできるだけ前を見ないようにハヤテの腕に額を当て、ギュッと目をつむって震えながらただしがみついていた。

「あ、出口みたいですよ。」

「「ホントっ!!??」」

この時アカリとヒナギクが綾崎ハヤテという人間の根本的な性格を頭の中で考慮するだけの余裕があればこのあとの悲劇は回避できたかもしれない。お化け屋敷という状況下で世間的に見ても美少女二人が自分の腕で怯えている。もうちょっとイジメてやりたいと思うのは俗にサディストと呼ばれる性格を内に秘めていたハヤテにとって仕方のないことだろう。
示された希望を確認するために、それこそ藁にもすがる思いで顔を上げた二人の目前には片目をえぐられた胴のない人間、つまり生首が浮いていて、そのうえ天井からは得体の知れない少しドロっとした液体がしたたってくるというおまけ付きだった。

「ーーーっ!!キャァァァァアアアアーーーーー!!!!」





  第40話 『いつか、虹の向こう側で』





お化け屋敷の中から叫び声が一つ消えてしまったのは怖さのあまり気絶してしまった者が出たということである。ハヤテは反省を通り越して落ち込んだ状態でアカリをおぶっていた。

「ま、ハヤテくんが悪いわね。」

「ホントすいません・・・。」

アカリは現在ハヤテの背で気持ちよさそうに寝息を立てているが、この男のせいでせっかくの時間を無駄にしているのは事実だった。

「でも、結局はこれでよかったのかもしれないわね・・・。」

「え?」

「さ、アカリが起きちゃう前に帰りましょ。」

「え?え!?」

前を行くヒナギクをハヤテは止めることができず、ただ慌てながらついて行くことしかできなかった。遊園地から外へ出たときにヒナギクはやっと立ち止まり、ハヤテを近くのベンチに促した。アカリは結局ヒナギクに膝枕される形に落ち着き、ハヤテはそれを眺めながら彼女の言葉を待っていた。

「ごめんね。なんか無理やり連れ帰ったみたいな感じになって。」

「いえ・・・でも急にどうして?」

ヒナギクは申し訳なさそうな顔でアカリの自分と同じ桃色の髪を撫で続けながら、ふとため息をついた。息がかかったのかアカリはくすぐったそうに寝返りをうったが、女性の膝の上という小さなスペースでも器用に180度、落ちることなく体を縦回転してみせた。

「思い出だけでいいのかな・・・て。」

「へ?」

「いや、確かに遊んで思い出をつくるのは正しいことなんだと思う。でも、それと同時に三人だけで話すこともやっぱり正しいんじゃないかって思ってるの・・・。アカリがこっちに来てから丁度1ヶ月くらいでしょ?まだまだ足りないはずなんだけれど、だけど十分なくらいの思い出は作れたんじゃないか・・・て。」

家族三人で一緒の部屋で、同じベットで寝たこと。ハヤテを巡って小さいながらも言い争いをしたこと。同じ湯船につかってたわいのない話をしたこと。アカリと過ごした日々はヒナギクにとって楽しくて、嬉しくて、それこそ自分の娘と一緒だったのだからかけがえのないもので、本当は言葉なんかじゃ絶対に言い表せないもので・・・。

「もっとアカリと一緒に行きたいところとか、やりたいことがいっぱいあるけど・・・それは今の私たちじゃなくて未来の私たちの役目だと思うから・・・。」

「ヒナギクさん・・・。」

その時、アカリがもう一度寝返りをうつと同時に彼女の瞼が軽く震えた。

「ん・・・。ママ・・・?」

「うん。あなたのお母さんの・・・綾崎ヒナギクよ。さぁ、帰りましょ。」

「・・・うん。」





























「この辺だっけ?アカリがこっちに来た場所って・・・。」

「うん。ちょうどあの自販機の前。」

12月12日19時40分、ハヤテとヒナギク、そしてアカリは三人で手を繋いだ状態で岳から指定された公園に来ていた。いや、たとえ誰かに言われずともこの公園に来ていただろう。そこには彼ら以外誰もおらず、街灯と自動販売機の光だけが淡く、そして静かに暗闇を色づけていた。

「ねぇママ・・・。抱っこ・・・。」

「え?私?ハヤテくんじゃなくていいの?」

「うん。今は・・・ママがいい・・・。」

ヒナギクとハヤテは顔を見合わせた。ハヤテにとってヒナギクは戸惑っているように見え、ヒナギクにとってハヤテはこんな状況下ですら少し残念そうにしていた。つまり、ハヤテはヒナギクがアカリを抱っこすることをすすめていた。

「分かった・・・。」

アカリが小学2年生にしては大きいせいなのか、それとも別の理由なのか、鍛えているはずのヒナギクには彼女がずっしりと重く感じた。自分と同じ甘い匂いがヒナギクの鼻腔をくすぐる。自分と同じ・・・香りがする・・・。

「アカリ・・・っ。アカリ・・・っ!」

「ごめんね・・・っ。いっぱいイタズラして・・・いっぱい困らせて・・・っ。」

「そんなこと・・・今じゃいい思い出じゃない。だから謝らないで・・・。だからもっと・・・私のことを抱きしめて。」

ヒナギクはアカリを下ろしたが、彼女たちが離れることはなかった。二人とも自分の目からこぼれ落ちる涙を拭おうともせず、ただ自分の大切な人がそこにいるという感触を噛み締め、互いの存在を確認し合った。アカリの身長の高さまでしゃがんでいるヒナギクを、ハヤテはただ見ていることしかできす、言葉こそ発していないが彼の目にも涙が滲んでいた。

「ありがとう・・・。ありがとう・・・。私・・・この時代のパパとママに出逢えて・・・とっても幸せ。」

「私も・・・私たちも・・・アカリに出逢えてよかった。アカリが・・・私たちの娘でよかった・・・。ありがとう・・・。」

ハヤテはふいに肩に手を置かれた。手を置いた相手の予想はついていたのでハヤテは振り向かったが、その代わりに表情を曇らせてしまった。

「お前は何か言わなくていいのか?」

「僕は・・・。」

正直、ハヤテの足を重くしていたのは罪悪感だった。本当は自分もヒナギクと一緒に娘を抱きしめてやりたかった。でもそれができなかったのはアカリが帰る未来に自分がいてやれない後ろめたさがあったから。ハヤテが目を伏せようとしたが、その瞬間誰かに手を掴まれた。それはさっき彼の肩に手を置いた岳でも恋人であるヒナギクでもなく、ほかならぬアカリだった。

「パパ・・・ありがとう。」

「っ!!」

「こっちにくるまではパパのことほとんど知らくて、それでパパにはきつく当たっちゃって・・・。でも今はパパのことたくさん知ってる・・・。」

アカリはハヤテの手を握るのではなく彼の手に握られる形になるようにした。手袋をしていないからお互いの体温が直に伝わってくる。

「パパ・・・大好きだよ・・・。」

大好き・・・ハヤテがこの言葉をアカリから聞いたのはもしかしたら初めてだったかもしれない。元々アカリは過剰になつきこそするが「好き」という言葉を軽々しく使ったりはしない。その点はハヤテと似通った考えがあるのだろうが、だからこそ本当の意味でハヤテに気持ちを伝えることができたのだ。涙ぐんでいる自分の娘が何を考えているのかでさえ、今のハヤテには分かる気さえしていた。

「・・・パパ、さよ・・・っ!!」

ハヤテはアカリが何も言わないように、何も言えないように、彼女の顔を自分の胸に押し付けた。

「さよならじゃない。未来の僕はきっと帰ってくる。だから・・・さよならじゃない。」

確証も、根拠も、その考えに至るためのヒントでさえ一切ない。それでもアカリがこの言葉を信じることだできたのはそうであって欲しいと彼女が望んでいたからなのだろう。いや、望んでいたのではなく、本当は最初から信じていたから・・・。

「僕はヒナギクさんとアカリをおいて・・・自分の家族をおいてどこかに行ったりはしない。アカリは僕の大切な娘だから・・・絶対に一人にしない・・・。」

「パパ・・・ありがとう・・・。」

ヒナギクが二人に寄り添い、ハヤテの後ろからアカリを抱きしめるのを見ていた岳は純粋に羨ましいと思うと同時に少し雰囲気的に味気ないと感じた。岳がしょうがないとでも言うように息をついた直後、ハヤテたちは自分たちの頭上で少しひんやりした感触を感じた。

「・・・。雪・・・。」

多くもなく、少なくもなく、突然降り出した雪は少ない光に照らされてとても幻想的で、これの光たちを贈ってくれた神様にどんなお礼をしたらいいのかハヤテたちには分からなかった。

「水を差すようで悪いが、そろそろ時間だ。」

20時まではもう3分を切っていた。アカリは頷くと残っていた涙を拭って立ち上がり、岳の言われたとおりに自販機の前に立った。岳が3つある自販機のうち一番右側の自販機を端にそって指でなぞると、自販機は白く輝くゲートへと化した。ハヤテもヒナギクも、そしてアカリもその光景をあんぐり口を開けて見ていたが、岳の声で我に帰った。

「ここに飛び込めばアカリちゃんは未来に戻れる。やりたいことはもう済んだか?」

「う〜ん・・・。そうだ!一つだけ忘れモノしてた!」

再び自分たちのもとに戻ってきてニコニコしているアカリを見てハヤテは不思議そうに首をかしげたが、女のカンとでも言うのだろうか、とにかくヒナギクは嫌な予感をビシビシと感じとっていた。

「パパ、ちょっと頭下げて。私の頭と同じぐらいまで。」

このあとアカリのすることがヒナギクの頭のなかで予測から確信に変わったが、彼女はこのときだけは何も言わずにじっと見守った。それはアカリがハヤテに心を開いてくれていることを母親として嬉しく思っていたからの行動で、ヒナギクはむしろ微笑みさえ浮かべていた。

「こう?」

「そう。それでね、パパ・・・。」


  チュ・・・ッ


ヒナギクはありきたりの方法にため息をつくことしかできなかった。取り敢えずアカリの頭に軽いチョップを入れたが反省するつもりは毛頭ないらしい。嬉しそうにニコニコと笑っていた。

「もう、今回だけだからね。」

「エヘヘ。ありがと。」

ハヤテの方は相変わらずで、自分が何をされたのか未だに理解することができすに温かさの残っている頬をほうけた顔でさすっていた。ヒナギクはもう一度アカリを抱きしめたあと、自販機の方へ彼女の背中を押した。

「アカリ・・・ありがとう。・・・大好きよ。」

「うん。私もパパとママが大好きだよ!」

アカリが光のゲートの前に立つまでにはハヤテも状況を取り戻し、ヒナギクと手を繋ぎながらアカリの後ろ姿を見守った。ヒナギクの手が震えているのか、それともハヤテの手が震えているのか、それともどちらともなのか、ハヤテとヒナギクはどれが正しいのか考えることも再びこぼれてきた涙をぬぐうことせず、笑顔を作ることだけに集中していた。そうしないと今にも泣き崩れてしまいそうだったのに、子供という存在はなんと罪なものだろう。アカリは光の一歩手前まで来るとハヤテたちと同じように涙のにじむ最高の笑顔で振り返ったのだ。

「パパ・・・!ママ・・・!大好き!!!」

「っ!!アカリ!!!」

ヒナギクが手を伸ばしたのは、もうただの自販機だった。崩れたヒナギクにゆっくり降ってくる雪はさっきとは違って残酷ささえ感じたが、その代わりハヤテの手をすごく温かく感じることができた。









   またね・・・!!









「アカリの言った通り、僕たちとアカリはまた会えます。僕たちが僕たちである限り・・・ずっとです。」

後ろから抱きしめらているヒナギクにとってハヤテの囁き声はとても安心できるもので、どっと湧いてきた疲れを癒してくれているようにさえ感じた。

「僕がずっと支えます。僕がずっと傍にいます。だからヒナギクさんも僕の傍にいてください。またアカリに会うためにも、アカリに触れるためにも・・・。僕はアカリと同じくらい、あなたが大好きです・・・ヒナギクさん。」

「うん。私も・・・大好き。アカリと同じくらい、ハヤテくんが・・・好き・・・。」

その後、彼女は泣いた。悲しかったわけでもない、嬉しかったわけでもない。寂しくて・・・泣いていた。






























どうも、
いやぁ〜、アカリちゃん・・・いなくなっちゃいましたね・・・。このSSの大雑把なあらすじを考えついたときのシナリオ通りとはいえ、なんかキャラがいなくなってしまうのは寂しいです。
未来に帰ったあとのことも書くべきなのかなぁ、とは思ったんですけど、やっぱりここで一旦終了させることにしたのはぶっちゃけ気まぐれです。こういうのもいいかなぁ、て。ちなみに小学生のアカリちゃんはもうこの作品ではもう出てこない・・・かも。
さて、次回はクリスマスの話です。できるだけ日付も合わせたいと思っています。
それでは・・・ハヤヤー!!