Re: 兄と娘と恋人と |
- 日時: 2014/12/16 17:10
- 名前: タッキー
- ハヤッス!タッキーです。
今回からはアカリちゃんの要素が強くなると思います。時系列的に彼女の誕生日の12月12日ですし。 それでは・・・ 更新!!
「パパー!ママー!早く次いこうよー!!」
「ちょっとアカリ!だから走ったら危ないって!」
「転びそうになってもパパが助けてくれるから平気だも〜ん!」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・。」
ヒナギクは前方でハヤテとアカリがはしゃいでいるのをゲッソリとした顔で見ていた。彼女たちは今、家族三人で遊園地に来ていたのだが、ヒナギクが疲れている理由は決して楽しみで昨日よく眠れなかったなどという小学生じみたことではない。もっとも、娘であるアカリの方が楽しみ過ぎて眠れなかったらしいが自分の両親を引っ張り回せるくらいに元気いっぱいである。
「ほら、次あれ乗ろうよ!!」
「いや、でも・・・。」
アカリが指差した乗り物を見たハヤテがふと後ろを振り返ってみるとヒナギクは既に固まっていて、引きつった笑みを浮かべていた。
「えっと・・・アカリ?絶叫系はたくさん乗ったから別のヤツもどうかな〜、なんて・・・。」
「え〜。でも楽しいよ〜。」
「確かに楽しいけど・・・ほら、なんていうか・・・。」
どうにかしてアカリを説得しようとするハヤテだったが基本的に娘に甘いこの男には上手い言葉が頭が浮かんでこず、そうこうしているうちに追いついていたヒナギクから声をかけられた。
「ハヤテくん。私あそこのベンチで休んでるからアカリと二人で行ってきて。」
「え、いいんですか?」
「別にいいわよ。今日はアカリのためにここに来たんだから。」
「やった!それじゃパパ、早く行こう!」
アカリは嬉しそうにハヤテの腕にしがみつき、それを見ていたヒナギクは少し温かい気持ちになれた。こんなに笑ってくれるのならしょうがない、そう思えたのだ。 しかし、アカリは別にヒナギクが高所恐怖症であることを知らなかったわけではない。もし彼女を遊園地に連れてきたのがヒナギクだけだったならアカリは絶叫系を全て我慢してヒナギクと一緒に楽しめるアトラクションを選んだだろう。しかし大好きな父親も一緒に来ているとなると事情は変わってくる。 ヒナギクはため息をつきながらベンチに腰を下ろし、ハヤテたちが並んでいるバイキングを見上げて思わず身震いした。どうして人間がこんな恐ろしいアトラクションを考えついたのかと頭の中で議論を始めていたヒナギクだが、自分とは反対に楽しそうにはしゃいでいるアカリを見ていると彼女もこちらに気づいたのかふと目があった。ヒナギクは自分の娘に手を振ってみようかと考えついたのだが向こうにはまったくその気はなかったらしい。アカリはまるで見せつけるかのようにハヤテの腕に再びしがみつき、ニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべてきた。
「!!ハヤテくん!私も乗る!!」
「え!?でも・・・。」
「いいから乗るの!!大体これくらい平気よ!!」
「やった!じゃあママも一緒だね!」
ヒナギクはこの小さい小悪魔を軽く睨みつけたが効果はなく、それからもこのようなやりとりが続いてハヤテたちが入場してから1時間経たない頃にはもう白皇の生徒会長のライフはゼロになっていた。
第39話 『Episode 133』
12月10日、ハヤテとヒナギクは岳から呼び出されて彼の家に来ていた。大切な事だと聞かされていたので二人とも気構えて玄関を開けたのだがそこから先は一歩踏み出すのもためらってしまい、なかなか前に進めずにいた。それは玄関に入った瞬間サプライズがあったとか、彼らが動けなくなるくらいの奇妙な物があったわけではない。問題はリビングから聞こえてきた声なのだ。
「ほら、早くうつ伏せになって。」
「こ、こう・・・?」
「まぁ、そんな感じ。じゃあ始めるけど・・・痛かったら言えよ?」
「うん・・・。」
ハヤテがヒナギクのほうを見てみるとその顔は当然真っ赤になっていて、声を発することもできすにただ口をパクパクと動かしていた。
「んっ・・・!もうちょっと強く・・・。」
「こうか?てか、あんまり無理はしないでくれよ?もうレナだけの体じゃないんだから。」
「・・・うん。分かってるよ・・・。」
「それと・・・レナ、エロい・・・。」
「もうっ!!なんでそんなこといきなり言うかな!?ガウスが上手なのがいけないんだからね!」
「はいはい、それじゃそろそろ・・・」
その時、ハヤテの横で動きがあった。ヒナギクが恥ずかしさのあまり我慢できず、リビングに飛び込んだのだ。
「ちょっとあなたたち!!朝っぱらからなにやっ・・・て・・・?」
「ひ、ヒナギクさん!そんな急・・・に・・・?」
ヒナギクを追いかけて同じように飛び込んできたハヤテだったが、その目に映ったのは彼らが妄想していたものとは違ったものだった。確かにレナはベットの上でうつ伏せになり、さらには顔も赤みがかかっていたが、岳のほうは何げない顔で彼女の肩甲骨のあたりを指で押していただけだった。つまりマッサージ中だったわけで、無論どちらも決して脱いではいないしハヤテたちが考えていたようなことをしていたわけでもない。
「ほう。つまりヒナは俺とレナの会話がそういうふうに聞こえたわけだ。なるほど。」
「いちいち紛らわしいのよ!バカーーー!!」
やや経って、ハヤテとヒナギクはレナが淹れてくれた紅茶をすすっていた。彼らと向いあうように岳とレナが座ると、その雰囲気はどことなく彼氏を親に紹介しているようなものに感じられた。
「それで、話っていうのはなんなんですか?」
「そうだな。本題から入ると・・・」
岳はテーブルに肘をつき、顔の前で手を組んだ。
「アカリちゃんは明後日・・・12月12日に未来に戻る。」
ガタンッ!!!
ハヤテがいきなり立ち上がり倒れた椅子の音が部屋に響いたが、ヒナギクにはその音でさえ耳に入ってこなかった。ただ自分たちに向けられた言葉が頭のなかをぐるぐると回っていて、そのこと以外なにも考えられなくなっていた。
「そんな!!なんとかならないんですか!!??」
「決定事項だ。俺は明後日の20時にアカリちゃんを未来に送る。」
「なんでそんなに急な話になるんですか!!知っていたなら早く教えてくれたって・・・」
「早く教えていれば・・・お前はアカリちゃんに何かしてやれていたか?」
「そ、それは・・・。」
ヒナギクは何も言わなかった。ただ自分の隣で進められている会話を耳の中に押し込み、目の前で心配そうな顔をしているレナから目を伏せることしかできなかった。
「ヒナの気持ちも考えろ。今お前の隣にいるヒナと、未来でアカリちゃんの帰りを待っているヒナ・・・両方のことをちゃんと考えてやれ。」
アカリが自分のことを呼ぶ。自分に無邪気な笑顔を見せてくれる。ハヤテとアカリがいれば世界中の誰よりも幸せになれる。だからヒナギクは離れ離れになってしまうのが怖かった。
(だけど未来の私は?そして・・・アカリは?)
ヒナギクはふとそう思った。当然寂しい思いをしているだろう。アカリだって未来の自分に会いたいと言っていた。もしかしたら現在の自分たちと違って何も告げられず、突然の出来事だったのかもしれない。それがヒナギク自身だったら耐えられただろうか・・・。
「分かった。」
「ヒナギクさん・・・いいんですか?」
「仕方ないじゃない。でもごめんなさい、自分勝手で。ハヤテくんは私のために止めてくれようとしたんでしょ?」
「それは・・・なんというか・・・。」
「誤魔化そうとしたってダメよ。なんとなく分かっちゃうんだから。」
ヒナギクが微笑むとハヤテの顔は少なからず赤く染まる。それはハヤテがヒナギクを好きなってからの鉄則で、本人たちには自覚のない約束のようなものだった。そしてお互いが互いの目にすいこまれるように顔を近づけ合い、やがて二人の影が・・・
「コホンッ・・・!!」
と、ハヤテとヒナギクがそんな妄想をしていたのは一瞬だった。気づけばレナは微笑ましそうにニコニコとしていたが、それとは違う感じでニコニコとしていた岳には危機感さえ感じられた。
「それじゃ、ちゃんと素敵な思い出でも作るように。」
座り直したハヤテとヒナギクの隙間が大きくなったことにクスリと笑った岳は席を立ち、最後にそう言い残してリビングを出て行った。
「紅茶・・・おかわりいる?」
ハヤテとヒナギクは同時に頷き、レナは二人のティーカップを受け取るとゆっくり紅茶を注いだ。彼女が淹れてくれたのはミルクティーで、好みなのか甘めにしてあったそれは今のハヤテたちには張ってしまった心を溶かすいい薬になった。
「本当はね・・・ガウスがアカリちゃんを送り届けるわけじゃないの。」
「え?」
「アカリちゃんが現代に来たことに関してガウスは一切関わってない。だから・・・本当の意味で、アカリちゃんはハヤテくんとヒナちゃんに会いに来たんだよ。」
紅茶のせいだろうか。ハヤテたちの体は今、とても温かかった。それなのに胸がきゅうっと締め付けられるような感覚と込み上げてくる熱いものに、ヒナギクは抑えきることのできなくなっていた涙を拭っていた。
「これ、遊園地のチケットだから・・・よかったら使って。それともやっぱり家で過ごしたかったりする?」
「ううん。ありがとう・・・。三人で一緒に行くことにする・・・。」
三枚のチケットを受け取ったヒナギクを見てレナはおかしそうに笑っていた。
「お礼を言うのはこっちの方なんだけどね。ガウスのこと・・・本当にありがとう。それじゃあ私は自室に戻るけど、まだゆっくりしていっていいから。」
ドアが閉まる音がしてヒナギクの嗚咽だけが部屋に響くようになると、ハヤテはそっとヒナギクを抱き寄せた。
「ありがとう・・・ガウくん、レナ・・・。ありがとう・・・アカリ・・・。」
「僕たちもアカリに負けないくらいたくさん大切なものを贈りましょう。それが今の僕たちがアカリにしてやれることです・・・。」
「うん・・・。」
「ふーーーっ!!楽しかった!!!」
「ひ、ヒナギクさん・・・大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ・・・これくらいなんともないん・・・だから・・・。」
バイキングから降りたアカリはにこやかな顔でのびをし、それとは反対に再びゲッソリしているヒナギクはハヤテに支えられていた。
「まったく・・・なんでハヤテくんとあの子はあの恐ろしい乗り物が平気なのよ・・・?」
「ま、まぁアカリも喜んでましたし・・・結果オーライじゃないんですか?」
支えられて嬉しい状況だったとはいえやはりこの発言はヒナギクにとって面白くなかった。ハヤテが痛がるくらい彼の腕に自分の腕を絡ませたヒナギクはジト目で自分の彼氏を睨みつけた。
「そういえばハヤテくんっていつもアカリの味方ばかりするわよね?」
「い、いや!そんなことは!!ていうかヒナギクさん痛いですよ!!」
「もぉ〜、二人とも何してるの!!」
「「!!」」
気づけばキツく組まれていた腕は解かれ、ハヤテは右手を、ヒナギクは左手を強く引っ張られていた。
「今日はずっと一緒なんだからはぐれちゃダメだよ!!」
自分たちはアカリからどれだけたくさんの事を教えられたのだろうか。どれだけ大きなものを貰ったのだろうか。無邪気に笑うアカリを見てハヤテとヒナギクは互いの顔を見合わせ、彼女と同じように思いっきり笑った。
「よし!!それじゃアカリは次どこに行きたい?」
「う〜ん、もう絶叫系にはたくさん乗ったし・・・じゃあ、パパとママの行きたいところ!!」
ハヤテの右手とアカリの左手、ヒナギクの左手をアカリの右手、三人の繋がれた手を見て家族じゃないと疑う者はいないだろう。太陽は高くのぼり、温かい光が降り注いでいる。三人を包む明かりを見て、彼らが幸せではないと思う者は・・・きっといないだろう。
どうも サブタイの「Episode 133」というのはGoogle先生によると「繋いだ手」とか「光」だそうです。絶対違うと思いながらもいい感じだったので使っちゃいました。 それにしても岳くんとレナちゃんが妙に大人なポジションなのは気のせいでしょうか?実はチャットルームでのやり取りをネタにしたんですが・・・それはまぁ、どこか遠くに置いておくということで。 ちなみに冒頭のアカリちゃんの行動はヒナさんと一緒に乗るための強攻策的な?実は薄々状況を感じとっていて三人でずっと一緒にいたいと考えていたりします。そんなアカリちゃんも次回で・・・。ま、このSSから後日談的な感じで書く予定なのでもう登場しないということはないです。てか最終的に彼女が主役の話を書くつもりです。 それでは・・・ハヤヤー!!
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