Re: 兄と娘と恋人と |
- 日時: 2014/12/10 02:01
- 名前: タッキー
- ハヤッス!タッキーです。
やっと試験が終わって久しぶりの投稿です。ていうかこの遅筆をどうにかしたい。 それでは・・・ 更新!!
「今日・・・誕生日か・・・。」
よく手入れされている金色の髪はまだ二つに結われていない。ベッドの上で寝巻き姿の三千院ナギは目が覚めてすぐ天井を仰ぎ、ふとそんなことを呟いていた。自分の体温でほどよく温められた布団は寒さの深くなってきたこの季節にはまるで心地よい魔法でできているのかのようで、当然ナギがその魔力に引き込まれないはずがなくしばらくの間布団のなかでモゾモゾと体を動かしたあと、結局彼女はそれだけの運動すらもやめてしまった。
「寝よ・・・。」
「起きなさい!まったく、今日はせっかくの誕生日なんですから早く起きたっていいじゃないですか・・・。」
「せっかくの誕生日だからこうして二度寝するのだ。」
「もぉ、昼からアパートで皆さんがパーティーを開いてくれるんだから早く支度してください。ただでさえ起きるのが遅いんですからもう
時間がないんですよ?」
「う〜〜。」
しぶしぶベッドから這い出たナギはマリアに言われたとおり着替えるため、タンスから襟の丸い藤色のワイシャツと灰色のセーター、赤い
スカートを引っ張りだし、それらに身を包んで横縞のニーソックスに足を突っ込んだ後、最後に黒いマフラーを首に巻いた。着替えているうちに眠気が若干覚めたナギは鏡で寝癖などおかしなところがチェックすると勢いよくドアを開けて玄関へ向かった。
「ほらマリア、早く行くぞ!」
「はいはい。でもそんな走ると危ないですよ。」
マリアはずっと待っていた自分をさも当然のように追い抜いていったナギに思わずため息をついてしまった。しかしそれはナギの行動にで
はなく彼女の素直じゃない性格にだ。
(なんだかんだ言って楽しみしてるんですよね〜。)
マリアが外へ出ると息が白く濁り、寒さが肌を刺した。扉を閉めて振り返ってみればナギの姿は既に小さくなっており、このままでは迷子
になってしまうかもとそのツインテールを揺らす少女を急いで追いかけた。
(誕生日おめでとう・・・ナギ。)
第38話 『アスタリスク』
ナギが屋敷を出た頃、アパートでは飾り付けも無事終わり、マリアを除いたナギを祝う側の人たちが次々に集まっていた。
「ヒナちゃ〜ん、おはよ〜!!」
「あ、レナ!おはよ〜。」
ちなみにこのアパートに集まっているのはほとんど白皇の生徒でレナとは少なからず面識があったのだが、歩のように別の高校に通ってい
たりルカように高校に通ってすらいない者たちにとっては初対面だったので当然彼女たちの頭の上にクエスチョンマークが浮かび、解決策
として一番親しそうなヒナギクに質問することを選んだ。
「ねぇヒナさん。あの美人さんはいったい誰なのかな?」
「え?あぁ、歩とルカは初対面だったわね。この人は竜堂レナさん、最近白皇に転入してきたの。レナ、こっちは私の友達の西沢歩と水蓮
寺ルカよ。」
「よ、よろしくお願いします・・・。」
「「こ、こちらこそ・・・。」」
ヒナギクに対する人懐っこい態度が一変しておどおどとしているレナに歩たちもペースを崩されて曖昧な挨拶しかできなかった。
(ヒナ?私たち何かしたっけ?)
(えっと・・・レナって初対面の人にはすごく緊張するっていうか・・・)
「要するに人見知りなんだね。それならこの私に任せるといいんじゃないかな。」
「!!」
ヒソヒソと話していたルカとヒナギクの間に急に入ってきた歩は何故か得意気な顔をしていて、ヒナギクが気づいたときには歩は既にレナ
と向い合った。
「レナさん・・・?」
「は、はい!!」
「私はヒナさんの友達の西沢歩。どうぞよろしく。」
「は、はい!よろしくお願いします!」
(な、なんで上から目線なのかしら?)
(さ、さぁ?)
ドヤ顔を決めている歩はレナに手を差し出し彼女と握手を交わすと、その手がまだ震えていることに気がついた。歩はしょうがないとでも
言うようにため息をつき、再びレナに話しかけた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。これから私たちは友達なんだから・・・。」
「西沢さん・・・。」
「私のことは「歩」って呼ぶといいんじゃないかな?私も君のことを「レナ」って呼ぶけど・・・いいかな?」
「は、はい!」
(だからなんで上から目線なのかしら?)
(さ、さぁ・・・?)
なんだかんだで自己紹介も終り、しばらくしてレナがとけこめるようになるとナギたちが来るまでの暇つぶしは当然ガールズトークになっ
たのだが、彼氏持ちが二人もいると自然に話がその方向へ持っていかれ、ヒナギクは相変わらず質問をされる度に顔を赤くさせていたがそれとは反対にレナは嬉しそうに質問に答えていた。
「それにしてもレナが岳さんと付き合ってたなんてね・・・。でもなんだか納得できるかも。たしかにお似合いだもの。」
「えへへ。そうかな?」
「そういえばガウくんはどうしたの?あなたたちが一緒にいないのって少し珍しい気もするんだけど・・・。」
「ふぇ!!??が、ガウスは・・・その・・・少し片付けてから来る・・・かも・・・。」
「?」
ヒナギクはレナが何故いきなり顔を赤くさせて俯いてしまったのか全く分からなかったが、歩とルカはどうやらピンときたようだ。ルカは
すぐさまヒナギクの肩に手を引っ掛けてレナから顔をそらさせ、歩はレナに絶対に聞こえないような小さな声でヒナギクに耳打ちした。
(ヒナさん。これは多分ゴニョゴニョというわけで・・・きっとホニョホニョってわけなんだよ・・・)
(へ!?そ、そうなの!?)
(きっとそうよ。だからヒナ、ここはあえて何も言わずに大人の対応をしてあげるの。大人の対応を・・・。)
(わ、分かったわ。やってみる。)
レナがまだ俯いていたのは幸いだった。振り返ったヒギクは動揺を悟られまいとしていたがどうしても顔が赤くなってしまっていて、横に
いる二人からは思い切りバレバレな状態だった。彼女は生徒会長ということもありこういうことは得意であるはずなのだが、内容が内容だ
けにハヤテとのシチュエーションを想像してしまうので緊張するなというのはやはり無理な話だった。
「レナ・・・。」
「な、なに・・・?」
その瞬間ヒナギクも、その横にいるルカと歩も自分の心臓の音がとてもうるさく聞こえた。それはヒナギクの声に半分ほど顔を上げたレナ
が上目遣いの状態で自分たちを見ていて、それにときめいてしまったからだと三人とも適当な理由をつけて逃げていたのだが何にでもタイ
ムリミットはある。そしてついにヒナギクはその重たい唇を開いた。
「その・・・おめでとう・・・。」
「・・・!!いや・・・その・・・あ、ありがとう・・・。」
彼女たちを取り巻く空気は確実に重くなった。レナはさらに顔を赤くさせてまた俯いてしまい、ヒナギクたちはどうすることもできずにた
だオロオロしていた。
(ど、どうするのヒナさん!?)
(わ、私に聞かれたって分かるわけないじゃない!)
「さっきからお前たちは何してるのだ?」
「・・・っ!!いやナイス!!ナイスタイミングだよナギちゃん!!」
「へ?」
ナギが来たのを口実に気まづい空間を強制的に崩壊させた歩は「まぁまぁ」などの曖昧な言葉でナギの疑問を受け流し、ほかのメンバーも
今のうちに場所を移していた。
「さ、ナギちゃんはここで待機。五分経ったら共同スペースに来てね。」
「う、うん・・・。」
「誕生日、おめでとーーーう!!!」
五分後、ナギが共同スペースに入ると部屋は見事に飾り付けられていて、中央のテーブルにのっているバースデーケーキを囲むように今日のためアパートに集まった人たち全員が一斉にクラッカーを鳴らした。けむり臭さも気にならず、嬉しさがこみ上げてきたナギは思わず一番近くにいたアカリを抱きしめた。
「えへへ。ナギお姉ちゃんお誕生日おめでとう。」
「アカリ・・・ありがとう。」
アカリはナギの腕をほどくとポケットから小さな立方体の箱を取り出して彼女に差し出した。それは無論誕生日プレゼントであり、そのあとも次々とナギの腕のなかにはプレゼントが集まっていき、あっという間にいっぱいになってしまった。
「さぁナギちゃん!私からのプレゼントを受け取るが・・・」
「いや、いいです。」
「なんでだよ!なんで誕生日プレゼントを即断るんだよ!?」
「いや、だって・・・」
パーティーでテンションが上がりまくっていた理沙のプレゼントをナギが一蹴した理由は一つ。なんだか面倒くさそうだったから。しかし理沙の脇に置いてある箱はナギの身長と同じくらい大きくて、もはやどうやって持ち込んだのか分からない。つまりろくなモノではないとナギが考えつくのは当然のことなのだ。
「うわ〜ん!アッカリーーン!!ナギちゃんがいじめるよ〜!。」
「別にいじめてねぇよ。」
理沙に泣き疲れてもアカリは鬱陶しがることはなく、むしろ優しい姉のような感じでそっと彼女の頭を撫でてあげていた。
「あんな大きいプレゼント渡されたら誰だって困っちゃうよ。ほら、あとで私が美味しいもの作ってあげるからそんなに落ち込まないで・・・。」
「う〜っ!!・・・アッカリーーーン!!!」
高校生が小学生に慰められているのもどうかと思うが、誰一人この状況に違和感を感じた者はいなかったのはアカリがそれだけいい子に育っていることを全員が理解していたからだろう。まぁ、それでも理沙の年上としての威厳は十分失われているのだが・・・。 ナギがプレゼントを全て受け取って、ヒナギクが理沙を叱り、アカリに甘やかさないように注意したあと、全員が庭のほうに並べていた料理に待ってましたとばかりに向かって行った。それはアパートの住人全員で作ったもので、豪華なものから誰でも簡単にできそうなものまで、様々な料理が白いテーブルに色をつけていた。
「それにしてもアカリは大人だな。やはりヒナギクとハヤテの娘だからなのだろうな。」
「もうナギったら。それおだててるつもり?あと食べながら話すのは行儀が悪いわよ。」
ローストビーフをつまんでいたナギは自分の思ったことをそのまま伝えたのだが、ヒナギクにとっては少しこそばゆい話だった。少し顔を赤らめてアカリの方を見るとハヤテに食べさせてたりなどと親子にしては少し過剰なスキンシップをとっていたのだが、ヒナギクも自分の娘の成長が嬉しくて今日ぐらいはと見逃してやっていた。
「そういえばヒナギク・・・。」
「ん?」
ヒナギクが再びナギのほうを向くと変にニコニコとしていてなんだか嫌な予感を感じた。そう、まるで何かからかいのネタを見つけられたかのように・・・。
「お前はいつアカリを生む予定なのだ?」
「っ!!な、何言ってるのよ!!私とハヤテくんはまだよ!ま・だ!!」
「ほう・・・。で、何が「まだ」なんだって?」
「何がって・・・それは・・・その・・・。」
「ヒナちゃん顔赤いよ〜。どうしたの〜?」
「れ、レナ!!??」
頭がいっぱいだったヒナギクが気づかなかっただけなのか、それともレナがヒナギクに気づかれないように忍びよっていたからのか、とにかく突然現れたレナに対してヒナギクは飛び退くように距離を取ってしまったが、レナのほうはあまり気にしてはおらずむしろ楽しそうにニコニコと笑っていた。
「あ、ナギちゃん誕生日おめでと〜。」
「あ、ありがとうございます・・・てかレナさん、酔ってません?」
「ん〜?別に酔ってないよ〜。」
レナの頬はほんのり赤く染まっていて、少し喋り方もぎこちない。飲み物にアルコールのあるものは当然なかったのだが、料理に入っていた少量のお酒で酔ってしまったらしい。
(どんだけお酒に弱いのよ・・・。てかどうするのよ?)
(私に言われたって。とりあえず岳さんを呼んだ方がいいのではないか?)
ナギの意見に従い岳を探すためにヒナギクは顔を上げようとしたが、その前にレナに後ろから抱きつかれた。ここまでならまだ良かったのかもしれないが、レナは酔いが回っていたせいかヒナギクに対して少しぐらいを通り越しているスキンシップをしてきた。
「あっ・・・!!ちょっとレナ!?どこさわって・・・ひゃん!!」
「お、ヒナちゃんいいねぇ。でもそんなんだとハヤテくんみたいな男のからはイジメられちゃうよ〜。」
「い、イジメる!!??」
レナの言葉に反応したのはナギだった。ヒナギクは既に猛攻によってちゃんと話すこともできず、ナギは少し刺激の強い光景から目を離せなくなってしまっていた。
「ガウスなんか普段あんなに優しいのにいざとなるとすっごいイジワルなんだよ〜?昨日なんかいちいち実況するし、私が疲れてくったりしてるのに朝まで寝かせてくれなかったし・・・。」
「実況!!??朝まで!!??」
「やっ・・・!!だからなんでそんなとこ・・・んっ!!」
レナの手は動きを止めるどころかどんどん危ない感じの手つきになっていく。ヒナギクがそろそろ限界になってきたのを察したレナは自分の指先にさらに力を込めた。・・・が
「それからガウスったら私にこん・・・モガッ!!!」
「人前で何言ってんだよ!!あ、ヒナ大丈夫か?ったく本当にすまねぇな。レナにはちゃんと言っとくから。ほら、行くぞ!!」
慌ててレナを口に手で蓋をした岳はナギたちが見たことのないほど取り乱していて、その顔はヒナギク以上に赤くなっていた。やっと解放されたヒナギクは息をきらしながらも岳にコクンと頷き、彼らがアパートに入っていく、正確にはレナが岳に引きづられていくのをしばらく見ていた。
「だ、大丈夫か?」
「なんとか・・・。」
ナギは顔がまだ赤く火照っているのを誤魔化すかのように、最初から持っていたジュースを一息に飲み干した。
騒がしくもなんだかんだで楽しかった誕生日パーティーも終り、ナギはアパートから星空を眺めていた。寝巻き姿だったが、今日は比較的温かくてストールを羽織っていれば寒さはそこまで問題にはならなかった。
「お嬢様、ホットミルクをご用意いたしました。」
「ん?ああ、ありがとう。」
ハヤテがホットミルクを持ってきたのはナギが直接注文したからだった。昼間あれだけはしゃいだというのに目はパッチリと冴えていて、無言のまま縁側にたたずんでいた彼女が流れ星でも見れないものかとかれこれ30分ほど空を見上げていたところにハヤテが何か飲み物はいるかと聞いてきたのだ。
「今日はとても楽しかった。ありがとう、ハヤテ。」
「いえ、大切なお嬢様のためですから。」
ハヤテのジゴロはやはり治ることはないらしい。ナギはため息をつくと不思議そうな顔をしているハヤテに注意した。
「お前、そんな思わせぶりなことを言ってるといつかヒナギクから刺されるぞ?この私があれだけ応援してやったんだから浮気なんて言語道断だからな。」
「わ、分かってますよ・・・。」
一応岳からボコボコにされた前科があるので苦笑いを浮かべることしかできないハヤテにナギは再びため息をつき、よっこいしょと年寄りくさい台詞とともに立ち上がって夜空に向かって両手を広げると大きく深呼吸をした。冷たい空気が肺に送られ、気持ちいいと感じるくらい新鮮な酸素が体中に行き渡るが感じられる。こっちを向いていて欲しいけどあっちを向いていて欲しい。そんな素直になれずにいた気持ちもこうすることでちっぽけな世界のほんのちっぽけな気持ちなんだと感じずにはいられなかった。
「なぁハヤテ・・・。私が名前を呼んだら・・・また、ちゃんと助けに来てくれるか?」
「え?もちろんですよ。僕はお嬢様の執事ですから。」
「ヒナギクと私・・・同時に名前を呼ばれたときは?」
そこにはナギが予想していたほどの間はなかった。それはその分ハヤテがヒナギクのことを大切に思っているということで、それが素直に嬉しい気持ちと、やっぱり少し寂しい気持ちがあったのだが、ナギの中には彼女自身が自覚できるくらい、不思議と嫉妬という感情は存在していなかった。
「多分・・・ヒナギクさんのほうに行ってしまうと思います。」
「だろうな・・・。」
ナギがあと少しこうしていたいと思ったのは自分の執事が離れていってしまう寂しさがあったからでも、かつての想い人に恋人ができたことにたいする嫉妬でもない。ただこの場所が心地よかったから・・・ただ、それだけ。
「そういやアカリとヒナギクは?」
「お風呂ですよ。西沢さんやレナさんも一緒です。」
「ふ〜ん。」
ナギが気まぐれを起こしたのも同じような理由からだろうか。彼女は振り返ってハヤテの胸のあたりをつつくとまるで小悪魔のようにイタズラ気に微笑んだ。
「ハヤテ。お前とヒナギクはいつアカリをつくる予定なのだ?」
「はへ!!??ちょっ!!何言ってるんですかお嬢様!!」
ナギが明日からちょっと素直になれるかもと思ったのも、きっと・・・同じ理由。ナギとハヤテは彼らの頭上に一つの光が尾を引いていたことに気づかなかった。
どうも。 今回はナギちゃんのキャラソン「アスタリスク」を使わせていただきました。 基本的にナギちゃんの話のつもりだったんですがレナちゃん要素が濃くなってしまいましたね。あとハヤテが少ない。ちょっと反省しています。でもレナちゃんがつい口走って岳くんが慌てる話は前々からやりたかったですし、ナギちゃんおめでとうは気分的に冒頭でやっちゃったので・・・。 さて、なんだかんだ言って確実に完結に向かっているこのお話なんですが、多分あとアフターも含めて5,6話だと思います。(多分決定)相変わらず遅筆ですし拙い文ですか最後まで付き合っていただけると嬉しいです。 次回からはついにアカリちゃんが・・・な、お話です。 それでは ハヤヤー!!
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