Re: 兄と娘と恋人と |
- 日時: 2014/11/07 02:44
- 名前: タッキー
- ハヤッス!タッキーです。
やっと今回からほのぼのとした感じになると思います。ハヤヒナとアカリちゃんの絡みを多くしていきたいと思っていますが、前回でレナちゃんも復活したので彼女もたくさん出していきたいです。 ちなみに今回、本文はちゃんとハヤテたちを出していきますが、冒頭は岳君とレナちゃんだけです。ホントにこれでいいのか? それでは・・・ 更新!!
「ちょっと待ってろよ?」
「え?あ、うん・・・。」
自分の家に帰ってきた岳はレナを玄関に待機させると、急いで家に飛び込んで片付け始めた。掃除などは十分すぎるほどしていたのだが、さすがに空き家に家具を置いただけの家に彼女を入れるような事はできなかった。
「よし、入っていぞ。」
「お、おじゃまします・・・。」
たった5分足らずで出てきた岳に促されて入ったレナは正直おどろいた。彼女は昔の岳しか知らないので部屋がぐちゃぐちゃになっているものと思い込んでいたのだが、それを差し引いても家の中は信じられない変貌を遂げていた。
「あ、分かった!ガウスったら業者の人呼んだでしょ?」
「なわけねぇだろ。全部俺がやったっての。」
レナは信じられないという顔でもう一度部屋を見渡した。フローリングは全て新品に張り替えられていて、カーペットはさっきまで日に干していたかのようにふかふか。ソファなど、その他の家具にもシミ一つなかった。
「ガウス・・・。」
「なんだよ?」
「ウソはよくない。ガウスが掃除なんかしたら余計散らかるか爆発オチにしかならないし・・・。」
冗談抜きでそう言ってくるレナに岳は大きくため息をついた。これ以上は何を言っても無駄な気がしたので岳はてきとうに流して昼食でも作ろうとしたが、予想通りレナはそれを全力で止めに入った。
「ちょっと正気なの!?ガウスがご飯なんか作ったら死人がでるよ!?」
「俺だって学習ぐらいするっての!一言多いんだよ、まったく・・・。」
頭に若干青筋を浮かべた岳は絶対に料理をすると譲らず、レナも彼に料理をさせまいと必死だったので収集がつかず、結局二人で料理することになった。つまり岳はレナの監視のもとで料理をすることになったのだが・・・
(あれ?手つきが昔と全然違う。ていうかすごく良くなってる・・・。)
「どうした?こっちはもうできたぞ?」
「え!?ちょ、ちょっと待って。私もすぐできるから。」
レナは別に岳の手つきに見とれて作業が止まっていたわけではない。岳が純粋に早いのだ。 すぐにレナも料理を完成させ、テーブルに並べられたのはサンドイッチとスクランブルエッグ、それから温野菜のスープといたってシンプルなものだった。しかしレナはまだ岳の料理の腕が信用できず、彼の作ったサンドイッチには手をつけなかった。ナギ以上に家事が苦手だった昔の岳を知っていれば当然の反応なのだが、その岳もレナに対抗するようにスクランブルエッグとスープには手を出さず、サンドイッチだけをちまちまかじりながらレナが自分の料理を食べるのを待っていた。
「いい加減信じて食べてみたらどうだ?」
「ガウスだって私の作ったの食べてないじゃん。」
「レナが食べたら俺も食べるよ。」
「むぅ〜。」
しかし、レナはいつまでたっても不服そうな顔で料理を睨みつけていたため、業を煮やした岳は自分のサンドイッチを彼女に差し出した。もちろん食べかけだ。
「ふえ?」
「ふえ?じゃねぇよ。いいから口を開けろ。」
この美味しい状況にレナは思わず口を開けてしまいそうになったが、そうにか踏みとどまることができた。
「口移しのほうがいいならやってやるぞ?」
「そ、それはやめて!食べるから!食べますから!」
岳に上手くのせられて慌てて口を開き、彼のサンドイッチを少しだけかじったレナは目を見開いた。
「どうだ、うまいだろ?」
確かに、それは本当に野菜などの具をパンで挟んだだけの料理とは思えないほど美味しかった。しかし関節キスという事実と、岳のいたずらな笑顔ですぐに味が分からなくなってしまい、レナは真っ赤になった顔でコクリと頷くことしかできなかった。
「さて、久しぶりのレナが作ってくれた料理はどうかな〜?」
今の岳に料理の腕で勝っている自信がないことやさっきの恥ずかしさなどで、レナは岳が多少のいじわるを言ってきても何も言い返せなかった。それでもやっぱり自分の作った料理に対する反応には気になるわけで、うつむいたままコメントがくるのを待っていた。しかしいつまでたっても一言も喋ってくれないのでふと顔を上げてみると、今度は岳が下をむいて肩を震わせていた。
「え!?なに!?もしかして美味しくなかった?」
レナの言葉を岳は頭を左右に振って否定したが、それでも顔を上げようとはしなかった。そんな岳の頬に手をやったレナは、彼が泣いていることに気づいた。
「ごめん・・・すげぇ美味しかった。でも、それ以上に懐かしくて、そう思うと涙が出てきて・・・ごめん・・・。」
レナはこんなに涙もろい岳を初めて見た。どんな時でも泣くことのなかった彼を知っていたので当然驚いたが、それ以上にレナは嬉しさを感じていた。
「謝らなきゃならないことなんて一つもないでしょ?むしろ、私はガウスがちゃんと泣けるようになったことが嬉しいんだから。あ、でも可愛い顔が崩れちゃうのは少し残念かな?」
「だから一言多いっての・・・。」
岳が笑顔になったのを確認したレナは再び椅子についたと思いきや、すぐに岳に顔を近づけた。
「そういえば、何か言うことがあるんじゃない?」
岳は降参したようにため息をつき、もう一度レナに笑顔を見せた。
「やっぱレナの料理が一番美味いよ。」
「えへへ。ありがと。」
「ま、客観的に見たら俺の料理のほうが美味しいけどな。」
「な、なにおう!!」
これからはずっと一緒だと、この気持ちは永遠だと、小さな家のリビングから聞こえる楽しげな声が、それを本当だと伝えていた。
第34話 『兄と娘と恋人と』
11月23日、ハヤテとヒナギクは山小屋から帰ったあと、ハヤテがナギにさんざん怒られたのを除いて、いつも通りに白皇に登校していた。ハヤテたちは付き合っていることを秘密にするつもりはなかったが、彼らの間にいろいろなことがあったのを知らない者がほとんどだったので誰も尋ねてこず、結果的に周りには知られていなかった。ハヤテが一週間以上休んだのも三千院家の執事だからということで、それほど問題にはなっていなかった。 いつものようにクラスメートと挨拶を交わしたハヤテが席につくと、丁度よくドアが開いて岳が入ってきた。
「あ、岳さん。おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
しかし岳は自分の席にはつかず、クラスの全員がいるのを確認してから教壇にたち、そのままホームルームを始めると言い出した。全員が疑問に思っても口を出さなかったのは彼が若干不機嫌そうだったからだが、ヒナギクとしては自分の姉の所在が気になるわけで思い切って質問した。
「ガウ君、ホームルームを進めてくれるのは構わないんだけど、お姉ちゃんは?」
「インベスターYなら保健室で二度寝だ。黙らせるために酒に睡眠薬盛ったから、多分昼までは起きねぇよ。」
(い、インベスター?てか睡眠薬って、お姉ちゃん何やらかしたのよ!?)
雪路ではなく、何食わぬ顔でさらっと答えた岳に同情したヒナギクはそれ以上追求することはせず、黙ってホームルームを受けることにした。
「さて、みんな知ってると思うが今日は午後に授業参観があるから、保護者の人たちに迷惑かけないようにな。三人娘は特に。」
「ちょ、ちょっとそれはヒドくないか!?」
「そうだ!我々が何をしたと言うんだ!?」
「小学校の時からサプライズだとか何とか言って結局ビビらせただけってのが多々あると聞いただけだ。」
「「「・・・」」」
彼女たちを昔から知っている者は諦めたようにため息をつき、高校からの付き合いの者も呆れ顔になっていた。岳は美希と理沙を言葉で撃沈させたあと、コホンと一つ咳払いをして教卓に両手をつき、真面目な顔を作った。
「それから、今日からまた転入生がくる。突然だが仲良くしてやってくれ。」
クラスが一瞬静寂に包まれたあと、驚きや歓喜の声が上がり、瞬く間に騒がしなった。
「ちょっと、そんなこと私も聞いてないんだけど!?」
「そりゃ、今日の朝に手続きしたからな。」
「いやいや、そんなことって・・・」
生徒会長である自分に知らされていなかったのが納得できず、岳を問い詰めようとしたヒナギクを止めたのはハヤテだった。ヒナギクの肩に手を置いたハヤテは首を横に振り、もっとも納得できる言葉でヒナギクを落ちつかせた。
「岳さんですから。」
「・・・。そうね、なら仕方ないわね。」
「それで納得されるのも何なんだが、ま、いいや。ホントに急な話だったから理事あたりにしか通してないんだ。ごめんな。」
そう言った岳はいつものようにヒナギクの頭を撫でようとして、寸前でその手を止めた。
「そういやヒナはもうハヤテのものだったな。わりぃ。」
「ちょ、ちょっと!!なんてこと言うのよ!!」
岳の声はホントに小さく、ヒナギクにしか聞こえていなかったのだが、それでも恥ずかしさは申し分なくてヒナギクは自分の彼氏であるハヤテとしばらく目を合わせることができなかった。
「はいはーい!その転入生って男の子?それとも女の子?」
ハヤテたちのおかげで少し話しかけやすくなった岳に、真っ先に質問したのは泉だった。
「女の子だ。」
「「「「おぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」」」」
男子女子共に歓声を上げたが、特に男子のテンションの上がり方は尋常じゃなかった。3週間程前に転入してきた岳が男だからというのが一番の理由だろうが、それがなくてもクラスの女子が増えるというのは大抵の男子には嬉しいことである。 いつまでも待たせるのも悪いので、岳はクラスに静かにするよう呼びかけ、ついでに言うと男子は睨んで無理やり黙らせて、転入生に入ってくるよう呼びかけた。 ドアが開いてまず目に入ったのは白と見間違えるような透き通った美しい桜色。クラス全員が息を飲み、入ってきた少女の容姿を見た者は岳を初めて見た時と同じように、まるで神様のようだと思った。ただ、そう考えている時間は極端に短かった。
「えっと・・・レナ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫・・・かも。」
岳とは違って、そのレナと呼ばれた少女は右手右足、左手左足を一緒に動かすというまるで旧世代のロボットのようにギクシャクした足取りで教卓までいき、一回クラスを見渡すと、少し怯えたような顔をして俯いてしまった。気を利かせた岳が黒板に名前を書いたのだが、レナは一向に顔を上げなかった。
「何やってんだよ、ほら、自己紹介しろって。」
「だ、だって・・・こんなにたくさん人の前に立つの初めてなんだもん・・・。」
「たった30人ちょっとだろ?早くしないと授業が始まるぞ?」
「う〜・・・。」
もちろん彼らは小声で話しているので会話は周りに一切聞こえていない。レナもようやく顔を上げて、自分に対する視線に混乱してフラフラになりながらもなんとか自己紹介を始めた。ちなみに、めちゃくちゃ大声で。
「り・・・り、竜堂(りんどう)レナです!!!よ、よろひくおねがいしましゅ!!!」
(噛んだな・・・。)
(うん。噛んだね。)
(噛んだわね。)
レナに対するクラスの第一印象が人見知りに決定した瞬間だった。岳は大きくため息をついて頭を抱え、レナはそんな彼に助けてくれと真っ赤な顔を向けていた。
「えっと・・・ということで今日からこのクラスの仲間だから、みんな仲良くするようにな。なんか質問したい人。」
バッ!!!
挙手をしたのはクラスの半分以上で、そのことにレナの顔は青ざめ、岳は再びため息をつくと取り敢えず元気よく手をピョコピョコさせている泉を指名した。
「えっと・・・レナちゃん?は岳君とはどんな関係なんですか?」
もう少しぼかして質問することもできたのだろうが、残念ながらこの委員長はそんな技術は持っていなかった。レナは当然呂律が回らなくなり、岳すら顔を赤らめて俯いていた。
「えっと・・・えっと・・・ガウスはその・・・だから・・・その・・・・」
レナが口から言葉を一つ漏らすたびに彼女への視線が集中していく。岳も助けを出せる状態ではなかったが、そんな彼と彼女に助け舟を出したのはヒナギクだった。
「恋人・・・なんでしょ?」
「な、なんで知ってるの!!??ていうかそんなこと恥ずかしくてこんな多勢の前じゃ・・・」
「あら、私だったらちゃんと恋人がいますって言えるわよ?ね、ハヤテ君。」
「「「「!!!!!!!!」」」」
岳は久しぶりに自分の頭が状況の処理に追いついていないのを感じた。
「ちょっ!!ヒナギクさん、こんな場面で言わなくても!!!!」
「どういうことだ綾崎!!!私というものがありながら!!!」
「黙れ変態!!!あぁ、もう!分かりましたよ!言えばいいんでしょ!!みなさんの考えている通り僕とヒナギクさんは付き合ってるんですよ!!!」
ヒナギクにもやっぱり恥ずかしさがあったのだが、ハヤテの言葉でそれはどこかへ消えてしまい、彼女は満足したように微笑んだ。クラスの中ではおめでとうと応援する者が大半で、納得できていない者も彼らが相思相愛であることぐらい見ればすぐに分かったので異論を唱える者はいなかった。
「えっと・・・私はどうしたらいいのかな?」
「取り敢えず席につけ。授業が始まる。」
状況に置いていかれたレナは取り敢えず助かったと思ったが、どんなに衝撃の出来事があったとしても転校生への興味がなくなるわけではないので、1時限目が終わった後は当然質問攻めに遭い、岳に助けられるまで目をクラクラと回していた。
「ったく、どんだけ人見知りなんだよ。」
「仕方ないでしょ、どうしても緊張しちゃうんだから・・・って、そうだ!」
「?」
レナははっと顔をあげると、ちょうど前の席でさっきまでの自分のように質問攻めに合っているヒナギクの肩をちょんちょんとつついた。
「あ、あの・・・さっきはありがとう。」
「え?あ、別にいいわよ。私はここの生徒会長だから困っている生徒を見過ごせないの。ていうか、なんか偉そうにしちゃってゴメンね。」
実はこのとき、ヒナギクを質問攻めにしていた女子たちの介入がなかったのは岳が取り払ったからだったのだが、二人はそれにまったく気づかなかった。さらに言うと、ハヤテに対する質問の数が増えていたのにも気づいていなかった。
「へぇ〜!!生徒会長なんだ!すごいね!!」
「そ、そう?」
「うん!だってこの学校の皆を引っ張っていく人なんでしょ。すごいよ。」
「フフ、ありがと。レナさんってやっぱりいい人ね。」
目の前で微笑んでいるヒナギクにレナは首をかしげた。
「やっぱり?」
「あ、ガウ君がね、あなたことを話してくれたの。何はともあれ、あなたが無事に生き返ることができてよかった。」
「ガウスが・・・。」
二人は思わず岳のほうに顔を向けた。彼はこちらを向いていなくてどんな表情をしているかは分からなかったが、それでもきっと満足気な顔をしているのだろうと思えた。
「えっと・・・ヒナギクさん、だっけ?」
「うん。普通に呼び捨てでも、略してヒナでもいいわよ?私もあなたこと呼び捨てでレナって呼ぶけど・・・それでいいかしら?」
「うん!!!じゃぁ・・・ヒナちゃんで!!これからよろしくね、ヒナちゃん!」
「こちらこそよろしく、レナ。」
ヒナギクとレナが握手をするのと同時にチャイムが鳴り、授業が再び始まった。
昼休みになったころには、レナも大抵のクラスメートと馴染んで普通に話せるぐらいにはなっていた。
「ヒナちゃ〜ん。一緒にご飯食べない?ガウスと・・・ハヤテ君だっけ?とにかく彼氏さんも一緒に。」
「それはいいんだけど・・・ハヤテ君ったら、どこ行っちゃたのかしら?やっぱりナギの世話とか?」
「ナギちゃんは伊澄ちゃんと一緒にカフェテリアに行ってたから、それは違うだろ。もう少ししたら来るだろうから先に食べとこうぜ。」
実際のところ、ハヤテはまだ納得しきれていない虎徹に追い掛け回されていていたのだが、ヒナギクがそれを知るはずもなくせっかく誘ってくれたレナを待たせるのも悪いので岳の言った通り先に食べることにした。が・・・
「ガウス。なんで六つも机を用意してるの?ハヤテ君が入ったとしても四人なんじゃ・・・。」
「ああ、それはだな。」
その瞬間バッと教室のドアが開き、二人の少女が飛び込んできた。もっと詳しく言うと一人が飛び込んで、もう一人がそれを止めようとしているのだが。
「あっ!!!ママ見〜っけ!!!」
「こら!!だから校内を走ってはいけませんわよ!!。」
「アカリ!?それにアリスまで・・・。」
「えへへ、来ちゃった。」
アカリはなんためらいもなく岳が用意した席に座り、ヒナギクにニッコリと笑ってみせた。アテネのほうは今までアカリに振り回されていたので息もきれぎれだったが、なんとか席に着くとどこからともなく弁当を取り出した。
「えっと・・・ヒナちゃんの妹?」
「ううん。私はママの娘だよ。」
「えぇえええ!!!じゃ、じゃあヒナちゃんはハヤテ君ともうあんなことやこんなことを・・・。」
「してません!!!なんていうか・・・この娘は未来から来てるのよ。」
「ま、ヒナがハヤテとちゃんと結ばれる証拠ですわね。」
「ヒナちゃんたちってラブラブなんだね。」
「そ、そんなこと・・・」
そうこうしているうちに再びドアが開いて激しく息を切らしているハヤテが入ってきた。ハヤテはなぜアカリやアテネがいるのか気になったが、あえて何も言わずにヒナギクにうながされるまま席についた。
「おつかれ。無事なようでよかったよ。」
「事情を知ってたんなら助けてくださいよ。」
ハヤテがうなだれていると突然横から箸が伸びてきて、それに挟まれていた野菜ごとハヤテの口の中に突っ込んだ。ちなみにハヤテに食べさせたのはアカリで、すごく満足そうな表情をしていた。
「おいし?」
「う、うん。すごくおいしい・・・。」
「そう、よかった。」
ハヤテは周りの男子、そしてその何倍もの怖い顔をしているヒナギクに気づいていたが、反応したほうが危ない気がしたのでアカリの頭を少し撫でて礼を言ったあとは黙々と自分の弁当と向い合っていた。
「ヒナちゃんたち、うらやましいね。」
「ん?・・・そうだな。」
具材について話し合っているヒナギクとアテネの横でまたハヤテに食べさせようとするアカリ。そしてそれに気づいて慌てて止めに入るヒナギク。たしかに、少し前までの岳にはとても羨ましい光景だった。しかし・・・
「ほれ、あ〜ん。」
「ふえ!?」
岳はレナの口の前まで持っていった箸を少し揺らしてみせた。
「いいから口開けろって。」
「あ、あ〜ん。」
パクッ
今日の弁当は岳とレナが分担して作ったものだったが、岳が食べさせたものはその中でも二人で一緒に作ったものだった。
「おいしいか?」
「そりゃ、まぁ・・・。」
「そっか。ま、これぐらいのことができるんなら、羨ましいなんてことはないな。」
形成された二つの桃色空間から逃げるように教室からはどんどん人数が減っていっていた。それでも空気を読まない人は必ずいるわけで、その空間を壊そうとしているかのように乱暴にドアを開けた。
バンッ!!!!
「おい綾崎!!!俺はまだお前を諦めておらんぞ!!!」
勢いよく教室に入ってきた虎徹にハヤテはゴミを見るような視線を向け、ヒナギクとアテナはなるべく関わりたくなかったので完全に無視、岳は不思議そうな顔をしているレナに事情を説明していた。しかしアカリだけは顔をパーッと輝かせ、虎徹に駆け寄ると彼の手を掴んだ。
「うわー!!虎徹おじさんだー!!わっか〜い!!!」
「お、おじさん。てか、なんだこの娘?なんか微妙に綾崎にいている気が・・・」
ドカッ!!バキッ!!ゴッ!!!
「なにアカリに気安く触れてんですか。変態。」
「いや、手を握ってきたのはむしろこの娘・・・あ、綾崎まて!!お願いだからまっ・・・ギャー!!!!」
「パパ、さすがにやりすぎなんじゃ・・・。」
「アカリ、こんな人間に絶対について行ったりしちゃいけないからね。」
「いやいや、未来じゃ普通にいい人だよ?」
ハヤテはときどき虎徹をボコしながらアカリに変態がどんなに怖いかを力説した。実際のところ、アカリは未来の方では虎徹にたくさん世話になっていたりするので彼に対して嫌悪感などは一切なかったのだが、自分の父親の必死さに首を縦にふることしかできなかった。 やがて昼休みの終りを告げるチャイムが鳴り、ほぼ全員が席についたころにちょうどよくドアが開いて雪路が入ってきた。しかし授業を始めることはなく、まず始めたのは岳に対する愚痴だった。
「まったく!岳君のせいでせんぱ・・・じゃなくて理事長からこってり絞られたんだからね!そこんとこわかってるの!!??」
岳はため息をつき、降参したように手をあげた。
「悪かったですよ。それはともかく、ユキさん。少し話があるので廊下のほうへ来ていただけますか?お詫びもかねますから。」
「ホント!?やったー!!!それじゃさっそく行きましょう!!」
「ちょっとお姉ちゃん!?授業はどうするのよ?」
「別にそんなもんいつでもできるでしょ〜。」
雪路はそういって岳をつれて廊下に飛び出して行ってしまった。残されたクラスメートの中には授業の始まりが遅れて喜ぶ者が半分、退屈している者が半分だった。ちなみにアカリとアテネは授業参観も兼ねて学校に来ていたのでしばらく待ちぼうけを食らわせらることになった。
「まったく、お姉ちゃんったら。」
「ああ、でも多分ガウスからまた弱みを握られてんじゃないかな。」
「え?」
するとドアが開き、不自然ににこやかな顔をした雪路が戻ってきた。
「いやぁ〜、やっぱり授業は大切よね!!ほら、あなたたちも授業参観なんだからシャキッとしなさい。シャキッと。」
「「「「・・・」」」」
そのまま授業は始まり、納得のいかないヒナギクは思い切って岳に質問してみたが、それでもうまくかわされて詳しくは分からなかった。
「ガウスはこういうことに関しては昔からすごかったから、あまり気にしないほうがいいよ。」
「む、昔からだったんだ・・・。」
取り敢えず授業も無事に終り、ハヤテはナギとアテネと一緒に帰宅、ヒナギクはアカリと一緒に部活に向かっていた。
「あ〜あ、パパもくればよかったのに。」
「執事の仕事があるんだから仕方ないじゃない。帰ったらちゃんと遊んでくれるわよ。」
「そうだね。いやぁ〜、でも剣道するのもなんだか久しぶりかも。」
軽くのびをして顔を輝かせているアカリにヒナギクはふっと微笑んだ。
「ん?どうしたの?ママ。」
「いや、アカリはよく笑うなぁ〜って。」
不思議そうな顔をしている自分の娘と武道場に入ったヒナギクはアカリにサイズの合った防具を渡し、部員に軽く挨拶をさせて練習をさせた。アカリの腕はなかなかのもので、東宮ぐらいならば瞬殺だった。
「へぇ〜、結構やるのね。」
「未来でママから鍛えられてるからね。これくらいは当然だよ。」
この時アカリはタオルで汗を拭いていたので気づけなかったが、ヒナギクは寂しそうな顔をしていた。
「ねぇ、アカリ?」
「ん?」
「やっぱり・・・未来の私のほうが好き?」
こんな質問をすればアカリが困ってしまうことぐらい分かっていたが、ヒナギクはそれでも止めることはできなかった。
「寂しかったり・・・」
「寂しいよ。」
「!!!」
ヒナギクは自分の体が震えていることに、娘から拒絶されることを怯えていることに気づいた。しかしアカリには決してそんな気はなく、そのことをヒナギクもよく分かってはいたのだが、それでも怖かった。
「たしかにここにはママもナギお姉ちゃんも・・・パパもいる。みんな私が知ってる未来と同じくらい優しいし、そんな人たちに囲まれてとっても楽しい。でも、私は未来の人間だから・・・やっぱり未来のみんなに会いたい。」
アカリはヒナギクに思いっきり抱きついた。もう剣道場には誰もおらず、二人だけが漏れた夕日に包まれていた。
「ママ・・・大好き・・・。」
「うん。」
「あ、おかえりなさいヒナギクさん。・・・って、あれ?アカリ寝ちゃったんですか?」
「うん。結構頑張ってたから無理もないんだけど。」
アカリのこともあるのでヒナギクは現在、三千院家の屋敷に泊めてもらっていた。ハヤテは放課後からは休みをもらっていて、ぐっすり寝ているアカリを部屋まで運んだあとはヒナギクのところへ向かった。といってもアカリの要望で三人とも同じ部屋で寝ていたので、ほんの数メートル歩いただけだった。 ヒナギクは窓から星を眺めていて、とても絵になるその光景にハヤテの胸は高鳴り、ヒナギクも初めてではないはずのこの状況に少しドキドキしていた。
「今日は星がよく見えますね。」
「そうね・・・。」
「アカリのこと・・・ですか?」
ヒナギクは正直驚いたが、それでもハヤテが自分のことを前より理解してくれるようになったことが嬉しかった。
「アカリっていつ帰っちゃうのかなぁ〜って。分かってはいたんだけど、やっぱり寂しいっていうか・・・とても複雑な気分。」
「僕は正直寂しいです。でも・・・同時に少しだけ嬉しく思っています。」
「嬉しい?アカリがいなくっちゃうのに?」
「ええ。でも少しだけですよ。」
ハヤテはヒナギクの目から涙が溢れる前にそれを拭った。
「未来のヒナギクさんに・・・母親のことも、父親のことも大好きなアカリと本当に笑って欲しいんですよ。」
「何よ。それじゃ私が幸せになれていないみたいじゃない。言っとくけど、ハヤテ君がいるんだからそういう心配はしてないわよ?」
「はは、そうですね。ヒナギクさんは僕が必ず幸せ手にしてみせますよ。」
「うん。」
夕方、アカリがヒナギクにそうしてきたように、ヒナギクもハヤテに抱きついた。前よりちゃんと感じることのできる温もりは彼女の悩みを覆うのには十分だった。
「いつかは分かりません。でも、そのときはちゃんと見送ってあげましょう。アカリは僕たちの娘なんですから。」
「うん・・・。」
そのままの体制が続くかと思いきや、ヒナギクは突然顔を上げてそれこそハヤテの目の前でいたずらっぽく微笑んだ。
「それから、さっきのはプロポーズってことでいいのかしら?」
「へ!!??い、いや・・・それはですね・・・。」
「違うの?」
「えっと・・・できれば、もっとちゃんとしたいというか・・・後日ということでお願いします。」
ヒナギクとしてはさっきのがプロポーズでも十分だったのだが、ハヤテの性格を考えるとそうもいかないだろう。ハヤテから体は離したヒナギクは嬉しそうに笑っていた。
「フフ。それじゃ待ってるわよ。忘れたりしたらダメなんだからね。」
「も、もちろんですよ!!」
しばらくして起きてきたアカリに、ハヤテとヒナギクは笑顔でおはようと告げた。
「えっと・・・今は朝じゃないんだけど。」
「いいのよ、別に。」
アカリの疑問は消えなかったが、両親が嬉しそうな顔を見ていると何を疑問に思っていたのか分からなくなってしまった。
「あ、ガウス。玉ねぎとってくれない?」
「はいよ。」
「ありがと。」
岳とレナはカレーを作っていて、彼らからすると別に何の意識もしていないのであろうが、その会話はまさに新婚のカップルのようだった。
「ヒナちゃんたち、うまくやっていけるかな?」
「大丈夫だろ、あいつらなら。」
「さすが、お兄さんは妹さんのことを信用していらっしゃる。」
どうやらヒナギクからほとんど話を聞いていたようだ。岳はレナの頭に軽くチョップを食らわすと黙々と作業を続けた。レナはしばらく頭を抑えてむくれていたが、突然ふっと笑うと岳の背中にぴたりと寄り添った。
「ねぇ、ガウス。」
「なんだ?」
「・・・なんでもない。言ってみただけ。」
岳は作業を続けていたが、後ろにいるレナに対してこれ以上ないほど気を使っていた。岳のそんな優しさが嬉しくて、しかしここまでくると言葉をかけるのが少し気恥かしくて、レナは岳に聞こえないようにそっと呟いた。
(ありがと・・・。)
一番大切な恋人とのとても幸せな時間が、いつまでも続く気がした。
「聞こえてるよ。バカ・・・。」
「あっー、ひっどーい!!バカって言ったほうがバカなんですからねー!!!」
「はいはい、分かったよ。」
「もぉー!!子供あつかいするなー!!!」
どうも、相変わらずの更新ペースですみません。言い訳をさせてもらえれば文化祭で焼きそばを売りさばいてました。 さて、なんだか最終話みたいなタイトルですが最終話ではありません。作品名とサブタイが同じ話は前々からやりたかったので、オリキャラが全員揃った今回がその話になりました。 ちなみに学校のみんなの反応なんですが、個人的には結構受け入れてくれる人がほとんどなんじゃないかなと思っています。この話的にみなさんハヤヒナの桃色空間に十二分に当てられていますし、いざとなったら岳くんがいますから。(テヘぺろ☆ 虎徹君とアカリちゃんの関係としてはアカリちゃんが呼んでいる通り虎徹君は「おじさん」という感じです。ハヤテの娘で若干似ているからといって襲うようなことはせず、これもアカリちゃんが言った通り普通にいい人で接しています。ま、変態でなけば本当にいい人なんでしょうけど・・・。
それと、今回はイラストも一緒に投稿しています。個人的には岳君が結構自分のイメージに近づき、アカリちゃんもうまく描けたかなぁ、と思っています。服の色とかはホント適当で、レナちゃんの服はもっと明るめにするはずだったのになんか褐色系になっちゃいました。アカリちゃんはハヤテの執事服を着ている設定なんですが、下に何か履いているかどうかはご想像にお任せします。(注:アカリちゃんは小学生です)
次回は本当にハヤヒナな話にします。 それでは ハヤヤー!!
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