Re: 兄と娘と恋人と |
- 日時: 2014/09/13 19:37
- 名前: タッキー
- ハヤッス!タッキーです。
レナちゃんのイラストを投稿したんですが、普通に高校生くらいの設定で描いてます。なんというか、自分小さい子を描くのが苦手なんで毎回こんな感じになっちゃうんですよ。アカリちゃんだって小2っぽくないですし・・・。あ、気づいている方も多いと思いますが、アカリちゃんは7歳ですけど誕生日が来てないだけであって一応小学2年生です。これこそ蛇足ってやつですね。 さて、今回もガウス君とレナちゃんのお話です。 それでは・・・ 更新!
岳の話を聞いたハヤテたちは唖然としていた。ただ、岳の正体が神様だと知った時点で、既に空いた口を閉じることができなくなっていたが。
「このあたりが俺とレナの慣れ始めってやつだな。それからは丁度一年間ずっと一緒だった。一緒に遊んで、一緒に寝て、一緒にバカやって・・・あの時は本当に素晴らしい日々だったよ。まぁ、俺は家事とかが全然ダメだったから、そういうのは手伝っていただけだったんだがな。」
恥ずかしそうにはにかむ岳は、ハヤテたちが今ままでに見たことないほど楽しそうで、そして寂しそうだった。そんな岳にハヤテたちは声をかけるのをためらっていたが、ヒナギクだけはその沈黙を破って彼に質問をぶつけた。
「ねぇガウ君、そのレナさんって・・・今もここにいるの?私たちには見えないだけ?」
「いきなりその質問か・・・。そうだな。ハヤテは知っているだろ?ここ、アブラクサスの柱の森のこと。」
「え?あ、はい。」
ヒナギクの質問とはまるで関係ないような話を振られたことで、ハヤテは少し口ごもってしまった。何故それを聞かれたのかは分からなかったが、ハヤテは取り敢えず自分の知っていることを話した。
「確か全部で365本あって、神様の怒りを買った人が外に出るには王玉を持った人と手を取り合って、そのうち一本を切りつけなければならない。そしてもしそれが正解ではなかった場合、王玉の持ち主は死んでしまう・・・でしたよね。」
ハヤテは自分に集中した視線に緊張して、少し不安気に岳に確認を取った。岳は頷いたが、その顔はもう笑っていなかった。
「確かにそうだが、実際切りつける柱はどれでもいいんだ。ここから出るのに必要なのはその人を助けたいという正義と、相手を絶対的に信用することだけだ。まぁ、今は白桜を抜くことができれば確実に出れるようになっているけどな。それは正義を成すための剣。信頼はともかく、ここを出る条件にはあっているだろ?」
ヒナギクは反射的に右手に持っている白くて美しい剣に目を向けた。それなりに凄いものだとは分かっていたが、実際のところこの剣については何も知らなかった。
「あ、別に俺が作ったものじゃないからそれを返す必要は全くないぞ。白桜や黒椿、そして王玉を作ったのはミダスたちで、あいつらは近づきはしたけど結局神様になれなかったから、もう死んでるしな。」
ここまできて、岳は自分の頭を軽く掻きながら話がそれたことを謝った。ハヤテたちは岳の言葉を待っていたが、彼は一本の柱に触れたあと、逆にハヤテたちに質問してきた。
「それじゃ・・・、柱ってのは本来どんな役割をするかは分かるだろ?」
「そりゃ、建物を支えるために決まっとるやろ。」
当たり前すぎる質問に咲夜は戸惑いながら答えたが、伊澄にはそれとは別の思考が生まれていた。
「なのに、ここには柱だけで建物などはない・・・。」
「さすが伊澄ちゃん、察しがいいな。ただ、俺がレナと一緒だったころはちゃんと城があって、ここの柱も支えるって役割を果たしていたんだ。裏を返せば・・・一度城が破壊されてしまったってことだ。」
その言葉にハヤテたち全員が、思わず息を飲んだ。
-ここを破壊してしまえば外の世界も壊れてしまうんだ-
つまり世界は一度滅びていて、ハヤテたちは作り直された世界に生きていたことになる。信じられないような話だったが、その証拠が目の前にあると正直不安なんて言葉ではとても表せなかった。
「まぁ、破壊したのはお前らが考えている通り俺だ。じゃあなんで俺は世界を破壊するようなことをしたのか?これは同時に最初のヒナの質問に答えることになるんだが、それはな・・・」
岳の浮かべた不吉な笑みに、ハヤテたちはゾッと鳥肌がたつのを感じた。彼のニヤリとした表情は何かを嘲笑っているかのようだったが、それは決してハヤテたちに向けられたものではなく、自分自身を嫌うために、蔑むために、そして決して後悔しないために作ったものだった。
「俺が・・・レナを殺したからだ。」
その瞬間、ハヤテたちは岳の体が透けていることに気づいた。
第28話 『泣かないあなたへ』
なんだか焦げ臭い匂いが漂ってくる。これはまたやっちゃったんだろうな。急いで広い廊下を走り抜けて、匂いが発生している厨房に私が飛び込むと、案の定、また物体Xを生成しているガウスが困り顔で鍋を睨んでいた。
「ねぇ、ガウス?ここで出来た物体って外の世界にも発生するの?」
「もしそうだったら俺が料理をするたびに外で死人が続出するっての。」
取り敢えず外には影響がないってことだよね?ていうかガウスって神様なのになんで何もできないんだろう?スネちゃうから聞くつもりはないんだけど。
「もう、料理とかは私がするって言ってるのに。」
「任せっきりなのはしょうに合わないんだよ。それに・・・」
ガウスはぶすっとした顔を笑顔に変えた。笑顔と言ってもフッと微笑んだくらいだったけど、私の心が高鳴るのにはそれで十分だった。
「どうせなら一緒にできるようになった方が楽しいだろ?これからもずっと一緒にいるんだからさ。」
ずっと一緒・・・、ガウスは言ってて恥ずかしくないのかな?
「どうした?顔赤いぞ?」
「ふぇ!?な、なんでもないよ!」
本当にガウスは変わったと思う。逢ったばかりのころはほとんど笑わなかったのに、今では当たり前のように笑いかけてくる。そして、私も随分と変わっちゃったんだよなぁ。最近ガウスが笑っているのを見ると胸が締め付けられるような、でもすごく嬉しいような、そんな複雑な気分になる。なのにガウスは全然平気な顔をしていて、私が悩んでいることなんてまったく気づいていないみたいだから、ちょっと寂しくなったりもする。前はこんなことなかったのに、いつの間にかどんどん今の私になっていった。ホントこれってなんだろ?ため息が毎日増えるばかりだった。
「そ、それじゃ、私は掃除してくるね。」
「え?さっきも掃除してたんじゃなかったのか?」
「・・・!!そ・う・じ・してくるね!」
「お、おう・・・。」
もう全く!ガウスはホントに全く!ていうか確かに掃除しちゃってたからやることないや。どうしよう?まぁ、まだ行ったことない部屋もあるからそれで時間は潰せるか。ガウスは・・・取り敢えず頑張ってるみたいだから気にしなくていいか。
「たしか・・・行ったことないのこの部屋だけだっけ?」
ていうかこんな部屋ガウスから教えてもらってないんだけど。なんか暗いし、中央に黒い箱があるし・・・。そういやガウスってこの城のことあまり話さないな。ざっくりした説明はしてもらったけどそれ以外は全く聞いてないや。それにしても・・・
「この部屋。なんか不気味・・・。」
なんだか様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合っているような、でもその中で絶望みたいのが一番多いような・・・そんな感じ。ここにいるだけでおかしくなっちゃいそうだったけど、私は中央の黒い箱から目が離せないで、終いにはそれを開けてしまった。
「空っぽ・・・?」
なんというか、少しおぞましいものが入っているような気がしてたというか、別にそういうのを期待していたわけではないけど、拍子抜けというか・・・。てかこれって絶対にガウスから怒られるパターンだよね?バレないうちに出て行かなきゃ。
「なにしてんだ・・・?」
「おわっ!ち、違うの!いや違わないけど・・・!」
「?」
部屋を出ると既にガウスが立っていた。どうしよう・・・怒られる。ここは正直に言った方がいいのかな?いや、まだバレてないみたいだし・・・。
「この部屋・・・」
「わ、私何もしてないからね!別に中にあった黒い箱を開けたとかそういうの全然してないから!」
「は!?レナ、あれ開けたのか・・・?」
あ・・・や、やっちゃったー!ど、どうしよう!?なんかガウス私のこと険しく見てるし・・・こ、これは凄く怒ってる!?
「レナ・・・!」
ガウスは険しい表情で私の肩を掴んできた。痛いくらいに力が入っていたその手は私の頭をさらにパニクらせて、気づけば凄い勢いで謝っていた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!反省してるから!反省してますから!!!」
「は?なんで謝ってんだよ?」
あれ?怒って・・・ない?
「怒らないの?」
「何で俺が怒らなきゃいけないんだよ?それよりレナの方こそ大丈夫か!?頭痛かったりとか身体がなんか変だったりしないか!?」
な、なんで私が心配されてんだろう?別にどこもおかしいことはないけど・・・。そのことを伝えたらガウスはほっと息をついて私の肩から手を離した。本当に安心しているあたり、あの棺は相当ヤバイものだったのかな。あれ?なんで私・・・
・・・あの箱が棺だって知ってるんだっけ?
「が、ガウス!私、なんだか・・・」
「や、やっぱりどこか痛いのか!?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・。」
ガウスは意外と心配性なんだなぁ。まぁ、嬉しいんだけどさ・・・。
「だからその・・・私、何故かこの城ことが分かるようになったの。」
ガウスは目をパチクリさせたあと、盛大にため息をついた。そしてもう一回私の体調のことを尋ねてから、そのまま私の手を引いてどこかへ向かって行った。
「が、ガウス?あの・・・」
「なんだ?行き先なら大広間だぞ?」
いや、そういうわけじゃないんだけど・・・手が・・・。 なんだか、凄くドキドキする。ガウスは・・・どうなのかな?結局何も言えないまま私は大広間まで連れて行かれた。
「あの棺には神様の力が封じられていたんだ。ここにいる生き物に与えすぎないように・・・。」
「そして神様の力がなくならないのはあの棺が、この世界に生き物が入ってくる時の爆発的な感情を媒介にして、倍以上に増やしていっているから・・・。」
私の言葉にガウスは無言のまま頷いた。 私のことを心配してくれたのは、一気にたくさんの力を吸収した反動があったらと考えていたかららしい。知識を得た今だから言えるけど、そんなことありえないって分かってるはずなのに・・・まったく、ホントに心配性なんだから。 ホントに・・・嬉しいんだから。
「なに笑ってるんだよ?」
「別に・・・ガウスは優しいなぁって。」
心配されるが嬉しいのも、手を握られてドキドキするのも、笑顔を見て胸が締め付けられるのも・・・
恋・・・なんだよね。
貰った知識でそれを理解するのはちょっと抵抗があったけど、私はガウスのことが大好きなんだ・・・。今まで以上に、今までよりずっと・・・。
「ねぇ、ガウス?」
「ん?」
「私が、今までの私じゃなくなっても・・・一緒にいてくれる?」
ガウスはキョトンとしている。こんな質問すれば誰でも驚くか。なんか恥ずかしかったし、すぐに取り消さ・・・
「一緒にいる。」
「!!」
「それに、レナはレナだ。どんなに変わっても、どんなに遠くに行ってしまっても、俺はレナから目を背けたりしないし、絶対に忘れない。」
ほらね。ガウスがこんなだから私は惚れちゃったんだ。ていうか、こんなこと言われて好きにならない方がおかしいような気がする。だから私もガウスが意識するくらいの素敵な笑顔を見せてやるんだ。
「・・・ありがと!じゃあこれからもずっと一緒だよ!」
あ、赤くなってる。ガウスって男の子なのに可愛いからちょっと妬いちゃうかも。そういえばガウスってなんで丁度よくあそこにいたんだっけ?
「ねぇ、料理?のほうはもういいの?」
「あ、それなんだが・・・。」
口ごもったガウスは歩き出して、そのあとについて行くと厨房までたどり着いた。ただ・・・
「えっと・・・爆発、したの?」
「恥ずかしながら・・・。」
「ふふっ・・・あははははは!!!!!」
「なっ!わ、笑うなよ!」
つまりガウスは掃除をしたいけど、一人だと余計に散らかっちゃうから私を頼ってきたわけだ。私は腹を抱えて笑っているけど、とっても嬉しいんだよ?それぐらいは分かってほしいかな。 この時から、私は外に出たいと思うようになった。外に出て、ここよりずっと小さな家で、ここよりずっと賑やかな場所で、周りの人たちに祝福されながら、ずっと一緒にいたいって・・・願うようになった。
「さて、あとはどうやってガウスを説得するかんなんだよね〜。」
レナとガウスが出逢って丁度一年経った日、レナは庭城から出ることを決意していた。ガウスにそのことを話したことはなかった。方法が方法なだけに絶対に反対されると分かっていたからだ。だからレナはこうして悩んでいるのである。 棺を開けたことで神様の力、さらには知識を手にしたレナはここを出る方法がとても難しいことも全て理解していた。ただ・・・
「なんとなく、できる気がするんだけどな〜。」
作業中の手を止め、レナは軽くのびをした。 王が城を完全に離れることができない。王の役割をしているガウスをここから連れ出すのはとても危険な行為であり、最悪存在が消えることになる。来世とかそういう迷信がたいことでさえ残らないのだ。しかし、レナにとってこれらは正直どうでもよかった。ガウスのためなら死ねる。笑って死んでやる。当たり前だった。
「はぁ〜、ガウスももっと我が儘になってくれればいいのに。女の子っぽい顔してるからツンデレも似合うだろうけどさ〜。」
「誰が女顔でツンデレだって?」
「おわぁ!!!」
レナは驚いて椅子から転げ落ちてしまった。それを見ていたガウスは呆れた顔をして彼女に手を差し出した。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「あ、ありがとう・・・って、いきなり話しかけないでよ!!びっくりするじゃない!」
「はいはい、俺が悪かったよ。」
面倒くさそうに謝ってくる岳にレナはふくれっ面を作ったが、効果がないようだったのですぐに諦めて大きなため息をついた。
「ねぇ、ガウス・・・?」
「なんだ?」
「ガウスってさ、ここから出たいと思わないの?」
「!!!・・・」
レナの質問にガウスは身を強ばらせたが、彼女にバレないように平然を装って天井を仰いだ。
「別に・・・外の世界のことは天球の鏡で知ることができるし、長くここにいて興味もなくなっちまったからな。」
「じゃあ、なんで一人でいるときに寂しそうな顔してるの?それに、初めて逢った時なんて表情があるのか分からないほど暗い顔してたよ?」
ガウスは俯いて何も言ってこなかった。レナは畳み掛けるように自分の思っていたことを伝えた。
「寂しいなら寂しいって言って、痛かったら喚いて、悲しいときは・・・ちゃんと泣いて。恥ずかしいことじゃないんだよ?今までたくさん頑張ったから、もうそんなに頑張らなくたっていいんだよ?もっと・・・幸せになろうよ・・・。」
「・・・それで、俺にどうしろと?」
正直レナが伝えようとしていることが何か、ガウスには分かっていた。ガウスにだって外に出たい気持ちはあった。外に出て、レナと幸せにずっと一緒にいられたら、そんな願いがあった。しかし、レナを失う恐怖がそれの何倍も勝っていて、ずっと気持ちを押さえ込んでいた。レナの言葉に心打たれた今でも、それは変わらなかった。 しかし、ガウスの睨むような視線は逆にレナに踏ん切りをつかせてしまった。
「だから・・・だから、ここから出ようよ!一緒にここを出て、外の世界でずっと暮らそう!ここを出る条件が難しくても、私たちならきっと出来るよ。それでも不満があるのなら、私がガウスのために何でもしてあげるから・・・イタッ!!」
ガウスはレナの言葉をデコピンで無理やり終わらせた。結構痛かったらしく、うずくまっているレナにガウスはいたずらっぽく微笑んで、おどけた感じで注意した。
「男に何でもするなんてこと、そんな簡単に言っちゃダメだっつーの。それじゃ、俺はやることがあるから。」
そう言って、ガウスはまだ額をさすっているレナを残して部屋から出て行った。
「簡単に言ってるわけないじゃない・・・。」
レナもガウスの後を追って部屋を飛び出したが、廊下を歩いているガウスを見ると思わず足が止まってしまった。彼の背中はとても寂しげで、無理をしているということが嫌でも伝わってきて、真っ黒な髪が力なく揺れているのに対し、作られている拳には酷く力が篭っているのが遠くからでも分かった。レナは気づけば走り出していた。
「ガウス!!」
「ん?・・・おわっ!!!急に引っ張るなよ!・・・・・・レナ?」
ガウスは彼女の真剣な表情に嫌な予感を感じた。抵抗しても、手を振り払おうとしても、レナはそれを許さなかった。そのままレナはガウスを大広間まで連れて行き、一本の柱の前に立った。
「私・・・絶対ガウスとここから出るから・・・。」
「レナ!何考えてんだよ!」
ガウスの声を無視して、だけど手だけは離さなかった。レナが指を鳴らすとどこからともなく短剣が現れ、彼女の空いている右手に収まった。
「やめろって言ってるだろ!」
ガウスは彼女の短剣を奪おうとしたが、はらりとかわされ、そして抱きしめられた。彼女の温かさはガウスの動きを止めるのには十分で、そのままレナは、まるで子供をあやすかのように話し始めた。
「私ね・・・ガウスと一緒にここから出たいんだ。ここを出て、ここよりずっと小さな家で、ここよりずっと賑やかな場所で、周りの人たちに祝福されながら、ずっと一緒にいたい。これが私の夢・・・。ガウスは・・・?」
「俺は・・・レナがいればべつに・・・。」
ガウスの言葉にレナは笑った。少し顔を赤くして・・・少しだけはにかんで・・・大きく笑った。
「もう!嬉しいこと言わないでよ。・・・でも、それだけ?ガウスはたくさん本を読むし、苦手なこと、さらにはガウスがここでは必要ないって言ったことでさえも真剣に取り組むようになったよね?それはなんで?私には外の世界に憧れているようにしか見えなかったけどな〜。」
「そんなんじゃねぇよ。ただ・・・」
女の子だからだろうか?レナからとてもいい香りがする。そしてその香りに包まれていると、ガウスは自然と落ち着くようになっていた。
「俺たちがいる世界がどこであっても、レナと一緒にいられるように頑張ってただけだ。」
「・・・ありがと。」
手を握っていることを残して、レナはガウスからようやく離れた。ガウスはこれまでにないほどスッキリとした表情していて、レナは少し安心したような表情をしていた。そして、互いに嬉しそうに笑っていた。
「私はガウスを助けたい。ここから連れ出して、ずっと一緒にいたい。」
「俺はレナを信じる。ここから俺を出してくれることを、外でもずっと一緒にいてくれることを。」
レナはもう一度ニッコリと微笑むと、ガウスと一緒に柱の前に立った。大きく息を吸い込んだあと、短剣を握った右手を高く掲げる。レナは正直緊張していた。だけど迷いはなかった。ガウスもレナのことを信じ、黙って彼女を見守っていた。レナのことを何よりも思っていたから・・・。
レナが勢いよく腕を振り下ろし、その剣先が柱にたどり着くまであとコンマ2秒、1秒・・・
同じことを繰り返すが、ガウスはレナのことを何よりも想っていた。その大きさは果てしなく、どんな気持ちよりも感情が詰まっている。
ただ、その想いは大き過ぎた。
モシ、ウマクイカナカッタラ?レナガ・・・シンデシマッタラ?
「!!!!・・・レナ!ちょっと待て!」
遅かった。自分たちの目の前にある柱には既に傷が入っており、レナは慣れないことをして違和感が残る腕をさすっていた。
「ん?何か言った?」
「いや、苦しいところとかないよな?痛かったりしないよな?」
「もう、相変わらず心配性なんだから。別に変な感じなんて全然ないよ。ほら!」
レナはくるりと回ってみせたあと、ホッとしているガウスにニコリと微笑んだ。
「これで外に出られ・・・るね・・・」
パタン・・・
「れ、レナ・・・?レナ!!!」
ガウスが彼女を抱え上げたときにはもうレナは動かなくなっていて、さっき感じていた温もりも消えていた。どれだけ名前を呼んでも彼女は答えてくれなかった。
「レナ!!レナ!!!何か言えよ!!!目を開けろよ!!!」
(俺のせいだ!俺が最後に信じきれなかったから・・・・)
ふと、落ちている短剣が目に入った。ガウスがレナを抱えたままそれを拾い上げて刀身を眺めると、もう動かない大切な人の顔と、よく磨かれた刃に映る自分の顔が見えた。レナと出逢う前と同じように表情の無い顔で、この状況に泣いてすらいなかった。 ガウスは短剣の切っ先を無意識に自分の胸の前まで持っていき、柄を掴んでいる右手に力を込めた。
レナがいない・・・レナがいない・・・レナガ・・・
イナイ・・・
サクッ
「!!!???」
しかし、自分の胸に思いっきり突き立てたはずだった剣は、少しだけ肌を傷つけただけだった。
「そんなこと・・・しちゃダメでしょ・・・。」
「なんで!?レナがいないなら俺は存在している意味がないだろ!!」
ガウスの右手はレナの手に掴まれていた。彼女にとっては腕を上げることでさえ精一杯で、ましてや誰かの腕を強く掴むのは全身に激痛が走るほどだった。
「ううっ!!!」
「ほら!いいから早く手を離せよ!!痛いんだろ!?我慢するなって言ったのはレナだったじゃないか!」
しかし、レナは腕を離すどころか自分の手をガウスの手まで持っていき、さらには空いている手でハンカチを取り出してガウスの血が滲んでいる部分にそっと押し当てた。ガウスは彼女を止めるようなことはしなかった。いや、できなかった。
「これ・・・プレゼントだったんだけど・・・汚れっちゃったね。」
「そんなの・・・いつ作ったんだよ・・・?」
「さっき・・・。」
レナは弱々しく笑っていて、ガウスは泣きそうな顔で彼女を見ていた。ただ・・・彼の目には涙が浮かんでいなかった。
「私ね・・・ガウスのスネた顔も、困った顔も、嬉しそうな顔も、そして笑った顔も・・・全部大好きなんだ。泣いた顔を見たことはないけど・・・きっと大好きだと思う。まぁ、今も泣いてくれてないけどね・・・。」
「泣きてーよ!すげー悲しいんだから今にも泣き出してーよ!!でも、涙が出てこないんだよ・・・。」
レナはガウスの血を拭ったハンカチを彼の手に握らせ、それによって空いた手をガウスの頬まで持っていった。まだ弱々しく笑っているレナは・・・泣いていた。
「ガウスは強いからだよ・・・。私なんか、涙が止まらないもん。」
レナの言葉をガウスは否定した。自分は強くない、きちんと泣けるレナの方が何倍も強い、と。
「ははは、そんなことないって。でも、本当にそう思っていてくれるなら、今から私はすごくカッコ悪いこと言うってことになるのかな?本当はこんなこと言っちゃダメなんだろうけど、私は我が儘だから・・・だから、聞いてくれる?」
「聞く!何でも聞くから・・・!」
ガウスはレナの手を握っている手にぎゅっと力を込めた。そのことにレナは嬉しそうな顔をして、静かに口を開いた。
「ガウスはこれからも生きていくから・・・楽しいことや、夢中になれることを見つけられるでしょ?もしかしたら恋だってするかもしれない。でも・・・」
ガウスは首を横に振って否定していた。レナがいない世界で楽しいなんてことあるわけない、恋なんてできるわけない、そう思っていた。 そんなガウスにレナはそっと微笑んでいた。彼がそう思っていてくれることが正直嬉しかった。ガウスのことを縛りたい気持ちなんて微塵もない。でも、彼が自分のことを想ってくれることがとても嬉しかった。
「でも・・・私のこと、忘れないで欲しいの。別にガウスのことを縛りたいってわけじゃないけど、ただ・・・ずっと一緒にいたいの・・・。ごめんね、最後なのにこんなこと言っちゃって・・・。」
「最後じゃない!なんとかする!絶対に助けるから!・・・そんなこと言うなよ。」
しかしその言葉を嘲笑うかのように、微笑んでいるレナの身体はどんどん透明になっていく。白い光が彼女を包んでいく様は酷く幻想的だった。そしてレナがこぼした涙の数は・・・もうどんなに多いか分からなかった。
「そうだ・・・。ガウス・・・今までありがとうね。私に心を開いてくれたこと、一緒にいてくれたこと、名前をくれたこと・・・全部、ありがとうね。私ね・・・ガウスのこと・・・」
その瞬間、レナの身体は完全に消えてしまった。はじけるように舞っている光は残酷なほど綺麗で、認めたくないほど輝いていて、悲しいほど神秘的だった。 支えてくれる手を無くした腕は力なく垂れ下がり、俯いて影のできた顔を彼の真っ黒な髪がさらに暗くしていた。
「ーーー。」
「・・・。聞こえねぇよ・・・。」
ゆらりと立ち上がり、適当な方向に腕を向ける。手から放たれた閃光は城の壁を貫通して地平線上に消えていった。今度は階段を少しだけのぼり、腕を振りかざした。拳が当たったところから半径5m以上のひびが入り、そのまま轟音をたてて巨大な階段は崩れ落ちた。一緒に落ちてしまったが、不思議と痛みはなかった。それからは手当り次第に城を壊して回った。レナと一緒に料理をした厨房も、一緒に寝た寝室も、一緒に遊んだ場所も・・・全部。
「俺・・・何やってるんだろうな・・・?」
悲しかった、辛かった、苦しかった。レナを守れなかった自分自身を、レナを失わせたこの世界を、憎み、蔑み、これらに対して怒り、殺意を持った。だから彼は動いている。理由はたった一つだけ・・・レナを取り戻すこと。 城のほとんどを破壊し、ガウスは最後に天球の間についた。そこに写っていたのは深く亀裂の入った大地、急激に膨張、または縮小して最後に爆発してしまう天体。地球上にはもう原型を留めていない街と、その中で叫び、自分たちの宿命を嘆く人々。炎に包まれている場所や、完全に浸水している場所、生き物の亡骸が目立つ砂漠や、襲ってきた極寒の気象に凍りつく場所。命の数も、もう数えることができるくらいまで減少していた。 しかし、ガウスはそれを見ても何も思わなかった。心底どうでもよかった。滅びていく世界に対する感情も、あれだけ憎かった自分に対する感情も、既に失っていた。 ガウスが水面の手を浸すと、鏡の役割をしていた水は一瞬で蒸発してしまった。これで何人死んだのかも、どれだけの星がなくなったのかも全然気にならなかった。ガウスはかがみ込んで、右手をゆっくりと、本当にゆっくりと掲げた。
「ごめん・・・。レナ・・・。」
11月20日、ガウスとレナが出逢って丁度一年経ったその日に、世界は完全に消滅してしまった。
どうも。 なんというか・・・このSSってこんな話でしたっけ?いや、これやるって決まってたんですよ?でも実際に書いてみるとなんだか・・・。まぁ、過去編を何話も続けるのはアレなんで、2話ぐらいにまとめてみました。これでガウス君の過去編は終了です。 次回は一悶着あって、その次からまたハヤヒナに戻ります。 それでは ハヤヤー!!
|
|