Re: 兄と娘と恋人と |
- 日時: 2014/09/06 15:36
- 名前: タッキー
- ハヤッス!タッキーです。
さて、今回はハヤテとヒナさんがくっつく前にやらなくてはいけないこと、というよりやりたいことですね。あと、今回から作品の傾向の部分に原作謎妄想を付け加えようと思います。できるだけ矛盾がないようにするつもりですが、上手く書けていない部分はスルーしてくれるとありがたいです。 それでは・・・ 更新!
11月20日、朝ハヤテが起床したのを見計らったかのように彼の携帯に着信が入った。隣でまだ寝息を立てているアカリを起こさないように布団をでて、電話の主を確認すると、まだ少し寝ぼけていたハヤテの頭は完全に覚醒した。ハヤテはすぐさま通話のアイコンに触れ、携帯を耳にあてた。
「もしもし、綾崎ですけど。」
〈咲夜!つながった!つながったわよ!〉
〈いや、それが普通やっちゅうねん。それより早く用件言ったほうがええんちゃう?〉
「えっと、伊澄さん?」
出鼻をくじかれたハヤテが少し戸惑いながら呼ぶと、伊澄はのんきに挨拶をしてきた。
〈ああ、おはようございます。ハヤテ様。〉
「お、おはようございます。あの〜仕事、ですか?」
ハヤテがそう尋ねた後の伊澄の声は真剣だった。その声にハヤテは自分の身が引き締まるのを感じた。
〈ええ、この近くで何か特別な気配を感じました。詳細は私にも、大おばあ様にも分かりませんでした。ただ、そこらの怨霊悪鬼、さらには英霊よりも遥かに強い力を持っていることは確実です。そしてこちらを誘っているということも・・・多分〉
伊澄がここまで警戒するほどの相手。ハヤテはその正体が気になる前に恐怖を感じた。しかしこうなることは覚悟していた。ヒナギクのために命を賭けることなんて当たり前すぎて、そこで悩む時間は正真正銘のゼロだった。
「場所は・・・どこなんですか?」
〈白皇の時計塔・・・ガーデンゲートです。〉
ハヤテは少しだけホッとした。今日は日曜日、つまりほとんどの生徒がいないのだ。しかし、ハヤテはそれと同時に不安も抱いていた。ほとんどの生徒はいない、しかし白皇には休日でも当たり前のように学校に行っている生徒がいる。特にヒナギクは確実に白皇、それも生徒会室にいるだろう。もし巻き込んでしまったら?それ以前に彼女に会わせる顔があるのか?そんな考えでいっぱいだった。
〈ハヤテ様・・・いけますか?〉
ハヤテは空いた手で強く拳を作った。
「・・・もちろん、いきます。」
〈分かりました。それでは準備が整ってからでいいので、できるだけ早く学校に来てください。それでは。〉
電話が切れると同時にアカリが起きてきて、まだ眠たそうな目をこすりながら少し寂しそうに尋ねてきた。
「パパ、どこか出かけちゃうの?」
「あ、うん。ちょっとね。」
するとアカリは心配したような顔をして、また尋ねてきた。
「帰ってくるよね?」
「!!」
アカリは彼女なりに嫌な予感を感じ取っていた。それだけではない、今のアカリはハヤテがいなくなってしまうことが何よりも怖かった。
「大丈夫だよ・・・。」
ハヤテは微笑みながら、泣きそうになっているアカリのほほにそっと触れた。命を賭ける、そんなたいそうなことを誓ったが死んでやるつもりは毛頭なかった。それはアカリやヒナギクがいるから。ハヤテが彼女たちを守るためにはまず生きていなければいけない。だから・・・
「必ず帰ってくるよ。僕は絶対にアカリたちをおいていったりはしない。だから・・・待ってて。」
アカリはハヤテの言葉に難しかった表情を緩めた。もう疑うことはやめた。やっと信じることを始めることができた。だから・・・
「うん、待ってる!お昼作っとくから早く帰ってこなきゃダメだよ。」
「・・・ありがと。」
その後、ハヤテは急いで準備を始めた。といっても特に持っていく物もなかったのですぐに終り、そしてアカリに見送られて玄関を出たところでふいに話かけられた。
「よう。いつの間にかアカリちゃんと仲良くなってるみたいで驚いたぜ。」
「あ、岳さん。おはようございます。」
「おはよう。」
岳はハヤテが外出することには何もふれず、ただ笑ってハヤテを応援してくれた。
「頑張れよ!」
「はい!」
ハヤテが走っていったあと、岳は玄関のドアを開けず、そのまま寄りかかった。もう眩しくなってきた太陽の光を手で遮り、大きくため息をついた。
「寄り道するつもりはなかったんだけどな・・・。まぁ、アイツらはこれくらいしないと動かないだろうし、丁度いいか。」
岳がドアから身を離すと同時に雲が太陽を覆い隠し、その影は岳の家を含め、広い範囲を包み込んだ。岳は空を見上げ、見えないはずの太陽のほうに目を向けたあと、ハヤテが向かった方向と同じ方向に歩き出した。
「いよいよ今日か・・・。 ま、もしかしたら他の方法もあったかもしれないし、もっといい方法があったかもしれない。それだったら、また二人でずっと一緒にいられたのかもしれないな。でも、この方法しか思いつかなかったんだ。許してくれとは言わない。ただ・・・ごめん。 ごめんな・・・
レナ・・・。」
第26話 『神様が居た城』
カポーン
そんな効果音が聞こえてきそうな白皇の時計塔の中にある大浴場にハヤテは入っていた。
(あれ?僕こんなところで何してるんだっけ?)
それはほんの10分ほど前の話。ハヤテは白皇についてから意外と早く伊澄と合流した。もちろん咲夜が連れてきてくれたおかげなのだが、そのまま時計塔に向かう前に伊澄があることに気づいた。
「おかしいですね。」
「え、何がですが?」
「気配がなくなっています。」
「え!?それじゃ、別の場所に移動したっちゅうことかいな?」
咲夜の考えはもっともだったが、それに伊澄は首を左右に振った。
「いえ、あれだけ大きなものは簡単に移動できないはずです。おそらくカモフラージュでもしているのでしょう。」
「そうですか。とにかく急ぎ・・・うわっ!!」
走りだそうとしたハヤテだったが、どこからともなく飛んできた野球ボールが後頭部にジャストヒットしたあげく、それでバランスを崩し倒れた先には昨日の雨でできた水溜りと、計算されたとしか思えない茶番を披露した。
「あ、あの・・・大丈夫ですか?ハヤテ様。」
「まったく・・・、どんだけ不幸やねん。取り敢えずシャワーでも浴びて着替えでもしたほうがいいんちゃう?」
「あ、あははは・・・」
オロオロとして心配してくる伊澄とは裏腹に呆れている咲夜に苦笑いを浮かべ、ハヤテは取り敢えず彼女の提案をのむことにした。伊澄によるとあまり急ぐ必要はなく、念のため先に様子見てくるからゆっくりして構わないらしい。バイト続きでさすがに疲れていたため、ハヤテはその言葉にも甘えることにした。
ハヤテはまず誰かいないかを確認してから服を脱ぎ、汚れた部分だけをさっと洗って風通しの良い場所に干したあと、あらためて大浴場に入った。今日は日曜で、前のようなことが起こるのはほぼありえないだろう。ハヤテは思いっきりリラックスして湯船に体を沈めた。お金をかけているだけあってそれなりの効能があるのか、体の疲れがどんどん取れていくような気がした。しかし、それを邪魔するかのようにドアが開かれる音が聞こえ、さらにはパサッとタオルが落ちる音まで聞こえた。
「は、ハヤテ君!?」
「へ?」
しつこいようだが、先程のようにハヤテは不幸体質なのである。たとえ時計塔に人が少なくて、その中から風呂に入りにくる生徒に出会うというさらに確率の低い現象でも、遭遇してしまう男なのである。しかも、これは不幸かどうかは定かではないが、驚いて振り返ってしまったときにハヤテは目にしてしまった。こんな時間に何故か風呂に入ってきた少女、桂ヒナギクの一糸まとわぬ姿を。
「う、うわぁああああ!!!な、なんでいるんですかヒナギクさん!!」
「そ、それより早くあっち向いてよ!!!」
「す、すいません!すいません!」
執事をやっている時は仕事スイッチが入っていたり、まだ彼女のことを意識していなかったりで取り敢えずは平気だったが、今はそれとは全く逆の状況なので、どう頑張ってもヒナギクを意識しないなんてことはできなかった。 ヒナギクのほうも恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが、耳まで真っ赤にしているハヤテを見てなんだか嬉しい気持ちにもなった。今までそういう素振りが全然なかったのだから当然といえば当然である。
「ねぇ、ハヤテ君?私も・・・お風呂に入っていいかしら?」
「ふぇ!?ど、どうぞ!僕のことはお構いなく!」
「そ、それじゃ、お邪魔します・・・。」
そしてヒナギクにはあと一つ、別の感情が生まれていた。もっとハヤテに近づきたい、そしてもう離れたくない。そんな感情が・・・。 しかし同じ湯船に浸かっているとそんな思考は緊張は打ち消されてしまい、どちらも全く話さずただ俯いてるだけになってしまった。
(ヒナギクさん、喋らないけど・・・怒ってるのかな?)
ヒナギクは本当に一切話さなかった。数分が経ち、さすがに耐え切らなくなったハヤテが何か話そうとすると、自分の背中にヒタリとなにかすべすべしていて温かい感触を感じた。ヒナギクの背中だ。
「ひ、ヒナギクさん!?な、何やって・・・って、うわ!のぼせてる!」
脳を無理やり仕事モードに切り替え、火照ったヒナギクの体を抱き上げてから脱衣所まで運んだあと、できるだけ見ないようにして体を拭き、脱衣所にあらかはじめ用意されていた浴衣を着せた。しかしこの時点でハヤテのライフは既にゼロだったのに、ヒナギクが寝言で艶っぽくハヤテの名前を呼ぶから、ハヤテの体力と、さらには理性も限界に近づいていた。 ただ、ハヤテを現実に引き戻したのもヒナギクの声だった。
「ハヤテ君・・・行かないで・・・。」
「・・・!!」
ハヤテは思わずヒナギクから顔を逸らしてしまった。しかし自分がアカリに言った言葉を思い出し、覚悟を決め、再びヒナギクの顔を見た。まだ不安そうにうなされているその顔に触れ、ハヤテは静かに語りかけた。
「ごめんなさい、今はヒナギクさんの隣にはいれません。そんな資格すら僕にはありません。だけど絶対戻ってきます。今の問題を絶対に解決します。時間はかかるかもしれません。何年も会えないかもしれません。でも、ヒナギクさんがもし僕のことをずっと想ってくれるのなら、絶対に帰ってきます。だから・・・待っていてください。」
そう言うとハヤテは立ち上がった。そう決まればモタモタしていられない。しかし脱衣所の出口に体を向けた時に気づいてしまった。伊澄たちがいることに、つまり、聞かれていたことに・・・。
「あんなことを素で言えるから天然ジゴロなんやろうな。」
「そうね、あの厄介な体質に何人の女性が巻き込まれたことか。」
「ちょ、ちょっと何言ってるんですか!?さっきのはだから・・・その・・・えっと・・・。」
上手い言い訳が見つからずに赤くなってモジモジしているハヤテに、伊澄と咲夜は少しときめいてしまった。またイジリたくなってきたが、それは状況的に無理な話となる。上のほうからはっきりと気配が伝わってきたのだ。伊澄だけでなく、ハヤテと咲夜にまで。
「急ぎましょう!」
「で、でもさっき見たときは何もなかったで!伊澄さんもそう言ってたやないか。」
廊下走りながら疑問をぶつける咲夜に伊澄は正しく答えることができなかった。いや、答えすら見つけられなかった。
「分かりません。ただ今回の相手は一筋縄ではいかないようです。」
ハヤテにはそんな彼女たちの会話は耳に入ってこなかった。ハヤテはさっき感じた気配がなんなのか知っていた。思い出したのほうが正しいのだろうが、今はそれは問題ではない。あれは・・・
(ロイヤル・ガーデン!!)
ハヤテたちは最上階にある生徒会室に向かっていたが、そこについても何もないどころか誰もいなかった。しかし自分たちが今感じている気配は確かにここから出ている。ここに何かがあることは確実だった。
「ちょっと、これは何なの!?」
「ヒナギクさん!?なんでここに?」
「なんでって、それよりさっきから感じるこの妙な気配は何なの?この部屋から出ているみたいだけど・・・。」
ヒナギクは制服に着替え、さらには白桜も手にして戦闘準備は万全という感じだった。これでは埒があかないので、ハヤテは取り敢えず一番詳しいはずの伊澄に尋ねることにした。しかし振り返ったその先に彼女の姿はなく、咲夜でさえ姿を消していた。
「い、伊澄さん!?咲夜さん!?」
「は、ハヤテ君、下!」
ヒナギクの声に従ってハヤテが下を見てみるとそこに床はなく、変わりに円状の水面に変わっていた。
「こ、これは・・・」
ハヤテたちは言葉を発する前にその水の中へと沈んでいった。誰もいなくなった水面には石を投げ込んだような小さい水しぶきと、それによって出来た波紋が広がっていった。
水の中に落ちたはずなのに、ハヤテは全く濡れていなかった。気づくと大理石でできているような床の上にいた。状況をよく飲み込めなかったが、真っ先に頭をよぎったのは一緒に水のなかに飲み込まれたヒナギクのことだった。
「ヒナギクさん!?大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫よ。それより・・・ここは?」
思っていたより近くにいたことに安堵しながら、彼女の質問に答えるために辺りを見渡した。ただ、後ろにある物によって悪い予感が確信に変わったことにハヤテの声は小さくなってしまった。
「天球の鏡・・・。」
「え?なに・・・?」
その時自分たち以外の足音が聞こえ、二人は身構えたが、その必要はなかった。
「ここは世界の中心・・・カルワリオの丘にたつ神様が棲むという城・・・
王族の庭城〔ロイヤル・ガーデン〕・・・・ですよね?ハヤテ様。」
「はい・・・。」
「ハヤテ君、ここ知ってるの?」
ヒナギクの問いかけにハヤテは小さく頷いた。そして自分の過去にあったことを全て打ち明けた。アテネのことも、自分のことも、知っていることは全部・・・。
「今のハヤテの話やったら、その王玉っちゅう石が必要なんやろ?ウチも伊澄さんも持っとらんし、ハヤテも会長さんも持ってないってことは、ウチらはどうやってここに入ったん?」
ハヤテの話を聞いて最初に疑問を口にしたのは咲夜だった。彼女の言葉にハヤテとヒナギクは頭を抱えていたが伊澄はある仮説を唱えた。
「おそらく誰かが私たちより先にここに入っていて、そして私たちが入ってこれるように道を開けたままにしていたんでしょう。ここが大おばあ様に聞いた話や私が調べた内容通りなら信じられない話ですが、そうしないとつじつまがあいません。」
ただ、ハヤテはもう一つの疑問を持っていた。伊澄の話が正しかったとしても、この世界と外の世界をつなぐ出入り口は決してこの部屋ではない。ハヤテやイクサがそうであったように、道は柱の森の向こう側にあったはずなのだ。
「まずはこの城から出ましょう。ハヤテ様、案内をお願いできますか?」
伊澄の声に我に返ったハヤテは再び小さく頷いた。
「はい・・・。」
ハヤテは自分の想像以上にこの城のことを覚えていた。10年経っていても全く迷うことなく城を出て、あの綺麗すぎる庭についた。
「すごい・・・。」
「絶景・・・やな。」
その光景に咲夜とヒナギクは見とれていたが、伊澄は城を出たときからある一点だけを見ていた。それは丘の下にあり、365本の柱が並び立つアブラクサスの柱の森、そしてその中心に立っている一つの人影。
「行きましょう。」
四人が丘を下りて最初に目に入ったのはさっきの人影ではなく、倒れている少女だった。
「ナギ!」「お嬢様!」
ハヤテはすぐ彼女のもとへ駆けつけて、抱き上げた。寝ているだけのようだったがとても辛そうな顔をしていた。
「ハヤテ君、ナギは大丈夫なの?」
「寝ているだけだ。それにハヤテが触れているのはナギちゃんの意識だから身体的な外傷は全くない。ま、本体のほうも外傷なんてないんだがな。」
ハヤテの代わりに答えたのは伊澄がさっき見た人影。
「あなたの仕業なんですか・・・?
岳さん・・・。」
岳はニコリと笑ったままだった。
「まぁ、俺の仕業ではあるが、きっかけを作ってくれたのはお前だぞ?ハヤテ。」
「ガウ君!どうしてこんなこと・・・!!」
全員から睨みつけられても岳は全く動じる様子がなかったが、彼は笑顔をすまなさそうな顔に変えてヒナギクに、そして全員に謝った。
「ごめんな。ナギちゃんにはホントに悪いことをしたと思ってる。ただ・・・俺が間違っているとは思ってないけどな。」
その言葉で伊澄の中で何かが切れた。いくら謝ったとはいえ、大切な人を傷つけられて、それを間違ったことではないと言い放たれて無性に腹がたった。
「生徒会長さん、ハヤテ様、下がってください。」
咲夜がまず感じたことは率直にヤバイだった。急いでハヤテとヒナギクを下がらせ、安全と思われる場所まで連れて行った。
「岳さま、単刀直入に聞きます。あなたにはこれ以上ナギを傷つける気がありますか?そして、何をするおつもりなんですか?」
伊澄の殺気のこもった目にハヤテたちは鳥肌が立つほどだったが、岳は平然と、それがなんでもないかのように笑っていた。
「あんまり怖い顔してると可愛い顔が台無しだぞ?まぁ、これ以上ナギちゃんを使う気はないし、これ以上何かをする気もない。もうやることはやってしまったからな。」
「そうですか・・・。仕方ありませんね。」
伊澄は札を取り出し、それを高く掲げたあと、勢いよく両腕を振った。そして彼女が再び手を掲げると同時に無数の社が立ち並び、巨大な円を作った。
「ちょっ!?伊澄さん相手を殺す気かいな!?」
「死にたくないのならば、それを戻す方法を教えなさい。」
殺す気だった。しかしその言葉に岳は大きくため息をついた。伊澄そのあと顔を上げた岳の目を見て、思わず術を解いてしまいそうになった。何も映っていないただ真っ暗のその瞳を見ていると、足が震え、腕から力が抜けそになり、頭の中が恐怖でいっぱいになった。
「テメェらみたいなガキに変えられる程、チャチいことじゃねェんだよ・・・。」
伊澄はそれでも何とか体制を持ち直し、岳の言葉で自分がやるべきことを決定した。雑念を振り払い、力の抜けかかった腕に再び力を入れ、足が震えないように地面を踏みしめた。
「術式・八葉-------上巻!!!」
彼女が腕を振り下ろすと、社で作られた円の中から巨大な龍が飛び出し、術式・八葉の奥義であるそれはただ無慈悲に、ただ目標を破壊するために、大地を揺るがすほどの咆哮をあげ、召喚主の敵に向かって猛スピードで襲いかかった。
「神世七夜!!!!!!」
伊澄がいきなりこの技を出したのはナギを傷つけられた怒りからでも、見下されたことへの対抗心からでもない。出し惜しみをしていてはやられる、そのことを本能的に感じ取っていたから。 ただ、彼女はまだ気づいていなかった。これは危うい勝負、勝てない勝負、その前提が最初から存在していないことに。勝負にすらならない、の前に、戦ってはいけない、の前に・・・ 戦うことすら、拳を振り上げることすら、睨みつけることすら、そして・・・
彼に対する感情を持つことすら、最初からできていないことに・・・
岳は動かなかった。しかし神世七夜は彼に当たらなかった。伊澄が外したわけでも岳が何かしらの術で外させたわけでもない。
「な、なん・・で?」
止まったのだ。巨大な龍は岳の目の前で静止し、伊澄の命令に一切従おうとはしなかった。それどころか・・・
「全く、俺が別の目的で動いてたらどうなっていたか・・・。」
呆れた声を出して岳が龍に触れようとした瞬間、龍が暴れ出した。まるで怯えているかのように、そんな感情が存在するはずのないのに、恐怖を抱いているかのように。
(マズイ・・・!!)
目的を見失った龍はただ暴れまわり、伊澄の制御を無視して違う方向へ突っ込んでいった。それは運悪く咲夜たちが逃げた方向。伊澄は想像しなかった自体にパニックになってしまい、反応が遅れてしまった。
(間に合わない!このままじゃ・・・!!)
ハヤテはヒナギクたちを守ろうと彼女たちの前に立ち、彼の後ろにいるヒナギクたちはどうしていいか分からずただ身を低くしていた。それが無駄なことだと分かっていても、そうせずにはいられなかった。 龍は岳に向かっていた時と同じスピードで、同じ力でハヤテたちの方へ向かっていく。その巨大な口が彼らを飲み込むまであと一秒もない。伊澄が必死に手を伸ばしても届かず、叫んでも声は轟音にかき消されてしまう。
ハヤテは後悔していた。ちゃんとヒナギクと向き合っていればこんなことにはならなかったのではないか、彼女を自分と一緒に死なすことはなかったのではないか。そして、自分の帰り待っているアカリにも、たくさん謝った。
(ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。アカリ、そしてヒナギクさん。本当に、ごめんなさい・・・。)
ドゴォォォォオオン!!!!!
それは、龍が地面に叩きつけられた音であったが、その中に決してハヤテたちが潰され音はなかった。伊澄はその場に崩れ落ち、ハヤテはまだ生きている自分に驚きながら目を開けた。 そこには目の前で自分の何十倍もある口を開け、横たわって動かない龍と、その頭に乗っている岳がいた。龍は幻想的な光を出しながら、弾けるように消えてしまい、岳も相当な高さであったのにも関わらず平然と着地してみせた。ハヤテは自分の後ろを見た。
(よかった。無事だ・・・。)
まだうずくまっているものの、彼女たちには傷一つなかった。 岳はあの一瞬で龍の頭上へと回りこみ、そして体を思いっきり回して・・・蹴ったのだ。それによって龍が地面に叩きつけられ、結果的にハヤテの目の前で止まったというわけである。ハヤテは岳の力に驚くと同時に感謝していた。この事態を巻き起こしたことはともかく、自分たちを守ってくれたことに。 ハヤテは今度は伊澄のほうを見た。静かになったせいか、離れている彼女の声もはっきりと聞こえた。
「勝て・・・ない・・・。」
「え?」
力の差を見せつけられたとはいえ、ハヤテには伊澄が諦めることが信じられなかった。心配になって駆け寄ると、彼女は怯えたようにハヤテの裾を掴んできた。
「ハヤテ様、今すぐここから逃げてください!私たちではあの方には絶対にかないません!あの方は・・・あの方は・・・。」
「お、落ち着いてください。伊澄さん。」
ハヤテが彼女をどうにか落ち着かせようとしていると、後ろから拍手をする音が聞こえた。
「伊澄ちゃん、ご名答!ま、俺が脅した時点で気づいて欲しかったんだけどね。取り敢えず俺は危害を加えるつもりはないから、その点は安心していいよ。」
「岳さん、あなたは一体・・・。」
岳はニコニコと笑いながら手を叩いている。そして次の伊澄の言葉で、ハヤテは思い出すことになる。
ここは王族の庭城。滅びるこのない花が咲き、消えることのない炎が灯る場所。そして・・・
「ハヤテ様。あの方は、私たちの言葉でいう・・・
神様です・・・。」
神様の棲む城・・・・。
「ま、お前らの言葉じゃそれが正解だな。でもハヤテ。俺は今日までここにいなかったから、正確には神様の棲む城、じゃなくて、神様の居た城、の方が正しいぞ。」
そう言って、この庭城の主はニヤリと笑った。
「これはヒナにはうっかり口を滑らしたことなんだが、俺の名前はガウス・・・ガウス・ノバルクだ。岳って名前は日本で過ごしやすいように使ってるだけだけど、呼び方は今まで通りで構わないから・・・あらためてよろしくな。」
神様はハヤテたちの想像とは裏腹に、とてもフレンドリーだった。
すいません。すいません。いきなり神様とか突拍子もない設定盛り込んですいません。ほんの出来心なんです。でも、実は最初からこうする予定だったんで後悔はしていません。す、すいません!お願いだからそんなに睨まないで! え、えっと・・・なんというか庭城について触れてみたかったというのがあって、自分なりに適当な話を作ってしまおうということで今に至るわけです。ほ、ほら!その代わりと言ってはなんですがハヤテとヒナさんの入浴シーンがあったじゃないですか!まぁ、次回からは本当にハヤヒナ要素がなくなってしまうんですが・・・。 取り敢えず、王玉とかそういうのにも触れていくつもりなんですが、気に食わない解釈はスルーでお願いします。もう、当てつけた感じがすごいんで・・・(涙 ガウスという名前はなんとなく神様っぽいかなぁという感じでつけました。ほら、「○ウス」ってしたらそれっぽくなるじゃないですか。岳っていうのも、ガウス・ノバルクの最初と最後をとっただけですし、アカリちゃんのように深く考えたりはしていないです。 さて、次はオリキャラを出す予定です。 それでは ハヤヤー!!
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