【第3話】西沢歩 |
- 日時: 2014/08/17 08:20
- 名前: ロッキー・ラックーン
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
まただいぶ時間が開きましたが、なんとか更新です。
今回の主役は西沢歩さん。 実は3年以上寝かしていた(筆が進まなかった)ものとなります。 それではどーぞ!
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「はいアユ、あ〜んして…」
「あ〜ん…」パクリ
ハヤテ君の差し出すフォークに刺さったケーキを頬張る。う〜ん…しあわせっ! あ、読者の皆さんこんにちは。西沢歩です。なんと!今回の主役はこの私なのですよ!!ヒナさんを差し置いて!!!
…ってコラコラ、「戻る」ボタンをクリックするには早すぎるんじゃないかな?誕生日くらい、私にも夢を見させてくれてもいいん
じゃないかな? というワケで、最初で最後の私とハヤテ君のラブラブっぷりを、とくと目に焼き付けてください!!
しあわせの花 Cuties 第3話【 西沢歩 】
「ところで歩、来週誕生日よね?」
「ん?…あ、はい。さすがヒナさん、覚えててくれたんだ!」
「そりゃあね…」
それは5月8日の事、月に2・3回は必ずやっている喫茶店でのヒナさんと二人きりでのおしゃべりの中でのやり取り。 言葉数少なく照れているヒナさんの表情を見てると、自分が彼女にどれだけ大切に想われているかが分かって嬉しくなった。
「でさ、何がいいかしら?プレゼント…」
「ん、そうですねぇ〜…」
もったいぶった言い方をしていても、私の心の中ではひとつの答えが既に出ている。 目の前でミルクティを口に運ぶ彼女、桂ヒナギクから譲って欲しいものと言えば…
「まあ、ワガママ言うならやっぱり…ハヤテ君…ですけど」
「そう…」
『ハヤテのごとく!』を知る人なら誰でもご存知、原作でもこの二次創作でも私の叶わぬ恋の相手、綾崎ハヤテ君。 特に驚いた様子を見せないあたり、私の返答はヒナさんの想定内だったようだ。
「いいわよ」
「…………はぁ!??」
ニコリと笑って答えるヒナさんの言葉は幻聴に違いないと思った。
「まさかまさか、天下の桂ヒナギク様ともあろうお方がそんなご冗談を!」
「話は最後まで聞きなさい。一日だけの話よ」
「一日?」
「そう。誕生日に、ハヤテと二人で好きな所に行ってらっしゃい…ってコトよ!」
「あぁ、なーる…」
そーゆー事ですか。誕生日プレゼントに、ハヤテ君とデートする権利というワケですね。 でも一日限りだとしても、ハヤテ君もヒナさんもそんな事、お互いに許せるのかな?
「えと…私としてはすごく嬉しいんだけど。本気…なのかな?」
「ええ、歩がまだハヤテに恋しているのなら…私は本気よ。むしろ誕生日だけで申し訳無いくらい…」
私の問いかけの意図を酌んでくれたのか、ヒナさんの顔はいつになく真剣だった。
ところで、私がハヤテ君に片想いをし始めて約2年、ハヤテ君とヒナさんが付き合い始めてから半年以上が経過するけど、私は未だに恋の終わりを見定められないままだった。 これまでヒナさんに対して嫉妬した事が無かったかと問われたら…「無い」とは言えない。ぶっちゃけ。ヒナさんからハヤテ君の話を聞く度に、実るはずもない恋心ばかりが膨れ上がって胸を締め付けた。 その一方で、あの二人は最高にお似合いのカップルだとも思う。それは周りの人間…特に恋敵だった女の子たちの行動が饒舌に物語っている。奥手な二人の関係がトントン拍子に深まって行くのは、間違いなく周囲のマンパワーに押されてるからだと思う。ナギちゃん、アリスちゃん、アテネちゃん、マリアさん、白皇学院の皆々様…もちろん私もその中に入っていて、みんながみんな二人の幸せを願っている。
…とまあそんなこんなで、二人を応援しつつも、自分のハヤテ君への想いにケリをつけられない今日この頃。ヒナさんからの提案は、そんな自分を変えるきっかけになるかもしれないと思った。
「…じゃあ、お言葉に甘えたいです!!」
「そう…分かったわ」
ヒナさんのホッとしたかのような笑顔。本当に、本気で、私の事を想っていてくれているのが伝わってくる。 だけど、その笑顔は次第に少しずつ曇っていき…私が「桂ヒナギク」というワードを聞いた時に思い浮かぶ顔とはかけ離れた不安げな表情を見せた。
「歩…コレで本当に…大丈夫なの?」
「…へ?」
あまりに変化球な質問に、我ながら間抜けな声が出た。
「だって、自分の彼氏をまだ好きだっていう女の子に、見せびらかすかのようにデートさせてあげるだなんて言ってるのよ?」
「……」
「実を言うと私…歩になんて思われてるのか不安で仕方ないの。もしハヤテが選んだのが歩だったら…自分が歩をどう思うのか想像出来ないから…」
「…なるほど」
「今回の事ね、ハヤテももう知ってるの。ひと月くらい前から話し合って…でも結局、歩にどうしたいかを聞くしかないって結論にしかならなかった」
「はぁ!?ひと月ですか!!?」
「ん、そうだけど…何かおかしいかしら?」
そりゃあ大声上げてしまうくらいおかしいですよ!まったくこの人達は、気ぃ遣いというかお人好しというか…。 二人で幸せになってくれればそれで誰も文句なんて言わないのに、私のワガママを叶えようと四苦八苦するだなんて、なんというか…ホントにバカなのかもしれない。幸せバカ。
「…いえ、何もおかしくないですよ。うん、なんらおかしいトコなんて無い」
「なんか言い方が引っかかるけど…まあ、歩が大丈夫ならいいわ。じゃあ、色々と詳しい話なんだけど…」
「はい、よろしくです!」
でも、そんな幸せバカな二人が私は大好き。今回はそんな二人のご厚意に存分に甘えちゃおうと思います。
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というわけで、今回のハヤテ君とのデートの事前情報↓
・デートは5/14(日)。朝から晩まで丸一日ハヤテ君と一緒。 15日は平日で学校があるのと、夜にナギちゃんがアパートでパーティーを開いてくれるため。 ハヤテ君のスケジュールはヒナさんが既に調整済み。
・約束、行き先、待ち合わせ等の約束は私とハヤテ君とで直接する。ヒナさんは一切口を挟まない。
・二人でどんな事をしたのかも、ヒナさんに情報は行かない。私が話さない限り。
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「こんなところかしら…?」
「そうですね。それにしてもヒナさん…」
「?」
「コレはちょっと…あまりにも条件が良すぎというか…」
誕生日である月曜の放課後に、ちょっと二人で会えればイイなって思っていたのが上のような条件に。 なんか…申し訳無くなるくらいの優遇じゃないかな。
「それだけ、私が『歩を応援する』って言ったのが本気だったっていう事よ」
「…そうですか。じゃあ、お言葉に甘えます!」
苦笑いで昔の事を話すヒナさん。 結局ハヤテ君は正々堂々の勝負(?)の結果、ヒナさんのものになったんだから私は全く気にしてないけど。 まあ、ココはヒナさんの心意気に思いっきり甘えるとしよう。
「フフッ、楽しみだな〜!!」
「歩はハヤテと行きたい所はあるの?」
「う〜ん、挙げていけばキリが無いけど…ハヤテ君と一緒ならどこでもいいかな」
「やっぱり、そう言うと思ったわ」
笑い合う私達。 やっぱり同じ人を好きになった同士、気が合うんだな〜。
◆
「じゃあ、日曜の事はハヤテと決めてね。夜の10時以降は電話に出られるはずだから…」
「ハイ!ヒナさんありがとう〜!!またね〜!」
「うん、またね!」
ヒナさんと別れた後の帰り道。(今日は実家に帰る予定です) 普段あまり使わない脳みそがフル稼働して日曜の予定を何パターンも考え出す。 (あそこもイイなぁ〜。あ、でもあっちも捨てがたいかな…。いやいや、後にも先にも一度きりのデートなんだから思い切って…!) その時の私は「恋しちゃってます」オーラ全開で、傍から見たらとても気持ち悪かったと思う。まあこれも、恋はフリーダムというラブマイスター的な持論通りなので、どうかお目こぼしを…。 とかなんとか考えてる内に、自宅に到着。
「たっだいま〜!!」
扉を開ける動作ひとつ取っても、ノリノリなリズムを刻む私なのでした。
◆
♪〜♪〜
「!?」
同じ日の夜10時半。私はベッドで枕を抱きながら日曜日の事を妄想していた。 そんな中、あまり遅い時間に鳴る事が無い、通話用の着信音が部屋中に響いたので驚いたのだった。 こんな時間に誰かな…?ケータイのサブ画面で発信先を見てみると…【ハヤテ君】の表示が。
ヤバイ!! 約束の電話入れるのを完全に忘れてた!!!
私は慌ててケータイを開き、乱暴に通話ボタンを押した。
「はっ、はい!もしもし!西沢ですっ!!」
『夜分遅くにスミマセン、綾崎です。今、お電話して大丈夫でしょうか?』 (←『』囲みは電話越しとして読んでください。)
「うん、大丈夫!ごっ、ゴメンね。電話するの忘れてた…」
『いえいえ、僕もつい今仕事が終わった所なんで、僕からかけられてちょうど良かったです。通話料もかかりますし…』
「そんなそんな、わざわざありがとう」
ハヤテ君、仕事終わったばかりで疲れてるはずなのに私を気遣って… やっぱりすごいな。
「ハヤテ君、日曜日は…ヨロシクね!」
『ハイ!西沢さんのお誕生日のために、頑張ります!では、詳しい話なんですが…』
「うん」
◆
「じゃあハヤテ君、楽しみにしてるねっ!」
『ええ、喜んでもらえるよう頑張ります!では失礼します…』
「またね〜」プツン
なんだかんだで、1時間以上も電話してしまった。毎日こんな風に出来るヒナさんは、やっぱり羨ましいなぁ〜。(←出来ないわよ!理由は…皆様お察しの通りね byヒナギク) それにしても、日曜日が待ちきれないや〜。
(「歩さん、今日貴女とデートをして気づきました。僕は貴女が好きです!」
「え!?でもヒナさんは…」
「以前、貴女から教わりました。『恋は想いを解き放って叫ぶもの』だと…。だから僕は…貴女への想いを叫びます。…好きです!!」
「本気なんだね、嬉しいな…。じゃあ、このまま逃げちゃおっか?」
「ハイ。どこまででもついて行きます!」)
キャー!!「歩さん」だなんてハヤテ君ったらダ・イ・タ・ン!!な〜んて事が…無いかな?(←ありません) 分かってるよ!ただの妄想だよ〜! って、私ったら誰に向かって言い訳してるんだろ…?
◆
さてさて、時は流れていよいよデート当日!待ち合わせの約束は朝9時、私の地元の駅前で。そして現在の時刻は…7時50分。日曜の朝の駅前はひどく閑散としていた。
…いいじゃんいいじゃん!早く来たって!だって私が先に来てれば、ハヤテ君が来た瞬間にデートスタート。もし早めに来てくれれば一緒にいれる時間が長くなるんだよ!?そりゃあ、ちょっとは早すぎるかなとも思ったけど…「待ってる時間もデートのうち」なんだから問題ナシだよ!! …って、私は誰に向かってこんな熱く語ってるのかな?
とりあえずコンビニでファイト一発!なドリンクを買って気合を入れようかな…。
◆
コンビニに行った後は、ひたすら人間観察をして暇つぶし。それにしても日曜日の朝の駅というのは、色んな人がいるものなんだな〜。 まず目に入ったのは、パパとママに挟まれて手を繋いでいる子供。遊びに行くのかな?次に、いかにも「山登りです」という格好のご年配の方々。お気をつけて。そして大きなエナメルバッグを背負っている高校生。野球部みたいだね。…なにやら大掛かりな撮影道具を構えている白皇の制服の女子3人組と、レポーター風の金髪美少女2人組(片方は幼女)。…見なかった事にしよう。
そしてセンス良さげな私服に身を包み、デートの相手を待っているであろうカッコイイ男の子。って、アレは…
「お〜い、ハヤテ君!!」
「あ!西沢さん、おはようございます!!」
「おはよ〜!!」
ついに登場。私の待ち人、綾崎ハヤテ君。 ヒナさんと付き合い始めてから私服のセンスがますます良くなったなぁ〜。(←どんな格好かは、皆様のご想像にお任せします)
「ハヤテ君、早いね〜。まだ8時半だよ?」
「そういう西沢さんもお早いですね!…もしかして、待ってましたか?」
「ううん、私もつい今さっき来たところだよ!」
「そうですか、タイミング良かったですね」
「うん」
ハヤテ君が約束の30分も前に来てくれた事に大興奮の私。勢いに任せて言った事だけど、たかだか40分しか待ってないから今来たも同然。ウソを言ったつもりは無い。 ホラ、早く来たおかげで予定より30分長くハヤテ君といれるでしょ?仮に私が約束の5分前に来てたら、ハヤテ君の待つ25分が勿体無い事になっていたよね。
「…西沢さん、今日はいつもに増して可愛らしいですね!」
「そ、そうかな…?えへへ…ありがと」
「髪型が違ったから、最初誰だか分かりませんでしたよ〜」
「そう。この髪型…どう、かな?」
「ハイ、大人っぽくてとっても素敵ですよ!」
「ありがと…ハヤテ君にそう言ってもらえると嬉しいな…」
今日の私の格好は、自分の最高の本気を出したオシャレ。(←どんな格好かは 略) いつもは結っている髪も下ろして、ハヤテ君の言った通り、いつもよりは大人っぽく見えると思う。それにしてもハヤテ君、こういうトコにコメントを入れられるようになっただなんて、ホントにヒナさんに鍛えられてるんだなぁ〜。(←鍛えているのは私ですわよ! byアリス)
「では西沢さん、お手をどうぞ!」
「…うん!」
差し出された右手に、自分の左手を乗せる。執事らしい、きめ細やかなエスコートに嬉しくなっちゃうけど…ちょっと違うんだよなぁ〜。
「ハヤテ君、お願いがあるんだけど…いいかな?」
「ハイ!なんなりとお申し付け下さい!」
満面の笑みのハヤテ君。 その表情は、どんなお願いでも聞いてもらえるような…そんな気を起こさせるくらい眩しかった。
「今日は、私の事…ヒナさんみたいに扱ってもらいたいの!」
「…ヒナみたいに、ですか?」
「うん。話し方とか、呼び方とか…。ダメ、かな?」
そう。今日は「ヒナさんの幸せを体験する事」を脳内での目標の一つに掲げている。 ヒナさんだけに対してのハヤテ君の接し方を今日だけで良いから味わいたい。
「え…構いませんが、いきなり馴れ馴れしくなって気分を悪くさせてしまうかもしれないですよ?」
「そんな事無い!…お願いっ!!」
いささか困惑気味のハヤテ君に手を合わせてお願いする私。ココだけは今日はどうしてもやって欲しいの!
「…分かりました、出来る限りやってみます!ではそうですねぇ…。今日は『アユ』とお呼びしても良いですか?」
「えっ!?」
いきなりの提案に面食らう私。顔を赤らめるハヤテ君は勇気を出して言ってくれたに違いない。 そんな…アユだなんて…なんか大物歌手にでもなった気分。笑
「すっ、スミマセン!『ヒナ』みたいな呼び方をと思ってたんですが…馴れ馴れしかったですよね…?」
「う、ううん!ビックリしただけ。嬉しいよ!!話し方も…」
「ハイ、では…ゴホン! …行こうか、アユ」
「うん…ハヤテ!!」
雰囲気に便乗して私からの呼び方も変える。 なにとなしに私の手を取るハヤテ君、執事モードの時とは違った頼もしさを感じた。
◆
それからのデートは、本当にあっという間。食べるものはいつもよりも美味しいし、飲むものもいつもより喉越しさわやか。目に入るもの全てが私たちを祝福してくれてるかのようだった。 中でも一番に感じた事は、ハヤテ君との距離感。手を繋いでいるのもあるけど、本当に近い!顔が近づいてくる時は本気でキスしそうになっちゃうほど。(そこは毎回ギリギリのところで我慢出来たけど) あぁもう、幸せすぎて頭がフットーしそうだよぉっっ。
「ん、どうしたのアユ?」
「えへへー、ちょっと嬉しいだけだよ!」
ヒナさん、こんな幸せな時間をありがとう!
◆
楽しい時間が過ぎるのは本当に早い。たっぷり遊んだけどまだまだ遊び足りないと感じた頃にはもう日が沈みそうになっていた。 私たちはいつもヒナさんと行く喫茶店でお茶をしばいてた。
「ハヤテ、今日は本当にありがとう!すっごくすっごく楽しかった!!」
「それは、良かった。僕も嬉しいです。では少し早いけど…誕生日おめでとう、アユ」
そう言って手渡してくれたのは、手に収まる位の大きさの可愛らしい紙袋。…もしかして、プレゼントかな?
「うわ〜ありがとう!…早速だけど開けちゃっても良いかな?」
「はい、もちろん」
丁寧に包装を開けていく。 袋の中には、リボンをあしらった可愛らしいヘアゴムがたくさん入っていた。どのリボンも作りが細やかで、市販品では見かけられないようなものばかりだった。
「わぁ〜、可愛いのがたくさん入ってる〜!」
「アユといえばやっぱりリボンだからね。みんなに協力してもらって作ったんだ」
「へぇ〜、ホントにたくさんあるね〜」
たくさんあるリボンの中でも一際目立つのが、2種類の花のモチーフのついたリボン。 片方はヒマワリで、もう片方は…なんの花だったかな?
「ねえハヤテ、このお花ってなんていったかな?」
「ああ、それはデイジー…雛菊だよ。ヒナとアユの仲が良いからって、お嬢様が作ってくれたものだね」
「へぇ〜…って事は、このヒマワリは私なの?」
「みたいだね。僕も、いつも明るいアユにはピッタリだと思うよ」(←「ハムスターだからヒマワリだぞっ」と私から聞いておいて、このキザっぷり。もう恥ずかしくて見てられんぞ! byナギ)
「えへへ…そうかなぁ〜」
ハヤテ君ってば、嬉しい事を言ってくれるじゃないの。そんな事言われたら、ちょっと先のテーブルの子供がとっとこハ●太郎のテーマを歌ってるのなんて聞こえないぞ〜!
「ありがとう、ハヤテ!早速だけど…つけて貰ってもいいかな?」
「え?いいけど、せっかくの今日の髪型が…」
「いいの。皆が私のために作ってくれたものなんだし、私も早くつけてみたいの。お願いっ!」
「分かった。じゃあ、失礼して…」
どこからか取り出したブラシで私の髪を丁寧に梳くハヤテ君。その馴れた手つきに、いつもヒナさんのあの長くて綺麗な髪を梳かしている事が簡単に推測出来た。 ホントに上手…好きな人に髪をいじってもらうのって、こんなに気持ち良いんだ…。
「ハイ、できたよ!」
「で、どう?どう!?」
「うん、とっても似合ってるね!可愛いよ♪」
「やったぁ〜、ありがとうハヤテ!」
自分でも鏡でどんな感じか確認すると…ホントに可愛いんじゃないかな!いや、ヘアゴムがだよ? あの不器用の権化のナギちゃんが…本当に成長したんだなぁ。 それにしても、コレってはたから見たら間違いなく恋人同士だよね。ヤバイ、幸せすぎて本当に勘違いしちゃいそうになっちゃうよぉ…。
「では、せっかく可愛らしくなったんだから街のみんなに見せびらかしに行こうか?」
「うん、これからどうするの?」
「アユが良ければ僕に任せて欲しいんだけど…いいかな?」
「ハヤテが連れてってくれるならドコでもOKだよ!」
ハヤテ君は喫茶店を出るよう促す。 そう、考え方を変えてみよう。「もう日が沈んだ」んじゃなくて「まだ帰るまでは時間はたっぷりある」んだ。もっともっとたくさん楽しんじゃうぞ〜!
◆
喫茶店を出てからも色んな所に行って、結局自宅に着いたのは夜も10時になろうという時間だった。 こんな時間になったのもあって、ハヤテ君は家の玄関先まで送ってくれた。お別れの言葉を言おうとしたその時…
「「あっ…」」
ポツリポツリと雨が落ちて来る。あっという間に雨足は強まり、カサ無しでは出歩けないほどの本降りに。 デート中に降らなくて本当に良かった。
「うわ〜タイミング良かったね。アユが濡れないで良かったよ。…申し訳無いんだけどカサを貸してもらっても良いかな?」
「うん、もちろん!取ってくるから待っててね♪」
「お願いしまーす」
玄関の扉を開けてカサ立てを物色する。お父さんの大きめのイイやつを取って戻る。 ビニールガサをそのままあげちゃっても良かったけど、家のものを貸しておけば、また返してもらう時に会うチャンスが出てくるよね。こんな雨でも私は恵みの雨にしてしまうんだよ!
「お待たせハヤテ!はい、カサだよ」
「ありがとう!今度また返しに行きますので…ではまた。明日も楽しみにしててね」
「うん!気をつけて帰ってね。またね!!」
と、お別れの挨拶を交わしてハヤテ君との幸せな一日が無事に終わった。
…はずだった。 「はず」というのは、まだハヤテ君との一日が終わってないという意味だから。
だんだんと遠くなっていくハヤテ君の背中にいてもたってもいられなくて、私は気付いたら追いかけてしまったいた。
「ハヤテ君!!」
「アユ!?」
急に肩を掴まれたハヤテ君は驚きながらも、呼び方を変えずに応えてくれた。
「ゴメンねいきなり…。最後に一つだけ、聞いて欲しい話があるんだけど…いいかな?」
「ハイ、なんでしょう?なんでも言ってくださいね!」
雨に濡れる私をすかさずカサの中に入れてくれるハヤテ君。図らずも憧れ続けた「あいあい傘」の形になった。この優しさが嬉しい。もっと溺れていたい…。 ところでいきなり話は変わるけど「なんでも」という言葉を人はよく使う。でも実際に「なんでも良い」という事なんてあり得ない。絶対に。 なぜこんな事を言うのかって? 「なんでも」という言葉が本当なら、今から私がハヤテ君にするお願いも聞き入れてくれるだろうから…。
「私は、ハヤテ君が好き。ハヤテ君がヒナさんと恋人になっても、ずっとずっと好きなままだった。前に告白した時よりももっともっと好きになった。だから、聞いてください!」
「……」
私の言葉に、笑顔だったハヤテ君の表情がにわかに変わった。私の言いたい事を察知してくれたのか、とても真剣な眼差しを向けてくれた。 これだけでここからどんな展開になるか、ハヤテ君も分かっていたと思う。それでも私の言葉を制する事無くハヤテ君は優しく聞き続けてくれた。
「今日の最後のお願いです。…私と付き合ってください!」
言ってしまった。ハヤテ君への通算三度目の告白。 言わずにはいられなかった。ハヤテ君の優しさを、温もりを、もっともっと直に感じてみたいと思ってしまったから。 …桂ヒナギクという存在を、忘れて欲しかった。むしろ、私が忘れてしまいたかった。
私の告白にハヤテ君は真剣な表情を崩さない。一生懸命に言葉を探している様子だった。その仕草に、胸の中にあった幾ばくかの期待がどんどんどんどん風船のように膨らんでいくのが自分で分かった。 しばらくして言葉がまとまったのか、肩に乗っていた私の手を乱暴にならないように私の胸の前まで持ってきて、口を開いた。
「……それは出来ません。いや、『出来ない』んじゃない。ヒナを愛してるから、僕が貴女とお付き合いする事はありません。これは僕が僕の意思で決めている事です。だから…ごめんなさい」
「……そっか」
ハヤテ君の断り方は本当にハッキリとしていて、今の彼の心にはヒナさんしかいないのだと誰が聞いても分かる答えだった。 その返答に、私の緊張の糸が一気に緩んだ。
「ゴメンねハヤテ君…せっかくお祝いしてくれてたのに、雰囲気ぶち壊しにしちゃって…」
「いえ…僕は…」
「せっかくもらったチャンスで、人の彼氏奪おうとするなんて…我ながらカッコ悪いなぁ」
「……」
ハヤテ君は口を開かない。ハッキリ言って最低な今の私にかける言葉なんて、責められるようなものしかないはずだった。沈黙を続けてくれているのはハヤテ君の優しさの表れなんだと感じた。
「でも、ありがとう」
「えっ?」
「ちゃんとハッキリと断ってくれて、ってコト。いつだったかみたいに誤魔化されたらどうしようかと思っちゃった」
「スミマセン…」
「あっ、冗談だよ?ハヤテ君がハッキリ断ってくれると思ったから、私も告白したんだし…」
きっとヒナさんなら許してくれる。きっとハヤテ君ならキッパリと断る言葉を選んでくれる。 二人の事を信頼してなければ、こんなバカげた告白なんて最初からしなかった。 ハヤテ君と付き合う事は出来なかったけど、最高の親友と知り合えた。そして、最高の失恋経験を記憶に刻む事が出来た。この二つが私の人生の大きな大きな糧になってくれるに違いない。いや、きっとそうしてみせてあげる!
「今なら分かるよ…『ありがとう』だったんだって…ハヤテ君に出会えた事、ヒナさんに出会えた事、全部が手放した私の恋よりも大きく残ってる。…だから、ありがとう!」
「西沢さん…」
呼び方が戻っているハヤテ君。 今日限りの魔法の時間も、とうとう終わりが来てしまったんだ。
「そんな悲しそうな顔されちゃうと、私また期待しちゃうよ?ヒナさんじゃなくて、私を選んでくれるかもって…」
「……」
「ね。だから、今日は笑ってお別れだよ!また明日、パーティー楽しみにしてるからね!!」
「はい。楽しみにしてて下さい。では…おやすみなさい」
「おやすみ、またね〜!」
手を振った。 彼の姿が見えなくなってからも振り続けた。
「……」
手を振り始めてから5分、ようやく私は手を止め、雨が降りしきる路上へ歩を進めた。 5月中旬とはいえ、夜の雨。冷たい雫は、容赦無く私の身体を打ちつけてくる。 手を思い切り広げ、顔を空に向ける。こうすれば、涙も雨も見分けが付かない。 お気に入りのよそ行きがずぶ濡れになるのも気にならなかった。
「ゔっ…ううぅ…」
泣いた。子供のような嗚咽と共に。 泣いてどうにかなる訳でもない。そんな事は分かってる。 でも泣かずにいられる程、自分がオトナではない事も分かってた。
「ハヤテ君…大好きだったよ…」
…私の長い長い片想いの恋は、ようやく終わりを迎えたのだった。
◆
「ヒナさん、昨日も今日も…楽しい時間を本当にありがとう」
「いいえ、楽しんで貰えたならそれが一番嬉しいわ…おめでとう、歩」
翌日、ナギちゃんが開いてくれたパーティーも終わり、アパートの庭でヒナさんと二人きりで話していた。 昨日の事を…洗いざらいヒナさんに話してしまおうと思う。責められるのは覚悟の上で。
「一つ、ヒナさんに謝る事があるんだけど…」
「昨日、告白して私からハヤテを奪っちゃおうとした。とかかしら?」
申し訳無さげに切り出す私の言葉を遮って、ヒナさんはやけに得意げな表情。
「えっ!?なんでソレを…?ひょっとして、ハヤテ君から?」
「そんな訳無いでしょ!昨日の事は歩とハヤテだけの秘密なんだから」
「そ、そですよね。と、とりあえずゴメンなさい。ヒナさんの優しさを利用して自分勝手に…」
「ううん、私も覚悟はしてた。歩の事だから、チャンスは逃さないだろうなと思ってね。正直、ハヤテと歩があのまま帰ってこなかったらどうしようって、本当に気が気じゃなかったわ」
「そこまで分かってて、私にハヤテ君を…」
「だから、『私も本気だ』って言ったでしょう?」
花壇に咲く雛菊を愛でながら話すヒナさん。 ほどこしだとか、同情だとか…そういうものじゃない。私の事をハヤテ君に恋してる女の一人として、自分と対等に見てくれている…ような気がする。難しくてよく分からないけど。
「ハイ。でも、あっさり撃沈しちゃいました。『ヒナさんを愛してるから、自分の意思で私を選ばないんだ』って」
「そ、そう…」
照れている様子がまた可愛いなぁ、ちくしょー。私もあんな風に言われてみたいな…。 だけどそれは…ハヤテ君じゃなくて、別の人に求める事にしよう。昨日、初めてそう思えた。やっと、ちゃんと失恋できた。
「さすがに泣きまくっちゃったんですけど、あれだけハッキリ言ってくれたんでようやく吹っ切れられました!」
「吹っ切れた?」
「ハイ。ハヤテ君に片思いの西沢歩は昨日で終わり。今日からは新たな恋を探すラブ・ハンター、西沢歩だよ!」
ラブ・ハンター…我ながらちょっとカッコいいんじゃないかな!? 運命の人と出逢って、恋をして、想いを伝え合って…こんなステキな事がまた最初から出来る。そう思うようにしようと決めたんだ。
「歩…」
「だから、ハヤテ君よりももっともっとステキな男の子をゲットしてみせるんで、応援ヨロシクです!」
「そんな男の子…いるわけないじゃない」
「「ハハハハハ!!」」
笑いあった。大声で、お腹の底から。 悲しんでる時間なんて無いもん。人生は短いんだし、楽しい時間を増やさないと!
失恋を経験してちょっぴり大人になった私の今後の展開に、乞うご期待です!
【つづく】
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【あとがき】
歩さんの失恋話でした。 3年以上前から書いていたんですが、なかなか思うように筆が進まず。結局は誕生日のタイミングを逃しての投稿となりました。まあ、失恋しちゃうし誕生日記念にするのもかわいそうですしね。
ヒナ役の伊藤静さんの「Happy Ending」という曲の歌詞をイメージしています。 失恋はしたけど、それ以上に得たものがある――それは親友だったり、人生の糧となる経験だったりという前向きな雰囲気を出したかったのです。が、それだけじゃ物足りなかったので、歩には本気の告白をしてもらった上でしっかりと悲しんでもらいました。 キューティーズ編はこんな感じで進めていきたいと思っています。(筆が進んでるとは言ってない
ハヤヒナ側としては、歩は大恩人です。下手をすれば失恋した心を逆撫でするかもしれないけど、本当に歩を大事に想っているが故に、思い切ったプレゼントで吹っ切れるきっかけを作ろうと決心したという形になります。難しい…。
前スレでのハヤテ君の片想いと対比して頂けると、より楽しめるのではないかと思います。片想いの主人公という事で、ハヤテと色々と似たような発想をしてもらいました。 後はハヤテがヒナとのデートに臨む時との姿勢の違いなんかも…。
さてさてこの辺にしておきましょう。 次回は…お楽しみです。(=まだ主役も話の流れもry ご感想・ご質問などお待ちしております。 ありがとうございました。
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