【第6話】桂雪路 |
- 日時: 2015/03/03 21:47
- 名前: ロッキー・ラックーン
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
「次回は、アリスちゃんに出番を奪われまくっているあの縦ロールキャラのお話を予定しています」と言ったが、ありゃ嘘でした。去年はサボ…出来なかったヒナの誕生日記念のお話となります。 果たして「キューティーズ」に入れて良い人物なのかどうかは定かではありませんが、気にせずいきましょう。
それではどーぞ!
------------------------
今日は3月4日。我が妹、ヒナギクの誕生日…の翌日。 昨日は学校行事のヒナ祭り祭りで全校生徒からのお祝いがあったため、我が家での誕生祝いは一日ずれた今日となった。土曜日という事もあり、彼氏のハヤテ君と(自称)愛娘のアリスちゃんが泊まりに来て家族5人でのパーティとなった。
「ヒナぁ、起きてる?入るわよ〜!」
「お姉ちゃん…。どうしたのよ?」
宴も終わり各人が部屋で休みに入ろうとする深夜、飲み足りない私は一升瓶を片手に妹の部屋へ突撃した。幸い、彼氏とのお楽しみタイムが終わった後のようで、パジャマ姿のヒナが寝に就く直前だった。
「どうしたのとは水臭いわねぇ。せっかくの誕生日なんだから二人っきりの姉妹水入らずで語らおうじゃないの!」
「またお酒なんて持ってきて…。いい?私は高校生、お姉ちゃんは先生なのよ?」
「今この瞬間、この空間に先生も生徒も無いわよ。私とその妹のアンタがいる、それだけよ。分かったらお姉ちゃんのグラスに注ぎなさーい!」
「んもう…私はジュース持って来るから、そこで待ってなさい」
酒に付き合うのは拒まれつつも、追い出されないあたり妹の機嫌も悪くないようだ。 さて今回の主役は私、白皇学院の美人教師桂雪路よ。みんな待たせたわね! お姉様の威厳というヤツを見せてあげるわ!
しあわせの花 Cuties 第6話【 桂雪路 】
「「かんぱーい」」
白濁色のジュースの入ったグラスと、透明な日本酒の入ったグラスが綺麗な音を奏でる。私はなみなみ注がれたそれを一気に飲み干した。
「かーっ、うんまーい!ヒナも飲めばいいのに…」
「あと3年たったらね」
あと3年…長いような短いような年月ね。その頃には私は…ゲッ、30越えてるじゃないの…。
「それにしても、お姉ちゃんがお金をせびる以外で私の部屋に来るなんて珍しいわね」
「私だって、たまには姉っぽい事をしたいと思ってんのよ。可愛い妹は最近じゃ彼氏やお子ちゃまに夢中で、いつだったかみたく『お姉ちゃんお姉ちゃん』言わなくなっちゃったし…」
「それは成長の印として喜んでもらっても良いくらいだと思うけど…」
以前は家に帰ってくると必ずいたヒナ。今では住む場所が変わって、頼りにする存在も変わって、一緒に過ごす時間はかなり減った。それを妹の成長を喜ぶ反面、少し寂しかったりもするのも確かだ。宿直室に入り浸って帰って来ない私も悪いけど、お金が無いのだから仕方が無い。
「とにかく!どーでもいいからお姉ちゃんにもっと構って欲しいのぉ〜!」
「はいはい。で、お姉ちゃんは可愛い妹に何を話してくれるのかしら?」
「酒が無くなった。注いで〜!」
「はいはい」
本来なら主役でもてなされる側になるはずのヒナが付きっきりでお酌をしてくれる。こんな大層なご身分は私にしか許されないんだろうねぇ〜。
◆
「ハヤテ君とは、付き合ってどんくらいになるの?」
「えーと、半年くらいね」
他愛無い話にも飽きてきたので、妹カップルのラブラブっぷりをからかう事にした。 恋の話を振っても動揺する事が無くなったヒナの様子がちょっと期待はずれだった。
「もうチュウとか、キスとか、接吻とかしちゃったの?」
「何よそれ…てゆーか、キスしてる時にお姉ちゃんが入ってきた時があったじゃないの!」
「そうだったわね、ゴメンゴメン」
「反省の色が見えないわよ」
要らぬ話をむし返してしまった。アレは私が帰って来るやいなやお義母さんが「ヒナの部屋に行ったら面白いものが見れる」とか言い出して、その言葉に釣られてホイホイ行ってみたら絶賛イチャイチャ中で、あんまりにもピンク色な空気に耐えられなくて突入しちゃったってだけなのよ!私も被害者なんだってば!(←誰に向けての言い訳なのかしら?by桂ママ)
「でも、ヒナったら大胆よね。いつの間にかあーんなオトナなチュウを覚えちゃっただなんて」
「もう、その話はやめ!また百裂拳をお見舞いするわよ?」
「うわーん、妹が凶暴でこわーい」
確実に大人の女性への階段をのぼっている我が妹に対して、姉の私と来たら…。 まあ言い訳をするのであれば、こういった話に一番敏感な年頃の時に人生の一番のピンチが重なってしまったってのもあるし…今じゃすっかり興味も無くなってしまった理由にはならないものかしらね?
「で、アンタ今は幸せなの?」
「それはもう、すっごく幸せよ」
「そりゃあ良かったわね。やっと手に入れたその幸せ、大事にしなさいよ?」
「もちろん!」
何気なく聞いた風だけど、本当は内心ドキドキだった。あんな小さな時期から餓死しかける事すらあった生活を強いてしまったヒナに対しての罪悪感に今でもたまに襲われる事があるからだ。 今の両親が引き取ってくれ、それに何よりヒナ自身の強さのおかげであの頃の不幸からは解放されはしたけど…いつの日かヒナにあの時の事を責められるのではないかという不安はこれまでの人生で無くした事が無い。
「でもお姉ちゃん…」
「ん?」
「私は『今は幸せ』なんじゃなくて『今も幸せ』なのよ?」
「…ほう、どゆこと?」
この時の私はヒナの言う事が全く分からなかった。
「お父さんとお母さんがいなくなった時は、確かに不幸だと思った事もあったけど…今考えてみると、お姉ちゃんと一緒だったから私はあの時『も』幸せだったわよ」
「えっ?」
「あれからこの家に養子に入って、学校に通わせてもらって友達ができたり、ハヤテと出逢ったり出来たのは、みんなみんなお姉ちゃんのおかげだって思ってるわ」
「ヒナ…」
イカン、涙が出てきた。 私はヒナにとってあの頃は不幸でしかなかったと思い込んでいた。だって私のせいでこの子にさびしい思いやひもじい思いをさせてしまったから。それなのにこの子は…
「だから、いつもはあんまり言えないけど…お姉ちゃんの事、私すっごく尊敬してるのよ?比べるような事じゃないけど、ハヤテやアリスよりも…誰よりもよ」
「この…可愛いヤツめ!」
私はヒナに抱きついた。涙を見られないように、罪悪感があった事を悟られないように。
「ちょっ!なに抱きついてるのよ!?てゆーかお酒くさっ!もう、離してってば!!」
「うーん、ヒナはいい匂いがして抱き心地が良いわねぇ〜♪もうちょっとだけ〜!」
「んもう…今日だけなんだからね!?」
「やったー!ヒナだいすき〜!」
ヒナの身体に身を委ねて胸の昂ぶりをしずめさせる。ヒナが小さかった頃はいつもこうしていた事を思い出す。 それと同時にもう一つ考えていた。私の人生を支えてきた一つの言葉を、ここで告白したいと思う。
「ヒナ…一度しか言わないから、よーく聞きなさい!」
「ん?」
「私にとってアンタが人生の全てだったわ。もう何度イヤんなって逃げ出そうと思ったか数え切れないくらいだったけど…ヒナがいると思ったから何でも出来た。ヒナは私の…『しあわせの花』だったから」
「それって…ハヤテも言ってた…」
「そーなのよ。あの子に『ヒナのどこが好きか』って聞いたら、10年以上ずっと私が思ってたのとおんなじ事を言い出してさ。もう嬉しくって嬉しくって…酒が止まらなかったわよ!」
読者の皆は何度も目にしている言葉かとは思うけど、この言葉をハヤテ君の口から聞いた時には正直鳥肌が立ったほどだ。出会って間もない彼が私と同じ事を考えていた事にシンパシーを感じたと同時に、ずっとずっと私を支えてくれていたヒナが自分以外の人も支えているんだと少し寂しくもなった。他にも色々思うところはあったけど、私と同じ事を思っている彼は、私と同じくらいこの子を愛してくれるだろうと信じる事にした。
「そうなんだ…って、嬉しくてもそうでなくてもお姉ちゃんのお酒は止まらないでしょ」
「はっはー。バレた?」
「んもう!…でも、ありがと」
「へ?」
普段ヒナの口からは聞き慣れない言葉が出てきて耳を疑う。まあヒナにお礼を言われるような事を普段からしないので当然っちゃあ当然だけど。
「ありがとうって言ったのよ。私、お姉ちゃんの妹で良かった…。お姉ちゃん♪」
「おっと!甘えんぼさんね〜、ヒナは」
さっき私がやったように思いっきり飛びついてくるヒナ。胸に顔を埋めて匂いを嗅いで来る仕草は小さな頃から変わらないこの子の愛情表現だ。 こんな風に甘えてくるだなんていつ以来だろう?こんなに大きくなって…それでも変わらずに私を愛してくれているという事に胸が熱くなった。
「そっちが先にやってきたんだから、お互い様でしょ?」
「それもそうね、思う存分お姉ちゃんに甘えなさーい」
明日は日曜日。この特別な夜をまだまだ思う存分楽しめる事に心から感謝したい。 恋人でも親子でもない。それでも最愛の存在と言える関係…二人っきりの姉妹。たまにはこんな話も悪くはないわよね? おめでとう、ヒナ。ありがとうヒナ。
【つづく】
------------------------
【あとがき】
主人公補正が入りまくり、普段のダメっぷりはどこへやらな雪路さんとのお話でした。 書く予定はまったくありませんが、雪路は前作の主人公的な立場としてハヤテと同じ事を考えていましたという設定です。 なんかあとがきがあんまり思い浮かばないので追記するかも…という形で締めさせていただきます。
ご感想・ご質問などお待ちしております。 ありがとうございました。
|
|