Re: ヒナミチ! |
- 日時: 2014/04/28 22:38
- 名前: ネームレス
- 誤字の報告ありがとうございました。一瞬修正の仕方わからなくて全く同じ報告を自分でしてしまった(焦)
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「はぁ……」 「ヒナちゃん大丈夫?」 「大丈夫よお義母さん。ちょっと慣れない環境でびっくりしただけ」 今まで自分が体験したことも無い「お金持ちの世界」に圧倒されたヒナギクは見事に疲れ切っていた。 しかし、迷惑を掛けたくないヒナギクはその態度を隠してしまう。 「うーん、ヒナちゃん見てるとたまに心配になるわ」 「何が?」 「私がちゃんとヒナちゃんの母親出来てるかって」 「で、出来てるに決まってるじゃない! お義母さんたちがいなかったら、私とお姉ちゃんはとっくに野垂れ死んでたわよ!」 突然の告白に狼狽してしまうヒナギク。その姿を見てヒナママはにっこりと笑った。 「なら、もう少しわがままを言ってもいいのよ。ヒナちゃん立派なのはいいんだけど、全く手のかからないのはお母さんとしては少し寂しいわ」 「う、うん……」 「ごめんね。でも、ヒナちゃん何か困っても一人で抱えちゃいそうだから。こうでも言っておかないと」 「……ありがとう。何かあったら絶対話すわ」 「ふふ、楽しみにしてるわ。それより友達は出来たかしら」 「うっ」 ヒナギクが思い浮かべるわ美希が紹介した二人。思わず苦笑いを浮かべてしまう。 「……ヒナちゃん、男勝りだからねー」 「私は女よ!」 昔、美希を助ける際に三人の男子をボコボコにしたことを少し気にしているヒナギクだった。
「お姉ちゃーん。いるー」 「んあー……? ああ、ヒナじゃない。どうしたの? 説教ならやめてよねー」 本宅の近くにある小屋。そこに桂雪路はいた。 中は酒ばかりで酒臭い。唯一の住人も見事な泥酔ぶりだ。 「少しは抑えなさいよ……全く」 「酒は私にとっては水よ。ヒナは水飲まなきゃ生きてらんないでしょ?」 「……本気でぶちのめした方がいいかしら」 「ヒナにはまだ負けないわよ」 ケラケラと笑う雪路。ヒナギクはもう怒りを通り越して呆れていた。 しかし、そんな話をしに来たのではない、ヒナギクは気を引き締めた。雪路も何となく察している。 「で、わざわざここに来るって事は用があるんじゃないの?」 「うん。聞きたいことがあって」 「何よ」 「……甘えるって、どうするのかしら」 「…………」 ポカン、といった様子で目を見開く雪路。そして徐々に口角を上げ、終いには声を上げて笑い始めた。 「あははははははははははは!!! あ、あま! ヒナが甘えるって!」 「ちょっと! 私は真面目に話してるのよ!」 顔を真っ赤にして怒るも、雪路に効果は無い。 「ひ、ひー、ごめんごめん。そうかー、ヒナが甘えるねー。お義母さんに言われたの?」 「……そうよ」 「まあ大丈夫じゃない? どうせすぐにヒナは問題起こして否が応でもお義母さんに頼ることになるんだから」 「それってどういう意味よ!」 「どーうせ学校の規則破ってる生徒とか見つけたら学年関係なく噛み付いては注意するんでしょ。イジメ現場発見したら言葉より行動を先にしちゃうもの」 「う……でも悪いのはあいつらよ!」 「そうなんだけどねー……」 雪路は一瞬眩しそうに目を細めた。先ほどまでのふざけた態度とは一変し、真面目な雰囲気を出していた。 「ヒナ。世界は正しさだけで作られてるわけじゃないわ。時には許容して、受け入れる事だって必要よ。見逃す事も必要なスキルになってくるのよ」 「じゃあ、悪い奴は見逃せって言うの?」 「違うわよ。ヒナのやり方は真っ直ぐ過ぎるの。たまには攻撃してノックアウトさせる以外の方法を考えなさい」 「と言われても……」 「とりあえず、人と関わってみたら? ヒナはぼっちだものね」 「ぼっちじゃないわよ!」 「もう帰る!」と顔を真っ赤にして戻るヒナ。雪路は軽く手を振って返した。 「……全く。その真っ直ぐさは誰に似たんだが……」 雪路は窓から見える月を仰ぎ、手に持っていたビールを一気に飲み干した。
「美希ー。おはよー」 「ああヒナ。おはy」 「ヒナちゃんおはよー!」 「おお、おはよう」 翌日。学校に行くと早速あの二人が待ち構えていた。ヒナギクは一瞬の思考ののち、無視を決め込んだ。 「ふむ。完全に嫌われたようだな」 「ええー! 何でー! 友達になろうよー!」 「……ええと」 「泉! 瀬川泉だよ!」 「朝風理沙だ」 「そう。瀬川さんと朝風さん。すこし静かにしてもらってもいいでしょうか?」 あまりにも他人行儀な態度に、流石の二人も硬直する。 「ま、まずいぞ泉。私たちは完全に歓迎されていない」 「ふぇぇ、どうしよう」 「決まっている! 「アレ」だ!」 「おお! 「アレ」! ……てなに?」 「行くぞ泉! 待っていろよヒナ! 明日には見せる!」 「え? み、見せ? ……て、あなたたち! これから授業よ!」 二人は話を聞き終わる前に教室を出て行ってしまった。 「……まあ、悪い奴らじゃないんだよ。バカではあるが」 「……美希が友達やれてる理由がわかったわ」 「言っておくが私はバカではないぞ?」 「え?」 「え?」 「そ、そうね。美希はバカでは無いわね。……勉強が出来ないだけで」 「聞こえているぞヒナー!」 閑話休題 「それにしても……どうしようかしら」 「何がだ?」 「んー、昨日お姉ちゃんにもっと人と関わりなさいって言われたのよ。だから手っ取り早く達成するにはどうしたらいいかなと」 ヒナギクは飲んだくれだからといって姉をバカにしているわけでは無い。仮にも自分を中学生の身で守ってくれた存在だし、実の姉だ。シリアスと平常時のギャップが酷すぎるだけで、雪路のアドバイスは十分に聞き入れている。 「ふむ。それなら簡単だ」 「え? 本当?」 「部活に入ればいい」 「部活?」 「ああ。白皇はあまり部活は強くないが、やる必要がない。将来が決まっている生徒も少なく無いから無理して部活をやる生徒は少ないんだ。だから、部活をやっている生徒は必然的にその部活を好きでやっている者だからな。フレンドリーな人たちも多い。趣味でやっている者や溜まり場として使われている部活もあったりするがな」 「た、溜まり場って……ダメでしょそれ。学校側や生徒会は何してるのよ」 「別に部活強豪校では無いからな。部費も払ってるし機材もほぼ自腹。学校側も特に厳しく規制しているわけじゃないからそのままにされてるんだ」 「うーん、それでいいのかしら」 いかにも納得いかないといった様子のヒナギクだったが、昨日の姉との会話を思い出しとりあえずはスルーする事にした。現場で何か出来る事は無いと判断したのだ。 「それで、部活だっけ?」 「ああ。ヒナはどんな部に入りたいんだ?」 「そうねー。強くなれる部活かしら。お姉ちゃんに負けたくないし」 「そうなると団体戦より個人戦かな」 「でもテニスとかは違う気がするし……柔道?」 「あー……それなんだがヒナ」 美希はとても言いにくそうに、だが言った。 「柔道部は無いんだ」 「え? そうなの?」 「まあ、ちょっと問題があってな」 「……聞いた方がいいのかしら」 「聞かない方がいいかもしれない」 「……ここまで聞いて引き下がれないわ。教えて」 「陵辱事け」 「もういいわ」 一瞬で聞くのをやめるヒナギク。顔は真っ赤だ。 「寝技は寝技でもベッドの上での寝技でね」 「いや、だからもういいわ……。部活は諦めようかしら」 「ま、まぁ。この後部活動紹介だし、それを見てからでもいいんじゃないか?」 「なんかいい部活があるとは思えないんだけど」 「金持ちの趣味の延長だからな……」 早速ヒナギクは、姉からの助言である人との関わり合いを、遥か遠くに感じるのだった。
「これから野球部の紹介を始めます」 部活動紹介。 と言っても、普段の練習風景をコンパクトに纏めたものを順に紹介するだけだ。金持ちの趣味の延長ということは誰もが理解しているところだし、気合が入っている部活はあまりない。 (はぁ。どれもパッとしない) ヒナギク自身、ただ流れていくのを見るだけだった。 (まあ人付き合いって言っても部活だけじゃないしね。無理して入る必要も無いのよ。そもそもここは金持ちの学校。部活が適当でもしょうがないじゃない。趣味の延長でしかないんだし、本気でプロを目指してる子だったらクラブとかに行ってるはずだし) 言い訳のように思考を並べるのはきっと、少しだけ楽しみにしていた部分もあるのだろう。 だが、そんなヒナギクの思考を切り裂くものがあった。 「メエエエエエエエエン!!!」 「っ!?」 突然の大声に驚くヒナギク。 何事かとステージ側を見れば、防具を付けた人間が竹で出来た剣、竹刀を使いバシンバシンと音を立てながら相手を叩いていた。 「これは……」 「剣道だよ。ヒナも知ってるだろう?」 と、隣にいた美希は告げる。 しかし、ヒナギクは直接剣道を見たことは無い。目の前で見た打ち込みの迫力は凄く、そして、ヒナギクは何故か強く惹かれた。 「えー、部長の風宮徹(カザミヤ トオル)です。うちは少人数ではありますが、一応全国を目指しています!」 その言葉に体育館からは失笑が漏れる。部長だという人もその反応を受けて笑っていた。 だが、ヒナギクの目には、そして耳にはその態度も、言葉も真面目なものだと感じられた。 最後に部員全員が並んだ。 「興味のある方は是非入ってください。そして、応援よろしくお願いします!」
__よろしくお願いします!
その声は体育館中に響いた。
「美希。決めたわ」 「何がだいヒナ?」 「私……剣道部に入る」
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