Re: ヒナミチ! |
- 日時: 2014/04/27 09:13
- 名前: ネームレス
- 「お姉ちゃん! またお酒なんか飲んで!」
「いいでしょー。たまの休日ぐらい」 「平日だろうがなんだろうが毎日飲んでるでしょうが!!!」 とある一軒家では毎朝の恒例行事のごとく怒声が響いていた。 「もうヒナちゃん。外まで響いてるわよ」 「う……ごめんお義母さん」 「やーい怒られてやんのー」 「お姉ちゃん!」 「はーいヒナちゃんは今日入学式でしょ。せっかく外部入試で入れたんだから遅れちゃダメよ」 「ヒナも花の中学生ねー。頑張りなさいよー」 当時のヒナギクは13歳。中学一年生だった。 この時点ですでに成績は優秀で容姿も良かった。テストでも常にオール80点代であった。 「お姉ちゃんだって今日は高校の入学式でしょうが!!!」 「何故か今日は休みを言い渡されたのよねー。……何でかしら」 「お姉ちゃんの普段の仕事態度がよーくわかったわ」 雪路の一言にヒナギクの背後に炎が立ち上がる。あくまでイメージではあるが。ただ、それだけの迫力がヒナギクにはあった。 が、 「せいやぁ!」 「まだまだ甘いわよー」 ヒナギクの全力のパンチを雪路は軽々と片手で受け止める。 「これでも若い頃はいろいろ無茶やってたのよ。ヒナ程度の遅れなんかとりゃしないわよ」 「うぅ〜!」 「もう、雪ちゃんはあまりいじめないの。ヒナちゃん。そろそろ時間がやばいわよ。送って行きましょうか?」 「ううん。大丈夫。後で来て。お姉ちゃん! 帰ったらお説教だからね!」 「はいはーい」 「それじゃあ行ってきまーす!」 慌ててカバンを持ち急いで白皇学院中等部へと向かう。 白皇に着く頃にはヒナギクの息は絶え絶えであった。
ヒナギクは元々白皇に来る予定は無かった。それは学費が高いからだ。 無駄にでかい校舎。揃えられた機材。凝った装飾。有名なデザイナーが作った制服。年々更新されていく道具などなど。お金持ちが通うからこそ可能ともいえる無茶な教育環境作り。 今の両親はヒナギクの本当の親ではない。だから距離を取っているわけでも無い。むしろ仲は良好だし、金銭面もどちらかというと裕福なためなんら問題は無い。だが、それはヒナギクの理性や自立心が止めた。ただでさえお世話になっているのに、例え負担で無くとも迷惑は掛けたくないという不屈の親孝行精神がそれを許さなかった。 そんなヒナギクを後押ししたのは友人である花菱美希と入学先である白皇学院で教師をやっている姉の存在だった。 なんやかんやで「なら外部入試で特待生になって学費免除にする!」というのがヒナギクの決断であった。 外部入試で入った生徒は学費免除の変わりに常に偏差値以上の点数を取り、白皇を名門たらしめる義務が追加されるのだが、普段から真面目なヒナギクにとっては余裕だった。 そして今日、ついに入学式を迎えた……はいいのだが、予想していない事態がヒナギクを襲う。 「ヒナ。どうした」 「美希……私転校しようかしら」 「後悔が早過ぎやしないか?」 周囲の殆どが金持ちだということだ。 中学の時点で外部入試してくる生徒は少ない。当たり前だ。ついこの間までみんな小学生だったのだ。普通であれば受験などせずとも進学は出来る。 故に、この時点で庶民感覚のヒナは金持ちだらけの空間でアウェー感をすでにひしひしと感じていた。唯一の救いは美希の存在か……。 「本当に何なのここ。大企業の息子とかいるじゃない。私、何か失礼な事とかしたら消されるんじゃ……」 「不可能じゃないけど、普通めんどくさくて誰もやらないしまだ私たちは中学生だぞ? 子ども同士の問題でとやかく言う親はそういないさ。わざわざ騒ぎを大きくする親じゃ金持ちにはなれないよ」 「そうだといいのだけれど……」 「なら友達増やせばいいじゃないか」 「気が引けるわよ」 「全く……そうだ。なら私の友達を紹介しよう」 「美希の?」 「ああ。自慢の友達だ」 美希は「自慢って言ったのは秘密だからな」と一言添え、ヒナギクの手を引っ張る。 「ちょっと美希!」 「大丈夫大丈夫。痛いのは最初だけだ!」 「何の話!?」 いきなりの事に動揺するが、同時に自分の友達である美希にとっての「自慢」を見てみたくもあった。 だがヒナギクはいろいろと後悔する羽目になる。
パシャパシャとシャッター音が鳴り響く。 カメラを構えるのは身長が高く黒髪を短く纏めた女子生徒だ。 「この角度いいな! 美希! よくこんないい「素材」を持ってきてくれた!」 「いや友達だぞ」 バサバサした感じの喋り方で活発なイメージを持たす子だ。いろいろな角度でヒナギクを撮りまくる。 「ヒナちゃーん。こっち向いてー」 反対側でカメラを構えるのはおっとりとした雰囲気の女子生徒だ。性別問わず人気がありそうである。 そしてそんな二人に挟まれるヒナギク。額には徐々に青筋が浮かんで行く。 「美希。帰るわね」 「いやヒナ。悪かった。タイミングが悪かったんだ。いやだからそんな早足で歩くのはやめよう。 ヒナー!」 ヒナギクと彼女たちのファーストコンタクトは最悪の形で終わる。 しなしヒナギクは知らない。この関係は後々まで続くということを。そしてヒナギクにとっても掛け替えのない友人になるということを。
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