ヒナミチ! |
- 日時: 2014/04/26 13:23
- 名前: ネームレス
- この小説を読むさいの注意点。
独自設定独自解釈含みます。 原作と食い違う部分があるかもしれません。 とにかく妄想です。 それでもいいなら本編へ。
ーーーーーーーーーー その場の空気を支配していたのは緊張だった。 張り詰められた空気の中、白テープで一辺9mの正方形型の「フィールド」の中で二人の人間が向かい合う。 両者は共に防具を身につけ相手に剣を向ける。それは竹で出来た物ではあるが、やはりどこまで行ってもそれは「剣」だ。 フィールドの周りには人が集まるが、外側からでは表情は見えない。内側でのみわかる相手の表情。 「アアアアアア!!!」 片方が動いた。左足で踏み出し、右足を勢いよく前に出す。腹から出した叫び声に対し、相手は全く怯まない。剣を振り上げ、そして振り下ろした。 「メェェェエエエエエエン!!!」 しかし、相手もただ黙っていたわけではなかった。 面の奥にある美しくも鋭い眼光はさらにその鋭さを増し、相手が手を振り上げた瞬間に踏み込んだ。相手の振るタイミングに完全に合わせ剣を横に振る。 「ドオオオオオオオオ!!!」 凛と響く高い声は道場の中に万遍なく響き渡り、同時に相手の胴を竹で出来た剣がパシィィイイインと鳴った。 「一本! 勝負あり!」 それを合図に両者は元の位置に戻りしゃがむ、剣を収める、立つという一連の行動の後、互いに礼をした。 「ありがとうございました!」 「ありがとうございました!」 向き合ったままに下がり、白テープより外に出てようやく力が抜ける。 少し離れた所に座った勝者は面の後ろに結んだ紐を解き面を取る。頭に巻いた手ぬぐいを取り、そこから長いピンク色の髪が垂れた。 「ふぅ」 一息吐く人物は美しい容貌の少女だった。対して、先ほどの対戦相手は男。さらに三年生だった。年、経験、性別の壁を実力にて打ち破った少女の名は桂ヒナギク。白皇学院高等部二年の生徒会長兼剣道部員。そして、「最強」の剣士だ。 「顔を洗ってきます」 「おーう、お疲れ様」 「今日も強かったですねー」 「さすが生徒会長様だ」 「美人だな」 「結婚してぇ」 ヒナギクは後半二つの言葉を聞く前に道場を後にした。
道場を出てすぐの所に蛇口がある。そこは主に剣道部員が使うものだった。ヒナギクも例外ではない。 バシャバシャと水を両手ですくい顔に掛ける。持参のタオルで顔を拭く。実は練習終わりにヒナギクは毎回ここへ訪れるため、一部の生徒がヒナギク見たさに集まっているのをヒナギクは知らない。 (放課後だって言うのに生徒が多いわね。さすが白皇) 小、中、高一貫校である白皇であるため生徒が多いことに疑問を持つことは無い。 そんなヒナギクだったが、その背後に人影が忍び寄る。 人影は何かを手に持ち、それをヒナギクの頬へと触れさせようとして__触れる前にヒナギクにその手を掴まれた。クルミすら簡単に砕く握力で、全力で、だ。 「いだだだだ!」 「あ、ああ! ごめんなさいハヤテくん!」 「いえいえ……頑丈なだけが取り柄なので……。あ、これどうぞ」 ヒナギクの思い人であり現友人の綾崎ハヤテだ。ハヤテはその手からいろはすを渡す。 「あ、ありがと……」 「本当は飲み物も作ってたんですがお嬢様に飲まれてしまって。すいません」 「ううん。十分よ。ありがと。……ナギは相変わらずね」 「ええ。今も発売されたばかりのゲーム攻略のために学校さぼって屋敷でゲームしてます」 思わず苦笑いしてしまう。ハヤテの主であるナギはいつも通りのようだ。 そこまで話したところで、ヒナギクは自分が今凄く汗をかいてる事を思い出し咄嗟に一歩下がってしまう。 「どうしました?」 「いえ、何でもないわ」 何でもないわけがないのだが、口に出すのは恥ずかしく、距離は結局離れたままだ。 「それにしてもヒナギクさんは凄いですね。あんなに剣道が強くて」 「え? 見てたの?」 「はい。遠目にですが」 「そ、そう」 気恥ずかしいのか少し頬を赤く染まった。元々試合後だから頬は赤くばれなかったが。 「ヒナギクさんって本当に剣道が好きなんですね」 「そう見えるの?」 「違うんですか?」 ヒナギクは少し考えてから話し始める。 「好きは好きだけど、少し違うかも」 「そうなんですか」 「うん。じゃあ、練習も終わったし少し昔話しようかしら」
__私が「弱かった」頃の話を。
これはヒナギクがただの「一般生徒」で、そして現在のヒナギクを形作る物語。 完全無欠でも、何でもない少女の成長の物語である。
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