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件名:
勇気を出して
名前:
kull
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【これまでにチェックされた内容】
2014/04/06
彼氏のがいても
⇒ 彼氏がいても
【参考】対象となる原文
勇気を出して
日時: 2014/04/05 21:54
名前:
kull
クイズ大会で合同本の転載枠をもらったので、短めですが読み切りを書きました。
例にもれず今回も千桜メインです。前回の合同本と同じくモブ出てきます。
連載のほうなかなか更新できなくてすいません・・・・。
以下本文
「なあなあハルさん、お願いがあんねん」
週末。
いつものように愛沢家でメイドの仕事をしていると、咲夜がそう話しかけてきた。
「はい、何でしょう?」
千桜は掃除していた手を止め咲夜へ振り向く。
「ハルさんが前に勤めてたメイド喫茶あるやろ?明日だけそっちに出てほしいねん。」
「え、明日ですか?えっと・・・・」
(秋葉みたいな目立つところでメイドやってるとメイドやってるってバレるかもしれないけど・・・一日なら大丈夫かな。)
「はい、大丈夫ですよ。一日だけですよね?」
「おお!いやぁ、助かったわ。実はハルさんが抜けてから売上がちょっと落ちててな、明日は今の看板の女の子もいないし、ハルさんがいって他の子にビシッとメイドってもんを見せつけてやってほしいねん。」
確かに自分が以前いた時、自分以外の女の子は少し萎縮しているように思えた。
自分が愛沢家のメイド喫茶、サク☆ニャンに入ったのもそれがきっかけだ。
「いやぁ、ありがとな。ハルさんは以前の看板やったから、きっと他の子も見習ってくれるはずやで。」
「えと、私がいたころと何も変わってないんですか?」
「ああ、今は他のとこと差別化を図るために『メイドお悩み相談』ってのをやってるみたいや。まぁ内容はそのままやけど、あんま上手くいってないみたいなんや。」
メイドお悩み相談とは・・・。まるで学校のカウンセラーのような企画だ。
恐らく、上手くいってない原因はバイトの子がお客さんの相談を親身になって受けないからだろう。
「なるほど・・・。わかりました、では明日はこちらはお休みさせてもらいますね。」
「おおきに!秋葉のほう、頼んだで!」
「最近、友人が僕に冷たくて・・・・・・。」
「もしかして、なにかお友達の方に失礼なことを言ったのではないでしょうか?理由が分からないなら、思い切って聞いてみてはどうでしょう。」
「バスケットボール部なんですけど、なかなか上手くならなくて、辞めようか悩んでます・・・。」
「バスケを好きな気持ちがあれば、いずれと上手になるはずです。初心に帰って、バスケを楽しんでみてください。」
「親が勉強勉強ってうるさいんです・・・・。僕は頑張ってるのに・・・。」
「親御さんに、自分は頑張ってるってことを言ってみたらどうでしょう?それでも理解してくれないなら、やっぱり結果を出すのが一番ですよ。」
「ふぅ・・・・・・。」
休日で夏休みなため、メイド喫茶を訪れる客は後を絶たなかった。
咲夜さんの言っていたお悩み相談も、時間が経つごとに私を指名する人が増えている。
毎回親身になって相談していると、流石に大変だ。
(でもまぁ、結構やりがいのある仕事だな。お客さんが笑顔になって帰ってくれるのは嬉しいし。)
なんてことを思っていると、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ハルさんお願いしまーす!」
「はいはーい、今行きまーす。」
裏の休憩所を出て店の中へ戻る。
指示されたテーブルに行くと、そこには自分のよく知った顔の男性がいた。
(せ、先輩!?な、なんでここに・・・・。)
自分の目の前にはアニメイトで働いているバイトの先輩が座っていた。
秋葉の中でも星の数ほどあるメイド喫茶で先輩がここを選び、なおかつ自分がたまたま勤めてるなんて、偶然にも程がある。
今はメガネもないし髪も下ろしているから、初見ではバレないだろうが・・・。
「えっと、きょ、今日は相談があって来たんですけど・・・・。」
「は、はい、お悩み相談の方ですね。どうぞ、お気軽にお話してください。」
「え、えっと・・・でも、その・・・やっぱ恥ずかしいっていうか・・。」
「大丈夫ですよ。どんな相談でも笑いはしませんし、真剣にお答えさせていただきますから。」
「え、えっとそれじゃ・・・。あの、実は最近気になってる女の子がいるんですけど・・・。」
「いいじゃないですか。その方は同年代ですか?」
「い、いや、年下です。それで、その子と付き合いたくて色々頑張ったんですけど、どうやらその子、男の子と同棲してるみたいで・・・。」
意外だ。
アニメ好きの先輩に気になっている女の子がいるなんて。
男の子と同棲してるということは、要するに彼氏がいるということだろう。
なかなか難しい相談だが、お世話になっている自分の先輩だ、なんとか力になってあげたい気持ちもある。
「それは少し難しいですね・・・・。お客様は、その女の子が好きなんですか?」
「え!?い、いや・・・その・・・・」
先輩は顔を赤くしながら反応に困っている。
普段はこんなに慌てている先輩を見ることはないので、少し新鮮な気分だ。
「女の子と全く関わりが無かった僕に、初めて優しくしてくれた子で・・。まだ諦められないっていうか・・・。」
「それなら、例え相手に彼氏がいても積極的にアプローチしてみては如何でしょうか。自分の好意が伝われば相手の方も振り向いてくれるかもしれませんよ。」
「な、なるほど・・・・。まだチャンスはあるかもしれないってことですね・・・。」
「はい!まだ諦めるには早いです、先輩!」
「・・・・え、先輩?」
「・・あ、いえ!すいません、間違えましたお客様!」
「ハルさーん、時間ですよー!」
危なかった。
話の勢いでつい先輩と呼んでしまったが、ここで相談の制限時間が来たようだ。
先輩は不思議そうな顔をしながらカウンターで料金を払い、店を出ていく。
バレなくてよかった。
(それにしても、先輩、上手くいくといいなぁ・・・・。)
翌日。
夜頃、アニメイトでの仕事が一段落し、裏の休憩室でコーヒーを飲んでいた私に先輩が話しかけてきた。
電灯が切れかかっているのか、時折チカチカと光っている。
「あの、春風さん・・・・・ちょっと、いい?」
「あ、はい、仕事ですか?」
コーヒーを置いて立ち上がろうとすると先輩は慌てて手を横に振った。
「い、いや、違うよ。今日はもう上がりでいいって。」
「ああ、そうなんですか。お疲れ様でした。・・・・・それで、どうしました?」
「いや、ちょっと聞きたいことあるんだけど・・・。春風さんって、ここの他に何かバイトとか、やってる?」
「えっ!?・・・・い、いや、えーと・・・」
唐突な質問に私は少し驚いていた。
もしかして昨日の悩み相談の時に私だって気づいたのかもしれない。
とりあえずバレるのは困るので、誤魔化しておくことにした。
「・・・いや、何もやっていませんよ。ここだけです。」
「そう・・・。いや、昨日春風さんによく似た感じの人を見たから・・・。でもメガネかけてなかったし、違うよね。」
「そ、そうですね。私、いつもメガネかけてますから・・・。」
チカチカと電灯が光るペースが早くなってきた。
お世話になっている先輩に嘘はなるべく言いたくなかったが、仕方がない。
「・・だよね。・・・・・でも、じゃあなんであの時先輩って・・・」
先輩は不思議そうに首をかしげている。
やはりあの時呼び間違えたのは大きいミスだったようだ。
このままだと気づかれてしまうかもしれないので、今日はもう早く帰ることにする。
「じゃあ、先に失礼しますね・・・・。」
「あ、待って、春風さん!」
その場から逃げるようにそそくさと出口の方へ向かった私を先輩が呼び止めた。
「・・・・あの、もしよかったら、メールアドレス、教えてくれないかな。」
「・・・へ?メアドですか?別に構いませんけど・・。いきなりどうしました?」
「い、いやあの・・バイトの連絡とか出来ると便利かなって思って・・。」
「まぁ、そうですけど・・。」
私は携帯を取り出し、先輩へ赤外線でメールアドレスを送る。
先輩は後でメールするね、と言い残し店のほうへ戻ってしまった。
いくら秋葉といえど、夜に駅から少し離れると人通りは少ない。
歩いていると、携帯が震えるのに気付いた。恐らくは先輩だろう。
『春風さん、いつもお仕事お疲れ様です。メールアドレス、登録お願いします。』
『登録しました。先輩こそ、お疲れ様です。そういえば裏の電灯が切れかかっていたので、明日、私が交換しておきますね。』
メールを送信し、空を見上げると雲は無く月が綺麗に光っていた。
そういえば、昨日相談された女の子はどうなったのだろうか。先輩は何か行動したのだろうか。
(確か年下と言っていたけど・・・・まさか、ね・・・・。)
ちょうどよく満月だったので、先輩が上手くいくよう月に祈ることにした。
別に神頼みというわけではないが、祈っておいて損はないだろう。
(先輩が相手の方と上手くいきますように・・・。)
祈り終えたところで携帯がまた震えだした。
夜なのに風は無く、感じる暑さは昼と変わらない。この夏は暑くなりそうだ。