ハヤテが女装でチョコ配るだけの話のはずだった(by俺 |
- 日時: 2014/02/14 20:47
- 名前: ネームレス
- 「なんやこれ?」
全てはここから始まった。
「明日がバレンタインやからチョコレートあるのはわかるけど……これ和紙でラッピングされてあるで?」
とある蔵で二人の少女が会話していた。 片方は関西弁で喋る活発なイメージを持たせる少女。もう片方は無表情で和服を着る少女だ。
「むやみに触ってはダメよ、咲夜。それは呪いのチョコレート。下手に触って封印が解けたら……大変な事になるわ。本当は早く処分してしまいたいのだけど……強力な力を持つものだからそれも難しくて……」
「ふーん……呪いのチョコレートね〜……」
和服の少女に興味無さげに呟く関西弁の少女。しかし、それを両手で持ちいろいろな角度から覗き込んでいたら誤ってバキッと“綺麗に半分に”割ってしまう。
「……………………。あれ?」
「特にあり得ないけど、“綺麗に半分”に割ってはダメよ。半分に割ってしまうと封印が解けて……“この辺で一番、女装の似合う人に……恐るべき呪いが掛かるから!!”」
決め台詞と共にキラーンと効果音を出しながら、視線を関西弁の少女へと向ける和服の少女。 その時、和服の少女の視線は関西弁の少女の手の中へと集中する。
「「!」」
見つけて驚き、見つかって驚き、互いが互いに一瞬の間で状況を整理した。 そして、二人の少女は叫んだ。
「ーーーーーーーーーー!!! も〜〜!!」
「ごめーーーーん!!! 」
「え? 厨房に出入り禁止ですか?」
「うむ。そうだ」
「ですがお嬢様。それでは料理が……」
とある豪邸での出来事だ。 厨房の扉の前で、三人の少年少女が言いあっていた。
「大丈夫ですよハヤテくん。私がやっておきます」
「ですがマリアさん」
「ですからハヤテくんは、私の分まで掃除をお願いしますね」
「は、はい!」
少年の名は綾崎ハヤテ。一見少女にも見間違えそうになる容姿の少年だ。 目の前にいるのは小柄な少女、三千院ナギにメイドのマリアだ。 ハヤテはナギに仕える執事で、今日も厨房で料理の準備をしようとしたところで、ナギから明後日まで厨房への立ち入り禁止をくらい騒いでいたのだ。
「ですが、なぜ明後日まで……?」
「そ、それは……」
「ナギ。ハヤテくんにわかってもらおうと言う方が無理ですよ」
「……それもそうだな。まあ、どちらにしろ明日にはわかる。いや、わからせてやるから心配は無い」
「……は、はい」
同じ返事なのに、先ほどより勢いが無いのは恐らくナギの背後に恐ろしいほどの気迫を見たからだろう。ハヤテはそれ以上何も聞かず引き下がる。
「ともかく、ハヤテくんはお掃除をお願いできますか?」
「はい! 任せてください! ……ですが、明日何があるんですか?」
「……まあハヤテは女装が似合いそうだし、案外」
「なぜ女装が……? あ、やっぱ何でも無いです」
カッ!!
「何ですか今の効果音」
「なんかのミスだろう」
“それ”に掛かった時間はおよそ瞬き一回分。早着替えなど、そういう生易しい次元ではない。 ナギとマリアは、ハヤテが立ち去る時一回だけ瞬きをした。一回だけ、だ。 そして、すぐに目を開けた二人はその光景に驚愕する。
「それでは行ってきますね!」
「「!!?」」
ハヤテの服が執事服から、女物の服に変わっていたのだった。
「「………………はい?」」
状況が飲み込めず、ひたすらに疑問符を頭に浮かべ、そして結局そのハヤテの早着替え(?)現象を二人は飲み込み、冷静な判断をするように誓った。
「ふんふふんふ〜ん♪」
ハヤテは屋敷内の窓を隈なく拭いて回っていた。その行為事態はよく見かけるものだ。 しかし、ハヤテの背後ではこっそりとハヤテの様子を伺う者たちがいた。
「うーん、ハヤテくん。自分の服装に気付いてないのでしょうか?」
「ありえるなハヤテなら。仕事に集中しているのだろう。……というか、前にも似たような事が無かったか?」
「というと?」
「ひな祭り祭りだよ。あの時もハヤテは女装をしていた」
「はぁ……。とりあえず込み入った話になりそうなのでナギは作業に戻っていてください」
「あ、ああ。任せた。……マリア。私的にはアリだと、ハヤテに伝えておいてくれ」
「はい……」
そして、ナギは厨房へと戻った。
(さて、どうしましょうか。確かに、今の状況はあの時に酷似している。なら、答えもまた同様のものだと考えがつきます。なら、こきは正面突破のスピード解決ですかね。でも、もし本当にハヤテくんが目覚めてたとしたら……)
マリアはそう考えながらハヤテへと話しかける。
「ハヤテくん」
「あ、マリアさん。なんですか。買い出しでしょうか?」
「あ、違うんですけど……その……ハヤテくんはやっぱり、そういう趣味があるんですか?」
「ゑ?」
マリアの視線はハヤテのやや下、体、厳密には服を見ていた。ハヤテも釣られて見てしまう。 __自分が女物の服を着ていることに。
「……えーーーー!? ま、マリアさん酷いですよこんなこと!」
「わ、私じゃありません!」
「じゃ、じゃあ誰がこんな……事をするやつに心当たりが」
慌てふためく二人に割って入るかのように、そこに二人が現れた。
「うわー、めっちゃ似合っとるな」
「そうですね」
「咲夜さん!伊澄さん!」
二人はよっぽど急いできたのか__それともハヤテの姿を見たからか__顔が真っ赤だ。
「とりあえず事情説明するから来てくれるか? 作者的にも短くまとめてスピード解決したいみたいやし」
「み、身も蓋もないことを……」
むかしむかしあるところに、女の子同士の恋愛、「百合」展開が大好きな紳士がいました。 紳士は百合が好き過ぎて、いつもは妄想で我慢していた女の子同士のラブラブシーンなどを現実でも見たくなってしまいました。 日はバレンタインデー。草葉の陰からポッキーゲームでもする女の子たちを一組でいいからみたいと紳士はずっと隠れていました。 しかし見られるのは男と女の異性カップルのみ。バレンタインデーはもうすぐ終わる。紳士の我慢も限界です。 「だったら俺が自ら百合展開に引っ張ってやるよおおおお!」 紳士は女装し、チョコを買い、女の子に突撃しました。しかし紳士は残念ながらどこからどう見ても男で、チョコを渡された女の子は悲鳴を上げて逃げてしまいました。 紳士はその後も上手くいかず、何年何十年経っても望んだ百合は見れず、死の間際に最後に作った手作りチョコにこう祈ったのです。 「どうか女装男子が女子とイチャコラし、私の無念を晴らしてくれますように」
「……ということです」
「…………」
ハヤテとマリアはその話を聞き、互いに黙り込んでしまう。しかし、その表情には違いがあった。 ハヤテはその話を聞き、どうしようかと途方にくれる様子で、マリアは半信半疑といった様子である。
「えーと、これはつまり、どうすればいいんですか?」
「つまり、ハヤテ様がバレンタインデーに女の子とイチャコラすればいいんですよ」
「イチャコラ……」
ハヤテはどう考えても死亡フラグしか見えない解決方法に頭を抱えてしまう。
「……とりあえず手作りチョコを作りましょうか。マリアさん。バレンタインデーっていつですか?」
その問いに、マリアはとても言いにくそうに答えた。
「……明日です」
「……え?」
厨房に出禁をくらっているハヤテ。
「……伊澄さん。もし、バレンタインデーに女の子とイチャコラしなければ……」
「一生女子趣味の男の娘として過ごすことになります」
「…………」
ハヤテのバレンタインデー終了までのタイムリミットが始まったのであった。
(あれ? これ詰んでない?)
「というわけで咲夜さん。僕とポッキーゲームしませんか」
「……なんでやねん」
話し合いその後。 ハヤテは事情も知ってるということで咲夜に頼んでいた。
「だって、事情を知ってて勘違いせず協力的な人はそういないじゃないですか。……例の如くマリアさんは信じてくれませんし」
「だったら伊澄さんにでも頼んだらえーやん」
「だってその後も白皇で顔を合わせ続けなきゃいけないじゃないですか!」
「と言われてもなー」
咲夜はそれなりに(主に女子から)モテる。だが、その姉御肌のせいか彼氏などはおらず、つまりここで了承すると初めての相手が女装男子になってしまう。悩むなという方が無理だろう。というか、悩んでもらってるだけいい方だ。
「他にいないん? 事情説明してわかってもらえるような人」
「そうですねー……」
ハヤテは知り合いの女の子をリストアップしていく。が、やはりこういった事情に順応できる人材は限られる。
「ヒナギクさん……ですかね」
「…………」
名前から漂う仄かな死亡フラグを察したのか、咲夜は口をつぐむ。 実のところ、ハヤテの周りで裏の事情を知っているのは専門家伊澄、道案内のプロ咲夜、不幸な人ハヤテ以外だとヒナギクやアテネ、三千院帝に関係者の愛歌ぐらいなものだろう。 しかし帝は論外でヒナギクは死亡フラグ。アテネはアリスになっているし愛歌は彼氏(?)持ちだ。頼める人材がいない。 一応ナギも知ってたり知らなかったりするのだが、グレーゾーンであるため候補にはあげない。
「咲夜。私からもお願いします」
「いやー伊澄さん。流石の私でも」
「でもこの前、ハヤテ様の事をお兄ちゃんみたいだと」
「何を言っとんねーん!!!」」
パシーン! とハリセンをフルスイングして伊澄の頭に当たり乾いた音を響かせる。
「痛いわ咲夜」
「そっちが悪いやろ! 何を口走っとんじゃアホォ!」
顔を真っ赤にして否定しまくる咲夜。伊澄は涙目で無言の抗議をするが咲夜は止まらない。 ……そのやり取りの後ろではハヤテが頭にハテナを浮かべて相変わらずの鈍感さを発動させていた。
「だいたい伊澄さんもそういうとこ」
「咲夜」
「……な、なんや」
伊澄はいつの間にかスイッチを切り替え、真面目な雰囲気を身に纏っている。その雰囲気に咲夜も気圧される。
「お願い。咲夜にしか頼めないことなの」
「……今回だけやからな!」
咲夜はそう言って背を向けてしまう。
「ということですのでハヤテ様。明日は咲夜とイチャコラしてください」
「は、はぁ……」
ハヤテは事態を把握し、背を向けている咲夜を向く。
「咲夜さん」
「……なんや」
「ありがとうございます」
「……ふん」
そんな咲夜の反応にハヤテは笑みを零し、そして今一度顔を引き締めた。
「咲夜さん。実はもう一つお願いが」
「この際やし何でも言うてみん」
ハヤテは少し溜めて……意を決したかのように言った。
「厨房、貸してくれませんか」
「…………」
「ここの厨房、出禁くらっちゃいまして」
パシーン! とまた一つ、乾いた音が屋敷内に響いた。
「こんなものですかね」
「なんや。えらいたくさんあるな」
「ええ。どうせなら他の皆さんにもお渡ししようかと」
「……あんた、バレンタインデーの趣旨わかっとるか?」
「はは……でもどうせならと」
「まあええけどな」
しかしハヤテの作るチョコレートはたくさんの量がある。
「……それ、誰にやるんや」
「まずはお嬢様にマリアさん。あとはヒナギクさんに千桜さんに西沢さんにカユラさんにアーた……アリスちゃん。あとは泉さん花菱さん朝風さんもですね。伊澄さんも今回のお礼をしなければなりませんし。そして、咲夜さんの分もありますよ」
一回も噛まずペラペラと名前を挙げて行くハヤテに感服しながら、最後に笑顔とともに咲夜の分もあると決めてくるあたり天然ジゴロここに極まりである。 しかし、普段ならともかく今は女の子の見た目をしているためか、不思議と胸の高鳴りはない。
「…………自分、そうしてるとホンマ女の子みたいやな」
「い、言わないでくださいよ!」
「ジョーダンやジョーダン」
ハヤテは軽くいじけてしまうが、それすらもおかしくなり咲夜は吹いてしまう。なんとか謝り倒して機嫌を直すのだった。
「それではまた明日」
「……ああ」
そしてハヤテは作ったチョコとともに、屋敷へと帰って行く。 胸の中にちょっとした寂しさを咲夜は感じ、部屋へと戻ろうとして、扉が勢いよく開く。
「な、なんや!? ……て、あんたかい。まだなんか用か?」
「はい。とても重要なことです」
ハヤテの目は本気と書いてマジと読む目だ。思わず咲夜も身構える。
「……マント、貸してくれませんか?」
「……行きは車でしたけど、帰りは歩きでこの格好だと、恥ずかしいので」
パシーン! とまた乾いた音が響き渡るにだった。
case三千院 「ナギ。ナギ」
「なんなのだマリア〜。まだ夜だぞー」
「もう朝ですよ。結局まだチョコ出来てないじゃないですか」
「あー! そうだった!」
「はぁ……それと、はい。どうぞ」
「うん? 何だこれは」
「チョコです。ハヤテくんから」
「ハヤテ? なぜ?」
「さあ……?」
「……ハヤテは?」
「起きたらいませんでした」
「……ちゃんと帰ってくるよな?」
「……わかりません」
caseムラサキノヤカタ 「うーん。良く寝た。 牛乳牛乳〜。……ん? 何これ。…………チョコ? ……ハヤテくん? ……バレンタインデーの趣旨わかってるのかしら。……ん、美味しい。…………じゃなくて! 私からも渡さなくちゃ! 急いで用意しないと!」
「……男子からバレンタインチョコとはまたまた斬新だな。しかもこれは手作りか。……適当に買って済ませたから申し訳なく感じるな」
「むにゃむにゃ……ハヤテくーん。もう食べられないよ……くぅー」
「……うん、上手い」
「……くー」
case三バカ娘 「「「おお! ハヤ太くんからのチョコレート!!!」」」
「お嬢! 俺の分は無いか!?」
case伊澄 「これはハヤテ様からでしょうか。私からも何かお返しした方がいいでしょうね。……それよりここは何処でしょう?」
「咲夜さーん。起きてますかー?」
「……なんや。もう来たんか」
咲夜は寝起きのせいか、かなり眠そうだ。欠伸の後大きく伸びをし、立てかけてあったハリセンに手を取り自然な歩みでハヤテに近付き
「何で勝手に入っとんねん!!」
パシーン! と響いた。
「い、痛いじゃありませんか咲夜さん」
「うっさいわボケェ!! 乙女の部屋に勝手に入るな言っとんねん!! というか何で入って来れるねん!!」
「え? でもトメさんという方がいれてくださいましたよ?」
「トメさーん!」
「あ、伊澄さんから今日の予定表預かってますよ」
「話聞かんかい!」
ハヤテはポケットからメモを取り出し、伊澄の字で書かれた予定表の中身を見て……顔が真っ赤になっていく。
「ん? どうしたん?」
咲夜も中身が気になり覗き込む。そこには
「悪霊の要求 ・手を繋ぐ ・膝枕 ・甘える ・ポッキーゲーム ・告白
以上です」
「「…………」」
時が止まった。
「無茶苦茶やろおおおおおおおおおおお!!!」
「落ち着いてください咲夜さん!」
「これが落ち着いていられるかー!」
咲夜は メモ用紙を握りつぶし投げ飛ばした。ハヤテはそれを取りに行こうとするが咲夜に捕まってしまう。
「甘えるって何やねん! ポッキーゲームって何やねん! 告白って何やねん!」
「お、落ち着いてください!」
「んな恥ずかしいこと出来るかあああああ!」
「でも僕だってやりたくありませんよ!」
そんな時だった。 二人が言い争いをしていると、横から荒い呼吸が聞こえてくる。
「「……うん?」」
「はぁ、はぁ」
「「…………」」
“何か”がいた。焦げ茶色をした何かだ。その色合いはまるで……そうチョコレートのようだ。
「もっと、もっと絡みたまえ! 服を崩し色っぽさを全面にぃぃいいいいいい!?」
「そうか。お前を倒せば全て終わるのか」
ハヤテは少しヤバイ目をしながらその人形を掴み、そして握りつぶした。
「ふぅ、これで一件落着ですね!」
ハヤテは晴れやかにそう宣言する。が、咲夜は何とも言い難い表情をしていた。
「……自分、服を見てみ」
「え?」
ハヤテは自分の服を見下ろす。その服は先ほどよりもいろんな意味で色っぽい格好になっていた。
「きゃああああああ!?」
「ふ、ふふふ……いきなり握りつぶすのは予想外だったが、我はチョコレート! 何度でも蘇るのさ!」
「まあ、元々ハート型が人型なっとるもんな……」
この人形は咲夜が割ったチョコレートである。そのことから形状変化は自由自在らしいことがわかる。
「うぅ……」
「……なんかカワイソなってきたな。……しゃーない。さっさと済まそや」
「……え?」
「そのメモ用紙の内容をや」
ハヤテが想像以上に不遇だったために咲夜は思わず同情する。理由が理由だからと心の中で自分を納得させていた。
「……いいんですか? 僕、男ですよ?」
「そんな言い方やと私がガチ百合に聞こえるんだが狙っとるんか」
「え? ……あ、いや! そんなつもりは!」
「はぁ。あんたも姿消してくれへん? 恥ずかしいから」
「む? いいだろう」
そう言ってチョコレートは消えた。
「「…………」」
そしていざやるとなると硬直してしまう二人である。
「……ま、まずは手を繋ぎましょう!」
「せ、せやな!」
そう言って二人は手を重ねる。 皮膚から伝わる人肌の体温は心地よく、そして柔らかい。さらに手を繋ぐということはそれなりに近い距離にいるため、相手の表情もよく見えてしまう。恥ずかしさに頬を染め、そして相手もそれを見て恥ずかしくなる。まるで付き合いたての恋人かと言いたくなるような空気が場に満ちていた
「か、顔を染めるな! こっちまで恥ずかしくなるやろ!」
「そ、そうは言われましても……」
ハヤテは本来、手を繋ぐことは必要とあればするし、その際に恥ずかしさは感じない。だが、それはその状況において必要だからと判断しているからだ。 執事として、学生として、人として、ハヤテは正しいと思うことをする。だから平気でお姫様抱っこなどもやってのける。ハヤテにとっては必要だからやることに対し、恥ずかしさは感じないのだ。 要は無意識なのだ。故に、今回のように他の意思が介入する場合には、羞恥心が発生する。
「自分、いつもはもっと凄いこととかやるのに、こういうのはダメなんやな」
「だ、だって……咲夜さんからいい匂いしますし、柔らかいですし」
「っ!!! あ、アホォ!」
結果、甘い空気だけが残る。
「お主。邪魔だぞ」
あ、さーせんチョコレートさん。
「つ、次は膝枕ですよね」
「せ、せやな」
「「…………」」
「どっちがします?」
「あ、あ〜」
「……僕がしますか?」
「ん」
「どうぞ」
「んしょ」
「…………」
「……な、なんか喋ってーな」
「え、あ……」
「…………」
「な、撫でましょうか」
「……何でやねん」
「デスヨネー」
「…………」
「…………」
「……ん」
「え?」
「な、撫でたいならええで。呪い解くためやし」
「は、はい」
「……んっ」
「…………」
「……撫でるの上手いな」
「そうですか?」
「まあ」
「でも咲夜さんもご兄弟がいるのですし、上手いんじゃありません?」
「してもらいたいん?」
「え!?」
「……また今度な」
「……はい」
「…………」
「……そ、そろそろ次行きましょうか!」
「せやな!」
「次は……甘える、ですね」
「まあ、さっきは自分にやってもろたから、順番で次は私かな?」
「えと、じゃあ……」
「……あ、甘えるってどうすりゃええねん」
「えーと、あれですよ! 咲夜さんがいつも妹や弟からねだられたりやられたりする事ですよ!」
「そ、そうか? じゃあ…………お姉ちゃん」
「え?」
「な、何でもない! そ、そのお兄ちゃんに憧れたりはしてたけど今はこの借金執事は女の子だったなとかだからお姉ちゃんかなとかそういうことは全然無く」
「お、落ち着きましょう咲夜さん」
「……うん」
「……次行きますか」
「……うん」
「次はポッキーゲームですね」
「え"」
「そして偶然にもここにポッキーが」
「っ!!?」
「……目を瞑りましょうか?」
「……助かるわ」
「ん。ではどうぞ」
「器用に口動かすなー」
「このぐらい普通です」
「……目、開けんなや」
「…………」
「カリカリカリカリ」
「…………」
「カリカリカリカリ」
「…………」
「カリカリカリカリ」
「…………」
「カリカリ……カリ」
「…………」
「カリ……カリ……」
「…………」
「カリ…………カリ……」
「…………」
「…………カリ……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………?」
「っ!!!」
「っ!?」
「〜〜〜〜!!!」
「 」
「……あ、アホオ‼ 目開けんな言ったやろお!」
「す、すいません! その、吐息とか、熱とか伝わってきて……あんな顔が近いだなんて思わなくて」
「……一瞬触れてもうた(ボソッ)」
「え?」
「な、何でもない!」
「……あー、もう! 最後行くで!」
「は、はい! 告白ですね!」
「せや!」
「……どっちがしま」
「(ギロッ)」
「僕がします!」
「早よな」
「と言われてもすぐに考えつかないですよ」
「こういうのはあまり考えず思いの丈をぶつければええんちゃう?」
「……これって告白の真似ですよね」
「執事たるものいかなる時も全力投球や!」
「っ!! ……そうですね。執事たるもの、この告白も全力でやり遂げてみせます!」
「来いや!」
「では、こほん……。咲夜さん。僕と、付き合ってください!」
「…………ホンマにやられると恥ずかしいな」
「咲夜さーん!?」
「いや、まあおかげでさっきまでの空気も霧散したし、良かったんちゃう?」
「良くないですよー!」
「あ、あんま暴れんといて」
「あっ」
「へっ?」
「…………」
「……あ、あ」
「押し倒しキターーーーーーーーーー!!!」
「アホーーーーーーーー!!!」
「「ぎゃあああああああああああああああ!!!」」
「お疲れ様です咲夜。無事に成仏しました」
「ふん!」
バレンタイン終了間際。伊澄は終了報告と労いのため咲夜の元へ来ていた。 しかし、当の咲夜は不機嫌だった。
「……どうしました?」
「どうしたこうしたも! あの借金執事! 最後の最後で……」
「咲夜?」
「な、何でもあらへん!!」
顔を真っ赤に否定をする。伊澄はただただ首を傾げるばかりだ。
「とにかく! この借りはいつか絶対返してもらうで!」
「はぁ……そういえば咲夜。ハヤテ様からこれを預かっています」
「ん? なんや」
「チョコレートです」
「…………」
それは綺麗にラッピングされたチョコレート。形が店には無いもので、手作りなのがわかる。 咲夜はラッピングを剥がし、中のチョコレートを一口齧る。
「……ふん! まあ今回はこれくらいで許したるわ」
「ふふ。嬉しそうですね咲夜」
「はぁ、今日は疲れた」
「ハ〜ヤ〜テ〜」
「え? お、お嬢様?」
「お〜ま〜え〜と〜い〜う〜や〜つ〜はー!!」
「え? え?」
「何をこんなに、チョコレートを貰っとるんだーー!!!」
「えええーー!?」
「ハヤテくーん。ヒナギクさんに千桜さんに西沢さんにカユラさんにアリスちゃんに瀬川さんに花菱さんに朝風さんに伊澄さん。そして先ほど咲夜さんからもチョコレートが届きましたよー」
「ハヤテの……バカーーーーーーーーーー!!!」
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
Happy valentine♪
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